止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第24刻 魔法少女は魔王さま

## 第二十四刻 白龍皇と魔法少女

 

 その朝、リアス先輩から、登校したら部室へ来るよう連絡を受けていた。何があったのかまでは聞かされていない。

 

 部室へ入ったとき、最初に目に入ったのは、一誠が左腕を押さえている姿だった。怪我をしているようには見えない。けれど、指先にはわずかに力が入り、普段より険しい顔で自分の腕を見下ろしていた。

 

「一誠、どうかしたのですか?」

 

「ああ、ミライか」

 

 一誠が顔を上げる。部室には、すでにリアス先輩と祐斗、ゼノヴィアさんが集まっていた。いつもの部室とは違い、誰もくつろいでいない。

 

「怪我ですか?」

 

「怪我じゃねえよ。もう何ともない」

 

「では、なぜ押さえているのです?」

 

「今朝、変な奴に会ったんだ」

 

「変な人ですか?」

 

「変というより……何を考えているのか分からない男だったね」

 

 祐斗が答えた。穏やかな口調は普段と変わらない。けれど、その目には警戒が残っていた。

 

「校門の前にいた。ヴァーリと名乗っていたよ」

 

「ヴァーリ……」

 

 聞き覚えのない名前だった。

 

「一誠の知り合いではないのですか?」

 

「初対面だ。向こうは俺のことを知ってたみたいだけどな」

 

 一誠が左腕を持ち上げる。

 

「そいつを見た途端、ドライグが反応した。それで左腕が急に疼きやがって……」

 

『当然だ、相棒』

 

 一誠の左腕から、低い声が響いた。赤龍帝の籠手に宿る龍、ドライグの声だった。

 

『あれは、我が宿敵の力だ』

 

「宿敵?」

 

『白龍皇。白き龍、アルビオンを宿す者だ』

 

「赤龍帝と対になる存在、ということですか?」

 

『そう思って構わん』

 

 一誠の力が赤なら、相手は白。赤い龍と、白い龍。互いに宿敵と呼ばれるほどの関係らしい。

 

「そのヴァーリという人は、一誠に何をしたのです?」

 

「何もしてねえ。いや、何もされなかったって言った方がいいのか……」

 

 一誠は自分でも説明しにくそうに頭を掻いた。

 

「腕が疼いた隙に、いつの間にか目の前まで来てたんだ。気づいたときには、手がここまで来てた」

 

 一誠が、自分の顔のすぐ前へ手を置く。

 

「触れられたのですか?」

 

「いや。反射的に後ろへ下がった」

 

「その時点で、僕とゼノヴィアが剣を向けた」

 

 祐斗が自分の首元を指す。

 

「左右から、ヴァーリの首へ切っ先を突きつけたんだ」

 

「それでも、あの男は顔色一つ変えなかった」

 

 ゼノヴィアさんが続けた。

 

「まるで私たちの剣など、最初から存在していないような態度だった」

 

「祐斗とゼノヴィアさんの剣を向けられてもですか?」

 

「ああ」

 

「強がっていたのでは?」

 

「その可能性は低いと思う」

 

 祐斗は静かに首を振った。

 

「僕たちが剣を突きつけても、まるで気にしていなかった。少なくとも、強がりには見えなかったよ」

 

「随分と余裕のある男だった」

 

 ゼノヴィアさんは不満そうだった。剣を突きつけても相手にされなかったことが、気に入らないらしい。

 

「そのあと、リアス先輩たちも来てくれたんだけどな」

 

 一誠が言う。

 

「戦いに来たんじゃないとか、顔を見に来ただけだとか言って、そのまま帰りやがった」

 

「本当に、それだけだったのですか?」

 

「今のところはな」

 

 リアス先輩が腕を組む。

 

「自分から白龍皇だと名乗り、一誠へ姿を見せた。それ以上のことは何もしなかったわ」

 

「追わないのですか?」

 

「敵対行動を取っていない相手を、こちらから追う理由はないもの」

 

 リアス先輩はそう答えたあと、少しだけ表情を厳しくした。

 

「ただし、警戒は必要よ。赤龍帝へ興味を持っている以上、これで終わるとは思えないわ」

 

