止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第19刻 夢という呪い

吹き飛ばされたケルベロスは、まだ倒れていなかった。地面を爪で削りながら、三つの頭が低い唸り声を漏らしている。もう一度、立ち上がろうとしていた。

 

 私のレールガンは、発射直後の熱を帯びたままだった。砲身を走る紫色の発光ラインが、不安定な明滅を繰り返している。すぐに、同じ威力でもう一度撃つことはできない。

 

「ありがとうございます、ミライさん」

 

 アーシアさんの声が、隣から聞こえた。

 

「お礼は、全員で無事に帰ってからにしてください」

 

 私は戦場から視線を外さずに答えた。

 

 なぜ頭上にあの光が現れたのか。なぜ手の中に武器が生まれたのか。自分の身体が、どこまで変わってしまったのか。考えたいことはいくつもあった。コカビエルから向けられた問いにも、答えられていない。

 

 それでも、今はそれを考える時ではなかった。

 

 

 起き上がりかけたケルベロスが、私とアーシアさんへ向かって、再び走り出そうとした。

 

 その横合いから、強烈な斬撃が走った。巨体が真っ二つに斬り裂かれ、今度こそ地面へ崩れ落ちる。

 

「間に合ったか」

 

 現れたのは、ゼノヴィアさんだった。

 

 衣服のあちこちが裂け、腕にも足にも、昨夜からの戦闘の跡が残っている。それでも、聖剣を握る手には迷いがなかった。

 

 学園を覆う結界の一部が、一瞬だけ開いて彼女を通す。ゼノヴィアさんが校庭へ足を踏み入れると、結界はすぐに閉じられた。

 

 彼女は校庭を見回し、一つの不在に気づいた顔をした。

 

「イリナはどうした」

 

「重傷を負っているところを発見しました」

 

 私は答えた。

 

「今は、支取家の治療施設へ運ばれています」

 

 ゼノヴィアさんは僅かに目を伏せた。

 

「……そうか」

 

 それ以上、感情を長く表へ出すことはなかった。ただ、聖剣を握る手に、さらに力がこもったのが分かった。

 

 

 残るケルベロスは二体。ゼノヴィアさんが戦線へ加わり、リアス先輩、朱乃さん、小猫さんと共に迎撃を続ける。

 

 私は砲身の冷却を待ちながら、できることを続けた。カンドロイドで敵の位置と進路を知らせる。アーシアさんと一誠へ近づく敵を警戒する。死角を伝え、小型機で一瞬だけ注意を逸らす。負傷者が出た時、すぐに駆け寄れる位置を保つ。

 

 身体は、以前よりも明らかに素早く動く。それでも、戦闘の経験そのものが急に増えたわけではない。変化した身体に振り回されないよう、無謀に前へ飛び込むことは避けた。

 

 やがて、砲身の明滅が収まった。発光ラインが、落ち着いた輝きへ戻っていく。

 

 私は、ゼノヴィアさんが対峙しているケルベロスへ狙いを定めた。

 

「ゼノヴィアさん。正面を開けます」

 

「頼む!」

 

 引き金を引く。

 

 紫色の軌跡を引いて飛んだ弾体が、ケルベロスの肩へ命中した。巨体が大きく仰け反る。

 

 体勢を崩したその瞬間、ゼノヴィアさんが踏み込んだ。聖剣が斜めに振り抜かれ、ケルベロスの身体を深く斬り裂く。獣の巨体が地面へ沈み、それきり動かなくなった。

 

 私の一撃だけで決めたのではない。二人で作った隙だった。

 

 

 戦闘の合間にも、ブーステッド・ギアの音は一定の間隔で響き続けていた。

 

『Boost!』

 

 一誠は前へ出たい気持ちを堪えながら、任された役目を果たしている。溜めた力が、譲渡できる段階へ達したらしい。

 

「一誠。私と朱乃へ力を渡して」

 

 リアス先輩が指示する。

 

 一誠が頷き、籠手を二人へ向けた。

 

『Transfer!』

 

 蓄積された力が、リアス先輩と朱乃さんへ流れ込んだ。リアス先輩を包む滅びの魔力が、急激に密度を増していく。朱乃さんの周囲で弾ける雷も、夜の校庭全体を照らすほど強くなった。

 

 譲渡を終えると、一誠は息を整え、再び力を溜め始める。

 

『Boost!』

 

 

 最後の一体となったケルベロスが、強化された攻撃を受けてもなお、立ち上がろうとしていた。

 

