止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第4刻 聖女の微笑み

 あの朝、道に迷っていた金髪のシスターともう一度顔を合わせたのは、それから数日後の放課後だった。

 

 その日、私は店を開けるまで少し時間があったため、駅前のゲームセンターへ立ち寄っていた。仕入れは済んでおり、急ぎの修理も入っていない。こういう日は、たまにここで時間を潰すことがある。

 別に遊んでいないと言うつもりはない。実際に遊んでいるのだから、そこを否定すると余計に話がややこしくなる。

 

 目の前の画面では、小さな自機が大量の弾幕の隙間を縫うように飛んでいた。敵弾の軌道を見ながら位置を調整し、通り過ぎた瞬間にアイテムを回収する。三面中盤まではノーミスで進めたので、あとは残機とスコアを見ながら攻め方を変えればいい。

 普段いる時計店とは正反対と言っていいほど、ゲームセンターの中は騒がしい。人の話し声や電子音、筐体から流れる音楽が狭い空間で混ざり合い、色とりどりの光が絶えず瞬いている。

 

 それでも、私はこういう場所が嫌いではなかった。

 ゲームには規則があり、失敗にも成功にも理由がある。一見すると無秩序に見える弾の列にも一定の法則があり、それを理解できれば次へ進める。

 分からないものを理解し、その結果として先へ進めるものは、私にとって扱いやすい。

 最後の弾幕を抜けるとボスが爆発し、リザルト画面へ切り替わった。ハイスコアは更新したものの、一位には二千七百点届いていない。

 

「……惜しいですね」

 

 三面の回収方法を少し変えれば届くだろう。

 もう一度試そうと硬貨を取り出したところで、背後から聞き慣れた声がした。

 

「……ミライ?」

 

 振り返ると、少し驚いた顔をした一誠が立っており、その隣には数日前の朝に彼とぶつかっていた金髪のシスターも一緒にいた。

 

「兵藤一誠」

 

「いや、そのフルネームで呼ぶの何なんだよ。っていうか、おまえ何してんの?」

 

「見て分かりませんか。ゲームをしています」

 

「それは分かるけどさ。おまえがゲーセン来るタイプだと思ってなかったんだよ」

 

「失礼ですね。私にも趣味くらいありますし、ゲームは好きですよ」

 

「時計以外に?」

 

「なぜそこで確認するんですか」

 

 一誠は珍しいものでも見つけたように、私と筐体を交互に眺めた。

 

「だって普段のおまえ、家でも時計いじって本読んでるイメージしかねえもん」

 

「ずいぶん勝手な生活像ですね。私だって娯楽くらい理解しています」

 

「その言い方がもう遊び慣れてなさそうなんだよなぁ」

 

「では、『ゲーム超楽しい』とでも言えば満足ですか」

 

「それはそれで怖い」

 

「注文の多い人ですね」

 

 一誠へ言い返している途中で、その隣にいた少女と目が合った。

 淡い緑色の瞳が一度大きくなり、すぐに何かを思い出したように表情が明るくなる。

 

「あの……先日の朝、一誠さんの近くにいらっしゃった方でしょうか?」

 

「はい。直接お話しするのは初めてですね」

 

「やっぱりそうだったんですね」

 

 少女は安心したように微笑むと、丁寧に頭を下げた。

 

「アーシア・アルジェントと申します。今はこの町の教会でお世話になっています」

 

「天童ミライです。駒王学園の二年生で、近くの時計店で働いています」

 

「ミライさん、ですね。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 彼女は私の名前を覚えるように、もう一度口にした。

 数分話しただけで人柄までは分からない。それでも、一誠から天野夕麻という少女の話を聞いた時に感じたような、不自然なほど整った印象は今のところなかった。

 アーシアさんは、私の後ろにある筐体へ興味深そうに視線を向けた。

 

「先ほどから見ていたのですが、ミライさんはこのゲームがお得意なのですか?」

 

