筋肉は全てを解決する。ヤンデレヒロインの攻撃もね? 作:トマトルテ
「登校中は色々危険がいっぱいだから、私を守ってね、剛君?」
ギュムっと、俺の腕に抱き着いてくる、愛ちゃん。
これは罠だ。登校中に俺を狙う危険な刺客から逃さないための罠。
分かっている。分かっているんだが。
「愛ちゃん…その胸が……」
「うふふ、当ててるのよ?」
おっぱいが腕に当たっている。
下着越しでも柔らかいおっぱいが当たっている(大事なことなので2回言いました)。
愛ちゃんのデンジャラスなお胸が、俺をデンジャラスな罠に導こうとしているのだ。
男には罠と分かっていても、踏み込まねばならない時がある。
それがまさしく今だ。
「よし! 任せろ! 愛ちゃんは俺が守る!」
「きゃー! 流石は剛君! 惚れなおしちゃったわ!」
はたから見ればバカップルそのものだが、俺は覚悟を決めている。
この腕の温もり(おっぱい)のためなら、どんな困難だって超えられると。
「きゃあっ! 剛君、危ない!」
愛ちゃんがわざとらしく悲鳴を上げながら、俺にしがみついてくる。
俺が愛ちゃんの柔らかい胸の感触に浮かれていると、突然として黒塗りの高級車が猛スピードで突っ込んできた。
「こんな狭い道で、黒塗りの高級車とかわざとらしすぎる!」
明らかにただの運転ミスじゃない。明確な意図を感じる。
おまけにナンバープレートは泥で汚され、ウィンドウは真っ黒。
愛ちゃんが財力を使って手配した“登校中の刺客”で間違いない。
いつもご苦労様です。
「剛君…私、怖い……」
「普通は怖いとか言う間もないだけど?」
余裕たっぷりに、たっぷりのおっぱいがさらに強く押しつけられる。
計算高い女め……! 俺の動きを封じるつもりだな?
だが、筋肉に不可能はない!
レッスン2、車が突っ込んできたらどうするか?
「うおおおおっ!! 受け止めろ、俺の大腿四頭筋!!」
答えは簡単。
俺は右腕だけで愛ちゃんを抱きかかえたまま、左足を一歩前に踏み出して止める。
ドンッと黒塗りの高級車のフロントグリルが、俺の左大腿四頭筋に激突し、鋼鉄の筋肉が、車体を完全に受け止める。
その時に、他の筋肉は弛緩させて、衝撃を逃がすのがコツだ。
これで明日から、君も実践できるね?
「あのー……これ以上は、そっちが怪我するんでバックしてもらっていいすか?」
タイヤが空転して甲高い音を立て、ボンネットがぐしゃりとへこむ。
これ以上は、エアバックがあっても危ないと判断した俺は、軽く膝を伸ばして、車を後ろに押し返す。
「きゃー! 剛君すごーい! それに運転手のことまで気遣うなんて優しー! ……チッ、まったく、闇バイトで雇った奴は使えないわね……次は2tトラックで行こうかしら」
「おい、聞こえてるぞ」
「恋人の間では、隠し事はなしでしょ?」
「じゃあ、今の不意打ちは何だったんだよ」
愛ちゃんにツッコミを入れつつ、運転手の今後を案じる。
怪しいバイトに応募したので自業自得と言いたいが、怪我していないか少し不安だ。
後で愛ちゃんには、何もしないように軽く言っておくとしよう。
「というか、自分事巻き込む形で良いのか?」
「あら、守ってくれないの?」
上目づかいで、楽しそうに聞いてくる愛ちゃんに声が詰まる。
あまりにも純粋な期待に、おっぱいの感触を楽しんでいる自分が恥ずかしくなってきたのだ。
「……一緒に死んでたかもしれないんだぞ?」
「本望よ、それが究極の愛の形ね」
どこまでも純粋な子供のような瞳。
黒と金のオッドアイを瞬かせて、俺を見る彼女に思わず見とれる。
「はぁ……困ったお姫様だ」
俺はため息をつきながら、一緒に歩きだす。
愛ちゃんを離さないように、少し腕に力を入れて。
「
「今更スタンガンなんて効かん。絶縁体筋肉!」
後、ゼロ距離スタンガンを、筋肉を圧縮することで防ぎながら。
3年生の始業式。
つまりは、クラス替えであり、席順のリセットである。
しかし、現実はいつも俺の予想を超えていく
「
お前の席ねぇから!
そんな声がどこからか聞こえて来るかのように、俺の席は存在しなかった。
「私のここ空いてるよ?」
そして、代わりに当然の如く俺の右隣りの席になった愛ちゃんが、自分の席を叩く。
「愛ちゃん……なんか、席長くない?」
「ダブル机よ」
「その表現初めて聞いたよ。普通はツインデスクとかじゃないのか?」
明らかに俺の机と接着されて、長くなった席を。
「ダブルベッドと同じよ」
「いや、その程度のサイズなら、机を横に合わせればいいだけじゃん?」
「私がDIYで外せないようにくっつけたのよ? 褒めて」
「学校の備品を勝手にDIYしてんじゃねぇよ」
なんということをしてくれたのでしょう。
つなぎ目をしっかりやすり掛けして、滑らかにしている机にため息を吐く。
チェーンソーの件もだが、なんかDIYに目覚めてきてないか、愛ちゃん?
