改めて見渡すと、チャペルは思っていたよりもずっと広かった。
入口から祭壇まで、真っ直ぐに伸びるバージンロード。左右に並ぶ長椅子の外側には太い構造柱が立ち、そのさらに外へ細い側廊が続いている。入口の真上には、聖歌隊や撮影のためらしい小さなギャラリーが張り出していた。
入口の脇には、そのギャラリーへ上がる小さな階段と、スタッフ用らしい細い通路も見えた。
祭壇の横には大きなパイプオルガン。天井の中央には、無数のクリスタルを連ねたシャンデリアが吊り下げられている。
天井と壁には、壊れかけた星の投影が今も揺れていた。投影機から伸びる光の筋の中を、細かな埃が銀色にきらめきながら漂っている。天井まで続くその光は、細い天の川のようにも見えた。
長椅子の端には白い装花が飾られ、通路脇には花びらを詰めた籠がいくつも並んでいた。祭壇の上には閉じられた聖書が一冊、天井近くには、挙式の演出に使うのだろう小さな鐘まで下がっている。
会談のためにホテルごと貸し切られていても、婚礼フロアの展示までは片付けられていなかったらしい。
誰もいない結婚式場。
ほんの一瞬だけ、戦場ではないどこかへ迷い込んだような気がした。けれど、本当に一瞬だった。
息を吸うたびに左脇腹が痛み、左太腿は立っているだけで鈍く疼く。右肩は《アストラノヴァ》の重さを支えるだけで精一杯で、左上腕にはもう力を入れたくなかった。それでも、まだ動ける。
私がバージンロードの半ばで扉の方へ向き直ったのと、その扉が開いたのは、ほとんど同時だった。
「……チャペル、か」
ユキノさんの声だった。問い掛けではなく、ただ場所を確かめるような、静かな声。
暗がりの中、入口に四つの影が並ぶ。大盾、ショットガン、小銃、そして長い銃身。
オトギさんまで、中へ入ってきている。窓のないこのチャペルでは、外からの射線は通らない。だから、だろう。十階からここまで、ずっと外側を移動していた人が、初めて私と同じ部屋の中に立っていた。
四人全員が、ここにいる。
「ここで止める。FOX小隊、散開。FOX4、上を取れ」
「了解!」
「はい」
『はーい』
クルミさんが左の長椅子列へ、ニコさんが右の側廊へ散る。ユキノさんは、左の側廊の奥で足を止めた。
オトギさんが入口横の小さな階段へ消え、数秒後には、頭上のギャラリーから長い銃身がこちらを向いた。
「……そうなりますよね」
○
最初の銃声と同時に、チャペルの中が白く染まった。マズルフラッシュが長椅子の列と柱の影を浮かび上がらせ、すぐにまた暗闇へ沈める。残るのは、明滅を繰り返す青白い星と、私の頭上で淡く光るヘイローだけだった。
銃声のたびに、祭壇も、長椅子も、白い花も、一瞬だけ白く浮かび上がっては消える。まるで、誰かが何度も写真を撮っているみたいだった。
柱の陰へ滑り込む。直後、表面の化粧材が弾け飛んだ。
少しでも距離を取るしかない。中央のバージンロードへ出れば、祭壇側まで一気に下がれる。そう考えて一歩踏み出した瞬間、三方向の銃口が同時にこちらを向いた。
ユキノさん、ニコさん、そして頭上のオトギさん。身体を投げるようにして長椅子の陰へ戻った直後、さっきまで立っていた場所の絨毯が、腹の底へ響く轟音と共に大きく弾けた。
中央は駄目だ。正面からも、横からも、上からも見える。遮るものが、何もない。
左右の柱と長椅子を渡り歩くしかない。一つの陰から次の陰へ移るたび、銃弾が背後の木を削り、白い装花を散らしていく。
「暗っ! ここ、結婚式場!?」
「展示用だな。足元に気をつけろ」
クルミさんが長椅子の列に沿って前進してくる。大盾が椅子の背を擦り、ゆっくりと、けれど確実に距離が詰まっていく。
Hammer ON
