異世界の石   作:井ノ中蛙

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第9話 姫様と妹様

 

 

 明け方過ぎに幌付きの荷馬車が来て、アプリリア様御一行は町を出た。

 その中に俺もいる。

 ヌォルソーと言う町にグランディーア獣人国の公的な建物があるとかで、そこを目指すという。

 どこまでも脳天気な本人は、護衛に囲まれて、メイドに世話を焼かれてご機嫌だ。

 俺に用意された服は、魔導士の物だとかで、あの魔女のように黒ローブ姿だ。

 日の光を遮るのには、都合が良い。

 今やお姫様扱いとなった元娼婦娘は、俺を "鎧さん" と呼んで憚らない。

 屋敷から逃げ出した時の大立ち回りを覚えているからか、脇に置いて頭を撫でた。

 大人と子供ほどの身長差があっては、その扱いも仕方ない。

 獣人の見立てによると、俺は12〜13歳にしか見えないらしい。

 小学生から中学生程度だ。

 その日に泊まった宿屋で湯浴みをした際に体を確かめたが、言われた通りだなと、納得するに至った。

 体は相応の幼さを残すものだった。

 魔族もヴァンパイアともなると、魔法の使い手としてもかなり上なのが相場なのだとか。

 その魔法を、姫様を護る為に使ってほしいと言われたが、姫様の傍に置いておく意味はそれなのだろうなと納得した。

 もし、姫様をあやめるような素振りがあれば、その瞬間から排除されるに違いない。

 俺の立場は結構微妙なのだと、自覚しないと後で後悔しそうだ。

 

「お父様はアグラ様、アグラ・グランディーア様です 」

 

「あぐら、ぐらんでーあ? 」

 

 移動中の車上では、姫様の教育がはじまっていた。

 下腹部に刻まれていた淫紋も解かれると元娼婦娘は、落ち着いた雰囲気を纏うようになった。

 俺も "アプリリア様" と呼ぶようにと、言われてる。

 アプリリア・グランディーアが彼女の名前だ。

 俺は、"鎧さん" から "魔導士殿" と呼ばれ方も変わった。名前はまだ無い。

 調べられてはいるらしい。

 調べる方法もあるらしいが、市中にヴァンパイアがウロウロしてると明らかになるのを嫌ったようだ。

 "魔眼" なるものを持つ者が見れば、名前も何もかも一発で分かるそうなのだが、そうなると、ヴァンパイアだとも分かってしまうそうだ。

 それは宜しくないそうだ。

 この国は、ライブザバン王国と言って、人族を中心として各種族が比較的緩やかに共存しているが、一部の魔族と対立しており、その影響もあって、魔族に対してだけは、気を遣わなければならないとか。

 魔族と言うだけで捕まったりはしないが、一般的には警戒されても仕方ない。

 なので、獣人国の人達と行動を共にふるのは、悪くない選択だったようだ。

 あの時点で独りになって、どうにかなるとはとても思えなかったし。

 姫様の護衛として傍にいるのは、待遇も悪くない。

 ローブは2枚重ねの特別製だ。

 寝る時に使う毛布並に重いが、日の光は通さないから、ヨシとするしかない。

 一国のお姫様を護送する人達だから、お金に余裕はあるのだろう。

 商人の風を装ってはいるが、荷馬車に積んである、木箱の中は空ではなくて、大盾が仕込んであった。

 不意の襲撃から姫様を護るような配置になっていると説明されたら、感心するしかない。

 護衛の数も正確には分からない。

 日ごとに増えてたり減ったりしていて掴みどころがない。

 なので、アプリリア様が姫様であると疑う理由は何もなかった。

 

 ヌォルソーの町に着く前にこの体の素性が判明した。

 "リベラ・リックス" と言う名前のヴァンパイアの兄妹の片割れらしい。

 兄がシルベスター・リックスと言う。

 魔王軍の奇襲部隊の魔法の名手で有名なのだとか。

 その妹が俺だ。

 兄178歳、妹82歳と言われて二の句が告げられなかった。

 中学生程度と聞いていたのだけど。

 82歳とか、既に後期高齢者ではないか。

 アニメなんかに良くあるロリ婆の見本みたいな設定に眉をしかめるしかない。

 

「リベラちゃん、いい子いい子……」

 

 アプリリア様は、名前が分かるやそれを連呼した。

 "鎧さん" よりは良いかもしれないが、そのヴァンパイアの兄とか言うのが追いかけて来ないだろうか、そっちが気になった。

 彼女のように攫われて来た口なのかもしれない。

 だと仮定したなら、獣人国のように取り返す隙を狙っていたとしても、全然不思議ではない。

 いや、あの襲撃自体が、妹を取り返そうと兄が乗り込んで来たと考えればより話が通る。

 そんなヴァンパイアホイホイみたいな俺を連れて歩くのをリスクとは思わないのだろうか。

 

「その時は戻られたら良いのではないですか? 」

 

 獣人国側の態度はハッキリしていた。

 "恩人をもてなしています" と。

 それ以上でも以下でもない。

 迎えが来ればお渡ししましょう、それまでは、お世話致しましょう、と。

 

「なるほど……」

 

 獣人国の姫様が誘拐されて、3年経っていると聞く。

 故郷の記憶を無くした彼女の事を思えば、ヴァンパイアの妹様が何も分からずに居るのを、不思議に思ったりはしないだろう。

 ここに居ますと、知らせる程ではないにしろ、迎えが来たなら喜んでお渡しすると、その言葉に嘘はないように思えた。

 

 いや、それで果たして良いのかどうなのか、判断するのは俺と言う事になる。

 国のお姫様なら、戻るべき立場もあるだろうから、そこは云々言わない。

 しかし、ヴァンパイアの兄妹となると、どうなのだろう。

 いや、記憶が無いのだよと説明すれば、通用するだろうけど、女の子として振る舞える、自信が欠片も無いのだけど。

 さすがに、俺、心は男だからと、ジェンダーレス宣言した所で、異世界でそれが通じるとは思えない。

 今だって、トイレに行くたびに、試行錯誤して戸惑っていると言うのに。

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