異世界の石   作:井ノ中蛙

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第8話 姫様と家臣

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「いたっ! 」

 

 激痛で目が覚めた。

 左腕の肘から先、手首までの間が、赤く腫れてグヂグヂしていた。

 フゥフゥと息を吹きかける。

 と、違和感に身が固まった。

 これは誰の腕だ? 

 さっきの声は誰の声だ?

 そして、こちらを見てる見慣れない人たちは一体誰だ?

 

「気がついたの、鎧さん? 」

 

 娼婦娘が椅子に腰掛けてこちらを向いている。

 

「………。」

 

 黙っていたら、勝手に娼婦娘が喋り出した。

 

「あんなに、大きな鎧の中にこんなに小さな子が入っていたなんて、知らなかったわよ? 」

 

 娼婦娘の後に控える人達は何も喋らない。じっと、こちらを見据えていた。

 

「あ…… あー、喋れた? 何この声? 」

 

 声がおかしい。

 いや、声だけではない。

 生身の体がある事がおかしい。

 鎧の中は空洞ではなかったのか?

 

「鎧の中って、空じゃなかった?」

 

「我々が壊して助け出した…… 余計だったかな? 」

 

 娼婦娘の後ろの一人がそう告げる。

 彼らが鎧を破壊したらしい。

 鎧の中に生身の体があったとは、知らなかった。

 いや、それはおかしいだろ。

 月イチのメンテで生きてこれたのはおかしい。

 それだけだはない。

 この手は明らかに小さい。

 大人の手ではないだろう。

 子供が大人サイズの鎧に入ってどうして動かせたと言うのか。

 頭には、疑問しか浮かんでこなかった。

 

「姫様を連れ出してくれたのは、我等にとっても大恩に変わる事はないが…… その、貴殿は、魔族ではないのか? しかもヴァンパイアでは? 」

 

「ヴァンパイア? なんで? 」

 

 と、不用意に下ろした左腕がまた "ジュッ" と言って白い煙をあげた。

 途端に走る激痛。

 これは、日の光に弱いと言う事か。

 

「あの、良く分からないんだけど…… 」

 

「姫様も同じ様な事をもうされててな…… 魔女の館に囚われていた者は、何1つ覚えておらぬと我等も突き止めておる故…… 」

 

 娼婦娘を姫様と呼ぶ彼らは、グランディーア獣人国の者だと身をか明した。

 攫われた姫様を探して、この町に辿り着いたとか。 

 魔女の館の場所までは突き止めたものの、潜入出来ずに月日が流れて今に至ると、説明された。

 娼婦娘とか勝手に呼んでいたけれど、実際は国のお姫様とは知らなかった。

 四六時中、下着姿で男を誘うような事を言っていれば、そんな風に思われても仕方ないだろうに。

 本人もその辺りは心当たりがあるようだけれど、家臣の人達が言うには、彼女には淫紋が入れられており、すぐにでも、それを消す処置をするのたとか。

 淫紋とか、やる事が凄い。

 国のお姫様を攫って記憶を消して淫紋を入れれば、それは確かに不味い事になるだろう。

 その発想が、魔女らしいと言えば魔女らしい。

 

 そんな魔女に肉体を、与えられた俺は、どんな事情を抱えているのだろう。

 考えただけで、気が重くなりそうだ。

 鎧どころか、生身の体を得られたと言うのに、全然、嬉しくないとは思わなかった。

 いや、嬉しくなる筈なのだけど、嫌な予感しかしないのだから、仕方がない。

 

 折れてブラブラだった筈の右腕ほ、今は、普通に動いてる。

 異常な回復力は、"ヴァンパイア故なのでしょう" と感心されるも、納得出来るわけもない。

 ケロイドのようになってしまった左腕がヒリヒリ痛むが、包帯代わりの布地を巻かれただけだ。

 秘伝の軟膏とか塗ってくれたりはしないらしい。

 あとが残ったら、困るのだけど。

 以降、日の光に当たらないよう気をつけるようにした。

 

 夕方、この頃になると、日の光で、肌が焼ける事はなくなった。

 少しヒリヒリする程度におさまった。

 外に出るなら、夕方以降にするべきだと分かった。

 夜、グランディーア獣人国の人達は一人増えて4人となった。

 襲撃後の屋敷の様子でも、見に行っていたらしい。

 既に魔女達一行は、町を出たそうだ。

 魔女は、あの襲撃の中、生き延びていたらしい。

 当日の明け方前には襲撃者は引き揚げたと説明を聞いている。

 丸一日俺は寝ていたそうだ。

 明日の朝一番でこの町を出ると予定を、告げられた。

 行動を共にするとは、一度も言ってないのに、そうする前提で話が進んでいる。

 娼婦娘ならぬ姫様が、俺を連れて行くときかないのが理由らしい。

 鎧だった頃は、魔法も使えたが、今はどうだろう。

 夕食のあと、空に向かい闇球を放てるか、やってみたら、以前のように普通に出来た。

 鎧の効果ではなかったらしい。

 まあ、ヴァンパイアなら分からなくもないが、

 あの襲撃はヴァンパイア主導で行われたと、グランディーア獣人国の人達の見立てだ。

 ひょっとすると、この体は、あっち側に居た者のだったりするのだろうか。

 それにしては、攻撃も見逃されるどころか、狙われた節さえある。

 ヴァンパイアを昼も活動出来るようにしたのが、あの鎧の主な役割ではないかと、獣人達は見ているようだ。

 確かにそれは、一理ある。

 ヴァンパイアを意のままに従わせようとしたら、あの程度の大掛かりな仕掛けは必要となるだろうと、鎧を壊した人達が言うのだから、説得力は軽くない。

 壊した鎧の残骸は、町の外れに捨ててきたそうなので、見る事は叶わない。

 鏡を見ても、姿が映らないのはヴァンパイアだからか。

 姫様の身を第一に案じてる彼らの行動は、隙がないようだ。

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