私は長椅子の端へ回り込み、展開したハンマーで側面を叩いた。床に固定されていなかった一列分の椅子が横へ滑り、クルミさんの盾へまとめてぶつかって止まる。
「椅子まで使うの!?」
「お借りしています!」
「それ、ホテルの人に謝るやつでしょ!」
「後で謝ります!」
《ハンマー》を解除して下がったところへ、右側からニコさんの散弾が来た。身体を捻って避けると、長椅子に掛けられていた白い装飾布が引き裂かれ、ゆっくりと宙を漂っていく。
その布の向こうで、ユキノさんの銃口がもう次の位置を捉えていた。一人を抜いても、すぐ次がいる。ここでも、それは変わらない。
「FOX2、使え」
ユキノさんの短い指示の後、何かが床を転がる音がした。長椅子の下を抜けて、私の足元まで転がってきたのは、丸い金属の塊だった。
「……それ、今まで使っていませんでしたよね」
「使う場所を選んでいただけですよ」
ニコさんの声を聞きながら、私は反対側へ跳んだ。
爆発の圧が背中を叩き、身体ごと宙へ放り出される。長椅子が一列まとめて薙ぎ倒され、籠から溢れた花びらが一斉に舞い上がった。
床に叩きつけられる直前、頭の後ろで何かが外れる感触があった。
○
音が、消えた。
耳鳴りだけが、細く長く続いている。背中を打った衝撃で肺から空気が抜け、すぐには息が吸えなかった。
ここで意識が落ちれば、FOX小隊をここへ留めるものはなくなる。四人は、十階へ戻る。分かっているのに、身体が少しだけ遅れた。
仰向けのまま見上げた天井で、壊れかけた星々がゆっくり回っているように見えた。舞い上がった花びらが投影の光の筋を横切るたび、一枚ずつ小さな星を宿しては、また暗闇へ消えていく。
舞い落ちる花びらに混じって、紫の小さな光片がいくつも漂っていた。私のヘイローから零れたものだ。花びらと光片が、星の光の中で区別がつかなくなっていく。
――あれは、私が決めたことです。
なぜか、その言葉が浮かんだ。一誠に、そう言った。《オーマ》を使ったのは私の意思で、だから結果も全部、私のものだと。
嘘ではなかった。誰かに命じられたわけでもない。あの力を使うと決めたのは、間違いなく私だった。自分で選んだ以上、最後まで自分で背負わなければならない。あの時の私は、本気でそう思っていた。
それから、兵藤家へ戻ってからの日々を思い出す。
朝起きて、食べて、学校へ行く。言われたことをして、聞かれたことに答える。生活はしていたし、皆さんと話してもいた。でも、自分から何かを決めたことは、ほとんどなかった。
――まるで、ロボットみたいでした。
何も感じていなかったわけではない。ただ、決めることを誰かに預けていた。
自分で決めれば、またあの時のように、誰かを傷つけるかもしれない。誰かの言う通りにしていれば、少なくとも、それが私の選んだせいになることはない。
それなのに、あの姿を見た時だけは違った。不知火カヤの姿。――いいえ、カヤの姿をした、ロキ。
あれがおかしいと分かったのは、私だけだった。どうしておかしいのか、なぜ私がそれを知っているのか。そこから説明していたら、きっと間に合わない。だから私は、自分からオーディン様のところへ行った。
あの時の私は、ちゃんと自分で決めていた。
そして、今。この件へ首を突っ込んだのも、ここへ来たのも、FOX小隊を引きつけると決めたのも、全部私だ。だから誰も巻き込まず、最後まで私一人でやらなければならないと思っていた。
何も選ばない私と、何でも一人で背負おうとする私。
怖かった。ただ、それだけだったのだ。
耳鳴りの向こうから、足音が戻ってくる。床に手をつき、身体を起こすと、外れたピンの分だけ編み込みが崩れ、ほどけた一房が肩へ落ちた。
「……まだ、動けます」
自分に言い聞かせるように呟いて、次の柱へ走った。
