冥界で、俺をモデルにした特撮番組が放送されている。
それだけなら、俺だってここまで大声を上げて文句を言ったりはしなかったと思う。自分では未だに実感はないけれど、《赤龍帝》の名前は悪魔や堕天使たちの世界でもそれなりに知られるようになったし、その力をモデルにしたヒーロー番組が作られたというだけなら、男として少しくらい嬉しく感じてもおかしくない。
実際、番組は冥界の子供たちを中心に大人気で、視聴率は五十パーセントを超えたとまで聞いている。
問題なのは、その番組が《赤龍帝》をモデルにしながら、なぜかまったく別の方向へ全力疾走してしまっていることだった。
『立て、乳龍帝! みんなのおっぱいを守るために!』
「だから、なんでそうなったんだよぉぉぉぉぉぉっ!」
兵藤家地下の大広間に、俺の叫び声が盛大に響き渡った。
目の前の巨大なモニターでは、どう見ても俺をモデルにしながら妙に男前へ加工された主人公が、《赤龍帝の籠手》を参考にしたらしい赤い鎧を纏って怪人と戦っている。
その背後で祈るように両手を組んでいるヒロインは、どう見てもリアス部長がモデルだった。
『このままでは乳龍帝の力が尽きてしまう!』
『いいえ、まだよ!』
画面の中の《スイッチ姫》が、悲壮な表情で自分の胸へ両手を添える。
『乳龍帝! 私のおっぱいで、もう一度立ち上がって!』
「何一つとして意味が分からねぇ!」
どうして俺の戦闘力とおっぱいが直結しているんだ。そして何より、どうしてこんな番組が冥界の子供たちに大人気なんだ。
「一誠」
「はい!」
すぐ隣から聞こえたリアス部長の声に、俺は反射的に背筋を伸ばした。
恐る恐る横を向くと、リアス部長はいつも通り綺麗な笑顔を浮かべていたものの、その右手には、いつの間に用意したのか大きなハリセンが握られていた。
「少し前から気になっていたのだけれど、どうして私たちしか知らないような出来事まで、この番組では随分と正確に再現されているのかしら?」
「それ、俺もずっと気になってました。俺の恥ずかしい話まで妙に再現度が高いんですよね。外から見ていただけじゃ絶対に分からないようなところまで」
「そうでしょう?」
リアス部長は優雅な笑みを崩さないまま、ソファへ深く腰掛けて番組を眺めているアザゼル先生へ視線を移した。
「アザゼル? 何か、私たちに言うことはないかしら?」
「人気出てるだろ?」
返ってきたのはそれだけで、次の瞬間には地下室へ気持ちのいい音が響いていた。
「痛ってぇ! ちょっと監修しただけだって。実際の戦闘映像を参考資料として渡して、設定にいくつか案を出して、装備デザインに多少口を出したくらいで――」
「それを世間では、ほとんど制作に参加していると言うのよ!」
もう一発。
「待てリアス! こういう子供向け番組をきっかけに、三大勢力の距離が縮まる可能性だって――」
「私のおっぱいを国際交流に利用しないでちょうだい!」
先生がリアス部長から逃げ回るのを眺めながら、俺は深々と溜息を吐いた。
『相棒……俺はいつから《赤龍帝》ではなく、《乳龍帝》になったんだ……? 歴代の赤龍帝たちへ、俺はどう説明すればいい……』
「俺に聞くなよ! 俺だって被害者なんだよ!」
「でも一誠、昔からヒーローは大好きだったじゃない」
そんな俺の悲痛な叫びなど気にした様子もなく、イリナが楽しそうに笑った。
「小さい頃なんて、毎日のようにヒーローごっこしてたでしょう? 一誠がヒーロー役で、私が怪人役をやってあげて、最後は必殺技を受けて『ぐわーっ!』って転がって――」
「待てイリナ。幼少期の俺の尊厳に関わるから、本当にそこで止めてくれ」
「あ、イッセーさんは小さい頃からヒーローがお好きだったんですね。困っている人を助けるヒーローに憧れていたなんて、とてもイッセーさんらしいと思います」
「いや、アーシア。多分、俺は技名を叫びながら近所を走り回ってただけだと思うんだけど」