 その時、学園を覆う結界の一部が開いた。そこから駆け込んできた人影の背後に、複数の魔剣が生まれる。魔剣は次々とケルベロスへ突き立ち、巨体を地面へ縫い止めていった。最後の一振りが急所を貫き、獣の動きが止まる。

 

「木場!」

 

 一誠の声が、校庭に響いた。

 

 現れたのは、木場くんだった。衣服は裂け、身体のあちこちに戦闘の痕跡が残っている。昨夜からほとんど休まず、フリードたちを追い続けていたのだと分かった。

 

 木場くんが僅かに振り返る。

 

「心配をかけたね、イッセーくん」

 

 リアス先輩の表情に安堵がよぎった。命令を無視して単独行動を取ったことへの叱責は、今は後回しにされた。

 

 木場くんの視線は、すぐに儀式を進めるバルパーへ向けられる。その目に浮かんでいたものを、安堵だけで消すことはできなかった。

 

 

 ケルベロス三体を倒したことで、リアス先輩たちの意識が上空のコカビエルへ集中する。

 

 強化されたリアス先輩が、巨大な滅びの魔力を放った。朱乃さんも、眩い雷撃を重ねる。

 

 私は二人の射線と重ならないよう注意しながら、再びコカビエルへレールガンを向けた。照準を合わせ、引き金を引く。

 

 けれど、どの攻撃もコカビエルには届かなかった。

 

 リアス先輩の滅びの魔力は、膨大な光力によって受け流される。朱乃さんの雷撃は、広げられた黒い翼に弾かれた。私の弾体は、コカビエルが放った細い光の槍と正面から衝突し、空中で砕け散る。

 

 防御の動作を取らせることはできた。それでも、傷一つ負わせられなかった。

 

 コカビエルは私の武器を、珍しいものを見るような目で一瞥した。それだけだった。

 

「その程度で、私へ届くと思ったか」

 

 その声には、圧倒的な余裕があった。

 

 

 その最中、バルパーの儀式が最終段階へ入っていた。

 

 地面に描かれた術式が、一段と強く輝く。配置されていた四本のエクスカリバー――奪われたミミックも含めて――が宙へ浮かび上がり、一つの場所へ集まり始めた。異なる能力を持つ四本の聖剣が、溶け合うように一振りへ統合されていく。

 

 完成した瞬間、強烈な聖なる圧力が校庭全体へ広がった。悪魔であるリアス先輩たちが、目に見えて苦しげに顔を歪める。私は同じ苦痛こそ感じなかったが、それでも力の密度に息が詰まった。

 

「ついに……ついに完成した!」

 

 バルパーが歓喜の声を上げる。

 

 しかし、統合によって生まれた膨大な余剰エネルギーは、バルパーではなく、上空のコカビエルへと流れていった。バルパーの顔に驚きはない。あらかじめ、そういう取り決めになっていたのだろう。

 

 コカビエルの周囲に、これまで以上の光が集まっていく。

 

 

 コカビエルは得た力を使い、大規模な術式を展開し始めた。上空と地面に、巨大な魔法陣が広がっていく。

 

「この学園ごと、町の地盤を崩してやろう」

 

 その言葉に、背筋が冷えた。

 

 術式が完成すれば、地面そのものが崩れ、駒王町一帯が大きな被害を受ける。シトリー眷属の結界は、戦闘の余波を外へ漏らさないためのものだ。地盤そのものへ干渉する術式までは、完全には防げない。

 

 地面の奥から、低い軋みが響き始める。支取会長たちは結界を維持しながら、地盤を襲う余波も同時に抑えようとしていた。匙くんたちの顔に、これまで以上の苦痛が浮かぶ。

 

「術式が完成する前に、止めるわ」

 

 リアス先輩が言った。

 

 

 強化されたリアス先輩と朱乃さんが、残る力を込めて同時に攻撃を放つ。滅びの魔力と雷撃が重なり、コカビエルへ迫った。

 

 私も援護しようと照準を上げる。けれど、先ほどの射撃で砲身は再び熱を帯びていた。発光ラインも安定していない。再充填が間に合わない。

 

 コカビエルは、二人の攻撃を正面から受け止めた。そして、押し返すように腕を振るう。

 

 受け止められた滅びの魔力と雷撃が、一つの奔流となって反射された。

 

 リアス先輩は横へ飛び、間一髪で直撃を避ける。だが、全力の攻撃を放った直後の朱乃さんは、回避が僅かに遅れた。反射された雷撃と滅びの魔力の一部が、その身体を捉える。

 

