◇◇◇◇
「いたっ! 」
激痛で目が覚めた。
左腕の肘から先、手首までの間が、赤く腫れてグヂグヂしていた。
フゥフゥと息を吹きかける。
と、違和感に身が固まった。
これは誰の腕だ?
さっきの声は誰の声だ?
そして、こちらを見てる見慣れない人たちは一体誰だ?
「気がついたの、鎧さん? 」
娼婦娘が椅子に腰掛けてこちらを向いている。
「………。」
黙っていたら、勝手に娼婦娘が喋り出した。
「あんなに、大きな鎧の中にこんなに小さな子が入っていたなんて、知らなかったわよ? 」
娼婦娘の後に控える人達は何も喋らない。じっと、こちらを見据えていた。
「あ…… あー、喋れた? 何この声? 」
声がおかしい。
いや、声だけではない。
生身の体がある事がおかしい。
鎧の中は空洞ではなかったのか?
「鎧の中って、空じゃなかった?」
「我々が壊して助け出した…… 余計だったかな? 」
娼婦娘の後ろの一人がそう告げる。
彼らが鎧を破壊したらしい。
鎧の中に生身の体があったとは、知らなかった。
いや、それはおかしいだろ。
月イチのメンテで生きてこれたのはおかしい。
それだけだはない。
この手は明らかに小さい。
大人の手ではないだろう。
子供が大人サイズの鎧に入ってどうして動かせたと言うのか。
頭には、疑問しか浮かんでこなかった。
「姫様を連れ出してくれたのは、我等にとっても大恩に変わる事はないが…… その、貴殿は、魔族ではないのか? しかもヴァンパイアでは? 」
「ヴァンパイア? なんで? 」
と、不用意に下ろした左腕がまた "ジュッ" と言って白い煙をあげた。
途端に走る激痛。
これは、日の光に弱いと言う事か。
「あの、良く分からないんだけど…… 」
「姫様も同じ様な事をもうされててな…… 魔女の館に囚われていた者は、何1つ覚えておらぬと我等も突き止めておる故…… 」
娼婦娘を姫様と呼ぶ彼らは、グランディーア獣人国の者だと身をか明した。
攫われた姫様を探して、この町に辿り着いたとか。
魔女の館の場所までは突き止めたものの、潜入出来ずに月日が流れて今に至ると、説明された。
娼婦娘とか勝手に呼んでいたけれど、実際は国のお姫様とは知らなかった。
四六時中、下着姿で男を誘うような事を言っていれば、そんな風に思われても仕方ないだろうに。
本人もその辺りは心当たりがあるようだけれど、家臣の人達が言うには、彼女には淫紋が入れられており、すぐにでも、それを消す処置をするのたとか。
淫紋とか、やる事が凄い。
国のお姫様を攫って記憶を消して淫紋を入れれば、それは確かに不味い事になるだろう。
その発想が、魔女らしいと言えば魔女らしい。
そんな魔女に肉体を、与えられた俺は、どんな事情を抱えているのだろう。
考えただけで、気が重くなりそうだ。
鎧どころか、生身の体を得られたと言うのに、全然、嬉しくないとは思わなかった。
いや、嬉しくなる筈なのだけど、嫌な予感しかしないのだから、仕方がない。
折れてブラブラだった筈の右腕ほ、今は、普通に動いてる。
異常な回復力は、"ヴァンパイア故なのでしょう" と感心されるも、納得出来るわけもない。
ケロイドのようになってしまった左腕がヒリヒリ痛むが、包帯代わりの布地を巻かれただけだ。
秘伝の軟膏とか塗ってくれたりはしないらしい。
あとが残ったら、困るのだけど。
以降、日の光に当たらないよう気をつけるようにした。
夕方、この頃になると、日の光で、肌が焼ける事はなくなった。
少しヒリヒリする程度におさまった。
外に出るなら、夕方以降にするべきだと分かった。
夜、グランディーア獣人国の人達は一人増えて4人となった。
襲撃後の屋敷の様子でも、見に行っていたらしい。
既に魔女達一行は、町を出たそうだ。
魔女は、あの襲撃の中、生き延びていたらしい。
当日の明け方前には襲撃者は引き揚げたと説明を聞いている。
丸一日俺は寝ていたそうだ。
明日の朝一番でこの町を出ると予定を、告げられた。
行動を共にするとは、一度も言ってないのに、そうする前提で話が進んでいる。
娼婦娘ならぬ姫様が、俺を連れて行くときかないのが理由らしい。
鎧だった頃は、魔法も使えたが、今はどうだろう。
夕食のあと、空に向かい闇球を放てるか、やってみたら、以前のように普通に出来た。
鎧の効果ではなかったらしい。
まあ、ヴァンパイアなら分からなくもないが、
あの襲撃はヴァンパイア主導で行われたと、グランディーア獣人国の人達の見立てだ。
ひょっとすると、この体は、あっち側に居た者のだったりするのだろうか。
それにしては、攻撃も見逃されるどころか、狙われた節さえある。
ヴァンパイアを昼も活動出来るようにしたのが、あの鎧の主な役割ではないかと、獣人達は見ているようだ。
確かにそれは、一理ある。
ヴァンパイアを意のままに従わせようとしたら、あの程度の大掛かりな仕掛けは必要となるだろうと、鎧を壊した人達が言うのだから、説得力は軽くない。
壊した鎧の残骸は、町の外れに捨ててきたそうなので、見る事は叶わない。
鏡を見ても、姿が映らないのはヴァンパイアだからか。
姫様の身を第一に案じてる彼らの行動は、隙がないようだ。