「俺も、次は負けねえからな」

 

「まだ戦っていませんよ」

 

「分かってる。でも、あの余裕そうな態度が腹立つんだよ」

 

「一誠が勝手に対抗意識を持っているだけではありませんか?」

 

「ドライグの宿敵なら、俺にとっても他人事じゃないだろ!」

 

『その意気だ、相棒』

 

「ドライグさんまで煽らないでください」

 

 赤と白。同じ龍の力を宿しながら、互いに対となる存在。

 

 ヴァーリという人物が何を求め、一誠へ会いに来たのかは分からない。それでも、いつか再び姿を現す。

 

 リアス先輩たちの表情を見ていると、誰もがそう考えているようだった。

 

     ◇

 

 数日後、駒王学園では公開授業が行われた。普段なら生徒しかいない校舎の中を、大勢の大人たちが歩いている。廊下には案内板が立てられ、教師たちもいつもより少し落ち着かない様子だった。

 

 私の教室にも、生徒の家族が大勢集まっていた。後ろを振り返れば、教室の壁際には父親や母親らしい人たちが並んでいる。普段は騒がしい生徒も、今日は妙に姿勢がよい。教師に名前を呼ばれれば、いつもよりはっきりと返事をしていた。

 

 自分が学校でどのように過ごしているか、家族へ見せるための日らしい。

 

 私の席の後ろに、見学へ来る人はいなかった。それ自体は、最初から分かっていたことだった。

 

 お爺さんが今もいたなら、来てくれただろうか。

 

 一瞬だけ考えた。けれど、答えの出ないことを考えているうちに、教師から名前を呼ばれた。

 

「天童」

 

「はい」

 

 私は立ち上がり、黒板に書かれた問題に答えた。公開授業だからといって、普段と違うことをする必要はない。授業を受け、質問されたことに答える。

 

 それで十分だった。

 

     ◇

 

 授業が終わり、教室の外へ出る。廊下には、家族と話す生徒たちが集まっていた。その中で、よく知っている金髪が見えた。

 

「アーシアさん」

 

「あっ、ミライさん!」

 

 アーシアさんがこちらへ手を振る。その左右には、一誠の両親が立っていた。

 

「まあ、この子がミライちゃん?」

 

 一誠のお母様が、私の顔を覗き込む。

 

「はい。天童ミライです」

 

「一誠から聞いてるわ。アーシアちゃんとも仲よくしてくれてるんでしょう?」

 

「はい。いつもお世話になっています」

 

「いやいや、世話になってるのはこっちの方だろう」

 

 一誠のお父様が笑った。

 

「アーシアちゃんなんて、本当にいい子でなあ。うちに来てくれてから家が明るくなったよ」

 

「お父さん、大げさです」

 

 アーシアさんは恥ずかしそうにしていた。けれど、嫌がっているようには見えない。

 

 一誠のお母様が、アーシアさんの制服の襟を直す。

 

「大げさじゃないわよ。授業を受けているところも、とっても可愛かったんだから」

 

「母さん、公開授業はアーシアを見に来たんじゃなくて、俺を見に来たんだろ?」

 

 一誠が少し離れた場所で不満そうに言った。

 

「あなたもちゃんと見てたわよ」

 

「ついでみたいに言うな!」

 

「一誠君も頑張っていたじゃないか」

 

「父さんまで、その言い方は何だよ!」

 

 一誠の両親は笑っていた。

 

 アーシアさんも、二人に挟まれて困ったように笑っている。けれど、その場から離れようとはしなかった。

 

「ミライちゃん」

 

 一誠のお母様が私へ向き直る。

 

「いつも一誠がお世話になっています」

 

「私も、一誠にはよくお世話になっています」

 

「本当か!?」

 

 一誠が驚いたように声を上げた。

 

「何でお前が一番驚いてるんだよ」

 

 お父様が呆れる。

 

「いや、ミライがそんなこと言うと思わなくて……」

 

「時計の修理を手伝ってもらったこともありますし、何度か助けてもらっています」

 

「何だ。ちゃんと役に立ってるんじゃない」

 

「母さん、俺を何だと思ってるんだ?」

 