「種族が違っても、格好いいものを格好いいと思う気持ちは同じってことだよね! 天使としても、こういう善い文化が広がっていくのは歓迎するべきだと思うの!」
「乳龍帝だけどな」
「細かいことは気にしない!」
「全然細かくねえよ! むしろ番組の根幹だろ!」
そんな中、小猫ちゃんは相変わらず無表情のままモニターを見ていた。ちょうど画面では、小柄な猫耳少女の《ヘルキャットちゃん》が怪人へ強烈な拳を叩き込んでいる。
「小猫ちゃんも人気あるらしいな。ヘルキャットちゃん、冥界の子供たちにはかなり――」
「私ではありません。出演しているのは代役です」
「そういう問題なのか?」
小猫ちゃんがゆっくりとこちらを見る。
「先輩。次に余計なことを考えたら殴ります」
「まだ何も言ってない!」
「顔に出ています。特に胸の辺りを見た時の顔に」
口に出さなくて本当によかった。実際に言っていたら、番組の怪人より先に俺が吹き飛ばされていただろう。
そんな騒ぎから少し離れたところでは、ギャスパーが大きな段ボールから頭だけを出して番組を眺めていた。今さらギャスパーが段ボールへ入っている程度で驚くような奴は、この場にはほとんどいない。
ところが、箱の中から小さくゴソッと音がした。ギャスパーの肩がぴくりと跳ねると、そのまま何も言わず両手を箱の中へ突っ込み、何かを押さえるような動きをする。
「ギャーくん」
小猫ちゃんがモニターを見たまま声を掛けた。
「は、はいっ!?」
「さっきから箱の中がうるさいです。先輩の番組よりは静かですけど」
「比較対象が酷くない!?」
「き、気のせいです! 多分、僕が中で動いた音なので!」
「そうですか」
小猫ちゃんが本当にそれ以上追及しなかったので、俺も特に気にしないことにした。
それよりも、さっきから気になっているのは別のことだった。
馬鹿騒ぎしている輪から少し離れた場所で、ミライが空になったカップを一つずつ集めている。
この数日、ミライはやたらとよく働く。食事が終われば食器を片付け、洗濯物があれば畳み、何かが足りなくなれば誰かが口にするより早く補充する。天童時計店でも家事をしていたし、グレイフィアさんから本格的なメイドの仕事まで習っているので、やっていること自体は決して不自然ではない。
ただ、今は少し違って見えた。
「ミライ」
俺が声を掛けるより先に、リアス部長が彼女を呼んだ。
「そこまでにして、少し休みなさい。あなた、さっきから一度も座っていないでしょう?」
「ですが、まだ全部片付いていませんので。これだけ終わらせてから――」
「残りは誰かに任せればいいわ。あなたはこの家の使用人ではないのよ」
リアス部長の声は、叱っているものではなかった。
「手伝ってくれること自体は本当に助かっているし、何もするなと言うつもりもないわ。でも、何から何まで自分でやらなくてもいいの。疲れているなら休む、人に任せられることは任せる。そのくらいはしてちょうだい」
「……分かっています」
返事まで、ほんの少しだけ間が空いた。
リアス部長も当然それに気づいたはずだ。それでも、その空白へ無理に踏み込むことはしなかった。
「なら、今手に持っているものだけ片付けたら一度座りなさい」
「はい。ありがとうございます」
ミライは小さく頭を下げた。
今のミライから仕事を全部取り上げて、ただ座らせておけばいいという話でもないのだろう。俺にはそこまで上手く考えられないけれど、リアス部長はその辺りも含めて見ているようだった。
「ところで、一誠君」
今度は背後から柔らかな声が耳元へ落ちてきたかと思うと、次の瞬間には後頭部へさらに柔らかい感触が押しつけられた。
「しゅ、朱乃先輩!?」
「約束、忘れてはいませんよね? ちゃんとデートしてくださると約束してくださいましたもの」
「もちろん覚えてます!」
