メイドの仕事を教わり始めて一週間ほどが経つと、朝起きてメイド服へ着替え、普段の編み込みを残したまま長い髪を後ろでまとめてからグレイフィアさんのもとへ向かうことにも、もうほとんど違和感を覚えなくなっていた。
最初の頃は、その日に何をするのか、どの部屋から手をつければいいのか、その都度グレイフィアさんから指示を受けていたけれど、最近では最初から答えを教えてもらえることの方が少ない。
「ミライさん。今日は、まず何をなさいますか?」
朝食後の廊下でそう尋ねられた私は、昨日までに聞いていた予定と屋敷の様子を思い返しながら周囲へ目を向けた。
昨日使用された客室はまだ整えられておらず、午後には来客があると聞いている。後回しにすれば別の使用人の仕事と重なってしまうかもしれないし、換気にもある程度時間が必要になる。
「先に客室を確認して、窓を開けておきます。その間に必要なリネンを用意して、換気が終わったらベッドを整えようと思います」
「分かりました。では、そのように」
「はい」
訂正されなかったことに少しだけ安心しながら、私は用意していた掃除道具を手に客室へ向かった。
以前なら、グレイフィアさんから正解をもらえたことそのものを喜んでいたと思う。けれど今では、仕事を一つ終えたら次に何をするべきなのか、それを誰かに聞くより先に自分で考えることが少しずつ当たり前になりつつあった。
必要になってから動くのではなく、その前に何が必要になるのかを考えること。そして、言われた言葉だけではなく、その人自身や周囲の状況を見ること。
一週間前に比べれば、屋敷の中を歩いている時に目へ入ってくるものは確実に増えている。
そのせいなのか、昨日、本邸へ一度戻ってきていた小猫さんの疲れた顔だけは、朝になってもまだ少し気になっていた。
ただ、本人は「大丈夫です」と答えていたし、皆さんは今まさにレーティングゲームへ向けて修行している最中なのだから、疲れていること自体は不思議でもない。
そう考えて、私は目の前の仕事へ意識を戻した。
◇
午前の仕事が半分ほど終わった頃、棚に置かれていた装飾品を一つずつ元の位置へ戻していると、廊下の向こうから使用人の一人が早足で近づいてきた。
その人は私の少し先にいたグレイフィアさんの前で足を止め、周囲へ聞こえない程度の声量で何かを伝える。
最初は私も気にせず作業を続けていたのだけれど、
「……小猫様が?」
グレイフィアさんの口からその名前が出た瞬間、手が止まった。
使用人がさらに説明を続け、それを最後まで聞いたグレイフィアさんは、表情を大きく変えることなく頷く。
「分かりました。引き続き安静にしていただいてください。何か変化がありましたら、すぐに報告を」
「かしこまりました」
使用人が去っていくのを見送ってから、私は手にしていた布を棚の上へ置き、グレイフィアさんのところまで歩み寄った。
「グレイフィアさん。今、小猫さんの名前が聞こえたのですが……何かあったんですか?」
グレイフィアさんは一瞬だけ私を見たものの、隠す必要のあることではないと判断したのか、そのまま静かに答えた。
「今朝、修行中に倒れられたそうです。原因は、過度の鍛錬による疲労とのことですが、幸い命に関わるような状態ではありません」
「倒れた……」
その言葉を聞いた瞬間、昨日見た小猫さんの顔と、「大丈夫です」と答えた声が一緒に蘇った。
「怪我そのものについてはすでに治療されています。ただ、どれだけ傷を治すことができても、消耗した体力まですぐ元に戻るわけではありません。今は何より休養が必要でしょう」
「……そうですか」
命に別状がないと分かったことで、まず胸を撫で下ろした。
けれど、それで完全に安心することはできなかった。
「昨日、小猫さんと会ったんです」
「そうなのですか?」
「はい。少し疲れているように見えたので聞いたんですけど……大丈夫だと言っていました」
そこまで口にしたところで、自分の中に残っていた違和感の正体が少しだけ分かった気がした。
私は昨日、小猫さんが普段とは違うことには気づいていた。それでも本人から「大丈夫」と言われたことで、その言葉をそのまま答えとして受け取ってしまった。
「私、気づいていたのに」
「ミライさん」
グレイフィアさんの声に顔を上げる。
「本人が大丈夫だと答えたのであれば、それ以上踏み込めなかったことを、あなたが責任に感じる必要はありません」
「……はい。それは分かっています」
本当に、自分が無理にでも止めていればすべて防げたはずだ、と考えているわけではない。
ただ、今になって振り返れば、見えていたものは確かにあった。
「見えていたのに、分からなかったんだなと思って」
グレイフィアさんはしばらく私を見てから、いつもの穏やかな口調のまま言った。
