ーーースガアァァン!!!
夜中、いきなりの大爆発で意識が覚醒した。
地響きを伴って建物も揺れる。
見上げると、空に幾つもの炎のカスが燃え残って舞っている。
爆弾でも落とされたのか。
けれど屋敷は何ともなさそうに見える。
何か防御魔法的な仕掛けが発動したとかだろうか。
「魔女タルヒューズ!!! 」
夜空に男の声が響いた。
襲撃だ、咄嗟にそう思った。
よく見ると空には、幾つもの人影が浮いている。
魔女に拾われた夜、激しく爆発音や衝撃波で森が揺れたのは、魔法の撃ち合いだったのだと後で分かったが、それが今、目の前で起きようとしてる。
「出てこなければ、燻り出すまでだ! 」
「うひゃ〜! 逃げろ〜! 」
空からの声に応じて逃げ出すのは武装した警備の男達だ。
イヤ、まだ逃げるのは、早すぎるだろう。
格好だけでも抵抗すべきだろうに。
ーーードドドドンッ!!!
迷いを一瞬で打ち消すように、空から炎の球が、幾つもふり注いだ。
防御魔法らしき膜が敷地を囲むようにそれを防いだ。
防いだが、間もなく "バリンッ" と、分かり易い音を発して壊れた。そして直接、魔法が打ち込まれてきた。
『闇の盾! 闇の盾! 闇の盾!』
3連続で闇魔法の防御壁で降ってくる炎の球を受けた。
視界のアチコチで建物に着弾しまくっている。
「鎧さーん! 助けて!助けてよ! 」
振り向けば例の娼婦娘が開けた窓から腕を伸ばして、こちらに向かって叫んでる。
不思議と応戦しようと屋敷から出てくる者はまばらだ。
助けを求められる側の頭数は、ぐんと狭められる。
中には、岩の直撃を受けて潰される者も見えた。
炎や水、岩や闇の球が振り注ぐ中、窓のところまで駆け寄る。
「連れてってよ! これ、切ってよ!」
ガシャガシャと、足に付けられた鎖を引っ張って音をさせる娼婦娘。
ーーードンッ!
すぐ近くに岩が堕ちた。
ドサクサに紛れて逃げる気は無いのだけど、多分、このままここに置いておいたら、この娘は生き延びられそうな気がしない。
"パリン、ガシャン、ドドン" と建物自体も攻撃に晒されて揺れるし、ミシミシと音をたてている。
"ドカン" と、物置小屋が潰れて火を上げる。
俺がいつも夜、過ごしていた小屋だ。
腹を決めて、窓から屋敷の中へと飛び込んだ。
鎖はベッドに鉄輪で繋がれていた。
足首に嵌められた金具を引っ張ると、簡単に弾けて取れた。
「やった! ありがとう!」
首に腕を回して抱きつかれるが、鎧越しに感触は伝わって来ない。
自由になると、娼婦娘は部屋の戸棚から、服を取り出して着だした。
靴も壁際に置いてある。
鎖で手の届かない所に置いてあったらしい。
準備が出来ると、"早く行こうよ!" と窓の縁に足をかける。
逃げるかどうかでは無くて、この窮地を生き延びる方が先決だ。
火の手があがり、風にのって煙が漂いだした。
相変わらず破壊音が途切れず、聞こえてる。
空から降ってくる魔法が止んだ一瞬、娼婦娘と駆け出した。
「タルヒューズ! さっさと出てこい! 」
空に浮かんでいた男達がユルユルと、降りて来るのが見える。
魔女の居場所が分かるのか、母屋の方へと襲撃者が向かうのをいい事に、穴だらけの敷地を駆けて倒れた塀の向こうへと向かった。
「危な………! 」
娼婦娘の声に振り向くも、遅かった。
"バキャン" と音を立てて、右腕がふっ飛んでいく。
柄の長い斧のような武器を振る男は、頭から角を生やした牛のような頭の戦士だった。
"モウッ" と鳴いたかは分からない。
左手を掲げ、至近距離からの闇槍で腹を突き刺した。
魔法を使う者に、不用意に近づいた愚かさを知るといい。
こちとら、無詠唱で魔法が放てるんだ。
死んで後悔するといい。
「スッゴイ〜! 」
目をハートにした娼婦娘に手を引かれ、屋敷から遠のく間に、2人程、魔法で倒した。
久し振りに、頭の中でファンファーレが聞こえてる。
どれも剣や槍で向かってきたので、魔法でイチコロだった。
屋敷の外に出た事がない俺を引っ張ってか行く娼婦娘。
まるで、町中のような路地を進んで行く。
穴だけになった右肩から、何かが漏れてるのか、脇腹から腰にかけて、濡れているような気がする。
足を出す度に、ぴちゃぴちゃと水音がするからだ。
とにかく、駆けて、駆けて、路地を進んで行くのだけれど、段々と体が重くなり、遂には駆ける事も出来なくなり、やがて、その場に倒れてしまった。
◇◇◇◇
その朝、ファフスの町は、魔族の襲撃の話で持ちきりだった。
町の北側は、金持ちなどが住む大きな屋敷ばかりの、地区となっている。
その中でも特に大きな敷地を持つ屋敷が魔族の襲撃に遭った。
建物は半壊し、敷地を囲む高い塀も所々倒されて破れた。
わざわざ通りから、その様子を覗きに向かう者さえいたそうだ。
町の外から、直接その屋敷へ出入りする荷馬車が良く見られていた。
夜中には、巨大な荷馬車で大きな魔物を運んでいるのを見た者までいたのだとか。
何やら怪しい屋敷であるとは、町の住民の間では、知られた事だった。
その屋敷が襲撃され、半壊した。
それは格好の噂の種となり、奇想天外な話を語る者すら出る始末となった。
「アプリリア様、良くぞご無事でお戻りになられました…… 」
町の教会の裏手に建つ孤児院の更に奥に建つ小屋の中には、グランデーア獣人国の密偵が3人、跪いてそう告げた。
キョトンとした顔の獣人の娘は、横たわる銀髪の少女の脇、ベッドに腰掛けて首を傾げるのだった。