「ミライさん、下がってください!」
ミヤコさんは、こちらを振り返らなかった。短機関銃をFOX小隊へ向けたまま、背中越しに声だけが飛んでくる。
少し前、私は一度、この人たちを探し回っている。だから見間違えるはずがなかった。
「でも――」
最後まで、言わせてもらえなかった。
「FOX4」
『りょーかい~』
ユキノさんの声の直後、腹の底へ響く轟音が走った。
「RABBIT4!」
「はいっ!」
ミユさんが床を蹴る。ほんの一瞬前まで頭があった場所を対物弾が通過し、その後ろのテーブルが中央から吹き飛んだ。砕けた木片が宙を舞う中、ミユさんは横へ転がりながら狙撃銃を肩へ引き上げる。
一発。
返された銃弾がラウンジを斜めに横切り、オトギさんが身を隠していた柱の角が弾けた。その姿が完全に見えなくなるより早く、二発目の轟音が響く。
「FOX3、正面」
「了解!」
「RABBIT2、前!」
「了解!」
ほとんど同時に、クルミさんとサキさんが動いた。
クルミさんが大盾を前へ突き出す。その正面から、サキさんは退かなかった。大型の機関銃が連続して火を噴き、銃弾が盾の表面へ次々と叩きつけられる。甲高い金属音と火花を撒き散らしながら、それでもクルミさんは止まらない。
「うおおおっ!」
最後の数歩を一気に詰め、そのまま盾を振り抜いた。サキさんが直前で身体をずらすが、避けきれない。盾の縁が肩口へ激突し、身体が横へ飛んだ。
「サキさん!」
低いテーブルを一つ巻き込み、ソファへ背中から突っ込む。今の私なら、立て直すだけでも時間が掛かるような衝撃だった。
けれど。
「まだだ!」
ソファが後方へ倒れるより先に、サキさんはもう身体を起こしていた。肩を一度回しただけで機関銃を構え直し、今度は至近距離から撃ち返す。
「っ!」
数発が盾を外れ、クルミさんの肩や脇腹へ叩き込まれた。身体が僅かに揺れる。それでも足は止まらず、大盾を横へ振って銃身そのものを払い除けた。
その直後、クルミさんの背後からニコさんが飛び出す。
「FOX2、右から入れ」
「はい!」
ショットガンの銃口がサキさんへ向く。けれど、その横から一条の銃火が走った。
「させません」
ミヤコさんだ。ニコさんが身体を翻して床へ滑り込み、さっきまで胸があった場所を通過した弾丸が、バーカウンターへ穴を穿つ。
「FOX1、RABBIT1を抑える」
そこへユキノさんの銃口が向き、乾いた銃声が連続した。ミヤコさんは横へ走りながら撃ち返し、二人の間を何発もの銃弾が交差する。その途中へニコさんが割り込み、さらにサキさんが追いかけた。
私は、一歩だけ後ろへ下がった。
速い。三十六階までずっと戦ってきたFOXの動きは、知っているつもりだった。でも、RABBIT小隊の三人が加わった瞬間、戦場そのものが別の形へ変わっている。
サキさんが前へ出ればクルミさんが止め、ニコさんが横から崩そうとすればミヤコさんが射線を入れる。そのミヤコさんをユキノさんが狙えば、今度はサキさんがそちらへ火力を向ける。
離れた場所では、ミユさんとオトギさんが、互いの姿すらほとんど見せないまま撃ち合っていた。
腹の底へ響く轟音。伏せたミユさんのすぐ横で、対物弾が床へ突き刺さり、カーペットとその下の床材が大きく抉れる。その破片の中から、ミユさんの狙撃銃が一度だけ火を噴いた。
遠くで、何かが砕ける音。
『……危ないな~』
「位置変更を確認しました」
そう小さく呟いた時には、ミユさんはもう次の照準へ移っていた。
その中で、ユキノさんの弾丸がサキさんの胸元と肩へ数発命中する。それでも、止まらない。
「RABBIT2、左へ!」
「了解!」
サキさんは身体を捻りながら機関銃を撃ち返し、ソファを蹴って一気に位置を変えた。次の瞬間には、その場所へオトギさんの対物弾が飛び込んでいる。
「……すごい」
思わず、声が漏れた。
同じ銃撃戦なのに、私がFOXと戦っていた時とはまるで違う。クルミさんの盾がサキさんを吹き飛ばしても、サキさんの銃弾がクルミさんへ何発も入っても、ミユさんとオトギさんが互いの遮蔽物ごと撃ち抜いても、誰も止まらない。