「朱乃さん!」

 

 朱乃さんの身体が、大きく吹き飛ばされた。

 

 私はレールガンを地面へ滑らせるように置き、両腕を空けて地面を蹴った。変化した身体が、考えるより先に加速する。落下地点へ先回りし、朱乃さんの身体を受け止めた。

 

 衝撃が両腕と足へ伝わる。それでも、地面への激突だけは防ぐことができた。

 

 しかし、朱乃さんはすでに重傷を負っていた。

 

「……すみません。少し、失敗してしまいましたわ」

 

 朱乃さんは冗談めかそうとした。けれど、その声にはほとんど力がない。

 

「今は喋らないでください」

 

 私は朱乃さんを抱え、アーシアさんのもとへ運んだ。アーシアさんが、すぐに治療を始める。

 

 朱乃さんを預けると、私は地面へ置いていたレールガンを拾い上げた。

 

 

 朱乃さんが倒れ、陣形が崩れかける。

 

 その中で、木場くんがバルパーへ向かって動き出した。その視線には、長年抱え続けてきた怒りと憎しみが、はっきりと表れていた。

 

 魔剣を手に、木場くんが踏み込む。

 

 だが、上空から光の槍が降り注いだ。狙われたのは、木場くんの背後だった。

 

 木場くんは直撃だけは避けた。それでも、着弾の爆発と衝撃をまともに受け、地面へ叩きつけられる。握っていた魔剣も、砕け散った。

 

 

「フリード」

 

 バルパーが、統合聖剣を差し出した。

 

「その剣で、失敗作を始末しろ」

 

 フリードが、四本のエクスカリバーを統合した聖剣を手にする。膨大な力が、その身体へ流れ込んでいくのが分かった。

 

「こいつはいい……!」

 

 フリードは歓喜の声を上げ、倒れた木場くんへ近づいていく。

 

「木場くん!」

 

 一誠たちが助けに向かおうとする。

 

 だが、すぐには割って入れなかった。コカビエルが次々と放つ光の槍が、リアス先輩たちの進路を塞いでいる。地盤崩壊の術式は進行を続け、支取会長たちは結界から離れられない。朱乃さんも、今はアーシアさんの治療を受けている。

 

 私もレールガンを向けた。だが、木場くんとフリードの距離が近すぎる。撃てば、木場くんまで巻き込む。引き金にかけた指が、動かせなかった。

 

 フリードが、統合聖剣を振り上げる。

 

「待て」

 

 それを、バルパーが片手で制した。

 

「せっかくだ。最後に、自分たちが何の役に立ったのか教えてやろう」

 

 フリードは不満そうに舌打ちしたが、統合聖剣を下ろした。

 

 

 木場くんが、傷ついた身体で立ち上がろうとする。

 

 バルパーは、それを見下ろしながら口を開いた。

 

「君らには感謝している。おかげで計画は完成した」

 

 かつて実験に使われた子供たちは、聖剣へ完全に適合するだけの因子を持っていなかった。だからバルパーは、肉体そのものを適合させる方向を途中で諦めたのだという。

 

「代わりに、身体から聖剣因子だけを抽出し、一つに集め、結晶として保存する方法へ辿り着いた」

 

 バルパーが取り出したのは、淡く光る結晶だった。

 

「これは、君と共に実験を受けた者たちから抽出した聖剣因子の結晶だ」

 

 木場くんの目が、大きく見開かれる。

 

「欲しければくれてやる。もはや、さらに完成度を高めたものを量産できるようになったからな」

 

 結晶が、木場くんの近くへ投げられた。

 

 

 木場くんが、震える手でそれを拾い上げる。

 

 その瞬間、彼の表情が変わった。何を見ているのか、私には分からない。ただ、呼吸が乱れ、結晶を握る指が震えている。

 

「僕は、ずっと……ずっと思っていたんだ」

 

 掠れた声が、戦場へ落ちた。

 

「僕が、僕だけが生きていて良いのかって……」

 

 木場くんの声から、自分だけが仲間たちに生かされたのだという苦しみが伝わってきた。

 

「僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが、平和な暮らしを過ごして良いのかって」

 

 その思いを、彼はずっと一人で抱え続けてきたのだろう。私に、その苦しみのすべてが分かるとは言えない。それでも、彼の声から、これがどれほど長く木場くんを縛ってきた痛みなのかは伝わってきた。

 

 地面の奥から、再び低い軋みが響く。結界を維持する匙くんたちの表情は、さらに苦しげになっていた。それでもコカビエルは追撃せず、木場くんの変化を興味深そうに見下ろしている。