○
柱の陰へ入った瞬間、腹の底へ響く轟音が表面を抉り、身を隠せる幅が半分になる。すぐに隣の長椅子へ移ると、今度はニコさんの散弾が背もたれを砕いた。
次へ。まだ別の手がある。
Smoke ON
濃い煙がチャペルの中へ一気に広がった。青白い星の光が煙に滲み、長椅子も柱も輪郭を失っていく。
「煙だ。FOX4、上から見えるか」
『うーん……星の明かりで、輪郭だけ~』
その言葉の直後、煙を裂いて銃弾が飛んできた。すぐ横の長椅子が砕ける。正確すぎる。
『あ、そこだね~』
理由は、すぐに分かった。煙の中で、淡い紫の光がぼんやりと滲んでいる。私の頭上の、ヘイローの光だ。暗いチャペルの中では、それだけで私の位置を教えてしまう。
消すことはできない。最初から、ずっとそこにあるものだから。
《スモーク》を解除する。隠れられないなら、動き続けるしかない。煙が晴れていく中、ニコさんが側廊から踏み込んできた。
ショットガンの銃口を《アストラノヴァ》の側面で外へ流し、そのまま肘を返したが、避けられる。続けて足払いへ繋ごうとしたところで、左太腿が言うことを聞かなかった。
「っ……!」
踏み込みが浅い。ニコさんが半歩引くだけで、私の脚は空を切った。
「やっぱり、もう左は踏ん張れませんね」
「……まだ、踏ん張れます」
「無理をしている時の顔ですよ、それ」
言い返す前に、ニコさんの膝が来る。どうにか腕で受けたけれど、その衝撃で身体が後ろへ流れ、祭壇へ続く花のアーチに背中がぶつかった。
白い花が、ばらばらと肩へ降ってくる。アーチが傾き、ゆっくりと倒れていった。
Shield ON
展開した防御機構で弾を受けながら、側廊を祭壇側へ下がる。けれど《シールド》を使っている間は、他の何もできない。前へ出てきたクルミさんの大盾に押され、私は解除して横へ逃げるしかなかった。
「もう休みなよ! その怪我で!」
「嫌です!」
「頑固!」
クルミさんの盾が横から迫り、私は左腕を使わずに身体ごと流してその脇を抜けた。右肩が軋み、左脇腹が引き攣る。
次へ行けばいい。まだ別の場所がある。まだ別の手がある。ずっと、そうしてきた。一つ駄目なら次、それも駄目なら、さらに次。自分一人で答えを出し続ければいい。
けれど、式場の中に残っているものは、少しずつ減っていく。
長椅子は砕け、花のアーチは倒れ、白い布は銃弾で裂けて床へ垂れ下がっている。さっきまで使っていた柱も、オトギさんの弾丸でコンクリートの内側まで剥き出しになっていた。
「FOX2、直撃は避けろ。止めればいい」
二つ目のグレネードが通路脇の籠ごと長椅子を吹き飛ばし、白や淡い桃色の花びらが一斉に舞い上がった。天井から落ちる青白い光の筋を横切るたび、一枚ずつ、小さな星を宿したように光る。
「……綺麗」
思わず口にした直後、銃弾が顔の横を抜けた。
髪の横で、小さな金属音がする。床へ転がったのは、編み込みを留めていた二本目のピンだった。まとめていた髪が緩み、背中へ落ちていくのが分かる。直している暇はない。
爆風がパイプオルガンの管へ流れ込み、不揃いな音が重なって、一瞬だけ和音のように響いた。
祭壇の上から聖書が転がり落ちる。爆発で裂けた白い装飾布の端に火がつき、それが床に開いた聖書のページへ重なった。
天井のスプリンクラーは動かない。屋上の衝撃で、設備のどこかが止まっているのだろう。壁際で、赤い警報灯だけが点滅を繰り返していた。
赤い警報灯、青白い星、紫のヘイロー、白いマズルフラッシュ。色が入れ替わるたびに、式場の姿まで違って見えた。
直後、天井のさらに上から大きな衝撃が響き、シャンデリアが揺れてクリスタル同士が細かな音を立てた。私は反射的に天井を見上げていた。
