筋肉は全てを解決する。ヤンデレヒロインの攻撃もね?   作:トマトルテ

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Lesson1:何事も筋肉で解決するのが一番

 

 ブォオオオオッ!! 

 

 鳴り響くチェーンソーの音が、爽やかな朝の部屋に響き渡る。

 俺、佐藤(さとう)(つよし)はそのチェーンソーの音を目覚ましに、目を覚ます。

 はて? (うち)の近くには、工場や木を伐採するような森なんて、なかったはずだが。

 

「あ、おはよう、(つよし)君」

「……おはよう、(あい)ちゃん」

 

 目を開けると、幼馴染みの黒崎(くろさき)(あい)の黒と金のオッドアイと目が合う。

 彼女は白色の髪を揺らしながら、花が咲くような笑みを俺に向けてくれる。

 ……チェーンソーを構えた状態で。

 

「今日から私達も高校3年生。新しいことに挑戦するにはぴったりの日だと思わない?」

「悪い。チェーンソーの音がうるさくて、ちょっと何言ってるか分からない」

 

 ウィイイイインッ! と、まるで曲のサビに入るかの如く、チェーンソーの速度が上がる。

 おかげで、愛ちゃんが何を言っているのか、上手く聞こえない。

 ただ、まあ、俺も愛ちゃんの幼馴染みだ。

 声なんか、聞こえなくても繋いだ絆で何を言いたいのかは分かる。

 俺は、まるで優雅な貴族の様に、穏やかに布団の中から抜け出し──

 

 ──ガチャリと、首と手足に着けられた、鎖でベッドに引き留められる。

 

「逃げられないように、寝ている間に鎖でベッドに止めさせてもらったわ」

 

 なるほど、俺が繋がっていたのは、愛ちゃんとの絆じゃなくてベッドだったか。

 ちくしょう。

 

「それじゃあ、剛君。一緒に愛し合いましょう?」

 

 そう言って、切断マジックの練習よろしく、俺のお腹にチェーンソーを振り下ろす、愛ちゃん。

 高速で回転する刃が、狂気と熱気を持って迫ってくる。

 

 さて、レッスン1だ。

 こんな絶体絶命の状況を、あなたならどうやって切り抜ける? 

 1,2,3……。

 

 

「うなれ! 俺の腹筋!!」

 

 

 そうだね? 答えは簡単。

 鍛え抜かれた腹筋に力を入れて、チェーンソーをガードする。

 これが正解だ。

 

「ああ…! 剛君の腹筋でチェーンソーが弾かれていくわ!」

 

 俺の鍛え抜かれた腹筋が、チェーンソーをはじき返し、愛ちゃんが恍惚の声をあげる。

 その隙に、俺は全身に力を入れて筋肉を膨れ上がらせることで、首・手・足の鎖を粉砕する。

 ね? 簡単でしょ? 

 

「さて、愛ちゃん……」

「うふふ、流石は剛君。初めてのチェーンソーもものともしないなんて……惚れなおしたわ」

 

 俺は、チェーンソーを構えて臨戦態勢を取る愛ちゃんに、ゆっくりと近づく。

 そして。

 

 

「──取り敢えず、騒音でご近所の迷惑になるから、チェーンソーを止めるぞ?」

 

 

 チェーンソーを白羽取りで止めるのだった。

 

 

 

 

 

「愛ちゃん、正座」

 

 チェーンソーの音も鳴り止み、爽やかな朝の静寂を取り戻した俺の部屋。

 その、床の上で白のセーラー服を着た、愛ちゃんが正座する。

 背筋がピンと伸びており、まさに良家のお嬢様といった感じだ。

 もっとも隣に、チェーンソーが置いていなければだが。

 

「何で、チェーンソーなんてもの持ってきちゃったの?」

「だって、剛君って包丁で刺しても筋肉で跳ね返すし、スタンガンで痺れさせようとしても筋肉を収縮させて絶縁体状態になるし……ちょっと威力を上げてみようかなって、好奇心に負けちゃった」

 

 テヘペロっと舌を出す愛ちゃん。

 その仕草はクールビューティな見た目に相反して、非常に可愛らしいがやってることは殺人未遂である。

 筋肉が無ければ即死だった。

 