「あら、それなら安心しました。もし忘れていたら、どうやって思い出していただこうか考えていたところでしたのに」
「その言い方、絶対普通の方法じゃないですよね!?」
「……そう」
反対側から聞こえたその声に恐る恐る振り向くと、リアス部長はやっぱり笑っていた。
「朱乃との約束はちゃんと覚えていたのね。良かったわね、朱乃。随分楽しみにしていたものね?」
「ええ。一誠君と二人きりで出掛けられる機会なんて、そう多くありませんもの」
「そうね。二人きりで、ね」
「はい♪」
二人とも笑顔なのに、どうして俺の背中には冷たい汗が流れているのだろう。
ここで余計なことを言ったら間違いなく死ぬ。
俺はモニターへ視線を戻し、番組の続きを真剣に見ているふりをしながら、少なくともこの場では何も喋らないことを心へ固く誓った。
◇
修学旅行の班決めは、思っていたより簡単にまとまった。
俺と松田と元浜に、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、桐生が加わり、七人で京都を回ることになった。
「京都だぞ! 寺、神社、歴史ある町並み! そして修学旅行の夜! 同じ宿に同学年の女子が大量にいるという、学生生活最大級のイベント!」
「結局それが本命じゃねえか。最初の三つ、完全に前振りだったろ」
「せっかく京都まで行くんだから、もっと日本の歴史とか文化を楽しもうよ」
イリナが呆れたように腰へ手を当てた。
「お前、日本文化ちゃんと分かるの?」
「当たり前でしょう。私は日本人だよ?」
何の疑いもない顔で胸を張るので、俺と元浜は思わず顔を見合わせた。
「この前、こたつのこと知らなかったよな」
「あれは長く日本を離れていたから知らなかっただけでしょ? 日本人であることとは何の関係もないの!」
「そういうところが、自称日本人って言われる原因なんじゃ――」
「誰が自称よ! 生まれも育ちも途中まではちゃんと日本です!」
「途中までって自分で言ってるじゃねえか!」
「京都で教会は見られないのか?」
ガイドブックを眺めていたゼノヴィアが、真顔で尋ねた。
「お前まで京都へ行って教会を探すのかよ」
「何かおかしいか? 信仰と観光は両立するだろう」
「……お前ら二人と京都行くと、絶対どこかで変なこと起きそうだな」
その横で楽しそうに笑っているアーシアを、俺は気づけば何度も横目で見てしまっていた。
「イッセーさん? さっきから、どうかしましたか?」
「ああ、いや。何でもないんだ。ただ、ちゃんとここにいるなって思って」
「……?」
「ごめん。変なこと言った」
アーシアは不思議そうに首を傾げた後、少しだけ柔らかく笑った。
「私はここにいますよ、イッセーさん」
「ああ。そうだな」
少し前までなら当たり前だったことが、今は何度確かめても足りないように感じる。あの時、完全に失ったと思ったからなのだろう。アーシアがこうして笑っているだけで、胸の奥へずっと残っていた何かが少しだけ軽くなった。
◇
放課後のオカ研の部室でも、修学旅行の話題はそのまま続いていた。
「京都へ行くなら、二条城は外さない方がいいわ」
紅茶を飲みながら、リアス部長が妙に真剣な顔で言う。
「部長、去年行けなかった場所ですよね」
木場が苦笑した。
「ええ。予定を詰めすぎたせいで、結局時間が足りなくなってしまったのよ。京都は思っている以上に移動へ時間を取られる場所だから、行きたい場所があるなら最初から余裕を持って予定を組んでおきなさい」
「リアス、日本のことになると本当に熱心ですわね」
「せっかく日本に暮らしているのよ? 楽しまない理由がないでしょう。駒王学園だって私にとっては大切な場所なのだから、学校行事も適当に済ませたくないの」
そう言う時のリアス部長は、名門グレモリー家の令嬢というより、本当にただの日本好きな高校生に見える。
