アザゼルの言葉が、会議室に落ちた。
「もう面倒くせえ話はいい。とっとと和平を結んじまおうぜ」
あまりにもあっさりした言い方だった。けれど、それまで交わされていた話を考えれば、その一言が軽いものではないことくらい、私にも分かる。
「今の三すくみの関係は、この世界の害になるだけだ。異論はねえだろ」
アザゼルが椅子の背にもたれながら言う。向かい側で、ミカエルが静かに頷いた。
「ええ。戦争の大本であった神と四大魔王は、すでにこの世界にはいません。それでも私たちが争い続ける理由は、もうないでしょう」
ミカエルの言葉を受けて、アザゼルが続けた。
「それに、俺たちだけで世界が回ってるわけじゃねえ。他にも神話体系はいくらでもある。こっちが潰し合って弱りきれば、そこにつけ込む連中が出てきてもおかしくねえ」
「今のところ、そのような動きを見せている勢力はありませんが、均衡を崩す理由を自分たちから作る必要もないでしょう」
「まあ、他所には他所で変なのもいるけどな」
アザゼルが肩をすくめる。
「どこぞの死の神なんざ、銀行強盗してるって話だ」
「……銀行強盗?」
ミカエルが少しだけ首を傾げた。
「神様にも色々いるってことだ」
「で、だ」
アザゼルが今度は別の方向へ顔を向けた。
「俺たち三勢力の外にいながら、それでも世界を動かしかねない奴が二人いる。赤龍帝、白龍皇。お前らの考えも聞いときたい」
「俺は強い奴と戦えればいいさ」
ヴァーリの答えは早かった。
「戦争しなくたって強い奴はごまんといるさ」
「なら問題ない」
アザゼルもそれ以上は追及せず、今度は一誠を見る。
「じゃあ赤龍帝。お前はどうだ?」
「ええっ!? いきなりそんな小難しいこと振られても……」
一誠が明らかに困った顔をした。世界の三大勢力が和平を結ぶべきか。確かに、普通の高校生にいきなり聞くような内容ではない。
するとアザゼルが、何かを思いついたように口の端を上げた。
「仕方ねえな。恐ろしいほど噛み砕いて説明してやる」
「嫌な予感しかしないんですけど」
「兵藤一誠」
「はい」
「俺らが戦争してたら、リアス・グレモリーは抱けないぞ」
「は?」
会議室が静まった。リアス先輩の表情まで固まっている。けれどアザゼルは止まらなかった。
「だが和平を結べば、そのあと大事になるのは種の繁栄と存続だ。毎日リアス・グレモリーと子作りに励めるかもしれん」
「あ、アザゼル!」
リアス先輩の声が飛ぶ。
「和平なら毎日子作り。戦争なら子作り無し。どうだ、分かりやすいだろ?」
「和平でお願いします!」
速かった。今までの会談で一番早い返事だった気がする。
「平和が一番です!」
「一誠!」
リアス先輩の顔が一気に赤くなる。その横で、セラフォルーが楽しそうに肩を揺らしていた。
そして――。
「……ふふっ」
小さな笑い声が聞こえた。見ると、ミカエルが口元へ手を添えていた。ほんの少し眉尻を下げた、困ったような笑顔。
「……失礼しました。ですがアザゼル、その説明は少々どうかと思います」
「一発で理解しただろ?」
「理解はしたようですが……」
そう言いながら、まだ少しだけ笑っている。
まただった。神社で会ったときにも感じた違和感が、もう一度胸の中で引っかかる。姿だけではない。今の笑い方まで、私の記憶にある聖園ミカによく似ていた。
「まあ、今のはともかく」
一誠が咳払いして、表情を改めた。
「俺の力は、リアス様と仲間たちのためにしか使いません。これは絶対です」
今度の言葉には迷いがなかった。アザゼルも笑わず、短く頷く。
ミカエルも同じように頷いたあと、その視線を私へ向けた。
「では、天童ミライさん」
「はい」
「先日お願いしたことについて、お話しいただけますか?」
来た。神社で言われてから、ずっと考えていた。どう説明すればいいのか。どこまでなら、自分でも分かっていると言えるのか。
結局、答えは一つしかなかった。分かっていることは話す。分からないことは、分からないと言う。
「分かりました」
一度息を整える。
「私が持っている力の一つには、《オーマジオウ》という名前があります」
誰も口を挟まなかった。
「最低最悪の魔王――そう呼ばれる存在の力です」