「ただし」

 

「まだあるのか?」

 

「一誠が想像しているような意味ではありません」

 

「俺は何も想像してねえよ!」

 

「顔に出ています」

 

「またそれかよ!」

 

 一誠のお母様が楽しそうに笑う。

 

「ミライちゃんも、今度うちに遊びに来てね」

 

「よいのですか?」

 

「もちろんよ。アーシアちゃんのお友達なら大歓迎」

 

「私は一誠の友人でもあります」

 

「あら、そうだったわね」

 

「母さん!」

 

 また笑い声が上がる。私も、少しだけ口元を緩めた。

 

 そのとき、廊下の奥から大きな声が聞こえてきた。

 

「魔女っ子がいるぞ!」

 

「本物か!?」

 

「写真撮ってる!」

 

 何人もの生徒が、同じ方向へ走っていく。一誠がすぐに反応した。

 

「魔女っ子?」

 

「何でしょうか?」

 

 アーシアさんも興味を示す。

 

「行ってみるか」

 

「まだ保護者の方々もいるのに、騒ぎへ近づくのですか?」

 

「魔女っ子だぞ」

 

「理由になっていません」

 

「ミライさんも気になりませんか?」

 

 アーシアさんに尋ねられる。

 

「魔女ではなく、魔法少女という意味なら少し」

 

「気になってるじゃねえか」

 

「確認したいだけです」

 

 一誠の両親にはここで別れを告げ、私たちは人の集まっている方へ向かった。

 

     ◇

 

 廊下の一角が、撮影会のようになっていた。生徒たちの中心に、一人の女性が立っている。

 

 大きな杖。飾りの多い衣装。短いスカート。胸元や髪には、星やハートを思わせる装飾がいくつも付けられていた。

 

 女性は、生徒たちへ向けて次々とポーズを取っている。

 

「魔法少女レヴィアたん、華麗に登場!」

 

 周囲から歓声が上がった。

 

 私は足を止め、その姿を観察する。

 

 仮装ではない。周囲へ隠そうともせず、強い魔力を放っている。杖にも装飾以上の力があるように見えた。

 

 私の記憶に残っている《魔法少女ヘヴィキャリバー》は、大口径火器を携えた、もっと重装備の魔法少女だった。目の前にいる女性とは、かなり方向性が違う。

 

 けれど、一般的な魔法少女はこちらなのかもしれない。

 

「本物の魔法少女です……」

 

「ミライ、どこを見てそう判断したんだ?」

 

 一誠が尋ねる。

 

「衣装、杖、ポーズ。それに魔力です」

 

「最後以外、見たまんまじゃねえか」

 

「ですが、見た目だけではありません」

 

「そこの銀髪の子!」

 

 女性が、突然こちらを指さした。

 

「はい?」

 

「分かってるね! 見る目があるよ!」

 

 生徒たちの視線が、一斉に私へ向く。女性は人垣を抜け、私の前まで来た。

 

「あなた、魔法少女に興味があるの?」

 

「はい。勇者になるための参考になるかもしれません」

 

「勇者!」

 

 女性の目が輝く。

 

「いいね! 魔法少女と勇者は、正義を守る仲間だよ!」

 

「そうなのですか?」

 

「もちろん! それじゃあ、一緒に決めポーズしよう!」

 

「決めポーズ?」

 

 女性が私の右腕を持ち上げる。

 

「こうして、杖を持つつもりで腕を伸ばして!」

 

「はい」

 

「反対の手は胸元!」

 

「こうですか?」

 

「それから笑顔!」

 

「笑顔……」

 

 言われたとおりの形を取る。一誠が顔を背け、肩を震わせていた。

 

「何を笑っているのですか?」

 

「いや、似合ってるぞ」

 

「では、なぜ顔を逸らすのです?」

 

「真面目にやってるのが面白くて……」

 

「真面目にやらなければ失礼でしょう」

 

「そのとおり!」

 

 女性が私の隣で同じポーズを取る。

 

「魔法少女レヴィアたんと、未来の勇者ミライちゃん!」

 

「私の名前を知っているのですか?」

 

「今、そっちの男の子が呼んでたよ!」

 

