異世界の石   作:井ノ中蛙

49 / 50
第49話 エルフの漁村

 

 

 

「海に帰る? 何言ってんだ?」

 

 アザンは、ソウ〇ケになる気はなかった模様。

 バカだね、美しい思い出にしてやろうと思ったのに。

 

「じゃ、飛んでっちゃうから 」

 

「はあ? 」

 

 キ〇のパパみたく、高い高いはしてくれないらしい。

 こっちも、ほうきに乗って飛ぶ気もないが。

 "お前、幾らバカでも空飛んだら騎士様に矢で射られるぞ" と警告された。

 やはり、空の監視は騎士の仕事らしかった。

 言われなくても身をもって分かっている。

 また石にされるのは懲り懲りだ。

 どちらにしても、ここにこれ以上居る理由はない。

 お暇するとしよう。

 

「本当に帰るから、アザンもいい思いしたから、お互い様って事でいいでしょ?」

 

「え、あ、ダメだよ、お前は俺のもんだって、言っただろ?」

 

 それでは、ただの拾得物横領だろ。

 フェリオが聞いたら飛んできて一発殴られるだろうね。

 

「じゃあね…… 」

 

 小屋の扉を開けて夜の浜辺へ向かう。

 

「な、最後に1回しよう?」

 

「さいてー……… 」

 

 アザン、それで引き留めてるつもりなら、お前はク〇ン行って勉強し直しだ。

 飛ぶと騎士に矢を射られるなら、海上スレスレを行けばいい。

 俺は波打ち際まで歩くと、少し体を浮かせて、そのまま滑るように海面を移動した。

 "も1回だけ!" とか叫んでるアザンを振り向く気には、とてもなれなかった。

 素朴だけど、サイテーな奴だった。

 

 つかの間の真夏の夜の夢と思って忘れよう。

 

 海上を飛ぶ。

 それは、思っていたほど生易しくはないが、思っていたほど危険でもない。

 服が濡れるのか嫌なら、下着姿になるといい。

 半裸の女が海上を滑る光景は神々しいほどに美しい……はずだ。

 快適さで言ったらスピード次第と言ったところか。

 早すぎると体温を奪われ寒さが襲い、じきに風の摩擦で、暑く感じるだろう。

 しかし、体温は低下する一方だ。

 遅いと海面からの照り返しをもろに受け、全身から汗が噴き出て脱水症状待ったなしだ。

 集めた汗を冷やしてリベラスエットで売るのも手だ。

 きっと、フェリオが、ダース単位で買い付けに来るだろう。

 

 と、下らない妄想で暇を潰すのもそろそろ飽きてきた。

 向かっているのは、森林国側。

 北上しているところだ。

 暑い夏は北国に限る。

 神聖国は、異常な国だった。

 アザンが異常だとかではなくて、彼らの股間につけてた金具が異常だと思った。

 ご存知の通り神聖国は女尊男卑。

 男は、管理される側なのだ。

 では、どうやって管理するかと言えば、茶漉しに筒のついたような金具を男に付けて、勝手に取れなくしている。

 一時期エロ漫画で流行った射精管理とか言うのと、発想は同じようなものだ。

 夫婦であれば、妻が管理する。

 親子であれば、母親が管理する。

 アザンの場合、独り身で親とも死に別れて管理する者がいないと、ああやって、自分で勝手に外してオイタをする訳だ。

 取り締まりの手の及ばない地下社会には娼館もあるらしいが、金具を外さないと行為すらままならないから、金具解錠込みの値段となっており、それはそれは高額な金を用意しないと行けないらしい。

 そんな、歪な国を異常な強さの騎士達が、世界の目から覆い隠そうとしているような所だ。

 それが分かっただけでも良い。

 二度と来る事はないだろう。

 

 エルフの国へ行くなら、耳はこう横に突き出るように細くして……。

 淫獣の体はとても便利だ。

 容姿に関しては、自由自在と言っていい。

 あと、自分のステータスの種族も "エルフ" にしておかないと。

 余計な能力や魔法も隠匿してしまおうか。

 

 

「見ない顔だ……」

 

 エルフの漁村は、活気の無い、しかし、黙々と作業をする不思議な雰囲気の集落だった。

 もちろん、海からいきなり現れたりはしない。

 ちゃんと見つからないように少し離れた海岸から上陸して、村まで歩いて来るようにした。

 

 その男は浜に置いてある道具の片付けをしていた。

 木箱の底が網になった道具を抱えては小屋に運び、また次を取りに来るを繰り返していた。

 小屋は、道具入れなのか、少し間隔を空けてポツリポツリと幾つも建っている。

 小屋の前で作業する者、何か洗っている者、それぞれが、それぞれで忙しそうにしている。

 それでいて、無言だ。

 皆、黙々と作業している。

 話声一つ聞こえやしない。

 警戒されている?

 そう思っておけば間違いない。

 

「この村に泊まる所はありますか?」

 

「………いや、 ない……」

 

 男はつれない態度を崩さない。

 

「今夜泊まる所がないんです……」

 

「………そうか…… 」

 

 いや、世間話してる訳じゃないんだけど。

 

「町に行けば、宿屋はある……」

 

「町って、何処ですか? 」

 

 男は "待て" とだけ告げると、作業に戻った。

 山のようにあった木枠は、全て小屋の中へと納まった。

 それまで、結構な時間がかかった。

 

「道を教える……」

 

 男はそう言うと歩き出した。

 砂浜から続く道は、一応道なのだろう。

 けど、何か怪しい。

 人気の無い所へ連れ込んで押し倒そうなんて展開が待っていないことを期待したい。

 蔦が道に垂れ下がって、それを避け避け進めてるうちは良かったが、遂には腰の短剣で蔦を切りながらじゃないと進めなくなってきた。

 蜘蛛の巣は張ってるし、藪の中の道をどんどん進んで行く。

 一応下草は刈ってあるし、道は道なのだろうと思うけど……。

 

「ほら、あそこだ……」

 

 急に喋るからびっくりして、声が漏れそうになった。

 ヒュンヒュンと、短剣を振り、蔦を切ると、藪の終わりに出た。

 轍のある道に出た。

 轍があると言うと、馬車が通った道だ。

 道は、草原の中を走っており、左右の森の間を、かすめるように続いている。

 反対側を見ると、集落の建物の影が見えた。

 敢えて、集落を避けたか、それとも、純粋に近道を通っただけなのかは、分からない。

 男は "この道を行けば日暮れ前には町に着ける" と言うと、引き返そうとする。

 

「あの…… 」

 

「ん?」

 

「ありがとう 」

 

「うむ……分かれ道で迷ったら声を出して聞くといい、森の精霊が教えてくれる……」

 

 男のアドバイスは、迷信の類だろう思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告