空気が変わったのが分かった。特に悪魔側にとって、《魔王》という言葉には私が思っている以上の重さがあるのだろう。
「ただし、私はオーマジオウ本人ではありません。なぜその力を私が持っているのかも、分かっていません」
「力の内容は?」
アザゼルが尋ねる。
「時間に関わる力。そして、《仮面ライダー》と呼ばれる者たちの力や、その歴史に繋がる力です」
祐斗の方を見る。
「コカビエルとの戦いで祐斗に渡したものも、その一つです」
「……あの時計か」
「はい。ライドウォッチと呼ばれるものです」
祐斗が静かに頷いた。
「私自身、すべてを理解しているわけではありません。ただ、ライドウォッチを通じて、別の仮面ライダーの力を扱えることがあります」
「なるほどな……」
アザゼルが興味深そうに目を細めた。
「もう一つあります」
「まだあんのか?」
「あります」
むしろこちらの方が、説明に困る。
「《名もなき神々の王女》そう呼ばれる力です」
少しだけ間を置く。
「私の記憶にある別の世界で、世界を滅ぼすために作られた最終兵器です。こちらも、魔王と評されたことがあります」
「おい」
アザゼルが額へ手を当てた。
「お前、魔王って呼ばれるもんを二つも抱えてんのかよ」
「私も、肩書きだけ聞けばそう思います」
「いや、肩書きだけじゃなく十分物騒だからな?」
否定はできなかった。
「私が使っている物質生成も、その力の一部だと思っています」
右手を軽く持ち上げる。
「頭の中で形や構造を組み上げたものを、実際の物質として作り出すことができます。ただ、何でも自由に出せるというほど単純ではありません」
「コカビエルとの戦いで使っていた武器もか?」
「はい」
アザゼルの視線には、さっきよりも強い興味が浮かんでいた。一方、一誠たちは笑っていない。以前、説明すると約束したときより、ずっと具体的な言葉になった。最低最悪の魔王。世界を滅ぼす最終兵器。改めて口にすると、自分でも物騒な話だと思う。
「どうして二つの力が私にあるのかは、今も分かりません」
そこだけは、何度考えても変わらない。
「ですが――どう使うかは、私が決めます」
言い切った。サーゼクスが静かに頷く。
「力の由来と、その力を持つ者の意思は別だ」
「ええ」
ミカエルも続いた。
「どのような力を持っているかではなく、その力を何のために使うか。それが大切なのだと思います」
「……ありがとうございます」
これで、約束した説明は終わった。まだ聞かれれば答えるつもりだった。それより私には、聞きたいことがある。目の前にいるミカエル。どうしてあなたは――。
「赤龍帝殿」
私が口を開くより先に、ミカエルが一誠へ顔を向けた。
「私にお話があると言っていましたね」
「あ……覚えていてくれたんですか」
「もちろんです」
一誠の顔から、さっきまでの軽さが消えた。
「アーシアを、どうして追放したんですか」
隣に座っていたアーシアさんが、わずかに身体を強張らせた。
「あれほど神を信じていたアーシアを、なぜ追放したんですか」
ミカエルは、すぐには答えなかった。アーシアさんを見る。その表情が、少しだけ沈んだ。悲しそうだった。でも、ただ申し訳なく思っているだけには見えない。まるで、自分の選択で誰かを傷つけたことを、以前から知っているような。
「神が消滅したあとも、神が作られたシステムだけは残りました」
静かに、ミカエルが話し始める。
「加護、慈悲、奇跡。それらを司る力と言い換えてもよいでしょう」
神はもういない。だから今は、ミカエルを中心とする天使たちが、そのシステムを辛うじて動かしている。
「信者の信仰は、私たち天界に住む者にとっても重要なものです。信仰が大きく揺らげば、システムそのものの維持へ影響が出る可能性がありました」
「アーシアが……悪魔や堕天使も回復できるからですか」
「……はい」
その返事は、少し重かった。
「アーシア・アルジェント。あなたの力は、悪魔や堕天使であっても癒すことができる。それ自体は、とても優しい力です」
アーシアさんが目を上げる。
「ですが当時の私たちは、それが信仰へ与える影響を無視することができませんでした」
「では」
ゼノヴィアが口を開いた。