屋上で、皆さんが戦っている。ロキと、フェンリルと。一誠も、部長たちも、あの衝撃のすぐ近くにいるはずだ。今の揺れが誰の攻撃だったのか、誰が無事なのか、ここからでは何一つ分からない。
行かなければ――そう思った。
けれど、ここを離れれば、四人は十階へ戻る。屋上へ行くことと、ここに留まること。私には、その両方はできない。身体は、一つしかない。
横へ走りながら、ふと四人の動きが目に入った。
クルミさんは、一度も振り返らずに前へ出る。後ろにニコさんがいると、分かっているから。
ニコさんは、自分の受け持ちから目を離さない。全体はユキノさんが見ていると、知っているから。
オトギさんは、ギャラリーから一歩も動かない。三人が必ず射線を作ると、疑っていないから。
そしてユキノさんは、自分で盾を持つことも、自分で狙撃することもしない。全部を一人で片付けようとは、一度もしていない。
――この人たちは、ずっとそうだった。
二十五階で、ユキノさんは私の狙いを見抜いていた。それなのに、誰も十階へ戻らなかった。
理由は、今も分からない。でも、この四人は「自分がそこへ行かなければならない」とは考えていない。
だから、あんなに綺麗に動ける。今までの私は、それを一度もしていなかった。
天井の星は、まだばらばらに瞬いていた。
上で皆さんが戦っているなら、私も行かなければ。ここでFOX小隊を止めているなら、最後まで私一人で止めなければ。どちらも、自分がそこにいなければならないと思っていた。
頭上で、重い銃声が弾けた。オトギさんの弾丸がシャンデリアの固定部を掠め、外れたクリスタルがいくつも落ちてくる。投影の光を弾いた欠片が、壁に小さな虹をいくつも散らした。
虹は、生まれたそばから銃声の閃光に掻き消されていく。横へ避けたつもりが左脚は思ったほど動かず、細かな破片が腕と頬を浅く裂いた。
痛みも、熱も、呼吸も、全部ある。それでも、まだ動いている。
――だから、何なのだろう。
まだ動けます。さっきも、そう言った。動けるから、自分がやる。立てるから、自分が背負う。ずっと、その繰り返しだった。
では、動けなくなるまで続ければ、それで正しいのだろうか。
答えを考える前に、三発の銃声が重なった。最後に残っていた祭壇脇の柱へ飛び込む。けれど、ギャラリーから放たれたオトギさんの弾丸が、その柱の角をまとめて削り取った。
もう、隠れる場所がない。
祭壇の前、すぐ足元で、三つ目のグレネードが跳ねた。
○
爆風が背中を押し、踏ん張れずに膝をついた瞬間、髪の奥で最後の留めが外れた。
編み込まれていた髪の大半が、一気にほどけていく。肩から背中を滑り、腰を越え、床に届くほどの長さで、足元のバージンロードへ静かに広がった。
片側に残った細い編み込みだけは完全には解けず、時計仕掛けの髪飾りもそこへ引っ掛かったまま残っている。
また、音が遠のいた。今度は、さっきより深い。銃声が消え、爆音が消え、耳鳴りもやがて細くなっていく。残ったのは、オルガンの管が唸る低い音と、自分の鼓動だけだった。
壁際の赤い明滅が、いつの間にか自分の鼓動と重なっていた。
すべてが、ゆっくりと降っていた。
花びら。シャンデリアから剥がれ落ちたクリスタルの欠片。燃える紙片と、灰。天井からこぼれるコンクリートの粉塵。青白い星の光が、その一つ一つを照らしては通り過ぎていく。
床に落ちたクリスタルの欠片が、ちりん、と小さく鳴る。遠い場所で、誰かが鈴を振っているような音だった。
床へついた手の先に、細長い硝子の欠片が落ちていた。星の光を受けたその表面に、誰かが映っている。
見慣れない女の子だった。煤で汚れた顔に、頬の浅い切り傷。床まで届く長い髪と、頭上に浮かぶ紫の光の輪。
誰だろう。最初は、本当にそう思った。
