異世界の石   作:井ノ中蛙

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第6話 魔女の屋敷

 

 

 

「まだかい? 」

 

 "コツコツ" と音をさせながら、体を揺らされてる感覚があった。

 意識が戻ると体から抜け出す事が出来なくて焦る。

 いつもそうしていたのが、急に出来なくなった。

 

ーーーガシャン!

 

 体が跳ねたのか、騒がしい音がした。

 横に細長い視界が開けて驚いた。

 しかも、こちらを覗き込む人が2人いる。

 1人はあの老婆だ。

 そして、もう1人は、見慣れないのっぺりとした、白い仮面をつけた者がいた。

 

「気がついたのかい? 返事は、出来ないんだっけねぇ…… なら、頷いてごらんよ 」

 

 明らかに俺に向かって言っているのが分かった。

 石の体で頷けるのか分からないが、視界がゆっくり上下したから、頷いてるらしい。

 ニタァと、顔を歪ませる老婆。

 きっとこれが、彼女の笑顔なのだと思った。

 

 なぜか、俺には体があった。

 いわゆる、西洋系の鎧の体だ。

 某アニメの主人公の弟のように鎧の中は空洞で、本来の体の石がどこかに貼り付けてあるとかなのだろうと、勝手に想像している。

 老婆は、魔女の "タルヒューズ" と、言うそうだ。

 白い仮面の人は、人ではなくて、ホムンクルスと言う作られた生き物だと説明された。

 なぜか、念話でもないのに彼女らの言葉が理解出来た。

 しかし、この体は言葉は出せないらしい。

 一方的に言われ、頷くか首を左右に振るの二択しか返事のしようがなかった。

 "鎧" と呼ばれたが、自由に動かせる手足がある事がとても嬉しかった。

 鎧の体であったが、手足の感覚が殆ど無いから、力の加減が分からない。

 立ち上がり、歩くまでが、ひと苦労だった。

 食事もトイレも必要ないのは楽で良かった。

 鎧に与えられた仕事は、ホムンクルスの手伝いと、魔法を覚える事だった。

 闇魔法と土魔法を教えられた。

 毎日が目まぐるしく動き出した。

 森の中で石の小山に埋もれていた頃、渇望していた生活の中に居られて、俺は嬉々として過ごしていた。

 逃げ出すとか、夢にも思わなかった。

 1分1秒でもこの生活が続くようにと、言われた事を忠実にこなした。

 言葉を発せられないのに、心の中で教えられた呪文を唱えるだけで魔法が発動するようになった。

 たぶん、この鎧には、何か特別な仕掛けがあるのだろう。

 この体でいる限り、自由に動けるし魔法も使えるとは、望外のご褒美を与えられた下僕のように忠誠を尽くした。

 

 アニメのように、大柄な鎧ではなくて、普通サイズの言ってみれば、ダサい尖り頭の鎧ではあったけれど、自由に動かせるのは、何者にも代え難い魅力だ。

 しかも魔法と言う特大のオマケ付きときた。

 ゴーレムも良かったけど、鎧は自分の意思で、動くから、満足度は爆上がりだ。

 

 魔女の屋敷は、広い敷地にあった。

 幾つかの棟に分かれており、中で何が行われているのかは、しらない。

 色んな人が連れて来られ、頭鎧の兜と同じ物をつけられて、出ていった。

 両手が翼のハーピーと言うと思った魔物も何人か頭を兜にされて帰って行くのを見てる。

 1つ目の巨人はギガンテスとか言うのだっけか。

 そいつも特大サイズの兜を被せられて、帰っていった。

 車のディーラーの整備場みたいに大きく開いた建物に上半身だけ突っ込んで、処置されていたようだ。

 俺だけではなくて、鎧を身に着けた者は敷地の中にゴロゴロいる。

 けれど、顔を覆う面までつけている者は俺以外、見たことはない。

 ホムンクルスは、力仕事に向かないらしく、武装した者は1人も居なかった。

 顔だけではなくて、手足も白いから、陶器とかで、出来ているのだろうか。

 触った事もないし、指の感触すら無いから、確かめようがない。 

 

 月に一度、この体でもメンテナンスが必要らしく、昼過ぎから翌朝まで屋敷の中で、何やら処置されていたらしいが、記憶は、何もない。

 背中の板を外されてるような気配は覚えているが、その後は麻酔でも効いてかのように意識は落ちた。

 何度かメンテナンスされながら、結構な日にちを、屋敷で過ごした。

 

「ね、ね、鎧さん…… 」

 

 とある屋敷の窓から身を乗り出してこちらを見てるのは、獣人の娘だ。

 下着姿なのか、露出の多い格好に見える。

 "夜、いい事しましょうよ?" と誘ってくるが、ホムンクルスから相手にするなと言われているから、首を横にふって断った。

 

「そんなぁ…… アソコも鎧で出来てるんじゃないの? 」

 

 そう馬鹿にして憎まれ口を叩くが、娼婦のような女がなぜ、こんな所にいるのかは分からない。

 逃げ出そうと思えば逃げられると思うが、見えない所が鎖に繋がれているのかもしれない。

  

 ホムンクルス以外で、俺に声をかけるのは、その娼婦みたいな娘だけだった。

 一応腰に剣は下げているものの、握ったことすらない。

 一度も確かめた事はないが、鞘の中は空洞だったとしても驚かない。

 俺にとっては、無用の長物でしかないからだ。

 

 夜は、物置小屋の木箱に腰かけて過ごす事が多かった。

 寝る事もあれば、起きてる事もあった。

 どちらかと言うと昼間の方が眠気を感じる事は多いかもしれない。

 鎧の体に、睡眠が必要とは思わないが、精神的にシャットダウンする時間が、必要なのかもしれない。

 考えてみれば、あのドラゴンは巣にいる時は寝てばかりだった。

 起きてる時は遠慮無しに念話で話し掛けてきたけれど、他愛も無い事から哲学的な話まで、色々と話を聞いた覚えがある。

 気を紛らわすのに、話相手と言うのは、とても役に立つ存在だと気がついたのは、森の石の小山の中だったか。

 鎧の体になって、話せないから、会話した事はない。

 ホムンクルスは一方的に命じるだけだし、あの娼婦の娘ぐらいなものか。

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