「予期せず神の不在を知った者も、排除する必要があったのですね」
「……はい」
また、少し間があった。
「そのため、あなたも、アーシア・アルジェントも、異端とするしかありませんでした」
そしてミカエルは頭を下げた。
「必要であったという事情と、あなた方を傷つけたという事実は別です」
「申し訳ありません」
「ミカエル様……」
イリナが呆然としていた。それからゼノヴィアを見る。
「じゃあ……ゼノヴィアは、裏切ったんじゃなかったの?」
「そういうことになるな」
ゼノヴィアは少し考えてから、ミカエルへ向き直った。
「どうか頭をお上げください、ミカエル様。長年教会に育てられた身です。多少の後悔はありましたが……今は悪魔としてのこの生活に満足しております」
それからアーシアさんも、小さく微笑んだ。
「私も今、幸せだと感じております」
一誠を見る。リアス先輩を見る。そして、私たちを見る。
「大切な人が、たくさんできました」
ミカエルが目を見開いた。ほんの少しだけ。そして、ずっと張っていたものがほどけたように、その顔が緩んだ。
「……よかった」
小さな声だった。天界の代表として発した言葉ではない。誰かに聞かせようとしたわけでもない。ただ、胸の内から零れたような一言。
すぐにミカエルはいつもの穏やかな表情へ戻った。
「……あなた方の寛大な御心に、感謝します」
けれど、私の耳には最初の一言の方が強く残った。
――まただ。取り繕っていないときの方が、聖園ミカに似ている。
「そういや」
アザゼルがアーシアさんへ目を向けた。
「俺んとこの部下が、そこの嬢ちゃんを騙して殺したらしいな」
一誠が椅子を鳴らした。
「他人事みたいに言うな!」
声が響く。
「あんたに憧れてた堕天使の女が、あんたのためにアーシアを殺したんだよ!」
アザゼルから、軽い雰囲気が消えた。視線だけで空気が重くなる。
「部下の暴走は、俺の責任でもある」
低い声だった。
「だから俺は、俺にしかできないことでお前らを満足させてやるよ」
次の瞬間。世界から、音が消えた。
「――っ」
振り向く。アーシアさんが止まっている。朱乃先輩も。ソーナ先輩も椿先輩も、呼吸まで止まったように動かない。
「これは……!」
一誠は動いていた。ヴァーリも。祐斗、ゼノヴィア、イリナも動けている。リアス先輩も状況を見回していた。そして三勢力の首脳たちやアザゼル、グレイフィアも、何事もなかったかのように動いている。
どうやら、力の差が大きすぎる相手には通じないらしい。止める力そのものを押し返しているように見えた。
私も動けている。でも今は、それを考えている場合ではなかった。
――ドンッ!
校舎の外から、大きな爆発音。
「外!」
窓へ駆け寄る。校庭に、見覚えのない魔法陣がいくつも浮かび上がっていた。そこから次々と人影が現れる。
魔術師。一人や二人ではない。数えることすら馬鹿らしいほどの数だった。
「……やられたな」
アザゼルが舌打ちする。
「この止まり方、あのハーフヴァンパイアの小僧だろ」
「ギャスパー……!」
リアス先輩の顔色が変わる。
「自分の意思でやってるとは思えねえ。無理やり禁手状態にでも引き上げられてる可能性が高い」
つまり、ギャスパーが敵に何かをされている。しかも旧校舎の部室には、小猫も残っている。
「外の警護は?」
サーゼクスが問う。グレイフィアが何かを確認し、すぐに答えた。
「反応がありません。強制転移によって、結界外へ飛ばされた可能性があります」
「こっちから転移は?」
「封じられています。ただし、敵側からこの結界内部へ繋いだゲートが存在しています」
「ずいぶん準備がいいじゃねえか」
アザゼルが吐き捨てた。
「部室には、私の未使用の《戦車》の駒があるわ」
リアス先輩が言った。
「キャスリングを使えば、旧校舎へ直接行ける」
「リアス」
サーゼクスが妹を見る。
「僕の魔力を加えれば、もう一人連れていけるはずだ」
「なら俺が行きます!」
一誠だった。迷いはない。
「一誠」
「ギャスパーは俺の後輩です。小猫ちゃんだって向こうにいる。俺も行きます」
リアス先輩が頷いた。
「分かったわ」
「ちょっと待て」
アザゼルが懐から二つの腕輪を取り出し、一誠へ投げた。
「持ってけ。禁手へ入る補助になる」