「人を見るということは、相手のすべてを理解するという意味ではありません」
「……」
「分からないことがあるのは当然です。だからこそ、知ろうとすることが必要なのでしょう」
その言葉を聞いて、私はすぐには返事をしなかった。
人は時計ではない。
中身を開いて、どこが壊れているのか確かめれば答えが見つかるわけでもないし、正しい部品を正しい場所へ戻せば、それですべて元通りになるわけでもない。
「……はい」
ようやく頷くと、グレイフィアさんもそれ以上は何も言わず、それぞれの仕事へ戻った。
小猫さんのことは気になったけれど、今すぐ私が駆けつけたところで何かできるわけではない。それならまず、自分に任されている仕事をきちんと終えるべきだった。
◇
午後になると、今度はグレイフィアさんから別の仕事を任された。
「ミライさん。こちらを別館までお願いします」
差し出されたトレイには、紅茶と簡単なお菓子が用意されている。
「別館ですか?」
「ええ。奥様のもとへお届けしてください」
「分かりました」
以前なら、給仕先までグレイフィアさんが同行してくれたかもしれないけれど、今回は届ける場所を教えられただけだった。
つまり、そこから先は自分で判断しなければならない。
トレイを受け取って本邸を出ると、教えられた道を通って別館へ向かい、目的の部屋の前まで来たところで一度足を止める。
時間は問題ない。
けれど、以前のように時計だけを見て、そのまま扉を開けるようなことはしなかった。
中から聞こえてくる声に少し耳を傾ける。
会話はしているものの、込み入った話をしているような雰囲気ではない。これなら入っても問題ないだろうと判断してから扉をノックすると、中から入室を許す声が返ってきた。
「失礼します」
扉を開けて中へ入った私は、そこで思わず足を止めた。
「……一誠?」
「ミライ?」
一誠がいること自体は、そこまで不思議ではない。
問題なのは、その一誠がリアス先輩のお母様と向かい合い、右手で相手の手を取りながら、もう片方の手まで妙にきちんとした位置へ置いていたことだった。
どう見てもダンスの姿勢だった。
「何をしてるんですか、一誠」
「ダンスの練習だよ! 俺だってこうなるとは思ってなかったんだけど!」
「そうなんですか」
「もうちょっと何か反応しろよ!」
よく分からないけれど、少なくとも危険なことをしているわけではなさそうなので、私はそれ以上考えるのをやめた。
「あら、ミライちゃん」
リアス先輩のお母様が一誠から手を離し、私の姿を見ると楽しそうに微笑む。
「その格好、とても似合っているわね」
「ありがとうございます。グレイフィアさんから、お茶を届けるように頼まれました」
「まあ。もうそんなことまで一人で任されているの?」
「まだ修行中ですけど」
一誠も改めて私の姿を上から下まで眺めると、少し感心したように言った。
「いや、もう普通にメイドにしか見えねぇぞ」
「一週間くらいやってますから」
「一週間でそうなるもんなのか……?」
「私にも分かりません」
そんなやり取りをしながらも仕事そのものは忘れず、テーブルの上を確認してから邪魔にならない場所へトレイを置き、カップを並べて紅茶を注いでいく。
以前なら、カップを正しい位置へ置くことだけに集中していたと思う。
今は相手の手元や座る位置、テーブルの上に置かれているものまで一度確認し、無理なく手を伸ばせる場所へカップを置いた。
特に不足しているものもない。
「では、失礼します」
一礼して扉へ向かい、このまま本邸へ戻るつもりだった。
「そういえば……小猫ちゃん、どうしたんですか?」
一誠の声が耳に入った瞬間、扉へ伸ばしかけていた手が止まった。
今朝、修行中に倒れたと聞いたばかりだった。
昨日は目の前で「大丈夫です」と答えていた。
「あら」
リアス先輩のお母様がこちらを見た。
「ミライちゃんも気になる?」
「……はい。昨日、小猫さんに会ったんです。少し疲れているように見えたので聞いたら、大丈夫だと言っていたんですけど、今朝になって倒れたと聞きました」
すると、先ほどまで一誠をからかっていた時とは少し違う、穏やかな表情になる。
「そう。それなら、あなたも聞いておいた方がいいかもしれないわね」
「私も、ですか?」
「ええ。小猫ちゃんのことを心配しているのでしょう?」
仕事中に勝手に長居するのは良くないと思ったものの、相手から同席を許されているのなら話は別だ。
私は一瞬だけ迷ってから頷き、一誠の隣へ腰を下ろした。
そこで、リアス先輩のお母様は静かに話し始めた。
◇
昔、二匹の姉妹猫がいたという。
まだ幼いうちに親を失い、帰る家も頼れる相手もなくなった姉妹は、それでも二人だけで支え合いながら生きていた。