その頑丈さは、私も知っている。けれど今の私は、もうそれを当てにできるほど残っていなかった。
「ミライさん、今は下がっていてください!」
「……はい!」
反射的に返事をして、大窓から離れる。正直、助かった。
手の中の《アストラノヴァ》はまだ熱く、腕も重い。左脚も、踏み込むたびに鈍い痛みが走る。ここへ来るまでに負った傷も、疲労も、消えたわけではない。
RABBIT小隊が来てくれたのなら、今は任せる。
そう思った。
思った、のだけれど。
○
「FOX3、RABBIT2を押し切れ!」
「任せて!」
クルミさんが、再びサキさんへ突っ込んだ。
サキさんが正面から機関銃を撃ち、盾に火花が散る。そのまま横へ抜けようとしたところには、ニコさんがいた。
「そこです」
ショットガンが持ち上がり、サキさんが一瞬だけ止まる。前にはクルミさん、横にはニコさん。ミヤコさんはユキノさんと撃ち合っていて、ミユさんはオトギさんを抑えている。
なら。
「……ここですね」
気づいた時には、《アストラノヴァ》を持ち上げていた。
Net ON
撃ち出したネットが、クルミさんの足元へ広がる。
「うわっ、またこれ!?」
盾を立てて踏み越えようとしたところへ、さらに照準をずらす。
Winch ON
ネットへ絡んだワイヤーを横へ一気に引くと、クルミさんの体勢が大きく崩れた。
「ちょっ――!」
その一瞬を、サキさんは逃さなかった。
「助かる!」
床を蹴ってニコさんの射線から抜け、そのままクルミさんの盾の横へ回り込んで機関銃を連射する。
「痛っ、痛いって!」
「戦闘中だ!」
「知ってる!」
クルミさんが盾を振ってサキさんを追い払う。私はさらに一歩、前へ出た。
「ミライさん!?」
「援護します!」
「いえ、今は――」
「FOX1、前を見ろ」
ユキノさんの弾丸が、ミヤコさんの言葉を断ち切った。ミヤコさんは即座にそちらへ銃を向け直す。私へ何か言っている余裕は、もうなくなったらしい。
なら、できることをする。《レーダー》へ、意識を向ける。
七つの反応。その間にいる私。これまで追い続けてきた四つと、新しく加わった三つの位置関係が、一気に頭へ入ってくる。
ニコさんがサキさんの後ろへ回ろうとしている。ユキノさんは、ミヤコさんを正面へ固定しようとしている。クルミさんが、サキさんへ再接近。そしてオトギさんは――位置を変えた。
「ミユさん、右奥です!」
「確認しています!」
返事と同時に、ミユさんが発砲した。ほとんど間を置かず、腹の底へ響く轟音が返ってくる。二発が空中ですれ違う。
ミユさんのすぐ横の柱が大きく抉れた。破片を浴びながら、彼女は床へ伏せる。オトギさんの方でも、狙撃位置にしていたカウンターの一部が砕けていた。
「FOX4、後退」
『は~い』
「RABBIT4、追わなくていいです。射線だけ切ってください」
「了解です」
「FOX2、中央へ。FOX3はRABBIT1へ切り替えろ」
「はい!」
「了解!」
ミヤコさんとユキノさんの声が飛ぶたびに、人の配置が変わる。
サキさんとクルミさん、ミユさんとオトギさん、ミヤコさんとユキノさん。そう見えた組み合わせが、一瞬後には全部崩れていた。
クルミさんがミヤコさんへ、ニコさんがサキさんへ。ユキノさんの弾丸がミユさんへ向かい、それをサキさんが火力で押さえる。
さらに、オトギさんがサキさんを狙った。
Shield ON
私が、その射線へ割って入る。
青白い防御機構へ対物弾が激突し、衝撃が腕から肩へ抜けた。身体が後ろへ押される。でも、倒れない。
「ミライさん!」
「大丈夫です!」
そう答えた直後、目の前へ大盾が迫った。
「またあんたも来るの!?」
「はい!」
「はいじゃない!」
クルミさんが叫びながら盾を振る。私は《エアロ》で横へ身体を押し、紙一重でその軌道から抜けた。盾が床へ激突し、細かな破片が跳ね上がる。
そこへ、サキさんが突っ込んできた。
「下がれ!」
「そっちが!」
二人が、真正面からぶつかった。サキさんが銃身を盾の縁へ引っ掛けるようにして押し返し、クルミさんはそのまま身体ごと前へ出る。足元の床が軋んだ。
その横を、ニコさんが抜ける。
「ミヤコさん!」
「見えています!」