 女性が一誠を指さす。

 

「なるほど」

 

「納得するのかよ!」

 

 一誠が突っ込む。

 

 そのとき、人混みの外から大きな声が飛んできた。

 

「お前たち、いつまで集まっている!」

 

 匙さんだった。腕を振りながら、生徒たちを散らしていく。

 

「公開授業は終わった! 保護者の邪魔になるから、さっさと移動しろ!」

 

 名残惜しそうにしながらも、生徒たちは少しずつ離れていった。

 

 匙さんは女性の前へ立つ。

 

「セラフォルー様も、こんなところで何をしているんですか!」

 

「魔法少女活動だよ!」

 

「学校で撮影会を始めないでください!」

 

「みんな喜んでたよ?」

 

「喜ぶかどうかの問題じゃありません!」

 

「匙」

 

 さらに別の声が届いた。

 

 蒼那会長が、廊下の向こうから歩いてくる。魔法少女姿の女性は、蒼那会長を見るなり両腕を広げた。

 

「ソーナちゃーん!」

 

「お姉様。走らないでください」

 

 蒼那会長が一歩横へ移動する。抱きつこうとした女性は、そのまま匙さんへ衝突した。

 

「なぜ避けるの、ソーナちゃん!」

 

「人前だからです」

 

「人前じゃなかったらいいの?」

 

「そういう意味ではありません」

 

 お姉様、と蒼那会長は呼んだ。なら、この女性は彼女の姉らしい。

 

 一誠も同じことに気づいたようだった。

 

「会長の姉さん?」

 

「ええ」

 

 蒼那会長が眼鏡の位置を直す。

 

「こちらは私の姉、セラフォルー・レヴィアタンです」

 

「レヴィアタン……」

 

 どこかで聞いた名だった。一誠が目を見開く。

 

「レヴィアタンって、魔王の!?」

 

「はい」

 

 蒼那会長が静かに頷く。

 

「現四大魔王の一人です」

 

 私は、魔法少女姿の女性を見る。女性は胸を張り、杖を掲げた。

 

「魔王にして魔法少女! 魔法少女レヴィアたんだよ!」

 

「魔法少女なのに、魔王なのですか?」

 

「魔王だからこそ魔法少女なんだよ!」

 

「両立するのですね」

 

「ミライ、納得するところなのか?」

 

「本人がそう言っているのですから、両立しているのでしょう」

 

「お姉様の言葉をすべて真に受けないでください」

 

 蒼那会長が即座に否定した。

 

 セラフォルー様は、初対面とは思えない距離で私の肩へ腕を回した。

 

 近い。けれど、本人はまったく気にしていないようだった。

 

「ミライちゃんは分かってくれるね!」

 

「何をでしょうか?」

 

「魔法少女の素晴らしさ!」

 

「まだ詳しくは分かりません」

 

「なら、これから教えてあげる! まずは衣装からだね!」

 

「衣装も必要なのですか?」

 

「当然だよ!」

 

「お姉様」

 

 蒼那会長の声が低くなる。

 

「ミライさんを巻き込まないでください」

 

「どうして?」

 

「これ以上、騒ぎを大きくしないためです」

 

「騒ぎじゃないよ。勧誘だよ!」

 

「より悪いです」

 

 蒼那会長がセラフォルー様の腕を私の肩から外す。

 

「行きますよ、お姉様」

 

「まだミライちゃんと勇者魔法少女同盟について話してない!」

 

「そのような同盟は存在しません」

 

「今作ったの!」

 

「作らないでください」

 

 蒼那会長に連れられ、セラフォルー様は廊下の向こうへ進んでいく。途中で何度もこちらを振り返り、手を振っていた。

 

「またね、ミライちゃん! 今度は衣装も用意するから!」

 

「お気遣いなく!」

 

「断らないのかよ!」

 

「断りました」

 

「その言い方じゃ伝わらねえよ!」

 

     ◇

 

 騒ぎが収まるころには、校内にいた大人たちも少しずつ帰り始めていた。

 

 校門へ向かう道では、家族と一緒に歩く生徒たちが多かった。

 