「そっかぁー、好奇心に負けちゃったかぁー、じゃあ、しょうがない……なんて、言うと思ったか!」

「言ってくれないの?」

「取り敢えず、お仕置きのデコピンだ」

 

 筋肉を圧縮した、痛みだけを感じるデコピンをお見舞いする。

 

「きゃんッ!?」

 

 愛ちゃんはその痛みで悶絶し、スカートのままゴロゴロと床を転がる。

 そのせいで、スカートが捲れて、中からパンティが顔を覗かせる。

 ふむ……今日は白か。肉感のある尻には似合わず、可愛らしいのが逆にエロい。

 俺は、優しいからな。先程のことは水に流すとしよう。

 

「今回はこれで許す。次やったら、もっと痛くするからな」

「じゃあ、次でしっかり息の根を止めるわね」

「俺の話聞いてた?」

 

 パンツに免じて、許してあげたのだがどうやら、愛ちゃんはまだ反省していないようだ。

 

「なんで、そんなに俺のことを殺そうとするの? 何なの? 俺のこと嫌いなの?」

「愛する人を殺して自分の中に一生刻み込みたいと思うのは、そんなにおかしいことかしら?」

「おかしいに決まってるだろ。何、常識を語るみたいに言ってるんだよ」

 

 愛ちゃんが凶行に及んでいる理由。

 それは、彼女の性癖のせいだ。

 愛する人を殺さずにはいられない。

 そんな狂った恋愛観を、彼女は持っているのだ。

 

「私の中の常識は世間の常識よりも、優先されるものよ」

「それを非常識って言うんだよ」

「私からしたら、筋肉でチェーンソーを弾くあなたの方が、よほど非常識なのだけど?」

「は? 鍛えられた筋肉が、チェーンソー如きに負ける訳ないだろ。何言ってるんだ、お前?」

 

 彼女は狂っている。

 後、俺の筋肉も愛ちゃんが言うにはおかしいらしい。

 だが、何事にも原因というものはある。

 

 その原因とは、この世界がギャルゲーの世界で、俺はそこに転生した人間ということだ。

 

 

 

 

 

 ヤンデレヒロイン。

 それが黒崎愛が与えられた属性だ。

 ギャルゲー作品『Dead or Love』のヒロインの1人。

 

 愛する人を殺したいという、性癖の持ち主で好感度が上がる度に主人公を殺しに来る、生粋の暴力系ヤンデレである。

 攻略方法は、主人公が機転を利かせて、彼女の殺意から卒業まで生き残り続けるというもの。

 

 君、なんかジャンル違うくない? 

 ギャルゲーというより、ホラゲーだろ。

 そんな意見が多数寄せられた、問題児ヒロインが彼女だ。

 

 そして、俺はそんな彼女の幼馴染みとしてこの世界に転生して来た、転生者だ。

 因みに、転生特典は鍛えれば鍛えるほど強くなる肉体である。

 ファンタジー世界で無双しようと思っていたのに、現代社会ではあまり使い道が無い。

 強すぎても、それはそれで面倒なのが現代社会なのだから。解剖実験とかされそうだし。

 まあ、自分1人でやる、筋トレにおいてはこの上なく便利なのだが。

 

 さて、そんな俺達だが、なぜこのような関係になっているのかというと、これまた愛ちゃんの設定が関わってくる。

 

 実は彼女は主人公に出会う前から、処女(R18G)ではないのだ。

 そう。惚れた男を殺す性質は、実は主人公で目覚めたわけではない。

 殺人鬼系ヒロイン。今まで、付き合った男は軒並み失踪している歩く地雷だ。

 

 え? なんで、捕まっていないのかって? 

