――FOX1、行動を開始してください。
ロキが通信機へそう告げた瞬間、背筋を冷たいものが走った。
FOX1――ユキノさんだ。FOX小隊が配置されているのは、ここから何十階も下にある会談室の近くで、そこにはオーディンの爺さんやアザゼル先生、日本神話側の人たちもいる。
「てめぇ……下で何をさせるつもりだ!」
「気になりますか?」
通信機を懐へ戻したロキは、相変わらず穏やかな表情を崩さない。
「当たり前だろ!」
「でしたら、ご自分で確かめに行けばいいではありませんか」
「……っ!」
俺たちがすぐに下へ向かえないことを分かったうえで言っている。目の前にはロキだけでなく、二匹の子狼がいる。ようやくグレイプニルで拘束したフェンリルまで残っている以上、誰かを下へ向かわせれば、それだけ屋上の戦力が薄くなる。
「あなた方はここを離れられない。下が心配でも、この場を放棄すれば、今度はこちらが自由に動ける。簡単な話でしょう?」
「最初から、それが狙いだったのかよ……!」
「さて、どうでしょう。ただ――」
ロキは小さく笑った。
「手札を一枚しか用意していないほど、私は親切ではありませんよ」
その言葉が終わった直後、屋上へ耳障りな金属音が響き渡った。
――ギィィィンッ!
「なっ!?」
振り返った先には、警察官のような女性の姿をしたフェンリルがいる。その姿自体は初めて見るものじゃない。以前の戦いで、巨大な魔狼からこの姿へ変化するところを、俺たちは実際に目撃している。
異常だったのは、その身体の周囲へ次々と浮かび上がる、光る文字だった。
「――原初のルーン!?」
ロスヴァイセさんが声を上げる。
「原初?」
「オーディン様が見出した神代のルーンです! 強化、加速、防護……いくつもの術式が重ねられています!」
「よく見えていますね」
ロキが片手を上げると、さらに別のルーンがフェンリルの身体へ重なっていく。前に見た、魔狼から今の姿へ変わるあの変化とは違う。今度は、すでにこの姿になっているフェンリルへ、さらに別の力が上乗せされていた。
「硬化……それだけではありません。複数の術式が、互いの効果まで……」
「高め合っている。正解です」
フェンリルを覆っていた光が一斉に強くなり、それに呼応するようにグレイプニルが再び軋み始めた。
「維持して!」
ソーナ会長の指示を受け、シトリー眷属の皆が術式へ魔力を注ぎ込む。それでも、あれだけの人数でようやく封じたはずのフェンリルが、全身へ絡みついた鎖を引きずったまま、一歩前へ踏み出した。
「そんな……!」
「だったら、そのルーンを消せないのか!?」
「やっています!」
ロスヴァイセさんの周囲へ展開された北欧式の魔方陣が、フェンリルの脚に浮かぶ文字へ干渉する。ルーンが僅かに揺らぎ、それまで鎖を引いていたフェンリルの動きが止まった。
「今だ!」
「待ってください、一時的です!」
ロスヴァイセさんは術式を維持したまま、苦しそうに歯を食いしばっている。
「私が扱える原初のルーンはごく一部だけです。これだけ重ねられた術式を、すべて解除するなんて――」
「十分立派ですよ、ロスヴァイセ」
そこへロキが口を挟んだ。
「そこまで読み取れる戦乙女は、そう多くありません。ですが――理解できることと、止められることは別です」
乱れていたはずのルーンが、再び強く輝いた。次の瞬間、グレイプニルの一本が弾け飛ぶ。
「まずい!」
一本目に続いて二本目、三本目と、拘束していた鎖が次々に引き千切られていく。
「全員離れて!」
最後の鎖が砕けた。
自由になったフェンリルは、何事もなかったように拳銃を持ち上げる。乾いた銃声とともに撃ち出された《牙》が、シトリー眷属の防壁をまとめて貫通し、その先にある屋上の床まで大きく抉った。
「くそっ!」
次の瞬間、フェンリルの姿が視界から消える。
『右だ、相棒!』
ドライグの声に反応して腕を上げた直後、赤龍帝の鎧へ凄まじい衝撃が叩き込まれた。
「ぐっ!」
蹴りをまともに受けた俺の身体は宙へ浮き、そのまま屋上を何度も転がる。