 一誠たちも、家族で校門へ向かっていた。アーシアさんは一誠の両親に挟まれ、お母様が何かを話すたび、嬉しそうに頷いている。その少し後ろでは、一誠がお父様と話しながら歩いていた。

 

 私は少し離れた場所で立ち止まり、その姿を見送った。

 

 私を待っている家族はいない。

 

 けれど、帰る場所に何もないわけではなかった。

 

 時計店にはモモがいる。あの夜を境に、どこからともなくイマジンが一人、また一人と現れるようになった。以前は時計の音しか聞こえないこともあった店内に、今では毎日のように誰かの声が響いている。

 

 地下にはデンライナーもある。一番深刻だった中央機構は動くようになったものの、デンライナー全体が完全に直ったわけではない。調べれば、まだ不調を抱えている箇所はいくつも見つかる。

 

 帰れば、修理するものがある。それに、今日も誰かが何かしらの騒ぎを起こしている可能性が高い。

 

 私は校門を出て、時計店へ向かった。

 

 店の近くまで戻ると、扉を開ける前から中の声が聞こえてきた。

 

「だから、それは俺のプリンだって言ってんだろうが!」

 

 モモの怒鳴り声。それに重なる、別のイマジンの笑い声。

 

 直後、店の中で何かが倒れた。

 

「……今日も騒がしいですね」

 

 私は扉へ手をかけた。

 

 少なくとも、帰った先で一人きりになるわけではなかった。

 

     ◇

 

 翌日の放課後、リアス先輩に呼ばれ、私たちは部室へ集まっていた。

 

 紅茶も菓子も用意されていた。けれど、リアス先輩は席へ着こうとせず、机の前に立っている。

 

「全員、そろったわね」

 

 一誠が部室を見回す。

 

「話って何だ、部長?」

 

「昨夜、お兄様から一つ提案を受けたの」

 

「サーゼクス様から?」

 

「ええ」

 

 リアス先輩は一度、朱乃さんと祐斗を見た。二人は何も言わない。けれど、これから話す内容をすでに知っているようだった。

 

「お兄様から、会談を前に、あの子にも外へ出る機会を与えてみてはどうかと言われたの」

 

「あの子?」

 

 アーシアさんが首を傾げる。

 

「誰かいるのですか?」

 

「ええ。あなたたちにはまだ紹介していないけれど、私の眷属よ」

 

「眷属?」

 

 一誠が部室の中を見渡す。

 

「でも、俺たちが知らない眷属なんて……」

 

「いるわ」

 

 リアス先輩が遮る。

 

「なぜ、その人は部室に来ないのですか?」

 

 私が尋ねると、リアス先輩は少しだけ目を伏せた。

 

「来ないのではないの。来られないのよ」

 

「来られない?」

 

「その子は、強力な神器を持っているわ」

 

 神器。

 

 その言葉に、一誠が表情を変える。

 

「けれど、自分の力を制御できないの。本人の意思とは関係なく発動することもあるわ」

 

「だから、部室へ来ることができないのですか?」

 

「ええ」

 

 リアス先輩は短く答えた。

 

「以前、その力が暴走し、大きな問題になりかけたの。それ以来、本人と周囲の安全のため、お兄様の命令で学園の一室に封印されているわ」

 

「封印……」

 

 アーシアさんが心配そうな顔をする。

 

「その方は、ずっとお一人なのですか?」

 

「私たちが会いに行くことはできるわ。必要なものも届けている。でも、本人が外へ出ることをひどく怖がっているの」

 

「外が怖いのですか?」

 

「人と会うことも、自分の力を使うこともね」

 

 力を制御できない。そのために外へ出られず、封印されている。

 

 その言葉だけが、胸の奥へ残った。

 

 自分では止められない力。

 

 自分にも、周囲にも何が起きるか分からない力。

 

「明日の放課後」

 

 リアス先輩が私たちを見渡す。

 

「皆にも、その子と会ってもらうつもりよ」

 

「どんな奴なんだ?」

 

 一誠が尋ねる。

 

 リアス先輩はすぐには答えなかった。少し迷ったあと、静かに口を開く。

 

「その子は、私のもう一人の――僧侶よ」

 

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