ミヤコさんの銃口がニコさんへ向く。けれど、その瞬間にはユキノさんが撃っていた。ミヤコさんの胸元で数発が弾け、身体が半歩だけ後ろへ滑る。それでも銃口はぶれず、ニコさんへ短く連射した。
ニコさんがソファの陰へ飛び込む。
N Magnet ON
S Magnet ON
気づいた時には、指が動いていた。床に散っていた金属片と、バーカウンター脇のワゴン、脚部に金属を使った家具が一斉に動き出し、ニコさんが飛び込んだソファまでが浮き上がる。
「また磁石!」
金属製のワゴンがユキノさんとニコさんの間へ滑り込み、射線を塞いだ。
ユキノさんがすぐ横へ移動する。その進路へサキさんの弾丸が走り、ユキノさんはテーブルを蹴って身体を投げ出しながら回避した。ところが、そのテーブルが磁力に引かれて、途中から軌道を変える。
「……っ!」
ユキノさんが銃床でそれを弾き、弾かれたテーブルが今度はサキさんの前へ飛ぶ。
「邪魔だ!」
サキさんが蹴り上げた。宙へ浮いたテーブルの下を、ニコさんが滑り抜ける。
「いただきます!」
至近距離から、ショットガン。サキさんが腕で顔を庇い、発砲の衝撃で数歩後ろへ押された。それでも倒れず、逆に機関銃の銃身を横薙ぎに振る。
「わっ!」
ニコさんが屈み、その頭上を銃身が抜けた。そこへ、クルミさんの盾。
「ニコ!」
「はい!」
伏せたニコさんの上をクルミさんの大盾が通過し、その正面がサキさんへまともに入った。
轟音。サキさんの身体が床から浮き、数メートル飛んで壁際のソファへ突っ込む。
「サキさん!」
「……っ、この程度!」
サキさんが即座に起き上がる。その間に、ミヤコさんがクルミさんへ横から銃弾を浴びせた。
「っ、今度はそっち!?」
「RABBIT2から離れてください!」
「嫌だって言ったら!?」
「撃ちます!」
「もう撃ってる!」
弾丸を盾で受けながら、クルミさんが旋回する。ミヤコさんへ向かおうとしたところへ、ユキノさんの声が飛んだ。
「FOX3、左へ避けろ!」
「え――」
クルミさんが反射的に踏み込んだその脇を、オトギさんの対物弾が通り抜けた。
標的は、ミヤコさん。
「危ない!」
Shield ON
青白い防御機構へ、真正面から対物弾が激突した。視界が白く弾ける。
「くっ……!」
腕が痺れる。熱いというより、グリップを握っている感覚そのものが、少し曖昧になってきていた。
「ミライさん、無理をしないでください!」
「まだ大丈夫です!」
「そういう問題では――」
「RABBIT1!」
サキさんの声に、ミヤコさんが即座に振り向いた。ニコさんが、すでに目の前まで来ている。
ショットガンと短機関銃、至近距離で二つの銃口が交差した。互いに身体を捻りながらの発砲で、散弾の一部がミヤコさんの肩を叩き、弾丸がニコさんの脇腹を掠める。
二人とも、そのまま踏み込んだ。ニコさんの銃床をミヤコさんが腕で受け、膝を入れようとしたところへ、クルミさんが横から突っ込んでくる。
「RABBIT1!」
サキさんが走り、クルミさんの盾へ肩からぶつかった。また、轟音。二人が互いに押し合う。
そこへユキノさん。そのユキノさんへ、ミユさんの一発。ユキノさんが頭を下げ、弾丸が背後の壁へ突き刺さった。
『RABBIT4、見えてるよ~』
「こちらもです」
ミユさんが伏せた次の瞬間、彼女がいた位置の床が吹き飛ぶ。舞い上がる破片の中を後ろへ転がりながら、ミユさんはもう一発撃ち返していた。
誰か一人を見ているだけでは、何が起きているのか追い切れない。
私は《レーダー》へ意識を集中した。一つが前へ出れば、別の一つが横へ。そこを三つ目が狙い、四つ目が潰す。五つ目がその隙間へ入り、六つ目が押し返す。そして私がそこへ一つ加えるたびに、また全部が変わっていく。
「……」
不思議だった。
三十七階へ来るまで、私はずっと、自分の手札を増やそうとしていた。けれど今は、その必要がなかった。
全部やらなくていい。誰かが押されているなら、そこだけ埋めればいい。
「ミユさん!」
「はい!」
オトギさんの射線へ《シールド》を差し込み、その陰からミユさんが一発。
「サキさん、右です!」
「了解!」