「これを?」
「説明は後だ。今は時間がねえ」
一誠が二つの腕輪を握る。
「一誠」
「ん?」
私は呼び止めた。
「ギャスパーさんに、一つだけ伝えてください」
「何だ?」
「――お守りを思い出して、と」
一誠の目が少しだけ見開かれた。意味は伝わったらしい。
「……分かった」
強く頷く。
「絶対伝える」
「お願いします」
サーゼクスの魔力がリアス先輩を包む。次の瞬間、リアス先輩と一誠の姿が消えた。私は、それを追わなかった。任せたのだから。
「俺も外へ出る」
ヴァーリが翼を広げる。
「ちょうど退屈していたところだ」
「好きに暴れすぎんなよ」
「善処する」
ヴァーリも窓から飛び出していった。
その直後だった。会議室の中央に、新しい魔法陣が浮かび上がる。
「――!」
強烈な魔力。現れた女性が、挨拶もなく手を振った。魔力の塊がこちらへ飛ぶ。アザゼルが前へ出た。黒い光がぶつかり、爆発する。
「随分派手な挨拶じゃねえか」
「堕天使の総督に褒めていただけるなんて光栄ですわ」
女性が笑う。
「カテレア・レヴィアタン……」
セラフォルーの声が低くなった。いつもの魔法少女とは違う。魔王としての声だった。
「神も、かつての魔王もいない」
カテレアが両手を広げる。
「ならば今こそ、この世界そのものを変革するべきでしょう。それを和平などと……ずいぶん腑抜けたものです」
その視線がセラフォルーへ向く。
「それに――レヴィアタンの名を、あなたのような者が名乗っていることも気に入りませんわ」
セラフォルーの表情から、いつもの笑みが消えた。
「……そう」
短い返事だった。カテレアの魔力が一気に膨れ上がる。アザゼルが一歩前へ出た。
「こいつは俺がやる」
同時に、校庭側から再び爆発が響いた。魔術師たちが校舎へ近づいている。サーゼクスとミカエルが同時に手を上げる。巨大な防護結界が会議室を包み、動けないアーシアさんたちもその内側へ守られた。
「グレイフィア、ゲートの解析を」
「承知しました」
祐斗が剣を構えた。
「こちらへ来る敵は僕たちで抑えます」
「私も行こう」
「当然です」
ゼノヴィアとイリナも続く。三人が校庭側へ向かう。けれど、敵の数は多い。
ミカエルが窓の外を見る。
「サーゼクス」
「なんだい?」
「こちらの防護結界、一人で維持できますか?」
「ああ。問題ないよ」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる。ここまでは、さっきまでと同じだった。
ミカエルが結界の外へ出る。右手を伸ばす。光が集まり、その中から一挺の銃が形を取った。古い短機関銃を思わせる独特の形。見間違えるはずがない。
《Quis_ut_Deus》
聖園ミカの固有武器。
どうして、それまであるのですか。
「よーし!」
ミカエルが短機関銃を片手で持ち上げた。さっきまでの丁寧な口調が、どこかへ消えた。
「私も行こっか!」
「ミ、ミカエル様!?」
イリナが振り返る。
「祐斗君! ゼノヴィアちゃん! イリナちゃん! 私も混ぜて!」
「……ミカエル様?」
ゼノヴィアまで困惑している。私は武器と、その話し方を見比べた。驚きはある。それでも、この姿の方が知らないものには思えなかった。むしろ――。
知っている。こっちの方を、私はよく知っている。
「私も行きます」
右手を前へ出す。それに呼応するように、頭上へ光が浮かんだ。コカビエルとの戦いで初めて現れた、私のヘイロー。
淡い光を頭上に残したまま、頭の中で新しい武器の形を組み上げていく。輪郭を定める。骨格を通し、砲身を形作る。内部に機構を組み込み、その中心へ一つの時計を据える。指先から広がった光が、少しずつ形を持ち始めた。
――コカビエルとの戦いが終わってから、ずっと考えていた。あのとき作った武器。《光の剣:スーパーノヴァ》。アリスが使っていたものを思い浮かべ、その形を現実へ作り出した。
けれど、もっと工夫できると思った。いつまでもアリスの武器をそのまま真似する必要はない。私が使うのだから、私が使いやすいように作ればいい。
考えて、組み直して。それでも、ただ強くするだけにはしたくなかった。