 

 

 木場くんの感情。結晶に残された聖剣因子。戦場を満たす聖なる力と、悪魔の力。

 

 それらが反応したのか、結晶から青白い光が溢れ出した。光は複数に分かれ、次第に小さな人の輪郭を形作っていく。

 

 木場くんの表情を見る限り、それは共に実験を受けた子供たちの姿なのだろう。少なくとも、生きた人間が蘇ったようには見えなかった。結晶の中に残されていた魂の欠片か、記憶か、あるいは思念に近い何か。私には、それ以上のことは分からなかった。

 

 青白い光の子供たちは、木場くんを責めなかった。複数の声が、優しく重なる。

 

『大丈夫……』

 

『みんな集まれば……』

 

『受け入れて……』

 

『僕たちを……』

 

『怖くない、たとえ神がいなくても』

 

『神様が見ていなくても』

 

『僕たちの心は、いつだって』

 

 木場くんの目に、涙が浮かぶ。

 

「……っ、一つ……」

 

 青白い光が木場くんを包み込み、そのまま身体へ溶け込んでいった。

 

「な、何だよ、それ……!」

 

 フリードが統合聖剣を構え直し、木場くんへ踏み込もうとする。

 

 その眼前へ、一本の剣が突き立った。聖なる輝きと、黒く澄んだ魔の気配。相反する二つを宿した剣が、フリードの進路を遮っていた。フリードが反射的に足を止める。

 

 

 木場くんの神器――魔剣創造が、仲間たちの思いと聖剣因子を受け入れて変化していく。

 

 悪魔の力による魔剣。聖剣因子による、聖なる力。本来なら相反するはずの二つが、木場くんの中で確かに共存していた。

 

 聖なる輝きと魔の気配を同時に纏う剣が、木場くんの手に生まれる。さらに、その周囲へ複数の聖剣と魔剣が形成されていった。

 

「禁手……」

 

 リアス先輩が、驚きを隠せない声で呟いた。

 

「裕斗が、禁手へ至ったの?……」

 

「馬鹿な……悪魔が、聖なる力を……!」

 

 バルパーが動揺の声を漏らす。

 

 木場くんは、聖魔剣を支えにしながら、静かに立ち上がった。

 

 光の子供たちの声には、復讐を求める響きはなかった。木場くんも、その思いを受け取ったようだった。

 

「僕はもう、君たちの仇を討つためだけに戦うんじゃない」

 

 その声から、先ほどまで彼を突き動かしていた激しい憎悪は消えていた。

 

「二度と、僕たちのような犠牲者を生み出さない。そのために、この力を使う」

 

 

 聖魔剣を手にした木場くんが、バルパーを真っ直ぐに見据えた。

 

 叫び声ではなかった。穏やかで、静かな声だった。だからこそ、その場に響いたどの怒声よりも重かった。

 

「知ってるかな?」

 

 木場くんが静かに問う。

 

「夢っていうのは、呪いと同じなんだ。途中で挫折した者は、ずっと呪われたまま……らしい」

 

 僅かな間を置いて、続ける。

 

「あなたの……罪は重い」

 

 その声に、先ほどまでの激しい憎悪はなかった。けれど、バルパーを許したわけでもない。木場くんは仲間たちの思いを背負ったまま、それでも自分の意思で、目の前の罪を断じていた。

 

 

「何が罪だよ!」

 

 フリードが、統合聖剣を大きく振り上げた。

 

「死に損ないが、急に格好つけてんじゃねえ!」

 

 統合聖剣が、木場くんへ振り下ろされる。木場くんは聖魔剣を掲げ、その一撃を正面から受け止めた。

 

 強烈な衝撃が周囲へ広がり、足元の地面がひび割れる。統合聖剣の持つ膨大な聖なる力が、木場くんを押し潰そうとする。それでも木場くんの剣は砕けなかった。

 

「どうしたよ! そんなもんか!」

 

 フリードがさらに力を込める。木場くんの足元が、少しずつ地面を削りながら後退していく。

 

 その隣に、ゼノヴィアさんが立った。

 

「木場祐斗。あれを破壊するぞ」

 

「うん。行こう、ゼノヴィア」

 

 立場は違う。木場くんは聖剣計画の犠牲者で、聖剣を憎んできた。ゼノヴィアさんは教会に属し、聖剣を信じて戦ってきた。それでも今は、目的が一つに重なっていた。バルパーとコカビエルに利用された統合聖剣を破壊すること。