「……私」
声を出すと、硝子の中の子も唇を動かした。
……私は、何者なのだろう。
どうしてこんな身体なのか。どうしてヘイローがあるのか。どうして、知らないはずのことを知っているのか。何も覚えていない自分が、本当に転生したのかどうかさえ、まだ分からない。
分からないことばかりだ。けれど、一つだけ分かったことがある。
私は、弱い。
その言葉は、床へ落ちた。床で砕けたクリスタルの欠片が、いくつも星の光を拾っていた。
時間を止めることはできても、身体は一つしかない。ここにいながら屋上へは行けないし、傷ついた人を全員治すこともできない。知らない場所で起きていることを、全部知ることもできない。
天井の向こうから、また振動が伝わってくる。その向こうにいる人たちの顔が浮かんだ。
一誠。裕斗。部長。朱乃先輩。それから――ここまで一緒に戦ってきた、皆さん。
以前なら、行かなければと思ったはずだった。私が行かないと、と。でも、今は違う言葉が浮かんだ。
皆さんなら、大丈夫です。
それは、そうであってほしいという願いではなかった。皆さんが何度倒れても、自分で立ち上がってきたのを、隣で見てきた。だから、そう思えた。
自分が何者なのかは、まだ分からない。でも、誰を信じたいかは分かる。
それなら、選べる。
「……私は、弱いです」
声は、ほとんど自分にしか聞こえなかった。
「一人では、できないことの方がずっと多いです」
花びらが一枚、星の光を宿したまま、ほどけた髪の上へ落ちる。
「だから、皆さんを信じます」
屋上から、また振動。
「離れていても、何が起きているのか分からなくても――私は、皆さんとの繋がりを手放しません」
燃える紙片が、目の前をゆっくりと横切っていく。
「誰かに言われたからではありません」
あの時と、同じ言葉。
「――これは、私が決めたことです」
息を吸う。ヘイローから零れた紫の光片が、ほどけた髪の上へ一つ、また一つと降りていく。
「誓います」
頭上で、ばらばらだった星の一つが、瞬きを止めた。
その瞬間、屋上からひときわ大きな衝撃が伝わり、チャペル全体が震えた。天井近くに下がっていた小さな鐘が揺れる。
カァン――と、一度だけ。
誰も鳴らしていない鐘の音が、壊れかけた星空の下に響いた。
その余韻に、オルガンの管が一本ずつ応えるように震える。誰も弾いていないのに、チャペルの中に、低く長い和音が満ちていった。
○
頬を、熱いものが掠めた。銃弾だ。
途端に、すべての音が戻ってくる。銃声、爆発の残響、警報、クルミさんの足音、ユキノさんの指示。
《アストラノヴァ》を握り直してタッチパネルへ目を落とすと、その奥で、今まで一度も点いたことのない表示が灯っていた。
四十番目。それまでずっと沈黙していた、最後の場所。指が、自然にそこへ伸びる。
Cosmic ON
電子音声と同時に、《アストラノヴァ》の表面を蒼白い光のラインが走った。操作パネルに並ぶスイッチの表示が一つ、また一つと灯り、光の線で結ばれていく。
見上げると、天井の星も同じだった。
不規則に明滅していた星々が、一つずつ瞬きを止めていく。星と星の間に細い光の線が引かれ、一つずつ別々だった光が繋がって、壊れかけていた空にいくつもの星座が浮かび上がった。
天井から伸びた光の線が、ほどけた髪を伝って流れていく。一本一本の髪が、星座の続きを描く細い光の糸のように見えた。
そして、私の中にも何かが満ちてくる。熱――けれど、火傷するような熱ではない。身体の奥から、一気に満ちてくるような熱だった。
重かった呼吸が、少しだけ楽になる。右肩の痛みも、左脚の痛みも、消えたわけではない。傷そのものは、何も治っていない。ただ、遠くなった。