「イッセー!」
「大丈夫です!」
すぐに起き上がりながら、さっきの一撃を思い返す。この姿のフェンリルとは以前にも戦った。だからこそ、はっきり分かる。
――前より速い。
「ロキ! どれだけ強化しやがった!」
「元々、あの子は神すら喰らえる狼ですよ。そこへ、少し力を足してあげただけです」
「それを少しって言うのかよ!」
『Boost! Boost! Boost!』
倍加した力を腕へ集め、真正面から踏み込む。最初の拳は避けられた。けれど、そこから俺の右側へ回り込んでくる動きは、さっきので見ている。
「そこだ!」
振り抜いた勢いを利用して身体を回し、反対の拳を叩き込んだ。赤い魔力が弾け、フェンリルの身体が数メートル後退する。
「イッセー、まだよ!」
部長の声とほとんど同時に、爆煙の向こうから拳銃がこちらへ向けられた。撃ち出された一発目を避け、続く二発目もかわす。
だが、三発目が来ない。
『後ろだ!』
「っ!」
振り返った時には、もう遅かった。振り下ろされたフェンリルの爪が、赤龍帝の鎧へ食い込む。
「があああああっ!」
胸から脇腹へ凄まじい痛みが走り、鎧の一部が砕けた。そのまま床へ叩きつけられ、息が詰まる。
『相棒! 意識を保て!』
「わ、分かってる……!」
視線を落とせば、かなり深く裂かれている。部長たちがフェンリルを押し返してくれている間に、俺は腰へ手を伸ばした。
指に触れたのは、出発前にもしもの時のためと渡されていたフェニックスの涙だった。こんなに早く使うことになるとは思っていなかったけれど、今は惜しんでいる場合じゃない。傷へ使うと光が身体を包み、裂けていた箇所が塞がっていく。
けれど、疲労まで消えたわけじゃない。何度も治療を受けながら戦っているのは俺だけではなく、アーシアだって、いつまでも全員を治し続けられるわけじゃない。
そんな状況を見ているうちに、頭の中へ一つの選択肢が浮かんだ。
――覇龍。
あれなら、今のフェンリルにも届くかもしれない。
『相棒』
「分かってる」
ドライグに言われるまでもない。前に使った時の代償は、今も身体に残っている。もう一度使えばどうなるかなんて分からないし、できることなら二度と使いたくない。それでも、完全に選択肢から外してしまえるような状況でもなかった。
「考えていますね」
ロキの声に、俺は顔を上げた。
「何をだよ」
「使えば、自分が壊れるかもしれない力。それでも必要なら使う――そんな顔をしていますよ」
「……勝手なこと言ってんじゃねえ」
「違いますか?」
答えられない俺を見て、ロキは小さく笑った。
「不思議ですね。人間というものは、自分を傷つけると分かっている力ほど、追い詰められると頼ろうとする」
「だったらなんだよ」
「ただ、そこまでして何を守りたいのかと思っただけです」
「全部だ」
「……全部?」
「ここにいる奴も、下にいる奴もだ。誰か一人だけ選んで、他を捨てろなんて知るか!」
「欲張りですね」
「悪いか!」
「いいえ。実に赤龍帝らしいと思いますよ」
「兵藤一誠」
別の声に振り返ると、ヴァーリが立っていた。さっき子狼の一匹に噛み砕かれていた白龍皇の鎧はすでに再形成されているものの、口元にはまだ血が残っている。
「お前、大丈夫なのか?」
「君に心配されるほどではない」
ヴァーリは俺の心配をそれだけで切り上げ、すぐにフェンリルへ視線を戻した。
「あれは俺が引き受ける」
「は?」
「君がフェンリルに張りつけば、残った二匹とロキへ手が回らない」
「でも、お前だって――」
「俺が戦いたい。それに、君がもう一度あれを使うよりは、俺の方がまだ余裕がある」
「……気づいてたのか」
「勘違いするな。心配しているわけじゃない」
「はいはい」
「白龍皇」
ロキがヴァーリへ視線を向ける。
「あなたも使うつもりですか? 相手は一匹の狼ですよ?」
「ただの一匹では済まないものにしたのは、お前だろう?」
その返答に、ロキは一瞬だけ黙ったあと、小さく笑った。
