異世界の石   作:井ノ中蛙

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第54話 ホースト家

 

 

 行き先が決まらないらしい。

 あれから3日経ち、そして5日経った。

 ショックな事があった。

 いつぞや、俺の姿を見て先生の子供とか間違われた事があったが、彼女は16〜17の子達だと分かった。

 背は全然、大きくて、大人と変わらないのに。

 頭一つは小さいこの体が、恨めしい。

 どうやったら淫獣の体は、大きくなるのだろう。

 やはりインキュバスみたいに、精を吸いまくるしかないのだろうか。

 それは、それで、ハードルが高いのだけど。

 さすがに男を誘うなんて、死んでも出来る気がしない。

 遠くのイカレた国の浜辺なら、黙って腰振る男を知ってはいるが、アレとは二度と、会いたくない。

 

 

「明日、ここを出ますよ…… 」

 

 そんな、身を捩るほど悩ましい問題に囚われていたら、ニジルイハから、そう言われた。

 1枚の紙も渡される。

 差し出しは、ルシャワンダ森林国、魔導局からとなっていた。

 遂に国から指令が下ったようだ。

 国の魔導士として籍を与える代わりに、数年は実績を積む必要があるのだとか。

 指定された仕事をこなして評価を得たのち、正規の魔導士と認められると記されていた。

 たぶん、どこぞの馬の骨とも分からぬ魔導士に好き勝手されたら困ると言う事だろう。

 拒否する場合は国外退去とも記されており、拒否権は無いらしい。

 

 ニジルイハから、行き先はホースト家と告げられた。

 何処かのお屋敷のお抱え魔導士にでもなるのだろうか。

 無理難題を言われなければ良いのだけど。

 

 ホンボリスの町から、馬車で10日、森林国と言うだけあって、森ばかりだと、思い知らされた。

 ばあちゃんだったら、ワラビが生えそうだとか、キノコが取れそうだと喜ぶ事だろう。

 おぼえてるのが、走っている車の窓からワラビを道端に見つけて、"あーた、おっぴらぐまで放っといで、もったいねぇが!" と嘆きだしたことだ。

 俺からは、どれがワラビかも分からなかったが。ばあちゃんにとって山菜は、宝物のようなものだったのだろう。

 

 

「ホースト家に着きましたよ…… 」

 

 高い石積みの塀で囲まれた奥には大きなお屋敷が見える。

 門番が鉄柵を開くと、馬車は奥へと進んだ。

 誰の出迎もない建物に勝手に入ると、そこは、2階建ての吹き抜けになった広いロビーのようになっていた。

 やはり、金持ちの家は違う。

 ロビーの奥から黒服を着た男の人が出てくる。

 ニジルイハと、やりとりをして、俺だけ、呼ばれて来たメイドに連れられ廊下の奥へと案内される。

 ニジルイハは黒服と何やら話があるらしい。

 

「大きなお屋敷ははじめて? 」

 

 メイドからも、子供扱いされた。

 

「うん…… 」

 

 少し付き合ってやる事にする。

 

「お茶がいいかしら、果実水がいいかしら? 」

 

「かじつすい……」

 

 まさか、幼児とは思われていないだろうか。いくらなんでもそれはないだろうけど。

 

 応接室に通されたのだと思う。

 出て来たのは、やはり果実水だ。

 縦長のコップは白の陶器だ。

 お茶請けの焼き菓子には見慣れない赤いジャムが、塗ってある。

 イチゴかその類のジャムに見える。

 

「お名前は? 」

 

「リベラ…… 」

 

「幾つなの? 」

 

「241…… 」

 

「………。」

 

 メイドの視線が痛い。

 "いい年して、子供のフリかよ"とでも思っているのだろう。

 

「凄腕の魔導士って、あなたなの? 」

 

「さあ…… 」

 

 そんな前触れになっていたとは知らない。そもそも、"俺様は凄腕魔導士だぜ"

なんて言う奴に限って、大した事だった試しがない。

 それはそうと、すっかり無口になってしまったメイドさんが、値踏みするような目で見てくるのに、これ以上、耐えられるだろうか。

 

「魔導士がきたの?」

 

 いきなり部屋の扉が開いた。

 

「お嬢様、ノック位致して下さい……そのようです…… 」

 

「なに、この子? レオンの遊び相手でもさせる気なの? 」

 

「そうかも知れませんね…… 」

 

 メイドは、口元を抑えて笑った。

 ガッカリした様子でお嬢様は、引き揚げていく。

 あれが、ファンネリアお嬢様だそうだ。

 弟のレオン様は15歳で、年が明けるとオレンクティセジア魔学院に入学するそうだ。

 お嬢様は18歳で魔学院を中退したのだとか。

 訳アリお嬢様と言う事だ。

 ひょっとして、あのお嬢様の家庭教師に呼ばれたとかでは、ないだろうな。

 それともお坊ちゃまに入学前に魔法を教えてやれとか?

 

 少しして、黒服の男が部屋に入って来た。ニジルイハとの話は終わったのだろう。

 

「リベラ様、優秀な魔導士であられる事は重々承知しておりますが、 色々と明かされない事情もお有りのようですね…… 」

 

「はあ…… 」

 

 何の事を言っているのか、心当たりが有りすぎて、迂闊にこたえられない。

 

「まず、この国の生まれでないとか…… 」

 

「そうですね…… 」

 

 では、出身地は何処かと言う事になるのだろうね。

 

「拙察しますに、飛び地の出身では? 」

 

「飛び地? 」

 

 何となくイメージは湧く。

 ああ、あの土魔法使いのエルフがいた、集落とかが、それになるのか。

 

「村は魔王軍に襲われて無いらしくて…… 」

 

 それっぽい事を言うと黒服は "ウンウン" と何度も頷いている。

 しかし、追求は終わらなかった。

 

「その後は? 村の人達は? 」

 

「魔族に、逃げ込んだ町の魔族に育てて貰ったから…… 」

 

「魔族に…… なるほど、だから、魔族の魔法も使えるのだと…… 」

 

 影潜りの事を言っているらしい。

 ニジルイハは何もかも伝えてあるようだ。

 ニジルイハのことを聞いたら、"もう帰りました" と軽く言われた。

 きっと、文句を言われる自覚があるのだろう。インチキ保母さんめ。

 

「あと、241歳であるのでしたら、殆どは森で過ごされたと思うのですが……」

 

「ええと…… 」

 

 何を言わんとしてるのか、分からない。

 が、思い当たる節がある。

 確かエルフの寿命って、200年無かった気がする。そうだよ、241歳なんて、既にエルフじゃないと言っているようなものだよ。それを、森で過ごしたとか、言ってるのはなぜだ?

 

「周りにエルフが居なかったので、常識が良く分かってなくて…… 一度はエルフの国を見てみたいと思って来たんです…… 」

 

「なるほど、それは大変ご苦労されたのですね…… 」

 

 何となく誤魔化せたっぽい、気がする。

 心なしかメイドの視線も、トゲが丸くなった気がする。

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