「得意と言えるほどではありません。まだ一位を取れていませんから」

 

「でも、たくさんの光を全部避けていて、まるで踊っているみたいでした」

 

「敵の弾には規則性があります。全部を見る必要はありませんし、自分の周りにあるものだけ見ていれば、思っているより避けられます」

 

「怖くても、ちゃんと見るんですね」

 

「はい。見ないまま想像している方が、実際より怖くなることもありますから」

 

「……なんだか、ゲーム以外にも使えそうな言葉ですね」

 

「私はゲームの話をしていただけですが」

 

 アーシアさんは、それでも嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔を見た瞬間、「聖母の微笑」という表現が妙に似合うように思えた。誰かを動かすためでも、相手に許してもらうためでもなく、ただ嬉しいから笑っているのだと分かる顔だった。

 

「……ミライさん?」

 

「何でしょう」

 

「いえ、じっと見られていたので」

 

「すみません。少し考え事をしていました」

 

 アーシアさんはそれだけで納得したらしく、また筐体へ視線を戻した。

 そこへ一誠が割り込んでくる。

 

「なあミライ。これ、アーシアでもできるか?」

 

「できますが、初心者にはおすすめしません。最初ならレースゲームか、簡単なリズムゲームの方がいいでしょう」

 

「車を運転するゲームもあるんですか?」

 

「あります。実際の車ほど難しくありませんから、一誠でもできますよ」

 

「なんで俺が難易度の基準なんだよ!」

 

 結局、アーシアさんが選んだのはレースゲームだった。

 一誠の説明を聞きながら恐る恐るハンドルを握ったものの、ゲームが始まるとすぐに車はコース脇へ突っ込んだ。

 

「わっ、速いです!」

 

「アーシア、右! 右だって!」

 

「右ですね!」

 

「切りすぎ! 戻して!」

 

「あっ……!」

 

 車が壁へ激突する。

 

「大丈夫です。まだ走っています!」

 

「ゲームだからな! 現実ならたぶん大丈夫じゃねえから!」

 

「一誠さん、また曲がり角です!」

 

「今度はブレーキ使ってくれ!」

 

「こちらが止まる方でした!」

 

「今思い出したのかよ!」

 

 順位は下位のままで、コースアウトも何度もしていたが、アーシアさんは失敗するたび楽しそうに笑っていた。

 隣の一誠も順位などほとんど気にしていない。

 記録を伸ばすだけがゲームの楽しみ方ではないことくらい分かっている。それでも、二人を見ていると、自分とはずいぶん違う遊び方だと思った。

 レースゲームを終えると、今度はクレーンゲームへ向かった。

 

「アーシア、欲しいのあるか?」

 

「えっと……あの子が可愛いです」

 

「よし、任せろ!」

 

「待ってください」

 

 一誠が硬貨を入れる前に止める。

 

「なんだよ」

 

「この台はアームが弱いので、正面から持ち上げても落ちます。少しずつ出口へ寄せた方がいいでしょう」

 

「まだ何もしてねえのに分かるのか?」

 

「先ほど他の人が動かしているのを見ました」

 

「おまえ、ゲーセンでも時計直してる時みたいだな……」

 

「機械を見る時に顔を使い分けた覚えはありません」

 

「そういう意味じゃねえよ」

 

 アーシアさんが不安そうに景品を見る。

 

「では、取るのは難しいのでしょうか?」

 

「取れます。一度だけやってみます」

 

「いいのですか?」

 

「一誠が何度も失敗するより安く済みます」

 

「俺が失敗する前提じゃねえか!」

 

 硬貨を入れ、景品の重心と爪の位置を確認する。中央を持ち上げるのではなく、奥側を押して身体を回転させれば出口へ寄せられる。

 狙った位置へアームを下ろすと、ぬいぐるみは横へ転がり、そのまま取り出し口へ落ちた。

 

「わあ……すごいです、ミライさん!」

 