「……それもそうですね」
ヴァーリの白い翼から、膨大な魔力が溢れ始める。
『ヴァーリ、本気か』
「ああ」
アルビオンの問いにも迷いはない。
「この程度で壊れるなら、俺はそこまでだったというだけのことだ」
「待て、ヴァーリ!」
「兵藤一誠」
ヴァーリは一度だけこちらを振り返った。
「残りは任せる」
「……死ぬなよ」
「誰に言っている」
次の瞬間、白龍皇の鎧が大きく変貌し、屋上全体を震わせるほどの魔力が解放された。
『Juggernaut Drive――』
白銀の巨体が夜空へ立ち上がる。その姿が消えたかと思った直後、フェンリルの身体が横へ大きく吹き飛ばされ、屋上の端近くまで叩き出された。
それでもフェンリルはすぐさま起き上がり、全身のルーンを輝かせながら《牙》を撃ち返す。ヴァーリはそれを避けて再び距離を詰め、二つの巨体が激突するたびに屋上全体が大きく揺れた。
覇龍まで使っている。それでも、一方的にはならない。
「余所見してる場合じゃないにゃ!」
黒歌の声で我に返る。親フェンリルをヴァーリが引き受けた以上、俺たちは残った二匹を、これ以上後ろへ通さないことに集中するしかない。
木場やゼノヴィア、小猫ちゃんが連携して進路を塞ぎ、ギャスパーの邪眼で動きを鈍らせる。そこへ俺のドラゴンショットも加わり、子狼の一匹を一度前線から押し返した。
――その時だった。
「右側の一匹が抜けました!」
ロスヴァイセさんの声に振り返ると、もう一匹の子狼が前衛の隙間を抜け、一気に後方へ駆け込んでいた。
「アーシア!」
木場が追いかける。だが、子狼はアーシアへ向かう途中で進路を変えた。
その先にいたのは――。
「朱乃!」
部長が叫ぶ。朱乃先輩は親フェンリルへ雷を放った直後で、反応が僅かに遅れていた。
「朱乃先輩!」
俺も走る。けれど、間に合わない。
子狼の牙が大きく開かれた、その瞬間。
「――朱乃!」
一人の男が横から飛び込んだ。
バラキエルさんだった。
「お父様――?」
巨大な牙が閉じ、鈍い音とともに血が飛び散る。
「ぐっ……!」
「バラキエルさん!」
子狼が首を振り、噛みついていた身体を投げ飛ばす。朱乃先輩は慌てて父親を受け止めた。
「お父様!」
その声は、いつもの朱乃先輩からは想像もできないほど切羽詰まっていた。
「アーシア!」
「はい!」
すぐにアーシアが駆け寄り、バラキエルさんの傷へ両手をかざす。
「傷は深いです……でも、大丈夫です。治せます!」
「……朱乃……無事か……?」
「喋らないでください!」
緑色の治癒の光に包まれながら、朱乃先輩はバラキエルさんの手を強く握ったまま離そうとしない。
その姿を見ているうちに、俺の中で一つの疑問が浮かんだ。
朱乃先輩とバラキエルさんの間には、色々なことがある。お母さんのことも、堕天使のことも、俺なんかが簡単に口を出していい問題じゃない。それくらいは分かっている。
それでも、バラキエルさんが噛まれた瞬間に上げた声も、今の表情も、握ったまま離そうとしない手も――俺がこれまで聞いていた「嫌っている」という言葉だけでは、どうにも説明できないように思えた。
――朱乃先輩は、本当にバラキエルさんのことを嫌っているんだろうか。
どうしても、それだけが気になった。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
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平成二期ライダー要素
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令和ライダー要素
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劇場版・Vシネマなどの要素
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その他(感想欄で教えてください)