せっかくだから、下着も新しいのに替えた。
使用済みはニジルイハが洗っておいてくれるそうだ。
エルフの下着はトランクスみたいに足の方は縛らないタイプらしい。
代わりに少し丈が長い。
楽そうだから、今度はそっちにしてみようと思った。
午後の早い時間に現れた馬車に乗せられ移動がはじまった。
乗用馬車だ。
荷馬車と乗り心地を比べるのは、愚者の戯言と、笑われる。
比べる以前の問題だから。
ミリルシアが拘った理由が今更ながらに理解出来た。
もう今は、魔王軍に戻って通常業務でもこなしているのだろう。
これは、人と畜生位の、大きな隔たりを感じさせる歴然たる差だ。
外気導入だけの空調でも、意外と役に立つのが分かった。
一応考えられているのだなと、感心した。
硝子の嵌められた窓も高得点だし。
仄かに漂う匂いは香水か何かだろうか。
硬すぎず、柔らか過ぎない座面と背もたれも悪くない。
これで、眠くなるのも仕方ない。
気がつくと、ニジルイハに寄りかかって眠っていた。
「あ、 ごめんなさい……」
「あら、気にしなくてもいいのよ、 寝顔も可愛いかったわよ…… 」
ニジルイハは、基本的に保母さんモードだから、調子が狂う。
車窓から見える景色はいつの間にか日の差さない森の中のようだ。
外から人の話声が聞こえるけれど、誰か乗っているのだろうか。
聞いたら護衛の人が馬車の前後に乗っているそうだ。
やはり、魔物対策は必要らしい。
「魔学院って、どれくらいの人が学んでいますか?」
「ええと、確か500〜600人位だと思ったわねぇ…… 知り合いでも探してるの? 」
「知り合いですか? 」
いないこともないか、いつぞやの土魔法でゴーレムを操った女エルフは、そこで学んだのだろうか。
名前も知らないから探しようがない。
それに、今も生きていたらと言う大前提もある。
あの村はもう廃村になったのだろうか。
ドラゴンの住む山の近くだと思うけど。
下手な事を言うと根掘り葉掘り聞かれるかも知れないから、"居ない" とだけ言っておいた。
途中一度だけ馬車は止まり、休憩があった。
護衛の人達は当たり前だが皆エルフだ。
弓を担いだり腰に剣を下げていたりと、武装していた。
トイレも勧められたが、断った。
出発する前に済ませた事にしたから。
日に1、2度はトイレに行くようにしてる。
全く行かないと言うのも怪しまれるから。
夜、宿屋ではないのだろうけど、宿泊施設に泊まった。
ニジルイハとは同室だ。
下手な事は出来ない。
怪しまれたくないから、普通に食事して普通に寝た。
夜中、ニジルイハがカリカリと、書き物をしている音がした気がしたが、気にしないことにした。
それでいて、朝は早いらしく、必ず起こされた。
余程の金持ちでもない限り、毎日湯浴みする習慣は無いらしい。
生活の質を下げるのは、何とも言えないストレスとなる。
なので、今夜は湯浴みしようと、昼間から決めた。
馬車に乗り移動するだけではつまらない。
魔物が出たと馬車が止まると、窓を開けて身を乗り出して見てしまった。
犬の魔物6匹では、あっという間に倒されて終わりだった。
「あっという間だった…… 」
「そうねぇ、早かったわねぇ…… 」
弓が2匹を仕留め、迎え討つ剣と槍で残りをあっという間に仕留めた。
魔法だったら、どうやるだろう。
取り敢えず、空に逃げて、下から土槍、上から闇槍と言うのも良いか。
それとも、巨大な闇球で諸共叩き潰すのは、ヴァンパイアがやりそうな攻撃だ。
あの、白い鎧なら、踊るように不思議な杖で叩き飛ばしてしまうだろう。
あの強さは恐怖でしかない。
そして、ラーラの事を思い出した。
戦いに関しては何も出来ず、無力なラーラ。チェルニアも戦闘には、向かないし、庇っても貰えなかった。
言われた事をやる中で、俺の事は気にしてくれていたようで、カタコトでも、優しい言葉をかけてくれたことが何度かあった。
本当なら守ってあげたかったが、相手が悪過ぎた。ミリルシアでも対抗出来なかった。
「悲しくなっちゃったの? 」
再び走り出した馬車の中、車窓を見つめていたら、ニジルイハに頭を撫でられた。
ラーラもそうしてくれた事があったと思う。
そう思ったら、悲しくなってきた。
オレンクティセジア魔学院はホンボリスの町にある。
3日かけて、町に着いた。
見た感じ、大きな町だ。
ニジルイハも聞かれなければ、説明もしてくれない。
エルフの国でも、あまりあからさまにしたくはないのだろう。
到着したのが夕方だったので、そのまま、宿泊施設に入った。
大浴場と呼ぶには、少し狭い中浴場規模の湯浴み場で体を洗われる。
他にはまばらにした人はいなかった。
お湯は沢山用意されていると言うのに。
逆に食堂は使えないとかで、部屋にニジルイハが持ってきてくれた。
遠くでガヤガヤと人の騒ぐ声も聞こえてる。
いよいよ、学院らしい所に来たようだ。
ニジルイハは書き物にも熱が入るようで、寝る前から机に向かっている。