筋肉は全てを解決する。ヤンデレヒロインの攻撃もね? 作:トマトルテ
「ふんふーん♪」
愛ちゃんが台所で料理を作っている。
ハート柄のフリフリのエプロンを着て、俺からは短めのスカートで太ももの絶対領域が見える絶妙な角度で立つ。
完全に俺の性癖を抑えられている。
正直に言って、シチュエーションだけで、そのままブロッコリーとササミのサラダを3杯はいける。
しかし、喜んでばかりもいられない。
俺の性癖を愛ちゃんが知っているように、俺も愛ちゃんの性癖を良く知っている、
常に俺を殺しに来るという、性癖を。
「剛君。今日は、お刺身よ」
「おお! 愛ちゃんは相変わらず料理が上手だなぁ、綺麗にさばけてる……で、今日の魚は?」
「もちろん、フグよ」
「そっかー……高級魚だなー」
Lesson4、ふぐ調理師免許を持たない人がフグをさばくのは犯罪です。
「愛ちゃん……フグをさばくには調理師免許が要るの知ってる?」
「知ってるわよ。ちゃんと、18歳の誕生日を迎えてすぐに取りに行ったわよ」
「愛ちゃんはアグレッシブだなぁ……」
「これも花嫁修業の一環だもの」
流石は愛ちゃん。
殺人未遂以外の法律はきっちりと守っている。
そこに憧れはしないが、見習いたいとは思う。
「取り敢えず、食べても大丈夫ってことか?」
「剛君、ロシアンルーレットって知ってる?」
「刺身でそれを聞くのは初めてだな」
「当たりが何か聞きたい?」
「刺身であたりって言ったら、普通に嫌な意味だけど、多分それ以上に嫌な意味での当たりなんだろうなぁ……」
ふぐ刺しでロシアンルーレット。
あれか? 大丈夫な部位とダメな部位ごとに切り分けているのか?
保健所に捕まってしまえ。
「ルールは簡単。お互いにあーんし合って、最後の一切れまで食べていくのよ」
「それ、先に愛ちゃんが当たったらどうなるんだ…?」
「天国で、剛君に近づく女が苦しむ呪いをかけながら、待っているわ」
「天国でやることじゃねぇよ!」
真顔で告げる、愛ちゃんに思わず頭を抱える。
自分も死ぬことを許容しているのは、懐の深いのか。
だというのに、再婚とかそういうのは絶対に認めないのは、心が狭いのか。
とにかく、いつものごとく本気なのだけは分かる。
(落ち着け……愛ちゃんはこういう免許は真面目に採る。しっかりと、毒と毒じゃない部分を分けているはず。しっかり見れば分かるはずだ)
俺は目を凝らす。
「はい、ゆっくり見てちょうだいね?」
愛ちゃんがフグを乗せた皿をおっぱいの前で、斜めにして見やすくする。
ふむ……柔らかそうで、実に大きい。
きっと、口にすれば天国に行くような味がするはず……。
「どれを食べたいか決められた?」
(ちくしょう…! おっぱいに目が行って、集中して選べねぇ!)
所詮、俺は1人の男。
おっぱいと、刺身を並べられたら、おっぱいの方を優先してしまう。
え? じゃあ、女体盛りは?
どっちも美味しいからって、カレーにソフトクリームを混ぜるようなもんだろ、それは。
「それじゃあ、私があーんさせてあげるわね」
「く…!」
愛ちゃんが、笑顔でお箸を手に持つ。
美少女にあーんをしてもらう。
男の夢に間違いはないが、命の危機も迫っているため素直に喜べない。
一体、どうすれば……教えてくれ、俺の筋肉!!
【毒ごと食らえ】
「この声は筋肉さん…!?」
「え? 何? 急にどうしたの?」
悩める俺の心に、筋肉の声が聞こえて来た。
愛ちゃんが、普通の美少女の様に戸惑っているが、俺は今それどころではない。
筋肉さんの声を聞かなければならない。
【フグ。古くから、人を殺めて来た毒。しかし、全ての人間が死んだわけではない。古来より伝わる、解毒の方法が存在する】
「筋肉さん、それは一体…!」
【毒を食らった人間を砂に埋めるのだ】
「一足早い土葬じゃないですか!」
「本当にどうしたの、剛君?」
筋肉さんの言葉は、俺の心を深く抉る。
もう助からないから、さっさと土に埋めてしまおう。
そんな、絶望の答えだったのだから。
【落ち着け。これは、フグの毒による痙攣によって発生する、呼吸困難を抑えることで、解毒までの時間を生み出す民間療法だ】
「呼吸困難…?」
【フグの毒は筋弛緩毒だ。つまり、筋肉が毒に打ち負けることで死んでしまうのだ】
「筋肉が緩む…!?」
「大丈夫? 剛君? おっぱい揉む?」
筋肉さんの、身の毛もよだつ話に声を失ってしまう。
フグの毒とは、すなわち筋肉への宣戦布告。
鍛え上げた筋肉を緩めて、お前の今までのプロテインは全て無駄だったのだと、嘲笑うがごとき行い。
愛ちゃん、まさかそこまで考えて、俺にフグを…!
