あきつとあんこうチームが鍋パーティで親交を深めて数日は経過した。
仕事はすぐさま始まった。毎日毎日、使われた戦車たちを大洗女子学園の自動車部の面々と整備していく。
勿論、全部を整備するには完全下校時刻を過ぎてしまうため、残った戦車はあきつ一人で整備する。
さて、そんなこんなで、戦車を整備している最中であっても、ガレージへの来客は絶えない。整備をしている最中は集中して話しかけても返事をしないが、流石に騒がしいと集中も切れてしまう。
そうなってしまうので、逆にあきつは考えた。要するに、片手間でも完璧な整備ができるようになってしまえば良いのだ。
そして、今日も悩める生徒が一人……………。
「キャラが、薄い様な気がします………」
つり目で高身長。髪を結えたバレーのユニフォーム背番号5番。
八十九式中戦車、アヒルさんチームの操縦手。河西忍である。
「………薄いのはキャラじゃなくて胸なんじゃ」
パシャリと、頭から冷たい物がぶっかけられる。
ペロリと舌を出してみれば、どうやらスポーツ飲料の様だ。
「すいません、滑りました。さっきまで戦車運転してたし、その後バレーの練習もあったので。手が汗まみれで滑りました」
「いや………、滑ったっていうか、ぶっかけられたような………」
「滑りました」
「あ、はい………」
これ以上突っ込むと、命に関わりそうなのでやめておく。
丁度、八十九式の整備を終え、あきつは一息つくために水筒に入ったコーヒーを二つのカップに淹れて一つを忍に渡す。
「それで、キャラが薄いって?」
さて、思い返してみる。
まずは、西住みほが率いるあんこうチーム。ぼこマニア、戦車マニア、オカン、無限の胃袋、学年主席。それぞれが特筆した物を持ち、キャラが立っている。
歴女の集まりであるであるカバさんチームは言わずもがな。
一年生のウサギさんチームと生徒会のカバさんチームはパッとは印象が思い浮かびはしないが、それでも顔はしっかりと思い出すことはできる。
対して、アヒルさんチーム。全員まとめて制服を着ずにバレーのユニフォームを着ているストロングスタイル。あきつも正直、大洗の戦車道チームでキャラが立っているのは歴女チームかバレー部チームのどちらかだと思っている。
「大丈夫だよ。アヒルさんチームは十分キャラ立ってるから」
「それでも!近藤や佐々木に比べたら私なんて………」
近藤に佐々木。どちらもアヒルさんチームの一年生だったと記憶している。
確かに、忍に比べて出るとこもしっかり出ている身体である。あきつが年下好きであれば、きっと告白だってしていただろう。
それはさておき、と不純な考えを振り払うためにあきつはコーヒーを飲み干した。コールタールのようにドロっとしたコーヒーが整備に疲れたあきつの頭をスッキリさせる。
やはり、紅茶なんかよりもコーヒーだ、と自身で納得して、再び忍に向き直る。
「でも、君たちのキャプテンだって色々ちんまいだろ?」
「キャプテンはキャプテンってだけでキャラが立ってますから!」
「じゃ、じゃあ、一回河西さんが持ってる強みとか、キャラを立たせるためにやっていることとかを挙げてみようか」
「私の強みですか?やっぱり、身長が高いことですかね?後はユニフォームの襟を立ててみたり………」
ふむ、とあきつは顎に手を添える。
「身長の方はどうにかすることはできないけど、襟ならどうにかなるかもな」
「やっぱり、襟ですか?」
「襟だね。今簡単にイメチェンするとしたら襟しかない」
とは言え、あきつにはこれ以上襟をどうキャラ立てしていくかの考えは持ち合わせていない。
「はい、と言うことでお呼びしました。ウサギさんチームの皆さんです」
ガレージでクイズ番組セットを作ったあきつがクイズ番組の司会がよく来ている様な服装をして、ウサギさんチームの六人を席に座らせた。
「えっと………、急に連れてこられたんで何が何やら………」
困った様に忍に助けを求めるのは、ウサギさんチームの戦車長である澤梓。
忍の方も状況があまりわかっていないのか、目を丸くして、奇行に走っているあきつを眺めている。
「皆さんには河西忍さんのキャラを立てる為、襟をどう目立たせるかの案を出してもらいます!」
「なんか面白そう!」
「襟が立ってる人ってカッコいいわよねぇ」
「襟が立ってる男の人ってイケメン多いもんね!」
「わかる!サッカーアニメに出てるイケメンってよく襟を立ててるよね!」