そんな二人を、ある悪魔が拾った。
ただし、何の条件もなく助けたわけではなく、姉がその悪魔の眷属になることを条件として、妹も一緒に暮らすことを許されたのだという。
「妹を守るために……?」
思わずそう口にすると、リアス先輩のお母様は小さく頷いた。
「少なくとも、姉は妹と離れずに済む道を選んだのでしょうね」
やがて姉は悪魔へ転生し、それまで眠っていた才能を一気に開花させた。
妖怪としての術だけでなく、悪魔としての魔力、さらに仙術まで扱うようになり、短い間に自分を眷属へ転生させた主人を上回るほどの力を身につけたという。
しかし、その先にあったのは決して良い話ではなかった。
リアス先輩のお母様から聞いたところによれば、姉はやがてその強大な力に呑まれ、血と戦いを求めるようになった末、自分の主人を殺してしまった。
主人を殺した転生悪魔が、そのまま許されるはずもない。
姉は『はぐれ悪魔』として追われることになり、その後も追撃に向かった悪魔たちを次々と返り討ちにしたことで、極めて危険な存在として扱われるようになったらしい。
「そんな……」
一誠が低い声を漏らす。
私もすぐには何も言えなかった。
ただ、今聞いているのはあくまで当時の悪魔たちが把握し、伝えてきた話なのだろうと思った。私は姉本人を知らないし、当時何があったのかを自分の目で見たわけでもないのだから、それ以上のことまで分かるはずがない。
そして、本当に納得できなかったのは、その後だった。
姉が主人を殺したことで、疑いの目は何もしていない妹へまで向けられたという。
姉と同じ血を引いている。
姉と同じ力を持つ可能性がある。
だから、いずれ妹も同じように暴走するかもしれない。
そう考え、まだ何もしていないうちに処分するべきだという声まで上がった。
「……妹は、何もしていないのに?」
気づけば、思ったことがそのまま口から出ていた。
「ええ」
「それなのに、姉と同じになるかもしれないというだけで?」
「姉と同じ力を持つ可能性があるというだけで、恐れた者もいたのでしょうね」
納得できなかった。
姉が何をしたとしても、それは姉自身の行動であって、妹まで同じことをするとは限らない。ましてや本人が何もしていない段階で、その可能性だけを理由に命まで奪おうとすることが正しいとは思えなかった。
「でも、その話を止めた人がいたの」
そう言って教えられたのが、サーゼクスさんだった。
姉の罪を妹へ背負わせるべきではないこと、妹まで同じ道を進むと決まったわけではないこと、必要なのであれば自分が責任を持って監視することまで申し出て、周囲を説得したという。
その結果、妹は処分を免れた。
けれど、それですべてが終わったわけではなかった。
唯一の家族だった姉はいなくなり、周囲からは自分まで姉と同じ存在になるのではないかと恐れられる。そんな環境の中で、妹は次第に笑うことをやめ、生きることそのものに興味を失ったかのようになっていった。
そこでサーゼクスさんは、その妹を自分の妹へ預けた。
リアス先輩のもとで暮らし、人と関わりながら過ごしていくうちに、妹は少しずつ感情を取り戻していったのだという。
そしてリアス先輩が、その子に新しい名前を与えた。
「小猫」
その名前が出た瞬間、一誠が息を呑むのが分かった。
私も何も言えず、昨日見た小猫さんの姿を思い出していた。
最初から何となく分かっていたような気もする。それでも、話の中にいた「妹」と、いつも一緒にいる小猫さんが完全に重なった瞬間、胸の中に重いものが落ちたような感覚があった。
「小猫さんの……お姉さん」
その姉こそが、黒歌。
そして、小猫さん自身も普通の猫又ではなく、猫又の中でも最上位に位置する猫魈と呼ばれる存在なのだという。
猫魈は妖術だけでなく仙術まで扱うことのできる、高い力を持った妖怪。
そこまで聞いて、私はようやく小猫さんが今抱えているものを少しだけ想像できた。
もしかすると、小猫さんは力が足りないから無理をしていたのではなく、自分が本来持っている力を使うことを避けながら、それでも強くなろうとしていたのかもしれない。
姉と同じ力を使えば、自分も同じようになるのではないか。
本当にそう考えているのかは、小猫さん本人に聞かなければ分からない。
それでも、姉の過去を知った今なら、自分の持つ力に対して何の恐れも抱いていないとは思えなかった。
「そんなの……小猫ちゃんのせいじゃないだろ」
一誠が、拳を握りながら低い声で言った。
「姉ちゃんが何したのか知らねぇけど、それで小猫ちゃんまで同じになるって決めつけるのは違うだろ。小猫ちゃんは小猫ちゃんじゃねぇか」
その言葉には、私も同意した。