「そういえば、学園祭もそろそろ考えないといけないわね。今年は他の部活と一緒に企画してみるのも面白そうでしょう?」
「あっ、それならちょうどいいかも! 実はね、私、ミカエル様から少し相談されてることがあるの!」
イリナが勢いよく手を挙げ、分かりやすいくらい嬉しそうな顔になった。
「それもミカエル様が、私に直接――」
そこで、部室のあちこちからほとんど同時に電子音が鳴り響いた。
携帯へ表示された内容を確認したリアス部長の表情から笑みが消え、ほんの少しだけ息を吐いてから立ち上がる。
「……またね。全員、出るわよ。場所は町外れの廃工場。詳しい状況は移動しながら確認するわ」
その一言で、部室の空気が完全に切り替わった。
◇
現場となった廃工場には、やはり英雄派の連中が待っていた。
最近、この町では人数も数人から十人前後という小規模な襲撃が何度も繰り返されている。
最初は嫌がらせか陽動ではないかとも考えたが、何度か戦っているうちに、それだけでは説明できない部分が見えてきた。
「来ると思っていたぞ、赤龍帝」
「やっぱり俺たちを待ってたってことか」
こいつらは、ただ暴れるためにこの町へ来ているんじゃない。俺たちと戦うことそのものに意味がある。
「配置はいつも通り。ただし今日は特に深追いしないで。向こうはこちらの戦い方をかなり把握している可能性が高いわ。互いの位置を確認しながら動きなさい。後衛は私と朱乃が守るから、前にいる者は自分の役割へ集中して」
「了解!」
俺、木場、ゼノヴィアが前へ出て、その少し後ろには小猫ちゃん、イリナ、ギャスパーが位置取り、最後方をリアス部長、朱乃先輩、アーシアが固める。
『Boost!』
増幅した力で放ったドラゴンショットが、命中する寸前で地面へ広がった黒い影へ飲み込まれた。
「なっ――」
「先輩、右です!」
ギャスパーの声へ反応して身体を捻ると、消えたはずのドラゴンショットが全く別の影からアーシアたちへ向かって飛び出していた。
「させないわ」
リアス部長の《消滅の魔力》が正面からぶつかり、俺の魔力弾ごと跡形もなく消し去る。
「ギャスパー、解析できる?」
「はい! 少しだけ待ってください!」
ギャスパーは手元の装置へ視線を落としながら、周囲へ複数のコウモリを飛ばしていた。
「影そのものを通路として使っています! 本人も同じ方法で移動できる可能性があります。それと、影から影へ移る時だけ接続が一瞬不安定になるみたいです!」
「分かったわ。無理に前へ出なくていいから、そのまま観測を続けて」
以前のギャスパーなら、こうした戦場に立っているだけでも精一杯だっただろう。今だって怖がっていないわけではないけれど、それでも必要な情報を拾い、ちゃんと自分の役割を果たしている。
「ゼノヴィア!」
「ああ!」
イリナが声を上げるより僅かに早く、ゼノヴィアが敵へ踏み込み、彼女が空けた側へイリナが自然に入り込む。
剣士としての地力はゼノヴィアの方が明らかに上だが、長く一緒に行動してきただけあって、互いが次にどこへ動くのかは分かっているらしい。
「そっちは任せたよ!」
「当然だ。無理に合わせる必要はない、いつも通りやれ!」
一方、朱乃先輩はいつもの柔らかな微笑みを浮かべたまま、目だけはまったく笑っていなかった。
「あらあら。人の後輩たちを実験台のように扱うなんて、少々お仕置きが必要ですわ」
次の瞬間、敵の周囲へ雷光が容赦なく落ちる。
「朱乃。捕虜が必要なのだから壊さないでちょうだい」
「では、ちゃんとお話しできる程度には残しておきますね」
「その言い方も怖いから!」
「先輩! 今です! 影への接続が一瞬だけ弱くなっています!」
「木場!」
「分かってる!」
木場が迷わず地面へ聖魔剣を突き立てると、黒い影が大きく揺れて輪郭を崩した。