学校へ通うようになった。部活へ顔を出すようになった。一誠たちと騒いで、遊んで、一緒に戦った。気づけば、そういう毎日を大切に思うようになっていた。
私は、自分が何者なのか分からない。最低最悪の魔王。世界を滅ぼす王女。そんな名前ばかりが、自分より先に存在している。
でも。もし、本当に私が王になるのだとしても。独りで玉座に座るような王には、なりたくなかった。
そのときだった。何もなかったはずの右手に、不意に重みが生まれた。
「……え?」
手の中にあったのは、ライドウォッチだった。白とオレンジを基調とした意匠。文字盤には、見覚えのある名前が刻まれている。
《FOURZE》
「……フォーゼ」
学校。部活。友達。誰かと繋がり、その繋がりを力に変えて戦った仮面ライダー。どうしてこの瞬間に現れたのか、その理由を説明することはできなかった。それでも、偶然だとは思えなかった。
だから私は、そのライドウォッチを新しい武器の中へ組み込んだ。すると、予想していなかった機能まで現れた。
アストロスイッチ。一番から三十九番まで。それぞれの力を、この武器から扱えるようになった。
ただし、一つだけ。左側面に並んだパネルの中央近くに、他とは明らかに異なる大型のスイッチがある。
《COSMIC》
二段階式になっているはずのそれは、第一段階すら開かなかった。指を掛けても動かない。力を加えても、何度試しても変わらない。押せないのではない。押すための機構そのものが、固く閉ざされていた。
理由には、なんとなく心当たりがある。だから無理に開こうとはしなかった。
――今は、まだ。
光が弾けた。手の中へ、確かな重量が落ちてくる。長大な砲身。内部に組み込んだ機構。以前の武器を基礎にしながらも、もう同じものではない。私はそれを身体の右側へ構えた。左側面にはアストロスイッチのパネルが並び、その中央寄りにある《COSMIC》だけが閉ざされたまま残っている。
レグルス:アストラ・ノヴァ
私が考え、私のために作った武器。
「わっ!」
声に顔を上げる。ミカエルがこちらを見ていた。正確には、私の頭上と手元を交互に見ている。
「ミライちゃんもヘイローあるんだ!」
嬉しそうに言って、自分の頭上を指さす。それから片手に持った短機関銃を軽く掲げ、今度はアストラ・ノヴァを見る。
「しかも銃まで! お揃いだね!」
「……そうですね」
「その銃もイカしてる!」
「ありがとうございます」
ミカエルは満足そうに笑うと、短機関銃を握り直した。
「じゃ、一緒に行こっか!」
「はい!」
ミカが走り出す。私もその横へ並んだ。
校庭へ飛び出した瞬間、いくつもの魔術がこちらへ向けられた。
「来ます!」
アストラ・ノヴァの左側面へ指を伸ばす。
《RADAR》
スイッチを押した。
『レーダー、オン』
機械音声とともにパネルの一部が点灯する。視界へ敵の位置が重なった。
「祐斗、右から三人!」
「了解!」
祐斗が地面を蹴る。正面から来ていた敵を避け、一瞬で右側へ回り込む。振り抜かれた剣が、魔術師の防御を切り裂いた。
「ゼノヴィアさん、前です!」
「任せろ!」
ゼノヴィアが真正面から突っ込んでいく。その横から魔術が迫った。
左側面へ指を滑らせる。
《SHIELD》。
押す。
『シールド、オン』
アストラ・ノヴァの前方へ光が走り、半透明の防壁が展開された。飛来した魔術が正面からぶつかる。
「助かった!」
「そのままお願いします!」
防壁の横を抜け、ゼノヴィアがさらに前へ出る。振り下ろされた大剣が、魔術師の障壁を叩き割った。
「わあ、いいねいいね!」
ミカが楽しそうに笑った。片手の短機関銃が火を噴く。連続する銃声とともに、弾丸が敵の障壁へ撃ち込まれていった。
「堅いなぁ」
銃撃だけでは破れないと分かっても、ミカは止まらない。
「ミカエル様!?」
イリナの声が上がる。ミカはそのまま敵の障壁へ踏み込んだ。
「えいっ!」
拳を叩き込む。光の障壁が砕け散り、その向こうにいた魔術師が大きく体勢を崩した。その戦い方にも、私は見覚えがあった。
「ミライちゃん、右!」
「見えています!」
今度は《ROCKET》。
スイッチを押す。
『ロケット、オン』