 

 ゼノヴィアさんが切り札を呼び出す。

 

 デュランダル。

 

 その刃から溢れる力に、周囲の空気が震えた。ゼノヴィアさんが横から斬り込み、デュランダルを統合聖剣へ叩きつける。

 

 木場くんの聖魔剣と、ゼノヴィアさんのデュランダル。二つの刃が、統合聖剣へ同時に食い込んだ。

 

 けれど、砕けない。四本分の力を一つにした聖剣が、二人を押し返そうとする。聖なる力が爆発的に膨れ上がり、木場くんとゼノヴィアさんの足元が深く抉られた。

 

「潰れろおおおおっ!」

 

 フリードが吠える。

 

 木場くんは退かなかった。青白い光が、その身体と聖魔剣を包んでいる。自分を責めるのではなく、生きてほしいと願った仲間たちの思い。これ以上、同じ犠牲者を出さないという決意。そのすべてが、木場くんの足を支えているように見えた。

 

「ゼノヴィア!」

 

「ああ!」

 

 ゼノヴィアさんが、デュランダルへさらに力を注ぎ込む。木場くんの聖魔剣から、聖と魔の光が一つになって溢れ出した。

 

 統合聖剣の表面に、一本の亀裂が走る。

 

「なっ……!」

 

 亀裂は、瞬く間に刃全体へ広がった。二人が同時に剣を振り抜く。

 

 統合聖剣が、砕けた。

 

 四本のエクスカリバーが無数の破片となって散り、強烈な光が校庭一帯へ広がる。その衝撃に巻き込まれ、フリードの身体が大きく吹き飛ばされた。校舎脇の瓦礫へ叩き込まれ、その姿が土煙の向こうへ消える。生死を確認できる状況ではなかった。

 

 

 統合聖剣が破壊され、バルパーが狼狽する。

 

 だが、その顔に、すぐに別の色が浮かんだ。恐怖ではない。研究者としての、興奮だった。

 

 バルパーは木場くんの聖魔剣を凝視し、震える声を漏らす。

 

「そうか……聖と魔は、根源では――」

 

 最後まで、言わせなかった。

 

 上空から光の槍が落ちてくる。光がバルパーの身体を貫いた。バルパーは何が起きたのか理解できないような顔をしたまま、その場へ崩れ落ちる。それきり、動かなかった。

 

 コカビエルにとって、バルパーは最初から道具にすぎなかったのだろう。研究成果が完成し、余計なことを口にしかけた時点で、もう残しておく必要がなくなった。

 

 木場くんは、自分の手でバルパーを殺すことはできなかった。それでも、彼の表情に悔しさはあっても、先ほどまでのような激しい憎悪はなかった。復讐だけを目的として戦うことをやめた木場くんにとって、それは敗北ではないのだと思った。

 

 

 統合聖剣は砕けた。バルパーも死んだ。

 

 けれど、聖剣統合で生まれた力は、すでにコカビエルへ渡っている。地盤崩壊の術式も、止まっていない。

 

 本当の敵は、今もまだ上空にいた。

 

 コカビエルは、木場くんの覚醒も、統合聖剣の破壊も、余興の一つとして見下ろしていた。

 

 その視線が、一誠へ向く。

 

「赤龍帝」

 

「……!」

 

「その力を限界まで高めろ。そして、お前が最も相応しいと思う者へ渡してみせろ」

 

 コカビエルは、私たちがどこまで抗えるのかを見ようとしているようだった。

 

 一誠が恐怖を押し殺すように、力を高め始める。

 

『Boost!』

 

 リアス先輩が、一誠の前へ立った。コカビエルとの力の差は、リアス先輩自身が一番よく理解しているはずだった。それでも、退かなかった。

 

「一誠。あなたの力を、私に貸して」

 

 リアス先輩が手を差し出す。

 

「……はい、部長」

 

 一誠が、その手を取った。二人が、互いの手を強く握り合う。

 

 

 怖くないはずがなかった。

 

 それでも、リアス先輩は一誠の手を離さなかった。一誠も、その手を強く握り返している。

 

 二人は並んで、上空のコカビエルへ向かって歩き出した。

 

 治療を続けるアーシアさんと朱乃さんの前には、小猫さんが立っている。木場くんとゼノヴィアさんも、荒い息を整えながら、二人を守れる位置へ移った。

 

 私はそれを確認してから、レールガンを構え直した。

 

 そして、一誠とリアス先輩の背中を追う。

 

 戦いは、まだ終わっていなかった。

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