「位置取りの問題です」

 

「いや、今の絶対それだけじゃねえだろ」

 

「観察しただけですよ」

 

 景品を取り出し、アーシアさんへ差し出す。

 

「どうぞ」

 

「私にくださるのですか?」

 

「アーシアさんが欲しいと言ったものですから」

 

「ありがとうございます。大切にします。宝物にしますね」

 

「……そこまで大げさなものではありませんよ」

 

「でも、ミライさんが取ってくださったものですから。私には特別です」

 

 そう言って大切そうにぬいぐるみを抱く姿を見ていると、どう返せばいいのか少し困った。

 こういう、まっすぐな感謝を受け取るのはあまり得意ではない。機械なら壊れた場所を探せるが、人の気持ちには正しい返し方を示す説明書もない。

 

「……落とさないようにしてください」

 

「はい。絶対に落としません」

 

「そこまで強く抱える必要はありませんよ」

 

「あっ、壊れてしまいますか?」

 

「ぬいぐるみなので、そこまで簡単には壊れません」

 

「ミライ、おまえちょっと意地悪しただろ」

 

「していません」

 

 一誠の抗議を無視すると、アーシアさんが小さく笑った。

 

     ◇

 

 ゲームセンターを出る頃には、夕方の日差しも少し柔らかくなっていた。

 

「このあと、公園でも寄ってかねえ? 少し休んでから帰ろうぜ」

 

 一誠の提案に、アーシアさんはぬいぐるみから顔を上げた。

 

「はい。とても楽しかったのですが、少しだけ目が回っています」

 

「レースゲームで身体まで曲げてたからな」

 

「一誠さんも一緒に曲がっていましたよ?」

 

「俺はいいんだよ!」

 

「何がいいのか分かりませんね」

 

 一誠はこちらへ顔を向ける。

 

「ミライも来る?」

 

「私は店が……」

 

 腕時計を見ると、開店まではまだ少し余裕があった。

 

「ミライさんも、ご一緒できませんか? もう少しお話ししてみたいです」

 

「……少しだけなら」

 

「ありがとうございます!」

 

「なんで俺が誘った時は断ろうとしたんだよ」

 

「日頃の行いではないでしょうか」

 

「納得いかねえ!」

 

 三人で向かったのは、駅前から少し離れた公園だった。夕方になると人も減り、遊具の向こうにある噴水の水音がよく聞こえる。

 空いていたベンチへ座ると、一誠が自動販売機から三本の飲み物を買って戻ってきた。

 

「ほい、アーシア。ミライはお茶でいいよな」

 

「はい」

 

「ずいぶん迷いなく選びましたね」

 

「おまえ、炭酸あんまり飲まないだろ。甘いやつもたまにしか選ばないし」

 

「……よく覚えていますね」

 

「そりゃ覚えてるだろ。何年一緒にいると思ってんだよ」

 

 そのやり取りを見ていたアーシアさんが、楽しそうに笑った。

 

「一誠さんとミライさんは、本当に仲が良いのですね」

 

「まあ、昔からの友達だからな。店にもよく行ってるし」

 

「腐れ縁という方が近いと思います」

 

「素直に友達って言えよ!」

 

「友達であることは否定していません」

 

「そこまで言うなら最初からそう言ってくれ!」

 

 アーシアさんはしばらく笑っていたが、やがて膝の上のぬいぐるみへ視線を落とした。

 

「私は……そういうふうに話せる方が、今までいなかったので。少し羨ましいです」

 

 一誠の表情が変わった。

 

「友達、いなかったのか?」

 

「はい。教会にはたくさんの方がいましたけれど、同じ年頃の方と遊んだり、こうして何でもないことを話したりすることは、ほとんどありませんでした」

 

「……そうだったのか」

 

「すみません。せっかく楽しかったのに、暗い話をしてしまって」

 

「謝ることじゃねえよ。嫌じゃなかったら、もう少し聞かせてくれないか? 俺たちでよければ聞くから」

 

