筋肉は全てを解決する。ヤンデレヒロインの攻撃もね?   作:トマトルテ

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Lesson3:筋肉は信頼を勝ち取る

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 長嶋翼。

 セーラー服を着た、黒髪の目隠れ少女こと原作主人公は、緊張した様子で頭を下げた。

 

(……女? いや、確かに主人公の顔はプレイヤーからは見えないし、昨今はLGBTの影響で、ギャルゲーでも男を攻略できたりするから、女が主人公で百合展開もおかしくはない。おかしくはないんだが……え? マジ?)

 

 声も見た目も、完全に女の子だ。原作知識が完全に裏切られた瞬間だった。

 俺が内心で驚いて、翼を見つめていると、右隣から殺気がビシビシと伝わってくる。

 愛ちゃんの黒と金のオッドアイが、細められていた。

 

「剛君……なに、見惚れてるの?」

「え? いや、ただ見つめてただけで……」

「それを見惚れるっていうのよ…!」 

 

 笑顔は完璧に保っているが、机の下で俺の太ももを爪でグリグリと抉っている。

 珍しく、殺意ではない普通の嫉妬からくる行動だ。

 そのため、俺の筋肉センサーも上手く反応せずに、普通に痛い。

 

「佐藤、長嶋の面倒見てやってくれよ。長嶋も困ったことがあったら、佐藤に聞くといいぞ。あいつ、筋肉以外にも頼りになるからな」

「は、はい……よろしくお願いします、佐藤くん」

「あ、ああ、よろしく……」

 

 田中先生がニコニコしながら続ける。

 長嶋翼が俺の方を向いて、控えめに微笑む。

 目隠れの下から覗く瞳は意外と優しくて、清楚系美少女の範疇に入りそうだった。

 その瞬間、右隣の温度が急激に下がった。

 

「……ふふっ」

 

 愛ちゃんが小さく笑った。

 これはヤバい笑い方だ。

 いつものちょっと、楽しんでる笑いとは違う。

 ガチな殺意だ。

 俺もこれ以上、愛ちゃんを刺激しないように、翼との接触は最小限に努めて──

 

「佐藤くんって……筋肉が凄いね」

「──だろ? 触ってみるか?」

 

 ──ダメだった。

 つい、マッチョの習性である『筋肉を褒められたら、触ってもいいよと言う』を発動させてしまった! 

 

「フン!」

「痛てて!」

 

 愛ちゃんが、俺の手の皮膚をつねってくる。

 筋肉が無い部分を的確に狙ってくるとは……ガチだ。

 

「……長嶋さんだったかしら? 佐藤剛は私のものよ。触らないでくれる?」

「え…!?」

 

 愛ちゃんの宣戦布告に翼が固まる。

 当然だろう、本人には全くその気がないのに、恋敵認定されたのだから。

 困惑もひとしおだろう。

 

「えっと……お2人はお付き合いしてるんですか…?」

 

 翼の質問に、少し照れ臭くなる。

 なし崩し的とはいえ、愛ちゃんのような可愛い子と、ほぼそういう状態になっているのじゃ事実。

 告白自体はしてないけど、肯定していいかなと、確認のために愛ちゃんの方を見ると。

 

「ええ、家同士で既に話もついてるわ。今は許嫁状態だけど、卒業したらすぐに結婚するわ」

「え? なにそれ、俺聞いてない」

 

 何か、衝撃の事実が明らかになった。

 家同士? それって本人省いても、成立する言葉なの? 

 

義父様(おとうさま)からは、既に了承を頂いているわよ?」

「いつ!?」

「高校に入学した時点でよ」

「入学祝がなんかやたらと豪勢だったのは、そのせいかよ!」

 

 なんか、やたらと豪華なプレゼントだったり、飯屋に連れて行ってくれるなと思ってたら、そういうことかよ! 

 あの親父…! 息子を売りやがった! 

 会社の立場とかあって、愛ちゃんの行動を咎められないんだろうなと同情していた、俺の過去を返せ! 

 

「とにかく、これでハッキリしたはずよ。剛君は私のもの。誰にも渡さないわ。Do you understand?」

 

 そう言って、勝ち誇ったように笑う、愛ちゃん。

 翼はその姿に、当然ドン引き──

 

「わぁ…! 素敵ですね!」

「へ?」

 

 ──せずに、パァと顔を明るくする。

 その表情は、まさに恋に恋する少女そのものだった。

 

「よかったら、お2人の出会いを聞かせてくれませんか? 私、そういう話がすっごく好きなんです!」

「え? いや、何で私がそんなことを──」

 

 愛ちゃんは嫌そうな顔を隠すことなく、断ろうとする。

 だが。

 

「実はさっきから、お2人って凄いお似合いのカップルだなって、思っていたんです」

「──いいわよ。剛君との私の出会いから、今に至るまでをノーカットで聞かせてあげるわ」

 

 翼からお似合いと言われたことで、一瞬で手の平を返す。

 原作主人公の人たらし能力パネェ……。

 

「それじゃあ、授業が終わったら楽しみにしていますね?」

 

 

 

 

 

 え? これ俺が寝取られるパターン? 

