「………。」
道を進んだ。
大きな分かれ道に出くわした。
馬車の轍は、右の方にはあるが、左の方には、微かにしか、残されてない。
交通量の多い方が町と思った方が良いだろう。
森の近くを通るものだから、魔物が出ないか気が気でない。
もちろん、その時は魔法で何とかするつもりだ。
空に一旦逃げてでも良いか。
頭の中でイメージしておくと、咄嗟の時に迷わず動けるだろう。
テクテク歩いてていても、誰とも会わないしすれ違わない。
ひょっとして道を間違えたかとも思ったが、今さらだ。
進むしかないだろう。
「……!」
魔眼で、魔物が出ないか見張っていたら、森の中からこちらを伺うように同じ方向に移動するエルフを見つけた。
きっと、監視しているのだろう。
男のアドバイスにあった森の精霊の正体は、監視の事なのかも知れないと思った。
怪しい余所者が現れた。
念のため監視に行けとか、言われたのだろう。
気にすると怪しまれるから、知らんぷりして、歩いた。
喉が渇いたので、影収納からティーポットとティーカップを出してお茶を注いだ。
行儀は悪いが、立ち飲みだ。
いつまでも冷めない影収納はとても便利だ。
お茶休憩を終えたら、出発だ。
全然、町が見えて来ないのだけど。
歩けど歩けど、我が目的地、未だ見えず。
走らないと日が暮れてしまわないのだろうか。
そう思いながら歩いていたら、また分かれ道だ。
今度は、決め手が無い。
目の前の、森を迂回するように、左右に道が分かれている。
「うんと……… 」
「町へ行く道はどっちー!?」
叫んでみた。
右側の道の木の葉がガサガサと揺れた。
「精霊さん、ありがとう!」
一応、礼は言っておいた。
どうせ監視が、小石を投げたとかだろう。
迷わず、町に着ければ精霊も監視も何でも良い。
森の中の道を行くと、バッと視界が広がった。
草原の先に建物の影が見える。
町だ。
やっと、町が見えた。
あの男の言った事は正しかった。
あんなに無口で、信用しろと言う方が無理だと思うが、言った事は間違いなかった。
監視も森の中からは、出て来ないだろう。
タカタカと走って町へと向かった。
「身分証は?何処の町から来た? 村でもいい…… 誰に聞いて来た?」
町の入口には門番が立っていた。
何を言われてもこたえられない。
「海の所にある、村の人に、町への道を聞いて…… 」
「その村の前は何処にいた? 」
さてと、困ったぞ。
どうしたものか。
「魔法で…… 」
「魔法で空でも飛んできたか? 」
"うんうん" と頷くと、門番は目を細めて、腰に手をあてて言う。
「いい加減な事を言ってここを通す訳にはいかんな…… 」
"シッシッ" とジェスチャーをしだした。
「泊まる所がないんですけど…… 」
「なら、魔法で空を飛んでこの塀を飛び越したらいいだろう? 飛べるのならな…… 」
「なるほど…… 」
リクエストいただきましたので、不肖、リベラ、森林国の空を見事飛んでご覧に入れましょう。
「あ、飛んだところを矢で射るのは、反則ですからね? 」
「飛べるのか? 」
「ええ、……ほら」
少し浮いてみせた。
「ダメだ入れる訳にはいかん、手を出せ、手枷を嵌める 」
「なんで? 」
「なんでもだ、説明は後でしてやる…… 」
「えー……… 」
慣れた手つきで手枷をされた。
いや、別に簡単に外せるから、慌てはしないのだけど。
何も悪い事してないのに、捕まるとか、そっちの方が大事だから。
信号にぶつかる程廃材を高く積み上げたトラックを運転してた訳でもないのに。
"ニホンゴワカラナイ" と言えば釈放してくれるだろうか。
「………。」
手枷に紐を結ばれて、紐を引かれて連行される。
すっかり気分は犯罪者だ。
ちくせう!
着いた先は騎士団ではなくて、何やら屋根付きの檻に並んだ動物園みたいな所。
当然のようにその中の一つに入れらた。
口の辺りを布地を巻かれて喋れないようにもされる。
椅子とテーブルがあるだけマシか。
檻の中は奥の壁に棚のように造り付けのテーブルがあって、椅子も一脚ついている。
その横に、中途半端な高さの衝立があるのに気がついた。
覗いてみたら、床に穴が空いている。
その先は、丸い窪みのような何かがあるらしい。
ちょっと考えて、正解に辿り着いた。
これは、トイレだ。
床の下にあるのは壺、排泄物をそこに落とせば、壺ごと交換してくれるのだろう。
人権もヘッタクレもここには、無いらしい。
檻の中で夕焼けに染まる知らないエルフの入った檻を見て過ごした。
これは、これで、滅多に見れるものではない。
見たいかどうかは別にしてだが。
日が落ちて、風にのって、何処かの家の夕食の料理の匂いがしてくる。
お腹が鳴りそう。
まさか、夕食は出ないとかは無いと思うのだけど、果たしてどうなのだろう。
「ほら、夕食だ…… 」
「んー!んー!んー!」
口が塞がれてどうやって、食べろと言うのだろう。
手もこれでは食べ難い。
「おーい、こいつ、口塞いである女、どうすんだ〜? 」
「そいつはダメだ、魔法使って吹き飛ばされんぞ! 」
何だその言い草は。
魔導士には食事をする権利も無いらしい。
匂いだけの拷問を少し受けたら、"ほらほら、どこだい?" とおばちゃんが現れた。
この料理を作っている人なのか、服に調味料の匂いが染み付いてる。
目を布地で塞がれ、代わりに口の布が取り去られた。
椅子に座ったまま口を開けると、スープをスプーンで掬って一口ずつ口に運ばれる。
「そんな、面倒な事しなきゃならんのか?」
「魔導士の扱いは聞いてる筈だよ、 今さら、なんだい、忘れてるだけだろ…… 」
手を休めず、他の男たちを罵るおばちゃん。
「今晩だけは大人しく、ここで我慢しておくれ、 明日になったら、奴等地べたに這いつくばって許しを乞うだろうよ…… 」
それなら、今の待遇をもっと良くして欲しいのだけど。
手がつかえないから、トイレも今のうちにしておくかと聞かれたが、それは首を振った。
この体になってトイレに行ったか記憶がない。
ラーラも確か一度もトイレに行ったのを見ていないと思った。
スライムみたいに、食べた物は全て吸収してしまうのだろうか。