ニコさんの足元へ《ネット》を撃ち、サキさんが横へ抜ける。
「ミヤコさん、ユキノさんはお願いします!」
「――分かりました!」
ユキノさんとの間へ《エアロ》で煙を流すと、ミヤコさんはその一瞬で位置を変えた。
一つずつ、今必要なことだけをする。それで、戦場は動いた。
けれど。
「……また!」
クルミさんだけは、なぜかさっきから、私を見るたびに声が大きくなっている。
「今度は何!?」
「まだ何もしていません」
「その構えがもう嫌なの!」
「……?」
「首傾げないで!」
そんなことを言われても困る。私はクルミさんを敵だと思って戦っているのだから、使えるものを使うのは当然だった。
「FOX3、余所見をするな」
「してないって!」
その直後、サキさんの蹴りが盾へ入る。
「くっ!」
クルミさんが一歩下がり、サキさんが追う。ニコさんがその背後へ、ミヤコさんがニコさんへ、ユキノさんがミヤコさんへ。オトギさんがミヤコさんの射線を狙い、ミユさんがそのオトギさんを抑える。
そして、私は。
Aero ON
床を蹴り、熱を持った《アストラノヴァ》に身体を引かせるようにして、一気に中央へ入った。
「ミライさんまでですか!?」
「はい!」
「皆さん、元気ですね……!」
「ニコ、左!」
「はい!」
ショットガンがこちらを向く。
Shield ON
衝撃を受け、そのまま身体を回す。
Net ON
撃ったネットをニコさんが飛び退いて避けた。床へ落ちる前に、
Winch ON
横へ引く。網は、そこへ走り込んできたクルミさんの盾へ絡みついた。
「なんで私!?」
「近かったので!」
「最悪!」
クルミさんが力任せにワイヤーを引きちぎろうとし、その隙へサキさんが突っ込む。二人がまたぶつかった。
ミヤコさんとユキノさんの銃撃が交差し、ミユさんとオトギさんの狙撃が行き交う。ニコさんが中央へ滑り込み、私は空いた場所へ《シールド》を入れる。
銃声。盾の激突。対物ライフルの轟音。吹き飛ぶ家具と、砕ける床。夜風と、月光と、硝子。
全部が、一度に混ざり合った。
その時だった。
――轟音。
今までとは比べものにならないほど大きな衝撃が、屋上から落ちてきた。
三十七階そのものが大きく揺れ、天井から細かな埃が降る。残っていた照明が、一度だけ激しく明滅した。
「っ……!」
それでも、誰も姿勢を崩さない。
ただ、何かが変わった。
その時になって、初めて気づいた。さっきまで三十七階の空気には、何か薄い膜のような圧迫感が張り付いていたらしい。
それが、ふっと上へ引いた。
次の瞬間。
「――止めろ」
「RABBIT小隊、射撃停止」
ユキノさんとミヤコさんの声が、ほとんど同時に響いた。
銃声が、消えた。
サキさんはクルミさんの盾へ機関銃を押しつけたまま。クルミさんは盾を振り抜く寸前。ニコさんのショットガンはミヤコさんへ、ミヤコさんの短機関銃はニコさんへ。遠くでは、ミユさんとオトギさんが互いを照準に収めている。
全員が、さっきまでとまったく同じ戦闘姿勢のまま。なのに、誰も撃たない。
「…………え?」
熱を持った《アストラノヴァ》を構えたまま、私は一人だけ周囲を見回した。
何が起きたのか、分からない。
たぶん。
この場で分かっていないのは、私だけだった。
「もういい。下ろせ」
最初に動いたのは、ユキノさんだった。その一言で、さっきまでこちらへ向けられていたFOX小隊の銃口が一斉に下がる。
「RABBIT小隊、警戒解除。2、4も武器を下ろしてください」
「了解」
「りょ、了解です」
サキさんとミユさんまで、それぞれ構えていた銃を下ろした。そして最後に、全員の視線が《アストラノヴァ》を構えたままの私へ集まる。
「ミライさんも大丈夫です」
「……何がでしょうか」
ミヤコさんが、僅かに言葉を止めた。
「戦闘は終了しました」
「どうしてですか?」
意味が分からないままユキノさんを見ると、彼女はいつもの変わらない表情で答えた。
「ロキの観測が屋上へ移った。これ以上、続ける必要がなくなった」
「続ける必要が……?」
「ああ」
「何をですか?」
「芝居をだ」
今度こそ、言葉が止まった。
「……芝居?」
「そうだ」