誰かと同じ力を持っているからといって、同じ人間になるわけではない。
小猫さんは小猫さんだ。
けれど、その一方で、自分の中にある大きな力を知りながら、そこから距離を取ろうとする感覚についてだけは、私にもほんの少し覚えがあった。
もちろん、小猫さんと私の事情は同じではない。持っている力も、これまで経験してきたことも違うのだから、自分まで同じだと言うつもりはなかった。
それでも、自分でも扱い切れるのか分からないものを抱えている時に、その力へ積極的に手を伸ばそうとは思えない感覚だけは、完全に他人事とは思えなかった。
◇
別館を出た後、一誠と並んでしばらく歩いた。
「小猫ちゃん、そんなこと抱えてたんだな……」
「はい。私も何も知りませんでした」
「俺もだよ。普通に修行してるだけだと思ってた」
昨日のことを思い返しながら、私は前を向いたまま答えた。
「昨日、疲れているように見えたんです。でも、大丈夫だと言われて、それ以上聞きませんでした」
一誠がこちらを見る。
「それはミライのせいじゃねぇだろ」
「分かってます。私が声をかければ全部解決したなんて思ってません」
それでも、あの時の小猫さんの表情が頭から離れなかった。
「ただ、何も知らなかったんだなって思っただけです」
一誠は少し黙ったあと、前を向き直った。
「……俺もだよ」
「そうですね」
それ以上、二人で答えを出そうとはしなかった。
一誠には一誠の修行があるし、私にも戻るべき場所がある。
「じゃあ、またな」
「はい。修行、頑張ってください」
「おう!」
いつものように軽く手を上げる一誠を見送ってから、私は本邸へ戻った。
◇
「戻りました」
「ご苦労さまでした」
グレイフィアさんへ別館から戻ったことを報告すると、それ以上何かを尋ねられることはなく、私もそのまま残っていた仕事へ戻った。
床を整え、使われた食器を確認して、翌日に必要になるものを準備する。身体はいつも通り動いていたけれど、頭の中には先ほど聞いた小猫さんの話が残り続けていた。
私は、自分の中に時を司る魔王の力と、名もなき神々の王女と呼ばれるものが存在していることを、ある程度は知っている。どちらも、まともに考えれば私一人が抱えていていいのかと思うほど大きなもので、だからこそ必要以上に触れようとはせず、必要な時に必要なだけ使えばいいと考えてきた。
その判断そのものが間違っているとは、今でも思わない。
分からない力を、ただ強いからという理由だけで振り回すべきではない。
けれど、そこで一つ別の疑問が生まれた。
私は自分の力について考えてきたつもりだったけれど、その力を持っている自分自身について、どれだけ考えてきただろう。
剣を持てば振ることはできるし、以前は裕斗とも打ち合えた。身体能力も普通の人間よりずっと高く、アストラノヴァのような武器もある。
それでも、それは私がきちんと戦い方を学んだからではない。
身体が動くから。
力が強いから。
武器があるから。
これまでは、そういうものに助けられて戦ってきた部分が大きかった。
もし、それだけでは足りない相手が現れた時、自分はどうするのだろう。
あるいは、持っている大きな力を使わずに誰かを守らなければならなくなった時、私は何を選べるのだろう。
すぐに答えは出なかった。
それでも、その日の仕事を終える頃には、一つだけはっきりしたことがあった。
強い力を持っていることと、戦い方を知っていることは同じではない。
そして私は、自分自身の戦い方をまだ知らない。
◇
その日の仕事が終わり、使用人たちへの最後の指示を出していたグレイフィアさんが一人になったところで、私は声をかけた。
「グレイフィアさん」
「何でしょうか?」
「一つ、お願いがあります」
口にした瞬間、以前にも同じようなことを言ったのを思い出した。
あの時は、メイドの仕事を教えてほしいと頼んだ。
グレイフィアさんも覚えていたのか、ほんのわずかに目を細める。
「また、ですか?」
「はい」
「今度は何でしょう」
私は一度息を整えてから、まっすぐグレイフィアさんを見る。
「私にも、戦い方を教えていただけませんか?」
それまでと同じ穏やかな表情だったはずなのに、私の言葉を聞いた瞬間、グレイフィアさんの目がわずかに変わった。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
やはり、前と同じ質問だった。
けれど、今度の答えは決まっている。
「今日、小猫さんのことを聞いて、自分のことも少し考えました。私は自分に大きな力があることを知っていますけど、それを持っている私自身が、ちゃんと戦い方を知っているかと言われたら……多分、知らないんです」
