「――っ!」
反射的に身体を引いた直後、二十九階の窓際に並んでいた柱の表面が大きく抉れた。大理石の化粧材だけでなく、その内側のコンクリートまで砕かれ、白と灰色の破片が廊下へ勢いよく散っていく。
オトギさんの姿は見えない。彼女だけは同じ廊下を走らず、バルコニーや外壁側の客室を使いながら少し距離を空け、射線を確保できる場所を選んで上へ移動しているらしい。だから姿が見えない時ほど、どこから撃たれるのか分からない。
正面の中央廊下にはユキノさん。外壁側では、すでにクルミさんがこちらへ回り込んでいて、ニコさんも客室列のどこかを使って先回りしているはずだ。
二十八階で一度外へ出ただけなのに、もうそれを前提に配置されている。
「……本当に、一度見せただけなんですが」
「十分だ」
ユキノさんが銃を構えたまま答える。
「同じ手を二度受ける理由はない」
「そうですよね」
分かってはいた。なら、まだ見せていないものを使えばいい。
Launcher ON
《アストラノヴァ》の側面から多連装の発射機構が展開される。まず一発目を、外壁側から回り込んできたクルミさんの足元へ。
「うわっ!」
大盾が下がり、爆発が床を削る。
二発目は、右側の客室から顔を出したニコさんを引かせるため、入口付近へ。三発目はユキノさんとの間、四発目は外壁側へ抜ける通路。
そして五発目だけ僅かに遅らせ、最初の爆発を盾で凌いだクルミさんが再び前へ出る位置へ撃ち込んだ。
「FOX3、五発目の着弾後に右へ。FOX2は客室内を使え」
「分かった!」
「はい」
爆発と煙で、三人の動きが一度だけ止まる。その間に距離を作ろうとしたところで、ふと別のスイッチが頭に浮かんだ。
《レーダー》。あれが使えれば、爆煙の向こうに散った皆さんの位置をもっと正確に追える。さらに《ランチャー》の狙いだって――。
「……」
考えかけて、すぐに捨てた。
今使っているのは《ランチャー》だ。ここで《レーダー》へ切り替えれば、この火力は失われる。そんなことは、最初から分かっている。
最後のミサイルが床へ着弾し、膨らんだ爆煙の向こうから、ほとんど間を置かずに大盾の先端が飛び出した。
「やっぱり来ますか!」
「行くよ!」
クルミさんが煙を押し分けて突っ込んでくる。この距離で《ランチャー》を使い続ける方が危険だった。
解除し、迫る盾の真正面から逃げるように身体をずらす。クルミさんもこちらの動きを読んで盾の角度を変え、その脇から今度はニコさんのショットガンが伸びてきた。
少し前までなら、それでも左腕で強引に銃口を押し退けようとしていたかもしれない。けれど、もう左上腕へ負担を掛ければどうなるかは分かっている。
最初から腕力で止める選択を捨て、ショットガンの内側へ身体ごと入り込むように距離を詰めた。
「そこですか」
ニコさんが一歩引く。
追わない。追えば、クルミさんが来る。予想した通り横から大盾が割り込み、さらに後ろへ下がれば、そこにはユキノさんがいる。
「FOX3、そのまま圧力を掛けろ」
「了解!」
「……近いです」
「近づいてるからね!」
少しでも距離が欲しい。
Pen ON
《アストラノヴァ》から細長いペン状の機構が展開された。
「……ペン?」
クルミさんが一瞬だけ怪訝そうな顔をする。
何か複雑なものを描いている時間なんてない。私は目の前へ、一気に太い線を引いた。黒い一筆、それだけ。けれど描かれた線はその場へ実体化し、クルミさんの顔の前を横切るように浮かび上がった。
「うわっ!?」
突然視界を塞がれたクルミさんの足が止まる。必要なのは、その一瞬だけだった。その隙に、盾の横を抜ける。
「ちょっと、目潰し!?」
「目には何もしていません!」
「見えなくしたらほぼ同じでしょ!」
今度は横からニコさんが来る。同じように顔の前へ描くのではなく、ショットガンの照準線上へ短い黒線を二本引き、視線と銃口の先を一瞬だけ切った。
「そういう使い方ですか」