 

「それでね、剛君ったら小さい頃から、『愛ちゃんのために強くなる』って言って、毎日筋トレしてたのよ。最初は可愛いと思って見てたんだけど……いつの間にかこんな筋肉ムキムキになって……カッコよくなっちゃった」

「うわぁ……幼馴染からの幼い頃にプロポーズ……王道ですね!」

 

 お昼休み、屋上にて。

 キャッキャウフフと恋バナに花を咲かせる、愛ちゃんと翼。

 そんな姿に疎外感を感じて、思わず危機感を感じてしまう。

 彼女を女に寝取られるとか、なんか新しい扉を開いてしまいそうだ。

 

 因みに、愛ちゃんのために鍛えると言ったのは、愛ちゃんの(殺意に耐える)ためにだ。

 別にカッコよく、君は俺が守るとかそういうことを言ったわけではない。

 

「筋肉も、愛する人のために捧げるなんて、憧れちゃいます!」

「それでね、剛君は私のためにプロテインを毎日飲んでくれてるんだけど……最近は私特性の牛乳を使ってるのよ?」

「牛乳…!? も、もしかしてえっちな──」

「ええ、私の──」

「違うから! 普通に用意してもらった高タンパクな牛乳だから!」

 

 俺は慌てて愛ちゃんの口を塞ぐ。

 ミルク(意味深)なものは誓って入れていない。

 いや、入れたいけどさ! 

 でも、そもそも愛ちゃんは、まだ母親になってないから無理だって! 

 

「で、ですよね。流石にそこまでは、学生のうちには進みませんよね……」

「ふふふ、今はね?」

 

 愛ちゃんが俺の手を優しくどけながら、翼に微笑む。

 

「ふふ、そういう訳だから、剛君がいくらカッコいいからって、手を出しちゃダメよ?」

「は、はい…! 束縛するのも、1つの愛の形ですね……憧れちゃうなぁ」

「まぁ! 良いこと言うわね、翼ちゃん!」

 

 翼が申し訳なさそうに縮こまる。

 しかし、同時に愛ちゃん特効の誉め言葉は忘れない。

 そうして、愛ちゃんの機嫌がさらに良くなっていく悪循環。

 何なの? 女になっても、ヒロインへの特効は生きてるの? 

 君だけ話すだけで好感度を上げられる、ゲームシステムでも搭載してるの? 

 

「おーい、長嶋ー。新しい友達と一緒に居る所悪いが、少し書いてもらいたいプリントがあるから、来てくれないか?」

「あ、田中先生……」

 

 そんな所へ、助け船が来る。

 どうやら、翼を探しに来たらしい田中先生の登場だ。

 

「行っていいぞ、翼。また、話そうな。困ったことがあれば、何でも言ってくれ」

「ええ、もし、いじめられるようなら相談して頂戴。下手人の家庭を崩壊させるから」

「あ、はい! ありがとうございます! また後で、一緒にお話しをしましょうね!」

 

 翼が立ち上がってぺこりと頭を下げて、田中先生の方へと走っていく。

 どうやら、愛ちゃんの言葉は冗談と受け取ったようだ。

 原作だとまじで、やるので適当に流してくれて俺も助かる。

 

「……行ったわね」

 

 翼の姿が見えなくなった瞬間、愛ちゃんの目が再び細くなった。

 

「……剛君、あの子のこと気に入った?」

「いや、いい子だとは思ったけど」

「嘘。絶対に『可愛いな』って思ったでしょ」

 

 愛ちゃんが俺の腕に絡みつきながら、不機嫌そうに呟く。

 愛ちゃんのおっぱいホールド。

 効果は抜群だ! 

 

「思ってねぇよ」

「じゃあ、なんで見惚れてたの?」

「あれは驚いただけだ。俺は愛ちゃんに一途だよ」

「じゃあ、一緒に死んでくれる?」

「いつも思うけど、もうちょっと段階踏まない?」

 

 どうして、何事も即座に死に結びつけるのだろうか? 

 年寄りだって、こうも急にアクセルを踏み込まないぞ。

 

「いじわる……」

「愛ちゃん……人に対して、死ねって言う人間の方が意地悪じゃない?」

「あなたにしか言わないわよ、こんな言葉」

「嬉しくない、特別だな」

 

 ギュッと俺に抱き着いてくる、愛ちゃんを呆れながら抱きしめ返す。

 

「本当よ。私は愛した人しか殺さないから。それが究極の愛の形だから」

「…………」

 

 愛ちゃんが、こんな風に歪んでしまった理由を、俺は原作知識で知っている。

 彼女の母親が不治の病に侵され、苦しみの果てに自死を望んだのだ。

 そして、彼女の父親は苦悩の果てにそれを受け入れ、せめて最後は自分の手でと、妻を殺した。

 それを幼い愛ちゃんが見ていたために、愛に対する認識が歪んでしまったのである。

 少し同情してしまう。

 

「というわけで、剛君。今日は爆弾日和だから、私の体に爆弾を巻きつけてるんだけど……」

「学校にテロリストが来る妄想はしたことあるけど、内部にテロリストが居る展開は、流石に予想外だな」

 

 訂正。やっぱり同情出来ねぇわ。

 こんな女の幼馴染みに転生したのが、俺の運のつき──

 

「……ところで、爆弾はどこに着けてるんだ?」

「ふふふ、探してみてくれる? 私の体をまさぐって…ね?」

「任せろ!」

 

 ──嘘です! ちょっとヤンデレだけど、エッチな幼馴染み最高です! 

 

「あん…! そんなにがっつかないで……私はどこにも逃げないわ?」

 

 こうして謎の転校生・長嶋翼の登場により、俺の高校生活は予想だにしない方向へと加速し始めるのだった。

 

 ……因みに、愛ちゃんが自分にしかけた爆弾は、割と表面の所にありました。

 おのれ、俺がおっぱいに目が眩んで、それ以外が見えなくなるのを利用しよって。




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