推進力が一気に身体を押した。アストラ・ノヴァを身体の右側へ抱えたまま、迫っていた魔術の射線から横へ抜ける。地面を滑るように移動し、そのまま着地した。
「祐斗君、ナイス!」
「ありがとうございます!」
「ゼノヴィアちゃん、そのまま行っちゃえー!」
「ちゃん……? まあいい!」
「イリナちゃん、上から来てるよ!」
「は、はいっ!」
イリナが翼を広げ、上空から迫った魔術師を迎え撃つ。その中央を、ミカが迷いなく進んでいた。
「あははっ! いっぱい来たね!」
サブマシンガンを撃ちながら、誰より前へ出ていく。
顔だけではない。ヘイローも。武器も。笑い方も、話し方も、戦い方も。どれも、私の記憶にある聖園ミカと重なっていた。さっきまでの丁寧な話し方が偽物だったわけではないのだと思う。天界を率いる者として身につけた振る舞い。そして今、戦いの中で見えているこちらが、おそらく彼女の素なのだ。
どうしてそうなっているのか。聞きたいことは、さらに増えていた。
「ミライちゃん!」
「はい!」
前方で魔術師たちが固まり始めている。左側面のパネルへ手を走らせた。
《LAUNCHER》。
押す。
『ランチャー、オン』
アストラ・ノヴァの砲身の一部が展開する。狙うのは、魔術師そのものではない。集団の中央。引き金を引く。砲撃が地面へ突き刺さり、爆発した。衝撃に押され、密集していた魔術師たちが左右へ散る。
「今です!」
「行く!」
祐斗が飛び込む。ゼノヴィアも続く。その頭上をイリナが抜け、三方向から崩れた敵陣へ攻撃を仕掛けた。
私は砲身を次の敵へ向ける。ミカがいる。祐斗がいる。ゼノヴィアも、イリナもいる。あちらにはアザゼルがいる。旧校舎には、リアス先輩と一誠が向かった。それぞれが、それぞれの場所で戦っている。
そのとき、視界の端で巨大な魔力がぶつかった。アザゼルとカテレア。カテレアの身体から溢れている力は、離れていても分かるほど大きかった。
「……おかしいな」
アザゼルの声が聞こえる。
「そのオーラ、たかが魔王の末裔って量じゃねえぞ」
カテレアが笑った。
「さて、どうでしょうね」
「後ろに誰がいやがる」
あちらにはアザゼルがいる。私は前へ視線を戻した。
魔術師が杖を向ける。アストラ・ノヴァを構え直す。
――その瞬間。
止まった。
「……?」
敵の腕が。杖の先で膨らんでいた魔力が。こちらへ飛んできていた魔術そのものまで。空中で、ぴたりと。
さっきとは違う。私たちまで巻き込んだ、無差別な停止ではない。祐斗も動いている。ゼノヴィアも。イリナも。ミカも。止まっているのは――敵だけ。
私は息を呑んだ。
「……ギャスパーさん」
何が旧校舎であったのかは分からない。一誠が何を言ったのかも。リアス先輩が何をしたのかも。私の伝言が届いたのかも。何も見ていない。
それでも、さっきとは明らかに違う。誰かに無理やり使わされているだけの力には見えなかった。ギャスパーさん自身が、自分の意思で使っている。そうとしか思えなかった。
「おっ!」
隣でミカが短機関銃を持ち直した。
「チャンスだね!」
「はい」
私もアストラ・ノヴァを構える。右にはミカ。前には祐斗たち。離れた場所でも、それぞれが自分にできることをして戦っている。
「……よかった」
気づけば、小さく声が漏れていた。さっき聞いた言葉と、同じだった。
「行きましょう!」
「うん!」
止まった魔術の間を縫って、私たちはもう一度前へ踏み込んだ。
今後の更新について、最も近い希望を教えてください
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このまま続けてほしい
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短く休んでから再開してほしい
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不定期でも続けてほしい
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今回で一区切りでもよい
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作者の判断に任せたい