「取り敢えず……机にチョップ!」
母指内転筋、短母指外転筋、母指対立筋を固めて、チョップを机に叩き込む。
パカッとモーセの海割りのごとく、愛ちゃんお手製のダブル机がシングル机に生まれかわる。
「ああぁッ! 私の4時間の努力の結晶が!?」
「そういうマジなこと言わないでくれる? ちょっと罪悪感が湧いてくるから」
半分に割った机を、自分の位置まで戻しながら俺は少し罪悪感を抱く。
いや、人が一生懸命に作った物を壊すのって、なんか普通に嫌じゃん?
「じゃあ、死んでくれる?」
「等価交換の法則って知ってる?」
訂正。
いくらなんでも、机を壊した(もとの姿に戻した)だけで死ぬのは、罰が釣り合っていない。
「ふぅー、これでやっと座れる。筋肉には適度な休息も不可欠だからな」
朝から、筋肉を使ってきたので、ここいらで休みたいところ。
俺はゆっくりと、椅子に腰を下ろす
──ピ…ピ…ピ…。
「……愛ちゃん、なんか椅子からタイマーみたいな音がするんだけど」
「気のせいよ。時限爆弾のタイマーの音なんて聞こえないわ」
「せめて、もっとちゃんと隠してくんない? いや、隠されても困るけどさ!」
明らかな違和感を覚えて、即座に立ち上がる。
そして、椅子をひっくり返して確認すると……あった!
映画でしか見ない、徐々に数字が減っていくあの時限爆弾だ。
「すげー……本物を初めて見た」
「青と赤、どっちの配線を剛君は切るかしら? 因みに、どっちでも爆発するわ」
「選択肢の意味」
ある意味で究極の選択を突き付けて来る、愛ちゃん。
因みにだが、他のクラスメート達は、さっさと教室の外に退避している。
この2年間で俺達の関係性が広まったおかげだ。
要するに、頭のおかしい人達と思われているということだが。
泣きたい。
「さあ、タイムリミットは後30秒よ。天国でも一緒に居ましょうね、剛君」
「どう考えても、愛ちゃんが行くのは地獄だろ……」
俺はどうするかを少し考えて、すぐに実行に移す。
「爆発ごと、俺の握力で握り潰す!」
深指屈筋解放!
浅指屈筋増強!
長母指屈筋発動!
「おぉおおおおッ!! 俺に力をくれ! プロテインッ!!」
「すごい…! 時限爆弾が剛君の掌で、爆破を抑え込まれているわ!」
握りつぶされた掌の中で、時限爆弾が爆破を起こすが、それを無理やり握力で抑え込む。
爆風すら逃がさない。
全て筋肉でコントロールしてみせる!
「ふぅー……筋肉が無かったら即死だった」
無事に筋肉で爆破を制圧した俺は、不燃物のゴミ箱に爆弾の残骸を投げ込み、水筒のプロテインを飲む。
疲れた筋肉にプロテインが染み渡るぜ……。
「きゃー! 流石は剛君。今度は核爆弾でも──」
「非核三原則デコピンッ! ここは日本だ!!」
「痛ったーい!?」
ちょっとシャレにならないことを口走る、愛ちゃんに3連続デコピンをぶつけながら、俺は叫ぶ。
どうやら、俺の苦難はまだ続いていくようだ。
「さあ、
1時間目の時間。
爆弾で避難していたクラスメイト達も戻ってきて、ホームルームの時間が始まる。
教壇に立つ、中年の田中先生がクラスを見渡して、微笑む。
「みんな? 田中先生、席が1つ空いてませんか?」
「目敏いな、佐藤」
しかし、俺はみんなという言葉に違和感を覚える。
何故なら、席が1つ空いているのだ。
具体的には、俺の左隣が。
また、愛ちゃんの仕掛けの1つかと思っていたが、どうやら違うらしい。
「今日から、この学校に新しい仲間が増えるぞー」
「転校生?」
「男? 女?」
「誰なんですか、先生!」
新しい仲間。
その言葉に、クラス全体が色めき立つ。
転校生イベント。それは学生最大のイベントでもある。
「あら、剛君は随分と落ち着いてるわね」
「ん? いや、単なる転校生だろ」
しかし、俺は違う。
愛ちゃんに指摘されるように、落ち着いている。
それは、転校生に興味が無いから。
などといった理由ではない。
(ギャルゲー“Dead Or Love”。つまり、原作の開始は、主人公がここ桜花高校に転校してくるところから始まる。つまり、転校生は原作主人公に他ならない)
俺は誰が来るかを知っているのだ。
それはギャルゲーの原作主人公。
(名前は確か、
まあ、普通に良い奴なので友人になれればいいなと思っているが、それだけだ。
え? ヒロインが取られるか心配しなくていいのか?
お前、愛ちゃんを何だと思ってるんだ。
筋肉が無かったら、俺を殺してる女だぞ? むしろ、主人公の方を心配するわ。
「よーし、それじゃあ長嶋ー。そろそろ入ってきてくれー」
「は、はい…!」
緊張した
主人公ボイスはそう言えば、初めて聞くな。
まるで女の子みたいな──
「な、
目隠れ。そこまで特徴的な体つきではない。だが、良い笑顔。
事前情報と合致している。
だが、俺が目を見開いて凝視しているのは、合致している部分に驚いたからではない。
むしろ、原作知識と
「色々と分からないことばかりですが、よ、よろしくお願いします!」
「長嶋は
身に纏う服が俺と同じ学ランではなく、セーラー服。
つまり──女性だったのだ。
Why?
主人公の学ランは筋肉でパッツパッツになってます。
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