こちらの戦い方が研究されているなら、俺たちだって相手を観察すればいい。炎や光、そして影。性質の異なる神器を相手にしながら、少しずつ癖や制約を拾い上げ、向こうだけが持っていたはずの情報差を埋めていく。
最後まで残った影使いが膝をついた時、男の身体からそれまでとは比べものにならないほど強い神器の気配が溢れ始め、その異変を見た瞬間、これまでの襲撃とは違う嫌な予感が背中を走った。
「数値が急激に上がっています! これ、もしかすると《禁手》への移行が――」
ギャスパーが言い切る前に、男の足元へ未知の術式が展開した。
「転移!」
リアス部長が即座に《消滅の魔力》を放ったものの間に合わず、一瞬後には男の姿が完全に消えていた。
「……逃げたのか?」
「いや。本人が術式を組んだようには見えなかった。外部から強制的に回収された可能性が高いと思う」
木場が静かに首を振る。
残った連中を捕らえて調べても、肝心な部分の記憶には手が加えられていた。
「神器を成長させるために、わざと強い相手へぶつけているのでしょうか。極限状態へ追い込んで、《禁手》みたいな変化が起きるのを待っている……」
小猫ちゃんが淡々と言うと、イリナが珍しく強い声を返した。
「だとしたら、本当に最低だよ。使える力が出るまで危険な戦いをさせて、成功した人だけ持って帰るなら、人を道具みたいに扱っているのと同じじゃない」
「可能性は高そうね。帰ったらアザゼルにも確認してみましょう」
リアス部長がそう締め、俺たちは撤収準備へ入った。
その最中、ギャスパーが腰のポーチを閉じているのが見えた。カチッと留め具が閉まり、数歩進んだところでまた少しだけ口が開く。ギャスパーは無言で立ち止まると、今度は両手でしっかり閉め直した。
「壊れたのか? 留め具が駄目になってるなら、新しいのに替えてもらった方がいいんじゃないか?」
「ひゃっ!? だ、大丈夫です! ちょっと緩いだけですし、中のものも落ちてませんから!」
「でも戦闘中に開いたら危ないだろ」
「本当に大丈夫ですから! 僕がちゃんと見てます!」
ギャスパーはそのままポーチを両腕で抱えるようにして歩き出し、その後ろから小猫ちゃんがじっと様子を見ていた。
「ギャーくん。怪しいです」
「怪しくないです! 今日は本当に留め具が緩いだけです!」
「今日は?」
「えっ」
「今、『今日は』と言いました」
「い、言葉の綾です!」
「そうですか」
そこで小猫ちゃんは本当に追及をやめ、俺も、まあギャスパーだしな、と思ってその場では流すことにした。
◇
その日の夜、俺は自分の部屋で小猫ちゃんの仙術を受けていた。
「先輩、もう少し肩の力を抜いてください。先輩は何でも力でどうにかしようとしすぎです。治療を受ける時くらい素直に身体を任せてください」
「それ、今日の戦い方まで含めて怒られてる?」
「全部です」
言われた通りにゆっくり息を吐き、身体から余計な力を抜いていく。
肉体的な傷は、もうほとんど残っていない。あの時、ミライから溢れていた力が消えた直後、俺たちが負っていた怪我は驚くほど元へ戻り、破れていた服まで直っていたくらいだ。
けれど、それですべてが戻ったわけではない。
「先輩の生命力は、まだかなり減ったままです」
「やっぱり、今のままだと百年くらいなのか?」
「その可能性があります。ただ、今すぐ確定したという話ではありません。こうして少しずつ整えていけば回復する余地はありますから、必要以上に悲観することもないです」
人間だった頃の俺なら、百年は十分すぎるほど長く感じただろう。けれど、何千年、場合によっては一万年近く生きることさえある悪魔にとっては、あまりにも短い。
「そっか。それなら、ちゃんと続けないとな」
「はい。それと――」
小猫ちゃんの手が止まった。
「……もう、《覇龍》は使わないでください」
「分かってるって。さすがに俺だって、あれがどれだけ危ないかは――」
