筋肉は全てを解決する。ヤンデレヒロインの攻撃もね? 作:トマトルテ
「よ、よろしくお願いします」
長嶋翼。
セーラー服を着た、黒髪の目隠れ少女こと原作主人公は、緊張した様子で頭を下げた。
(……女? いや、確かに主人公の顔はプレイヤーからは見えないし、昨今はLGBTの影響で、ギャルゲーでも男を攻略できたりするから、女が主人公で百合展開もおかしくはない。おかしくはないんだが……え? マジ?)
声も見た目も、完全に女の子だ。原作知識が完全に裏切られた瞬間だった。
俺が内心で驚いて、翼を見つめていると、右隣から殺気がビシビシと伝わってくる。
愛ちゃんの黒と金のオッドアイが、細められていた。
「剛君……なに、見惚れてるの?」
「え? いや、ただ見つめてただけで……」
「それを見惚れるっていうのよ…!」
笑顔は完璧に保っているが、机の下で俺の太ももを爪でグリグリと抉っている。
珍しく、殺意ではない普通の嫉妬からくる行動だ。
そのため、俺の筋肉センサーも上手く反応せずに、普通に痛い。
「佐藤、長嶋の面倒見てやってくれよ。長嶋も困ったことがあったら、佐藤に聞くといいぞ。あいつ、筋肉以外にも頼りになるからな」
「は、はい……よろしくお願いします、佐藤くん」
「あ、ああ、よろしく……」
田中先生がニコニコしながら続ける。
長嶋翼が俺の方を向いて、控えめに微笑む。
目隠れの下から覗く瞳は意外と優しくて、清楚系美少女の範疇に入りそうだった。
その瞬間、右隣の温度が急激に下がった。
「……ふふっ」
愛ちゃんが小さく笑った。
これはヤバい笑い方だ。
いつものちょっと、楽しんでる笑いとは違う。
ガチな殺意だ。
俺もこれ以上、愛ちゃんを刺激しないように、翼との接触は最小限に努めて──
「佐藤くんって……筋肉が凄いね」
「──だろ? 触ってみるか?」
──ダメだった。
つい、マッチョの習性である『筋肉を褒められたら、触ってもいいよと言う』を発動させてしまった!
「フン!」
「痛てて!」
愛ちゃんが、俺の手の皮膚をつねってくる。
筋肉が無い部分を的確に狙ってくるとは……ガチだ。
「……長嶋さんだったかしら? 佐藤剛は私のものよ。触らないでくれる?」
「え…!?」
愛ちゃんの宣戦布告に翼が固まる。
当然だろう、本人には全くその気がないのに、恋敵認定されたのだから。
困惑もひとしおだろう。
「えっと……お2人はお付き合いしてるんですか…?」
翼の質問に、少し照れ臭くなる。
なし崩し的とはいえ、愛ちゃんのような可愛い子と、ほぼそういう状態になっているのじゃ事実。
告白自体はしてないけど、肯定していいかなと、確認のために愛ちゃんの方を見ると。
「ええ、家同士で既に話もついてるわ。今は許嫁状態だけど、卒業したらすぐに結婚するわ」
「え? なにそれ、俺聞いてない」
何か、衝撃の事実が明らかになった。
家同士? それって本人省いても、成立する言葉なの?
「
「いつ!?」
「高校に入学した時点でよ」
「入学祝がなんかやたらと豪勢だったのは、そのせいかよ!」
なんか、やたらと豪華なプレゼントだったり、飯屋に連れて行ってくれるなと思ってたら、そういうことかよ!
あの親父…! 息子を売りやがった!
会社の立場とかあって、愛ちゃんの行動を咎められないんだろうなと同情していた、俺の過去を返せ!
「とにかく、これでハッキリしたはずよ。剛君は私のもの。誰にも渡さないわ。Do you understand?」
そう言って、勝ち誇ったように笑う、愛ちゃん。
翼はその姿に、当然ドン引き──
「わぁ…! 素敵ですね!」
「へ?」
──せずに、パァと顔を明るくする。
その表情は、まさに恋に恋する少女そのものだった。
「よかったら、お2人の出会いを聞かせてくれませんか? 私、そういう話がすっごく好きなんです!」
「え? いや、何で私がそんなことを──」
愛ちゃんは嫌そうな顔を隠すことなく、断ろうとする。
だが。
「実はさっきから、お2人って凄いお似合いのカップルだなって、思っていたんです」
「──いいわよ。剛君との私の出会いから、今に至るまでをノーカットで聞かせてあげるわ」
翼からお似合いと言われたことで、一瞬で手の平を返す。
原作主人公の人たらし能力パネェ……。
「それじゃあ、授業が終わったら楽しみにしていますね?」
え? これ俺が寝取られるパターン?