 実は、彼女は社長令嬢。父親の財力と権力で何とかもみ消してきたのだ。

 顔と体は最高だが、原作で吐き気を催す邪悪呼ばわりされるのも無理はない。

 本当に、なんでこんなヒロインが通ったんだと、俺もプレイしたながら困惑したものだ。

 

 だが、安心して欲しい。

 そんな彼女もこの世界では、俺の筋肉のせいで運命を変えられた。

 

 幼馴染みという性質上、距離が近かった俺は最初の犠牲者に……なるところを、鍛えぬいた筋肉で防いだ。

 いきなり、包丁で首を狙われたのは驚いたが、胸鎖乳突筋で無事にブロックに成功。

 呆気にとられる、愛ちゃんを拘束して何とか事なきを得た。

 こうして、俺は生き延び、愛ちゃんも殺人鬼の道を免れたのだ。

 

 筋肉は運命も変える。これ、常識ね? 

 

 だが、一度防いだことが、逆に彼女の恋心(オブラート)に火をつけたのか、こうして毎日狙われる日々に。

 まあ、筋肉で毎日防いで、返り討ちにしているのだが。

 

 え? 警察に通報? 

 

 実はうちの父親が、勤めてるのって愛ちゃんの父親の会社なんですよね(白目)。

 大企業に勤めて出世し、子供を養う親の努力が子供を縛る鎖に変わる。

 この世は残酷なものだ。

 やはり、信じられるものは筋肉だけである。

 

 まあ、そんな裏話もありながら、なんとか原作開始の高校3年生の初日まで生き延びることが出来たというわけだ。

 

 

 

 

 

「まずい…! 説教していたら、いつの間にかプロテインの時間だ!」

 

 俺は時計を見て焦る。

 筋肉は一日にしてならず。

 健全なる筋肉は、プロテインに宿る。

 この格言を信じる俺は、毎朝のプロテインを欠かさない。

 

「プロテイン、プロテインって……プロテインと私どっちが大切なの!」

「プロテインだな。幼馴染は裏切るかもしれないが、筋肉は裏切らない」

「悔しい……でも、剛君の筋肉は私も好きよ。私が、プロテインをシェイクしてあげるわ」

「ありがとう」

 

 愛ちゃんは殺しに来る以外は、意外と普通だ。ヤンデレだが。

 好きな男に対して、なんだかんだ言って尽くしてくれる。ヤンデレだが。

 まあ、攻撃は筋肉で防ぎ、態度に慣れれば意外と付き合いやすい。ヤンデレだが。

 それに何より。

 

「うん…しょ…! う…ん…ッ」

 

 プロテインシェイカーを一生懸命に振る、愛ちゃん。

 その動きにつられて、大きな胸がゆさゆさと揺れる。

 ゴクリと、それを見て俺は生唾を飲み込む。

 

「はい、どうぞ。だまにならないように、しっかり振ったわよ……私特性の牛乳で作ったプロテインよ。しっかり飲んでね?」

「いただきます!」

 

 俺は起き抜けに、切断マジック(タネ無し)をされたことなどすっかり忘れて、愛ちゃん特性のミルクプロテインをがぶ飲みする。

 俺が、愛ちゃんから逃げたりしない最大の理由は、ぶっちゃけ性欲である。

 顔と体だけは最高と、原作でも言われた女性が自分に尽くしてくれるのだ。

 しかも、割と無自覚に誘惑して。

 

 男なら、この状況から逃げるだろうか? いや、逃げない(断言)。

 男子高校生の性欲舐めるなよ。

 

「ぷはー! 朝の筋肉にプロテインが染み渡る」

「朝食も用意してあるわよ。一緒に食べましょう」

「ああ、ありがとう。因みに味見はした?」

「もちろんよ。不味い料理を、剛君に食べさせるわけがないでしょう? 毒を入れるにしても、美味しいものにするわ」

 

 部屋を出るために、後ろを振り向く愛ちゃんのスカートが翻り、絶対領域が輝く。

 本当に、見た目と体はドストライクなんだが……。

 

「ところで、愛ちゃん」

「何かしら?」

「……チェーンソーって素人でも使えるの?」

 

 どうして、こうも愛情表現がアグレッシブなんだろうか。

 ただ単に、押せ押せ気味なら、理想の彼女なのに。

 

「個人使用なら、資格は要らないわよ、それに」

「それに?」

「これを使うために、ちゃんと講習を受けて、資格を取ってきたもの。春休みを使って」

 

 後、何でそういう所は常識的なんだろうか? 

 




久々に筋肉ネタ。
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