「これ、どうしよっかな…… 」
寝る前に見つけたフェリオの奴隷紋の紋型と、フロンジュの契約魔法の紙が貼られた木箱。
中身はたぶん、耳と尻尾。
時間が経ってるから、干からびて使えるとは思わないけど、契約魔法は解かれると思う。
各々の部屋に行って聞いてみようか。
いつまでも主人でない者(チェルニア)の奴隷でいる必要はないだろうから。
「ええと、それじゃあ、リベラ様の所有では、なくなると言うことに? 」
「このまま、チェルニアについて行って、ライブザバン王国で自由に暮らすのも、良いと思ったんだけど……」
意外や、フェリオはリベラの所有である事を望んだ。
もう、血を吸う必要もないから、単なる護衛の仕事しかないと言っても、だ。
淫獣になったリベラに何を期待しているのかと考えるまでもない。
きっと、ナニを期待しているのだろう。
いや、たぶん、ラーラの時のように指先だけで、搾り取れると思うんだよね。
世紀末救世主伝説の〇〇拳の使い手ではないけど、指先一つでダウンなんですよ、これが。
このあと、フロンジュにも聞いてみて、彼女が自由人に戻ると言ったらフェリオは彼女の所有にするかもと、迫ると "自由人が良い" と気持ち良く言ってくれた。そうこなくちゃ。
フロンジュに聞いたら、その場で自由人に戻してとお願いされた。
自由になったら、フェリオと番になって、お金を稼いで故郷に戻って、両親や兄弟達に楽をさせてやるのだと言う。
お涙頂戴パターンはどこの世界でも似たようなものらしい。
「それで、本当はどうしたいの?」
「男囲って、女相手の娼館はじめよっかなって…… 」
そうだね、夢はビッグな方が良いと思うよ。
フロンジュは奴隷のままが、本人の為かもしれないと思うんだけど……。
翌朝、頭に猫耳、お尻に茶色の尻尾を生やしたフロンジュがお茶の間の話題を独占した。
フェリオには、誰も気付いてくれないが。
可哀想に思って、背中に胸を押し付けたら、前を膨らまして喜んでいた。
単純なのは、相変わらずのようだ。
フロンジュとフェリオはチェルニアについて、ライブザバン王国へ行くと言った。
「リベラは行かないから…… 」
「え、 なんで?」
ここで言わないと、言うチャンスが無くなると思ったので、言いました。
一番、取り乱したのはミシェネでした。
「ダメだよ、ラーラはマスターと一緒に居るんでしょ? 何処へ行っちゃう気なの? 」
「ええと、ユーリスタ神聖国? 」
「なんで? そんな恐ろしいところに……」
ミシェネは目に涙を溜めて、俺を見る。
「もう、マスターの下僕ではないの……」
「うそよ、ラーラはマスターと長い間一緒だった筈じゃない? 」
「今はリベラだから…… 」
「違うわ、お嬢様は死んだでしょ? 」
何と言えば納得してくれるのだろう。
チェルニアにもう一度下僕にして下さいとお願いしだすミシェネ。
何度か魅了をかけてきたようだけど、チェルニアのは、俺には効かないようだ。
ヴァンパイアの頃とその辺りは変わらない。
ラーラだと言い張るミシェネと、リベラだと譲らない俺。
「もう、やめなさいミシェネ、その者はもうラーラではない、私の魅了も効かない別のなにかになってしまったらしい…… 」
「マスター…… 」
止めに入ったチェルニアの胸で泣き崩れるミシェネ。
インキュバスに魅了された者同士の絆は外から見てるより深くて強いらしい。
ラーラは死んでしまった。
それを悲しむ気持ちは俺も同じだ。
素朴ではあったが、大変な時はいつも見ていて寄り添ってくれた。
ミシェネもラーラのそんな所に惹かれたのだろう。
それを失うのは辛い。
実際に目の前に動いているのに死んだと理解するのは、無理がある。
だから、敢えて生きていると信じ続けていたのだろう。
時が経ってもそれは、ラーラに戻る事はなく、遂には離れると言い出して、ラーラではないと、現実を突き付けられた。
それでもミシェネの中では俺はラーラでしかなかったらしい。
エルフの村を出る日になっても、ミシェネは小さく手を振りながら、"ラーラ、元気でね" と言うのだった。
チェルニア達は魔族が迎えに来て、馬車に乗って、行ってしまった。
フェリオもフロンジュもチェルニアとミシェネも。
ヴァンパイアのお嬢様の体を得たが故に出会った人達だ。
奴隷と主人と言う関係を仲間と言うつもりはないが、チェルニアと一緒には居られない。
彼はリベラを兄に売ったのだから。
ラーラは体の一部を切り離して、使い魔のように、同じ自我を持った者を作り出せるのだとか。
鳥や猫のような小動物のサイズの使い魔が魔王軍のヴァンパイアの所へと辿り着き、本体であるラーラの元へ連れてきたとチェルニアは説明した。
しかし結果的には神聖国の騎士が来て、ラーラもリベラも殺されてしまったのだから。
フロンジュも魅了で下僕に落とされないといいけれど。その時はフェリオが何とかしてくれるだろう。
2人共、もう奴隷ではないのだし。
ミシェネも本当ならチェルニアの下僕から解放させても良かったが、ラーラへの執着が凄過ぎてそれどころではなかった。
もし、そうしたなら、今度は俺について来るとか言い出しかねないから。
擬態の出来るこの体は都合がいい。
エルフのおじさんに案内されて、半日ほど、森の中を歩いた。
一本道の先には森の終わりが見えてる。
"この先、草原を抜けると神聖国だ" と教えてくれたところで、エルフは引き返して行った。
これで役目は果たしたと、そう言う事らしい。
俺はトボトボと一人、森の終わりまで歩いた。
木の上から、監視しているのはきっと他のエルフだろう。
森から出たら、引き揚げたようだ。
鑑定眼で見るとフキダシが森の奥へと、戻って行くから分かる。
ぐるっと見回しても誰も見ている者は居ない。
とは言え草原の真ん中は避けたいところだ。
森の木の影まで言って、服を脱いで影にしまった。
リベラの擬態を解き、鷲だか鷹だか知らない大型の鳥に擬態する。
能力(スキル)で飛べるのだけど、さすがにリベラの姿のままでは目立つし、神聖国の騎士に見つかって矢でも射られたら、敵わない。
本当に神聖国に行って住むつもりはないが、様子を見る位なら、構わないだろう。
本来の鳥の飛び方とは乖離も甚だしいが、某ステルス戦闘機のように垂直方向に上昇すると、大型の鳥は羽根を広げて今度は、前に進みはじめるのだった。