ニコさんはすぐにショットガンを僅かに下げ、黒い線の下からこちらを捉え直した。一度目ほどは止まらない。
「視覚妨害だ。FOX3、無理に剥がすな。位置をずらせ」
「分かった!」
もう対応された。
「……早いですね」
《ペン》を解除する。
本当はもっと色々なものを描けるはずのスイッチだ。けれど、この距離では一、二本の線で視界を切るのが精一杯だった。
それでも一瞬は稼げた。客室へ飛び込み、ベッドルームを横切って外壁側へ向かうと、ガラス戸の向こうにバルコニーが見える。けれど、そこへ手を伸ばすより先に、外側をクルミさんの影が横切った。
「……クルミさん」
「今度はここ使わせないよ!」
やはり先回りされている。反対を見ると、客室の入口側ではユキノさんが銃を構えていた。ニコさんの足音も、連結扉を抜けながらこちらへ近づいている。
外も駄目。中も塞がれる。
「では……」
窓の向こうへ目を向ける。
「そこ以外を通ります」
Wheel ON
《アストラノヴァ》からホイール機構が展開された。
「え?」
目を見開くクルミさんを横目に、窓のすぐ下を見る。ホテル外周を横切るように、細い化粧庇が張り出していた。人が歩くための幅ではないけれど、《ホイール》を走らせる接地面として使うだけなら十分だ。
屋上から続く振動でひびの入っていた窓へ《アストラノヴァ》を叩きつけ、外へ抜けられるだけの穴を作る。冷たい風が一気に吹き込んだ。
私は窓枠を越え、展開したホイールを細い化粧庇へ押し当てた。回転と同時に、身体が強く横へ引かれる。
「そこ走るの!?」
「他が塞がれているので!」
化粧庇を走路にして、ホテルの外壁沿いを横方向へ駆け抜ける。窓が一枚、二枚、三枚と後方へ流れていき、その内側では、ニコさんが連結扉を抜けながら客室から客室へ移り、こちらと同じ方向へ先行していた。
「FOX2、そのまま先へ。FOX3は一部屋飛ばして外側へ回れ」
「分かった!」
「はい」
四枚目の窓へ近づく。左太腿が一歩ごとに鋭い痛みを返し、右手だけで《アストラノヴァ》を保持している肩も重い。左上腕も、もうまともに力を入れたくない。
《ホイール》そのものは速い。
「……身体の方が、ついていきませんね」
自分でも聞こえるか分からない声が漏れる。
直後、腹の底へ響く轟音。
『そこなら見えるよ~』
「っ!」
オトギさんの弾丸が、すぐ前方の外壁へ突き刺さった。コンクリートが大きく砕け、化粧庇の一部まで崩れる。破片が顔や肩へ叩きつけられ、ホイールの接地点が一瞬で失われた。
「――!」
身体が外側へ振られる。このまま落ちれば、二十八階と同じことになる。
《ホイール》を解除。本来ならもう少し先まで進むつもりだったけれど、無理だ。予定より一室手前、すぐ横にあった窓へ身体を寄せ、ガラスを蹴り割って、残った縁を避けながら室内へ転がり込んだ。
ニコさんはさらに先の部屋へ回り込んでいる。だから、この部屋だけはまだ空いていた。
床へ落ちた身体を左脚だけで受け止めようとはせず、そのまま転がって衝撃を逃がし、すぐに立つ。
「……本当に、一回限りですね」
新しい手なら、一度は通る。けれど、その一度で終わる。
後ろから足音が近づくより先に、三十階への階段へ向かった。
○
三十階の防火扉を開けると、それまでとは景色が大きく変わった。長い客室廊下ではなく、広いクラブラウンジだ。
外壁側いっぱいに並んだ大窓の前にはソファやローテーブルが置かれ、中央にはグランドピアノ。奥には長いバーカウンターとビュッフェ台が続き、高い天井からは複数の金属リングを組み合わせた巨大なシャンデリアが吊り下げられている。
ただし、もう綺麗なラウンジとは言いにくい。屋上の戦闘が続いているせいで、棚から落ちたボトルやグラスが床へ散らばり、天井材も一部が剥がれている。
巨大なリングシャンデリアも水平を保てておらず、一つのリングだけが他より僅かに傾いていた。
「広いですね……」