《オーマ》の時とは違う。あれは、私に選ばせようとする力だった。これは、私が選んだことに応えてくれている。
Launcher ON
多連装の発射機構が展開される。ここまでは、いつも通りだった。
四人の位置を知りたい――そう思った指が、無意識に別の表示へ触れる。
《ランチャー》が消える。そのはずだった。
消えない。
Radar ON
もう一つの表示が、同時に灯った。
「……え?」
視界の端に、レーダーの像が重なる。左の長椅子の陰にクルミさん、右の柱にニコさん、左の側廊にユキノさん、そして頭上のギャラリーにオトギさん。四つの光点に、そのまま《ランチャー》の照準が合わさっていく。
二十九階では、できなかったこと。今は、できる。
放った四発のミサイルが、それぞれ別の軌道を描いて飛ぶ。クルミさんの盾の前、ニコさんの柱の根元、ユキノさんの足元、そしてギャラリーの手すり。
四つの爆発が、ほとんど同時に咲いた。
「うわっ!?」
「――全員に、同時に?」
『わっ、ちょっと~!』
一人を止めれば、別の誰かが来る。ずっとそうだった。けれど今だけは、四人全員の足が同じ瞬間に止まっている。
私は、祭壇に背を向けた。目の前には、真っ直ぐに伸びるバージンロード。最初に駄目だと判断した、遮るものが何もない中央。
そこへ、自分から一歩踏み出す。
誓いを終えたら、来た道を戻る。隣には誰もいない。それでも、星座は私の後ろからついてきた。
走り出す。ほどけた髪が背中でなびいた。結い直す時間はない。それでいい。
最初に立ち直ったのは、やはりクルミさんだった。爆煙を割り、大盾がバージンロードの真ん中へ立ち塞がる。
「通さないってば!」
三つ目の表示に指を伸ばしかけて、止める。まだ、そこまでは届かない気がした。
《ランチャー》を解除する。《レーダー》は、消えない。
Hopping ON
跳躍補助機構が展開され、身体が強く上へ運ばれる。レーダーの像の中で、ニコさんの光点が右から、ユキノさんの光点が左から寄ってくるのが見えた。
だから、真上へ跳ぶ。大盾の上を越え、二人の射線が交わる前に、その向こうへ。
着地した瞬間、左太腿が悲鳴を上げた。それでも、今は痛みが遠い。そのまま前へ転がり、勢いを殺さずに立ち上がる。
頭上から、花びらとクリスタルの欠片が降ってくる。燃える紙片と、火花も。祝福と戦場が一緒になって降り注ぐ中を、私は入口へ向かって駆けた。
髪に絡んでいた花びらが、駆けるたびに一枚ずつ零れていく。まるで、通った道に花を撒いているみたいだった。
「……花嫁さん、みたい」
クルミさんの声が聞こえた気がした。その意味を考える前に、私はもう次の一歩を踏み出していた。
『……きれいだね~』
頭上のギャラリーから届いた声は、いつもより少しだけ遅かった。
「FOX3――」
ユキノさんの指示が、ほんの僅かに遅れる。
その僅かな隙間を、私は一直線に抜けた。入口の横、婚礼スタッフ用の通路へ。
結ばれた星座の下を、もう振り返らずに。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
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平成二期ライダー要素
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令和ライダー要素
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劇場版・Vシネマなどの要素
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その他(感想欄で教えてください)