異世界の石   作:井ノ中蛙

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第59話 難しい話

 

 

 暑い夏も終わりを告げようとしている。

 朝夕の冷え込みがそれを物語っていた。

 秋と言う認識が、エルフの間には、無いらしい。

 当て嵌めるなら、冬のはじめが秋なのだと思う。

 レオンは、アーススパイクを習得し、次の中級魔法の練習中だ。

 ……と、思ったのは、勘違いだった。

 穴の空いたスカートをはいたメイドごコソコソと、屋敷へ戻って来る姿を見かけたのでビエナに聞いてみたら、レオンが魔法でスカートを捲る練習をしているそうだ。

 加減を調整するのに失敗して、土棘がスカートを突き抜けたのだろう。

 メイドが怪我でもしたらどうする気なのか。

 たぶんポーションで治すのだろうね。

 漫画みたいな事を実際にやろうとすれば、その難しさが身に染みて分かるだろう。

 想像するのは簡単でも、やってみたら、絶対に無理だと気付かされる事は多い。それが分かるようになれば、大したものだ。

 分からないまま大人になるより、よほど良いだろうから。

 

 いよいよ、寒さが本格的に襲ってくる冬の到来だ。

 七日後に、例の国境警備の仕事に行くと、日にちが決まったそうだ。

 そうレオンに告げると、変な事を言い出した。

 "卒業試験をして下さい、下着をつけてない先生のスカートを見事捲ってみせます"

 なるほど、それは難易度的に卒業試験にうってつけだ。

 

「やりません、やるわけないじゃないですか…… 」

 

「やっぱりダメですか…… 」

 

「教え子になぜそんな所を見せないといけないんですか? 」

 

「優しい先生が、頑張ったご褒美をくれると思って…… 」

 

 変な策略を仕掛けて来ないだけ褒めてやりたいが、さすがにご褒美にそれはない。

 たぶんこの子は一生、魔法をこんな目的に使うのだろう。

 下手にゴーレムを従える程の魔力がなくて良かった。

 

「じゃあ、先生が出掛けるまでの七日間、スカートを捲るので、下着はかないでもらえますか? 」

 

「そんなに見たいのですか? 」

 

 そう告げるとレオンは "もちろんです" と意気込む。

 

「下着は毎日穿きますし、魔法をそんな事に使う為に教えたわけではありません 」

 

「え、でも…… 」

 

「でも? 」

 

 レオンはそれ以上、反論しなかった。

 女性に対する異常な執着を露わにする一歩手前でいつも、引き下がる。

 力尽くで来たなら、影に潜るなり、空に逃げるなり、逃げ道は常にあるから、追い詰めるような事はしないが。

 いつか本性を現す日が来るかもしれないと、気が気でないのは否定しない。

 2人のメイドの下半身にも避妊の魔法陣が施してあるのも何度か見て確認しているし、手を出して来ないのが逆に不思議に思えるほどではある。

 

 何事もないのが、薄気味悪くもある。

 本当の何事もなく、国境警備の仕事に向かう屋敷の警備の者から選ばれた3人と共に馬車へと乗り込んだ。

 数カ月だけしか住んでないとは言え、少し物悲しい気分に浸りつつ、小さくなっていく屋敷を見送るのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ファンネリアははじめ、部屋に来られるのも迷惑そうな感じで、魔法など教わる必要はないと、追い返すような素振りだった。

 ニ度三度は、お茶一杯も飲み終える前に部屋から出ていく羽目になったが、"魔法陣も少しは手伝える" と食い下がると、コロリと態度を変えた。

 はじめから、そう言うべきだった。

 お坊ちゃまが、変に物分かりが良かっただけに、 姉も同じと思ったのが間違いだったようだ。

 ただ、魔法陣の説明がはじまると、とてもではないが、専門的過ぎて一筋縄では行かないと覚悟するには十分なものだった。

 これを独学で進めたのなら、賞賛に値すると思った。

 魔法陣と言う分野は、神聖国が研究の最先端を行っているそうで、彼女が宝物のようにかかえている書物は、著者不明の出処不詳と言う曰く付きのものなのだそうだ。

 実際はオリジナルではなくて、その写本であるらしいのだけど、それでも大変貴重な物であるのに違いはないだろう。

 魔学院に入学して間もなく、仲良くなった学友を経由して手に入れたそれは、どうも、魔法陣を学習する際に使う教科書のような物らしい。

 なので、その内容に沿って説明されると、自然と理解は深まるようだ。

 彼女が研究を進めているいるのは、"転移の魔法陣" だ。

 分かり易く例えると、右手と左手それぞれに同じコップを持ったとして、その中身だけを、右手のコップから左手のコップに魔法的に移動させると言う事だ。

 そんな魔法があったら、無敵だろうと思うかもしれない。

 残念ながら、個人でそんな魔法を使える者はいない。

 しかし、魔法陣を用いれば、それが可能であると、その本には書かれていた。

 例にコップとしたが、 右手には発送用の魔法陣、左手には受け取り用の魔法陣としたなら、現実味はぐっと増すだろう。

 ただ、飽くまでもそれは、理屈の話であって、実際にやろうと思えば数々の問題に対処しなければ、ならなくなる。

 移動距離、移動対象物に応じた相応の出力が必要となる。 

 莫大な魔力を用意して、短剣一つを2〜3m移動させた実験では、12人の魔導士の魔力を必要としたとあった。 

 実際に成功させる偉業は素晴らしい事だが、魔力消費の割に成果が大した事なさ過ぎる。

 

 ファンネリアは言う、"召喚魔法は、何処から魔物を呼び出していると思う?" と。

 そして取り出したのは、魔族の魔導書だった。

 召喚魔法は習得するには、召喚士と言う能力を有した者のみに可能で、その他は、底無しの魔力を持った魔女の一部だけなのだとか。

 いきなり話は飛躍するが、扉を開けると魔物を召喚するトラップの仕掛けられた部屋の作り方と言う項目が、その魔導書にはあるそうだ。

 その仕掛けは上下で1対となった魔法陣と、部屋に充満させた魔力を含んだ空気のみだそうだ。

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