広い。それなら逃げやすい。そう考えかけたところで、反対側からクルミさんが出てきた。
「捕まえた!」
「まだです!」
大盾を避けるようにバーカウンターの端を回り込む。けれど反対側からはニコさんが現れ、挟まれた。
Scoop ON
《アストラノヴァ》から大型の掘削バケットが展開され、クルミさんが一瞬だけ首を傾げる。
「それ、ここで何に使うの?」
「こう使います!」
正面から盾を叩くのではなく、その下端へバケットを差し込む。
「え」
そのまま持ち上げた。
「ちょっ!」
クルミさん本人を浮かせるほどではない。それでも、大盾の下側を強制的に持ち上げれば構えは崩れる。
「掬います!」
「何を!?」
「盾です!」
「スコップで!?」
浮いた盾の下へ身体を滑り込ませ、横へ抜ける。そこへニコさんが来た。
《スクープ》では取り回しが悪い。すぐに解除し、身体を寄せながらショットガンの銃口を外へ流す。ニコさんの肘を避け、そのまま足元へ入ろうとしたところで距離を取られた。
その一瞬に、ユキノさんの射撃が来る。私はバーカウンターの裏へ滑り込んだ。石張りの表面へ弾丸が当たり、白い破片が飛ぶ。
すぐ近くには金属製の配膳トレーが落ちていた。左手で拾う。
「出ますよ」
ニコさんがカウンターの端から入ってくる。ショットガンが上がった瞬間、トレーの縁で銃身を横へ叩いた。
「っ」
弾丸を防ぐためではない。ほんの一瞬、銃口の向きを変えるだけ。そのままトレーを手放し、近くのバースツールを蹴ってクルミさんの前へ滑らせる。
「わっ!」
椅子が大盾へ当たり、横へ弾かれた。
「ホテルの物、好き勝手使うね!」
「……後で謝ります!」
「誰に!?」
「ホテルの方にです!」
「そういう問題!?」
会話をしていても足は止めない。グランドピアノの陰へ入ると、ユキノさんの銃弾が外装を削り、黒い木片が飛んだ。
「……本当に、すみません」
誰にともなく呟く。今は、壊さないように戦う余裕まではなかった。
ピアノの反対側へ出ると、正面にクルミさん、左にはニコさん、右にはユキノさん。三方向から塞がれている。
「……これは」
Giant Foot ON
《アストラノヴァ》から効果を投射する。狙ったのは、クルミさんが立っている一帯だった。
「なに――重っ!?」
大盾が一気に床へ引かれ、クルミさんの膝が沈み、盾の下端が床へ食い込んだ。
「これなら――」
横から、ニコさんのショットガンが来る。
「っ!」
身体を捻って避ける。さらに反対側から、ユキノさんの銃声。左太腿の傷のせいで二度目の回避が僅かに遅れ、弾丸そのものは外れたものの、すぐ横のテーブルが砕けて木片が頬へ当たった。
《ジャイアントフット》を使っている間は、《シールド》も《スモーク》も使えない。クルミさんを止め続けるなら、その間に迫ってくる二人へは自分で対処するしかない。
ニコさんがさらに距離を詰める。
「……駄目ですね」
解除。
「あ、軽くなった!」
当然、クルミさんも自由になる。
「もう一回行くよ!」
「来なくていいです!」
大盾が迫る。左腕を出して止めるという選択肢は、もう最初から捨てていた。半歩だけ身体をずらし、盾そのものではなくクルミさんの進行方向を外へ流す。
そこへニコさんの銃床が来た。腕で受けて肘を返すと、ニコさんが下がる。さらにユキノさんの射撃が続き、私はバーカウンターを飛び越えた。
「っ……!」
踏み切った左脚が強く痛み、着地が崩れる。無理に止めず、そのまま床へ転がって立ち上がった。
右肩。左上腕。左脇腹。左太腿。どこも痛い。それでも、まだ動く。
視線を上げる。地上側は三人に塞がれている。そのさらに上には、天井から吊り下げられた巨大なリングシャンデリアがあった。
「……上ですか」
Gyro ON
《アストラノヴァ》から飛行と姿勢制御のための機構が展開され、身体が一気に持ち上がる。
「今度は上!?」