【恐れるな】
「──!」
【筋肉が毒に打ち負けることで死ぬのならば……筋肉で毒に打ち勝てばいいだけのこと!】
しかし、筋肉さんはその大らかな大胸筋で、俺の不安を受け止めてくれる。
筋肉が緩むのなら、それ以上の筋肉で固めてしまえばいいのだと。
【筋肉は砂だ。毒を抑え込む砂】
「筋肉は砂…!」
【1つ1つは小さいが、集まれば岩よりも固くなる。お前は筋肉が信じられないのか?】
「……押忍ッ!」
その言葉で、俺の覚悟は決まった。
筋肉を信じる。
それだけでいいんだ。
「愛ちゃん」
「あ、意識が戻ったのね。私、ついに剛君が、脳味噌まで筋肉になっちゃったのかと思って……」
「フグを全部、俺に食べさせてくれ。愛ちゃんにまで、ロシアンルーレットを回す気はない」
毒も食らう。栄養も食らう。そして、愛ちゃんも死なせない。
全てを己が筋肉に変える度量こそが、最も重要なのだと俺は悟った。
「剛君…! もう、そういう所が大好き! 死んで♡」
大好きからの、流れるような死ねの罵倒。
そして、流れるような箸さばきで、愛ちゃんが、薄く切ったフグを一気に纏めてすくう。
あ、これ、すっごい贅沢な食べ方だ。
毒が入っていると知らなかったら、めっちゃテンションが上がっただろう。
「はい、剛君…あーん♡」
「いただきます!」
愛ちゃんからのあーんを受け取り、全てを口の中に入れる。
口の中に広がる、うま味、歯ごたえ、
そして、舌に襲ってくる──痺れ。
「来た…!」
「来たのね…毒が!」
まず襲ってくるのは麻痺。
次に、その痺れが全身へと回っていく。
そして、徐々に筋肉の力が抜け落ちていく──
「ハァアアアッ!!」
「すごい…! 剛君の筋肉が、いつもの倍ぐらい膨れ上がっているわ…!」
──のを許さない。
「筋肉拳、2倍だッ!!」
気分とポーズは、ドラゴンボールの気を貯める時だ。
全身の筋肉が盛り上がる程に、力を込めて筋肉の緊張をキープする。
フグ毒の筋弛緩に負けないようにしているのだ。
「あ、汗が、滝みたいに流れているわ…!」
そして、筋肉に力を入れることで、血管が収縮。
血液の速度が上昇し、体の熱が上昇して汗が流れ出る。
体の免疫による解毒作用を高めているのだ。
【フ、高みに至ったな】
筋肉さんの柔らかい声が聞こえる。
そう。俺は、フグ毒に打ち勝ったのだ。
筋弛緩に対して、全身に力を入れ続けることで。
【だが、筋肉の道はまだまだ道半ば。
そう言って、筋肉さんは去っていく。
「ありがとう、筋肉さん……いえ、筋肉師匠!」
「フグの毒って頭にも回るのかしら……」
俺が筋肉師匠へと感謝を捧げていると、何故か愛ちゃんがドン引きした顔で見つめて来る。
解せない。愛ちゃんの方が、世間一般から見たらおかしいはずなのに。
「愛ちゃん……ご馳走様」
「ふふふ……お粗末様でした」
しかし、俺がフグを無事に完食したことを伝えると、花が咲くような笑みを見せてくれる。
これだけで、普段の行いも許せてしまうのだから、困ったものだ。
──グー~……。
「あら……大きな音。やっぱり、男の子ね。これだけじゃ足りないわよね」
唇を舐めて、ちょっとエッチな感じで、言ってくれる、愛ちゃん。
まあ、何ということはない。
フグ毒を分解するのに筋肉を消費したので、結局はお腹が減ってしまったのだ。
「愛ちゃん、他にもご飯はある?」
「もちろん。お刺身だけじゃないわよ」
「……因みに、他には毒とかは?」
「ふふ……愛情というスパイスしか入っていないわよ。もちろん、さっきのフグにも入れていたけど」
そう言って、エプロンを揺らして他のご飯をよそいに行く、愛ちゃん。
その絶対領域をガン見しながら、俺はふと思い出す。
俺が筋肉師匠と会話をしていた時に、愛ちゃんが言った言葉を。
「愛ちゃん……」
「どうしたのかしら?」
「さっき『おっぱい揉む?』って言わなかった…?」
白い髪を揺らし、ゆっくりと振り返る、愛ちゃん。
そして、両腕でおっぱいを寄せ上げて、悪戯っぽく笑う。
「筋肉に夢中で、私を無視した人には、お預けよ? 女の子は自分だけ見て欲しいんだから」
「そ、そんな……殺生な」
愛ちゃんの言葉に、ガックリと膝をついてしまう。
俺はなんてことをしてしまったんだ…!
いや、でも、筋肉師匠との対話を無視していたら、死んでいたかもしれない。
これが『ダンベルを握らねば生き残れない。ダンベルを握ったままでは おっぱいを揉めない』ってやつか。
世界っていうのは、厳しいもんだ……。
「ふふふ、でも……」
しかし、愛ちゃんは、そんな俺の様子を楽しそうに眺めながら、指を唇に当てて笑う。
「“夜のプロレス”になら、付き合ってあげてもいいわよ…?」
その言葉に、俺はムクリと立ち上がったのだった。
思いついたネタをぶん投げていくスタイルで書いていきます。
整合性? そこに筋肉があるじゃろ。
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