「先輩の『分かってる』は、あまり信用できません。先輩は誰かが危なくなると、すぐ自分のことを後回しにします。その場になったら『これしか方法がない』って勝手に決めて使いそうです」
「……否定しづらい。でもさ、小猫ちゃん。もし本当に他に方法がなかったら――」
「そういうところです」
ぴしゃりと言い切った小猫ちゃんは、そのまま俺から視線を逸らそうとしなかった。
「先輩が誰かを助けたいと思うこと自体を、やめてほしいとは言いません。私も、そういう先輩だから助けられた一人ですから。でも、自分がどうなってもいいみたいに戦うことまで肯定するつもりはありません。先輩が助けようとしている人たちだって、その代わりに先輩が死んだら喜ばないです」
そこで少しだけ声が小さくなる。
「私も、嫌です。もう、あんな先輩を見るのは嫌ですから」
いつもの平坦な声だった。それでも、本気で言っていることだけはよく分かった。
「……分かった。約束する。もう《覇龍》は使わない。それ以外の方法を探す」
小猫ちゃんはしばらく俺の顔を見つめてから、ようやく小さく頷いた。
「なら、信じます。破ったら殴ります」
「最後で急に怖くなったな!?」
「そのくらいの方が、先輩には効きます」
多分、本当に殴られる。
◇
治療を終えて部屋を出ると、廊下の照明はすでに落とされていた。
ほとんどの奴はもう休んでいる時間なのに、廊下の向こうを畳んだタオルを抱えたミライが歩いていた。
「ミライ?」
「一誠さん。治療は終わったんですか?」
「ああ。小猫ちゃんにかなり怒られたけどな」
「小猫さんが怒るのも当然だと思います。《覇龍》については、私も同意見ですので」
「分かってる。小猫ちゃんにも約束したよ。もう使わない」
「……そうですか」
そこで会話が切れそうになったので、俺はミライの腕の中にある大量のタオルへ視線を落とした。
「っていうか、ミライこそまだ何かやってたのか? 昼間もずっと動いてただろ。明日でもできることなら、今日全部終わらせなくてもいいって」
「……はい」
「別に誰も、ミライが全部やらなかったからって怒らないぞ」
ミライはすぐには答えなかった。腕の中のタオルへ一度視線を落とし、それから俺を見る。
「これくらいでしたら、大丈夫です」
「大丈夫かどうかだけじゃなくてさ……」
言いかけて、止める。無理やり手から取り上げれば解決するような話でもない気がしたし、ミライが何を考えて働いているのか、俺にはまだ分からない。
「……まあ、いいや。本当に無理はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
少し遅れて返ってきたその言葉を最後に、ミライは小さく会釈すると再び廊下を歩いていき、俺はしばらくその場でその背中を見送っていた。
小猫ちゃんも口数は多くないし、顔に感情が出る方でもない。それでも今なら、呆れているのか、怒っているのか、それとも心配しているのか、言葉の端や僅かな仕草から何となく分かる。
でも今のミライは、同じように静かなのに、以前よりずっと何を考えているのか分からなくなっていた。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
-
歴代ライダー本人の登場
-
歴代ライダーとの共闘
-
歴代ライダーとの対決
-
ライドウォッチ
-
アーマータイム
-
ミライ独自のライダー形態
-
他キャラの仮面ライダー化
-
ライダー由来の武器・アイテム
-
ライダーマシン
-
怪人・敵組織
-
歴代ライダーの能力再現
-
歴代ライダーの必殺技
-
原作ライダーの名場面オマージュ
-
仮面ライダー側の世界観・設定
-
昭和ライダー要素
-
平成一期ライダー要素
-
平成二期ライダー要素
-
令和ライダー要素
-
劇場版・Vシネマなどの要素
-
その他(感想欄で教えてください)