クルミさんの声を下へ残し、複数のリングの間へ入る。下からニコさんとユキノさんが撃ってくるけれど、横へ身体を流し、金属リングそのものを射線の間へ挟んだ。弾丸が表面へ当たり、火花が散る。
「FOX4、上を狙えるか」
『見えてる~』
「それは聞きたくありません!」
直後、屋上から大きな衝撃が伝わった。ホテル全体が揺れ、その後を追うように巨大シャンデリアも大きく振れる。もともと傾いていたリングを支えているワイヤーから、嫌な軋みが響いた。
さらに、腹の底へ響く轟音。オトギさんの弾丸が、支持部近くの天井を抉る。
ワイヤーそのものを撃ち抜いたわけではない。それでも、すでに傷んでいた固定部分には十分だった。一本が外れる。
「……まずい」
リング全体が大きく傾いた。完全に落下はせず、残った支持ワイヤーへぶら下がりながら、巨大な振り子のようにラウンジを横切り始める。
私は《ジャイロ》を解除し、リングへ足を着いた。一瞬だけ乗った金属の輪が、反対側へ向かって大きく振れる。
「そこ!」
クルミさんが下で待っていた。
「分かっています!」
リングが最も大きく振れたところで飛ぶ。けれど、床の着地点には大盾があった。
「っ!」
空中では避け切れない。盾へぶつかり、そのまま押し込まれて、二人まとめてバーカウンター側へ滑っていく。
「今度こそ!」
「まだです!」
盾の端へ肩を寄せる。押し返そうとはせず、腰を落とし、クルミさんの前進へ合わせて身体を横へ逃がすと、盾の角度が僅かに変わった。その隙へ膝を入れる。
「っ!」
クルミさんが半歩下がる。続けた肘は盾で止められたけれど、それで十分だった。
できた隙から横へ抜け、サービス通路へ。その奥の階段から、私は三十一階へ飛び込んだ。
○
三十一階は、高級レストランになっていた。
メインダイニングの天井は高く、窓際には整然と並べられていたはずのテーブルと椅子が散らばっている。奥にはガラス張りのワインセラーがあり、そのさらに向こうにはバーカウンターや個室が続いていた。
ここまで来ると、屋上の影響もかなり目立つ。ワインセラーのガラスには大きなひびが入り、床には何本ものボトルが転がり、照明のいくつかは消えている。
「はぁ……っ」
自分の呼吸がやけに大きく聞こえる。
左脚は一歩ごとに痛み、右肩もほとんど休ませる時間がない。左上腕まで重く、できることなら両腕とも一度下ろしてしまいたかった。でも、まだ終われない。
後ろの階段から足音が聞こえる。
「……来ますよね」
当然のように。
Gatling ON
《アストラノヴァ》からガトリング機構を展開し、階段から最初に出てきたクルミさんへ連射する。
「うわっ!」
前へ出た大盾の表面で、連続する着弾が火花を散らした。
右側の柱からニコさんが出る。銃口を振るとニコさんが引き、その瞬間、左側の個室からユキノさんが動いた。そちらへ振れば、今度は右側でクルミさんが前へ出る。
「……っ!」
再び右へ向ければ、左からニコさんが来る。
火力だけなら押せる。誰か一人へ集中すれば、その人の前進を止めることもできる。けれど、銃口は一つしかない。
「FOX3、そのまま。FOX2は反対へ」
「了解!」
「はい」
ユキノさんの指示に合わせ、三人がこちらの銃口を中心に位置を入れ替えていく。
オトギさんの姿は遠い。それでも、窓側へ出ればすぐに撃たれることだけは、三十階までで嫌というほど分かっていた。
「……本当に」
どうしてここまで綺麗に動けるのだろう。そんなことを考えている間にも、クルミさんが盾を前に距離を詰めてくる。
《ガトリング》を解除し、厨房側へ下がる。
「逃がさない!」
「逃げます!」
扉を抜けた。
○
厨房へ入った途端、戦場が一気に狭くなった。
左右にはステンレス製の作業台が並び、大型冷蔵庫、食器棚、シンク、ラック、配膳ワゴンが狭い通路を作っている。屋上からの振動で落ちた皿やグラスも床へ散らばり、足を運ぶたびに細かな破片が音を立てた。
ここには外壁へ面した窓がない。少なくとも厨房の奥まで入れば、オトギさんの対物ライフルが直接飛んでくる心配はなかった。