 少し迷った後、アーシアさんは小さく頷いた。

 

「私は、小さい頃に両親を亡くして、それから教会で育てていただきました。その頃から、人の傷を癒やすことができたんです」

 

「傷を癒やす?」

 

 思わず聞き返すと、アーシアさんは少し迷いながら説明を続けた。

 

「普通の治療とは少し違うものです。怪我をした方に触れると、傷を軽くすることができました。教会では大切な力だと言っていただいて、私はずっと傷ついた方を治していたんです」

 

「自分だけそんなことができると分かった時、怖くはなかったんですか?」

 

「最初は怖かったです。でも、治した方が笑ってくださると嬉しくて、『ありがとう』と言っていただけると、自分もここにいていいのだと思えました」

 

 アーシアさんは、抱えていたぬいぐるみの頭をそっと撫でた。

 

「だから、困っている方を助けることが自分の役目だと思っていました。けれど、ある日、教会の前で一人の男の方が倒れていたんです」

 

「怪我してたのか?」

 

「はい。とても苦しそうでした。私はその方が誰なのかも、助けてはいけない相手だということも知らなかったので、いつものように治療しました」

 

 そこで声が少し小さくなる。

 

「あとになって、その方を助けてはいけなかったのだと知らされました。私が治療したことそのものが間違いだと言われて、最後には教会から出ていくように言われたんです」

 

「そんな理由で?」

 

 一誠の声に怒りが混じった。

 

「でも、教会には教会の決まりがありますから……本当はいけないことだったのかもしれません」

 

「アーシアさんは、その人を助けたことを後悔していますか?」

 

 私が尋ねると、彼女は少し考えてから首を横へ振った。

 

「分かりません。追い出された時は悲しかったですし、怖かったです。でも、もしあの日に戻って、同じように目の前で苦しんでいたら、私はまた助けると思います」

 

 アーシアさんは自分の手を見つめながら続ける。

 

「苦しそうにしている人を見たら、放っておけません。自分に助けられるのなら助けたいと思ってしまうんです。それは……やっぱり、いけないことなのでしょうか」

 

 教会の事情を知らない私に、規則まで含めて何が正しかったのかを判断することはできない。それでも、目の前で苦しんでいた人を助けたことまで悪いとは思えなかった。

 答えようとしたところで、一誠が先に口を開いた。

 

「いけなくなんかねえよ」

 

 アーシアさんが顔を上げる。

 

「助けちゃいけない相手だったとか、教会にどんな決まりがあったとか、俺には分かんねえし、知ったふうなことも言えない。でも、おまえは目の前で苦しんでる奴を、自分に助けられるから助けたんだろ?」

 

「……はい」

 

「だったら、少なくとも俺は、それが悪いことだとは思わねえよ」

 

「一誠さん……」

 

 一誠は少し照れ臭そうに鼻の下を擦った。

 

「それに、友達がいなかったって話も、もう過去形でいいんじゃねえか?」

 

「え?」

 

「俺がいるだろ。今日一緒に遊んで、こうして話してんだから、もう友達でいいじゃん」

 

「……私が、一誠さんの友達でいいのですか?」

 

「なんで許可が必要なんだよ。俺がいいって言ってんだからいいんだよ。アーシアが嫌なら別だけど」

 

「嫌ではありません!」

 

 思ったより大きな声が出たことに、アーシアさん自身が驚いていた。

 一誠は一瞬目を丸くしてから笑う。

 

「じゃあ決まりな」

 

「……はい。一誠さんは、私の友達です」

 

 目に涙を浮かべながら、それでも本当に嬉しそうに笑っている。

 普段の一誠は騒がしく、欲望にも素直で、計画性があるとは言い難い。それでも誰かが本当に困っている時、この男は不思議なくらい迷わない。

 それは昔から変わらないところだった。

 