剣を振ることができることと、剣術を知っていることは違う。
強い力があることと、戦えることも違う。
「だから、自分自身の戦い方を知りたいんです」
言い終えると、グレイフィアさんはすぐには答えなかった。
静かな廊下の中で、こちらを確かめるように見つめている。
やがて、
「分かりました」
と静かに答えた。
「では――」
「ただし」
続けようとした言葉が、その一言だけで止まった。
グレイフィアさんはいつもと同じメイド服を着ていて、声の調子も大きく変わっていない。
それなのに、先ほどまでとは明らかに空気が違っていた。
「ここから先は、メイドとしてあなたにお教えするものではありません」
「……はい」
「私は、魔王サーゼクス・ルシファー様の《女王》です。あなたが戦い方を学びたいというのであれば、その立場として指南いたします」
その肩書きを知らなかったわけではない。
むしろ最初から知っていた。
けれど、これまで私に掃除の仕方や給仕の作法を教えてくれていた人が、自分自身の口から《女王》として私を指南すると告げた瞬間、知識として知っていたものが初めて現実になったような気がした。
「決して楽なものにはなりません。それでも学びますか?」
少しも迷わなかった。
「はい。お願いします」
グレイフィアさんは私の顔をしばらく見つめたあと、静かに頷いた。
「承知しました。それでは、明朝から始めましょう。準備をしておいてください」
「はい」
一礼してその場を離れながら、胸の奥にこれまでのメイド修行とは違う緊張が生まれていることに気づいた。
明日から何を教えられるのかは、まだ分からない。
どんな訓練になるのかも知らない。
教えてくれる人そのものは、これまでと同じグレイフィアさんだ。
けれど、明日から私の前に立つ彼女の立場は違う。
メイドとしてではなく、魔王サーゼクス・ルシファーの《女王》として。
明日から私は、グレイフィア・ルキフグスに戦い方を教わることになる。
推しのゲヘナ生を教えてください 推しが選択肢にいない場合は、感想欄で教えてください!
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空崎ヒナ
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天雨アコ
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銀鏡イオリ
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火宮チナツ
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陸八魔アル
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浅黄ムツキ
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鬼方カヨコ
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伊草ハルカ
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黒舘ハルナ
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鰐渕アカリ
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愛清フウカ
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棗イロハ
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丹花イブキ
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京極サツキ
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元宮チアキ
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鬼怒川カスミ
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氷室セナ
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夜桜キララ
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旗見エリカ