その代わり。
「行きますよ」
ニコさん。
「今度こそ止める!」
クルミさん。さらに奥の入口には、ユキノさん。
「……三人でも十分多いです」
ニコさんのショットガンを身体ごと内側へ入って外へ流し、続けて迫るクルミさんの盾には正面から付き合わない。足運びだけで軌道を外し、ユキノさんの射撃が来れば作業台の陰へ身体を沈める。
その瞬間、ニコさんが《アストラノヴァ》へ手を掛けた。
「っ!」
引き戻そうと右肩へ力を入れたところで痛みが走り、さらに横からクルミさんの盾がぶつかった。保持できない。《アストラノヴァ》が手から離れ、金属音を立てながら床を数メートル滑っていった。
「……!」
取りに行こうとすれば、クルミさんが前へ出る。間に合わない。なら、先にこちらを抜く。
盾の正面から外れ、ニコさんの手が伸びるより先に懐へ入る。掌底をかわされれば膝へ繋ぎ、それも防がれたところで身体を低くして足元へ入った。
逆に肩を取られ、投げられる。床へ叩きつけられる前に受け身を取り、その勢いのまま転がって立ち上がった。
ユキノさんの銃口が向く。左手で銃身を押さえるのではなく、手首へ触れて向きだけを外した。発砲と同時に、弾丸がすぐ横のステンレス台へ当たり、大きな音が厨房へ響く。
床には、三十階で使ったものと同じような配膳トレーが落ちていた。反射的に手を伸ばした、その瞬間。
ニコさんのショットガンが、トレーの縁を上から押さえた。
「それ、さっき見ましたよ」
「……ですよね」
すぐに諦め、トレーではなく、隣にあった小型の配膳ワゴンを足で押し出す。ニコさんが横へ避けた間にクルミさんの盾を進行方向ごと流し、作業台へ足を掛けた。
床の先に《アストラノヴァ》。
跳ぶ。
「っ!」
左太腿が痛む。それでも手を伸ばす。まだ少し足りない。身体を床へ落とし、そのまま滑って――右手が、グリップに届いた。
「――取った」
握り直す。すぐ上にはニコさん。撃つ暇はない。《アストラノヴァ》そのものでショットガンの銃身を受け、力比べにせず、そのまま外へ流して距離を作った。
その時、ホテル全体が大きく揺れた。
「っ……!」
天井から粉塵が落ち、棚に残っていた食器が一斉に床へ落ちる。奥の業務用食洗設備から、嫌な金属音が響いた。接続部、給水管――次の瞬間、破損した部分から大量の水が噴き出した。
「わっ!」
水が厨房の床へ広がっていく。排水だけでは追いつかず、薄い水膜が足元を覆い始めた。
私は手元を見る。
「……これなら」
Screw ON
《アストラノヴァ》から大型のプロペラ機構が展開され、ニコさんが目を瞬かせた。
「それ……船のスクリューですよね?」
「はい。本来はそうです」
プロペラを床近くまで下げ、高速回転させる。広がっていた水が一気に巻き上げられた。
「っ!?」
大量の飛沫が厨房いっぱいへ飛び散り、視界が白くなる。軽い紙類や布まで吹き上がり、床へ散っていた小物も水に押されて動き出した。
「そこまで使うんですか?」
「使えるものは、全部使います!」
自分で撒いた水で足元が悪くなるのは、傷んだ左脚にはむしろ不利だ。それでも今は、数秒だけ相手の視界を奪えればいい。
《スクリュー》を解除すると、水しぶきが少しずつ落ちていく。その向こうで、クルミさんたちはもう動いていた。
まだ止まらない。残っているもの――私は《アストラノヴァ》の操作部へ手を伸ばした。
N Magnet ON
続けて、もう一つ。
S Magnet ON
普段なら、一つのスイッチを起動している間に別のスイッチを同時に使うことはできない。けれど、この二つは違う。NとS、二つ揃って初めて、一つの《マグネット》として成立する。
《アストラノヴァ》の両側で機構が連動し、低い振動音と共に厨房内の金属が一斉に震え始めた。
「……!」
ステンレス製のワゴンが横滑りし、ラックが軋み、床へ散っていたトレーや調理器具までまとめて動き出す。それらをそのままクルミさんたちとの間へ引き寄せ、即席の障害物として集めた。