 アーシアさんの笑顔を見ていると、ゲームセンターで思い浮かべた「聖母の微笑」という表現がもう一度頭をよぎったが、今度は少し違って見えた。

 誰かを癒やす人の笑顔ではなく、初めて友達ができたことを喜んでいる、普通の少女の顔だった。

 やがてアーシアさんが私へ向き直る。

 

「あの、ミライさんも……よろしければ、私とお友達になっていただけませんか?」

 

 断られるかもしれないと不安そうにしている。

 

「……異議はありません」

 

「そこは普通に『友達になろう』って言ってやれよ!」

 

 一誠がすぐに口を挟んだ。

 

「意味は同じでしょう」

 

「全然違う!」

 

「では言い直します。アーシアさんがよければ、私も友達になりたいと思います」

 

「ミライさん……ありがとうございます。私、とても嬉しいです」

 

「……はい。私も嬉しいです」

 

「最初からそう言えばいいんだよ」

 

「一誠は少し黙っていてください」

 

「なんで俺だけ扱い違うんだよ!」

 

 アーシアさんは目元を拭いながら、楽しそうに笑った。

 

     ◇

 

 その後もしばらく、私たちはベンチに座ったまま他愛のない話を続けた。

 穏やかな空気が変わったのは、アーシアさんが何気なく公園の奥へ目を向けた時だった。

 先ほどまでの笑みが消え、ぬいぐるみを抱える腕へ力が入る。一誠も同じ方向を見たまま動きを止めたので、何かあったのだとすぐに分かった。

 

 二人の視線を追うと、少し離れた場所に一人の若い女が立っている。

 黒を基調とした服装よりも先に目へ入ったのは、その背中に広がる黒い翼だった。飾りには見えず、羽根の一枚一枚が風を受けて僅かに揺れている。

 

「……あれは、何ですか」

 

 無意識に右手へ力が入り、その奥が僅かに熱を持ったような気がした。

 女は私たちを見ながら、知人へ声をかけるような軽い調子で口を開く。

 

「ずいぶん楽しそうね、アーシア」

 

 その声を聞いた瞬間、アーシアさんの身体が小さく震えた。

 

「レイナーレ様……」

 

 私には聞き覚えのない名前だったが、隣にいる一誠はさらに大きな反応を見せた。顔から血の気が引き、目の前の女を信じられないものを見るように見つめている。

 

「……夕麻、ちゃん」

 

 その名前を聞いた瞬間、数日前に一誠から聞いた話が繋がった。

 天野夕麻は、一誠へ突然告白し、何日も嬉しそうに話させていた少女だ。デートの後には連絡先も記録も消え、松田君たちの記憶からまで存在が抜け落ちていたうえ、一誠が公園で刺されて死んだという記憶にも関わっている。

 私は彼女の顔も声も知らなかったが、一誠本人が目の前の女を見て、その名前を呼んだ。

 

「一誠。……間違いないんですか」

 

「俺が間違えるわけねえよ。あの顔も、声も……夕麻ちゃんだ。でも、なんでそんな翼が……」

 

 周囲から記憶を消したのが誰なのか、一誠の覚えている死が本当に起きたことなのか、なぜ彼女が黒い翼を持っているのかまでは分からない。

 ただ、一誠がここ数日抱えていた出来事に、この女が深く関わっている可能性は高かった。

 私はゆっくりと立ち上がる。

 

「……あなたが、天野夕麻さんですか」

 

 女はそこで初めてこちらへ視線を向け、面白いものでも見つけたように目を細めた。

 

「へえ。あなたが――」

 

 そこで言葉を切り、一誠へ視線を戻す。

 

「ずいぶん可愛いお友達を増やしたのね、イッセー君」

 

 一誠の肩が強張った。

 少なくとも、この女は一誠のことを知っている。そして一誠も、彼女を天野夕麻として知っている。

 今は、それだけ分かれば十分だった。

 私は黒い翼を広げた女から、目を離さなかった。

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