梓や忍を置き去りに、他のウサギさんチームのメンバーがそれぞれに盛り上がっていく。仕方ない、と梓が一度ため息を吐いて、もう一度あきつに視線を向ける。
すると、あきつの襟は立っていた。
「そこまでイケメンに思われたいんですか………」
梓の指摘を聞き流して、あきつは早速、出されたフリップを確認していく。
まずは操縦手の坂口桂利奈。
「あいあーい!私が考えたのはキャノン砲付きの襟!バキューン、バキューンって敵を薙ぎ倒すの!必殺技はニ砲のキャノンから発射される超弩級のエネルギー波、ムゲンキャノン!」
フリップに書かれた襟の絵には、キャノン砲が備え付けられている。
さて、そんなことはさておき、あきつは忍の反応を伺う。
「キャノン砲か………、キャラとしては立つかもだけど、重くて高く跳べなさそう」
どうやら、あまり芳しくはないらしい。
確かに、キャラが薄いから襟の改造をしているのに、襟を重くして元からのキャラであるバレーができなくなれば本末転倒だ。
仕方ない、とあきつは桂利奈のフリップを裏返して、次のフリップに手を伸ばす。
次は通信手の宇津木優季。彼女の絵では、忍の襟は繋がっていた。そう、まるで南蛮貿易を描いた屏風絵に出てくる南蛮人のような襟だ。
「海外の一風変わったファッションって憧れるわよねぇ」
「一風変わったどころの話じゃないね、これ。国どころか時代まで飛んじゃってるもん」
「でも、意外と反応はいいみたいですよぉ?」
「………え?」
優季の指摘にあきつが振り返ってみれば、最初から用意してあったのか、既に南蛮人の襟を付け、ご満悦の様子。
とりあえず、優季の案を保留にして、更に次のフリップに目を向ける。
さて、次の襟は異様に長い。頭を突き抜けてしまっている。某議員か、はたまた祖国への反逆者か。
この案を出したのは主砲砲手の山郷あゆみ。
「あれ?次も同じ?」
それと副砲砲手の大野あや。こちらは髪型まで指定されていて、刈り上げた。本格的に某議員の様相である。
「加藤登紀子と同じ床屋さんで刈り上げましょう!」
「アウトー!それ以上は何処か偉いところに怒られそうだから駄目!」
「えー………」
まったく………、とあきつが次のフリップに行こうとして、後ろで何かが振るえる音が聞こえてくる。
バリカンの音だ。慌てて音の方を見れば、忍がバリカンを眺めている。
「待て待て待て待て!一回落ちつけ!お前それでいいのか!?個人の見解だけど裏若き乙女が刈り上げていいのか!?」
「離してください!それでも私は、キャラを立てたい!」
そこまでか!、とあきつは呆気にとられているウサギさんチームにも応援要請をして、忍を止める。しかし、流石バレー部復活を目指す女子高生。力が強く動きが止まらない。
「紗希も手伝って!」
そんな時、梓はボーっと明後日の方向を見ている装填手の丸山紗希に呼び掛ける。
すると、紗希は一つのフリップを手に取って忍に見せる。
「それって………私のフリップ?」
何だかんだ、とりあえず書いたフリップを渡してきた紗希に対して、梓はええい、ままよ、とそのフリップを忍へと突き付けた。
そこに書いてあったのは、いつも通りのバレーの練習に打ち込む忍だった。どう言うことだと、その場の全員が梓に視線を向ける。
「私は、いつもの河西さんで良いと思うよ」
「澤………」
「背が高くて、すらっとしてて綺麗で。女子の私でもドキッとすることあるし」
梓が恥ずかしそうにそう告げれば、他のウサギさんチームもメンバーもうんうん、と相槌を打っていく。
「そうそう!優しくてカッコいいしね!」
「高身長のイケメン女子にも憧れるわよねぇ」
「あい!」
「それに、貧乳はステータス!希少価値だってありますよ!」
「皆………」
「……………どうやら皆、これでファイナルアンサーみたいだな」
あきつはゆっくりと、忍から離れて、その顔を覗く。
「……………そうですね。私には私の魅力がありますよね!」
「そうだ!その通り!女の子にはそれぞれ違った魅力があるとも!戦車にも戦車それぞれの魅力があるように!だから諦めない!いつか絶対に彼女と長いお付き合いができるように!」
何故か途中から自分のことに話を変えていくあきつ。
ウサギさんチームが尊敬する何処かの恋愛マスター(笑)と似たようなことを言っている。
まぁ、恋愛マスター(笑)と違って作るところまでは言っているので一枚上手とも言えるかもしれない。
そんなこんなで翌日。徹甲弾を胸に詰めた河西が目撃され、あきつとウサギさんチームにツッコまれたそうな。