「ちょっ!」
クルミさんの大盾も僅かに引かれ、姿勢がずれる。ニコさんのショットガンとユキノさんの銃も、一瞬だけ横へ流れた。奪えるほど強くはない。けれど、照準と体勢を乱すには十分だった。
「……二つなのに、一つ」
思わず声が漏れた。
「……変わっていますね」
それ以上考えている暇はない。《マグネット》を解除し、積み上がった金属の障害物の脇を抜けて、厨房奥のサービス通路へ走る。
「FOX3、右から回れ!」
「分かった!」
「FOX2はそのまま追え!」
「はい!」
まだ追ってくる。当然だった。
「はぁ……っ、はぁ……」
三十二階へ続く階段へ入る。身体中が痛みを返してくる。それでも、足は動く。
ここまで、新しいスイッチを次々に使ってきた。一つ出しては、その場を抜けて、また次を使う。そして――。
「……これで、一通りですね」
まだ使っていなかった通常スイッチは、もうない。
別に、FOX小隊を倒せなかったことを悔しがる必要はない。私の役目は、あの四人を会談室から引き離し、少しでも長くここへ留めること。十階から、もう三十二階まで引っ張ってきた。なら、その役目自体は果たせている。
でも。
《ランチャー》を使っている間、《レーダー》は使えなかった。《ジャイアントフット》でクルミさんを止めれば、ニコさんやユキノさんへ対応できなかった。《ガトリング》を右へ向ければ左が空き、左へ向ければ右が動いた。
何か一つを選ぶたび、その瞬間は別の何かを諦めなければならない。それなのに、最後の《マグネット》だけは、最初から二つで一つだった。
「……一つでは、足りません」
何が足りないのかは、自分でもまだ分からなかった。スイッチなのか、手なのか、身体なのか。それとも、もっと別の何かなのか。
それに、もう一つ分からないことが残っている。二十五階で私の狙いを見抜いたはずなのに、どうして誰一人、下へ戻らずにここまで追ってきているのか。
答えは出ない。ただ、今はそれでもいい。
後ろから銃声が響いた。
「っ!」
階段の手すりが弾ける。考えるのは後だ。三十二階の防火扉へ手を掛けた。
○
扉の向こうへ入った瞬間、空気が変わった。
三十一階まで続いていた金属音や水音が一度遠ざかり、柔らかい絨毯の敷かれた婚礼フロアが広がる。控室、化粧室、記念撮影用の装飾。屋上から伝わる振動で一部は倒れ、壁には細い亀裂が走っていた。
その奥に、大きな両開きの扉がある。私はそこへ向かった。後ろから、FOX小隊の足音が近づいている。
扉へ手を掛け、押し開ける。
「……」
暗い。最初にそう感じた。けれど、完全な暗闇ではない。
高い天井。中央を真っ直ぐに伸びる長いバージンロードと、その左右に並ぶ長椅子。突き当たりには祭壇があり、その横には大きなパイプオルガンがそびえている。
そして天井と壁いっぱいに、無数の青白い光が浮かんでいた。
「……星?」
本物ではない。結婚式の演出に使うための投影装置なのだろう。
ただ、それも正常には動いていなかった。一部は完全に消え、別の場所では光が不規則に明滅している。屋上から衝撃が伝わるたび、天井に映る星々まで僅かに揺れ、形を崩した。
壊れかけた宇宙。そんな言葉が、なぜか頭に浮かんだ。
足音は、もう扉のすぐ外まで来ている。
私は一度だけ息を整え、《アストラノヴァ》を握り直した。
壊れかけた星空の下で、もう一度構える。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
-
平成二期ライダー要素
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令和ライダー要素
-
劇場版・Vシネマなどの要素
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その他(感想欄で教えてください)