「それでね、剛君ったら小さい頃から、『愛ちゃんのために強くなる』って言って、毎日筋トレしてたのよ。最初は可愛いと思って見てたんだけど……いつの間にかこんな筋肉ムキムキになって……カッコよくなっちゃった」
「うわぁ……幼馴染からの幼い頃にプロポーズ……王道ですね!」
お昼休み、屋上にて。
キャッキャウフフと恋バナに花を咲かせる、愛ちゃんと翼。
そんな姿に疎外感を感じて、思わず危機感を感じてしまう。
彼女を女に寝取られるとか、なんか新しい扉を開いてしまいそうだ。
因みに、愛ちゃんのために鍛えると言ったのは、愛ちゃんの(殺意に耐える)ためにだ。
別にカッコよく、君は俺が守るとかそういうことを言ったわけではない。
「筋肉も、愛する人のために捧げるなんて、憧れちゃいます!」
「それでね、剛君は私のためにプロテインを毎日飲んでくれてるんだけど……最近は私特性の牛乳を使ってるのよ?」
「牛乳…!? も、もしかしてえっちな──」
「ええ、私の──」
「違うから! 普通に用意してもらった高タンパクな牛乳だから!」
俺は慌てて愛ちゃんの口を塞ぐ。
ミルク(意味深)なものは誓って入れていない。
いや、入れたいけどさ!
でも、そもそも愛ちゃんは、まだ母親になってないから無理だって!
「で、ですよね。流石にそこまでは、学生のうちには進みませんよね……」
「ふふふ、今はね?」
愛ちゃんが俺の手を優しくどけながら、翼に微笑む。
「ふふ、そういう訳だから、剛君がいくらカッコいいからって、手を出しちゃダメよ?」
「は、はい…! 束縛するのも、1つの愛の形ですね……憧れちゃうなぁ」
「まぁ! 良いこと言うわね、翼ちゃん!」
翼が申し訳なさそうに縮こまる。
しかし、同時に愛ちゃん特効の誉め言葉は忘れない。
そうして、愛ちゃんの機嫌がさらに良くなっていく悪循環。
何なの? 女になっても、ヒロインへの特効は生きてるの?
君だけ話すだけで好感度を上げられる、ゲームシステムでも搭載してるの?
「おーい、長嶋ー。新しい友達と一緒に居る所悪いが、少し書いてもらいたいプリントがあるから、来てくれないか?」
「あ、田中先生……」
そんな所へ、助け船が来る。
どうやら、翼を探しに来たらしい田中先生の登場だ。
「行っていいぞ、翼。また、話そうな。困ったことがあれば、何でも言ってくれ」
「ええ、もし、いじめられるようなら相談して頂戴。下手人の家庭を崩壊させるから」
「あ、はい! ありがとうございます! また後で、一緒にお話しをしましょうね!」
翼が立ち上がってぺこりと頭を下げて、田中先生の方へと走っていく。
どうやら、愛ちゃんの言葉は冗談と受け取ったようだ。
原作だとまじで、やるので適当に流してくれて俺も助かる。
「……行ったわね」
翼の姿が見えなくなった瞬間、愛ちゃんの目が再び細くなった。
「……剛君、あの子のこと気に入った?」
「いや、いい子だとは思ったけど」
「嘘。絶対に『可愛いな』って思ったでしょ」
愛ちゃんが俺の腕に絡みつきながら、不機嫌そうに呟く。
愛ちゃんのおっぱいホールド。
効果は抜群だ!
「思ってねぇよ」
「じゃあ、なんで見惚れてたの?」
「あれは驚いただけだ。俺は愛ちゃんに一途だよ」
「じゃあ、一緒に死んでくれる?」
「いつも思うけど、もうちょっと段階踏まない?」
どうして、何事も即座に死に結びつけるのだろうか?
年寄りだって、こうも急にアクセルを踏み込まないぞ。
「いじわる……」
「愛ちゃん……人に対して、死ねって言う人間の方が意地悪じゃない?」
「あなたにしか言わないわよ、こんな言葉」
「嬉しくない、特別だな」
ギュッと俺に抱き着いてくる、愛ちゃんを呆れながら抱きしめ返す。
「本当よ。私は愛した人しか殺さないから。それが究極の愛の形だから」
「…………」
愛ちゃんが、こんな風に歪んでしまった理由を、俺は原作知識で知っている。
彼女の母親が不治の病に侵され、苦しみの果てに自死を望んだのだ。
そして、彼女の父親は苦悩の果てにそれを受け入れ、せめて最後は自分の手でと、妻を殺した。
それを幼い愛ちゃんが見ていたために、愛に対する認識が歪んでしまったのである。
少し同情してしまう。
「というわけで、剛君。今日は爆弾日和だから、私の体に爆弾を巻きつけてるんだけど……」
「学校にテロリストが来る妄想はしたことあるけど、内部にテロリストが居る展開は、流石に予想外だな」
訂正。やっぱり同情出来ねぇわ。
こんな女の幼馴染みに転生したのが、俺の運のつき──
「……ところで、爆弾はどこに着けてるんだ?」
「ふふふ、探してみてくれる? 私の体をまさぐって…ね?」
「任せろ!」
──嘘です! ちょっとヤンデレだけど、エッチな幼馴染み最高です!
「あん…! そんなにがっつかないで……私はどこにも逃げないわ?」
こうして謎の転校生・長嶋翼の登場により、俺の高校生活は予想だにしない方向へと加速し始めるのだった。
……因みに、愛ちゃんが自分にしかけた爆弾は、割と表面の所にありました。
おのれ、俺がおっぱいに目が眩んで、それ以外が見えなくなるのを利用しよって。
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