「FOX小隊は……ロキ側へ寝返っていないんですか?」
「最初からそのつもりはない」
あまりにも簡単に返ってきた答えに、私はしばらくユキノさんの顔を見つめた。冗談を言っているようには見えない。ニコさんも、少し申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
「騙してしまってすみません、ミライさん」
『ごめんね~』
「……最初から?」
「最初からだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で、ずっと固まっていた何かが少しだけほどけた。
「……よかった」
自分でも気づかないほど、小さな声だった。
十階からここまで、何度も撃たれ、追いかけられ、何度も本気でぶつかった。それでも、この人たちが本当にロキの側へ行ったわけではなかった。そのことだけは、素直に安心できた。
けれど。
「では……どうして、誰も十階へ戻らなかったんですか?」
「戻る必要がなかった」
ユキノさんは即答した。
「十階は別に任せていた。我々があそこへ戻れば、それこそ不自然だったからな。それに、ロキの前では、お前を追い続ける必要もあった」
「……別に」
三十二階で考えたことを思い出す。この人たちは、自分の見ていない場所は仲間が埋めると、少しも疑っていなかった。
あの時の考えは、間違っていなかったらしい。
「では、今のRABBIT小隊との戦闘も……?」
「敵対しているように見せるためだ」
「……あれが?」
「勘違いするな」
ユキノさんが続ける。
「芝居だったのは敵対関係だけだ。戦闘そのものは本気だった」
私はサキさんを見る。クルミさんの大盾で、何度も吹き飛ばされていた。ミユさんは、オトギさんと対物ライフルを撃ち合っていた。ミヤコさんの肩や胸元にも、ユキノさんの銃撃を受けた跡が残っている。
「……本気だったんですか?」
「はい」
ミヤコさんは、普通に頷いた。
「では、事前に打ち合わせを?」
「していません」
「え?」
「FOX小隊の意図について、事前の連絡はありませんでした」
「では……あの公園で会った時にも?」
「知りませんでした」
少し前、ほとんど願望に近い推測だけを頼りに探し回り、ようやくRABBIT小隊を見つけた公園。あの時点でも、FOX小隊のことまでは知らなかったらしい。
「領域へ侵入するまでは、FOX小隊を敵性と判断していました。それとは別に、通信を含めてロキに観測される前提で行動しています」
「それなのに、突入してから……?」
「迎撃を受けて、状況を判断しました」
「その場で?」
「はい」
「こちらも同じだ」
ユキノさんまで、平然と答えた。
RABBIT小隊が窓を突き破り、FOX小隊が撃つ。それを見て、その場で互いの意図を察し、本気で撃ち合い始めた。どう考えても、私には真似できそうにない。
そして最後に、一つだけ嫌な疑問が残った。
「では……私は?」
一瞬だけ、誰も答えなかった。その間で、なんとなく答えが分かってしまった。
「お前には何も知らせていない」
「……最初から最後まで?」
「ああ」
私は、ゆっくりと《アストラノヴァ》を下ろした。
「つまり私は、皆さんが芝居をしている間……本当にFOX小隊を倒そうとしていたということですか?」
「そう!」
それまで黙っていたクルミさんの声が、突然ラウンジに響いた。
「そうなんだよ! やっとそこまで来た!?」
「……クルミさん?」
クルミさんは大盾を床へ置くと、今度はこちらへ向き直った。
「じゃあ私の話していい!?」
「はい?」
「まずプール!」
「……プール?」
「私を落としたよね!?」
「落としました」
「そのあと電気流したよね!?」
「流しました」
「即答するな!」
「ですが、皆さんを敵だと思っていましたので」
「それで全部済ませるなぁ!」
クルミさんの声が、一段大きくなった。
「こっちはそのあともずっと最前線だったんだよ!? 追いかけて! 階段上って! 盾で受けて! 煙! 家具! 磁石! ネット! ワイヤー!」
「はい」
「途中から能力まで増えた!」
「増えましたね」
「七個まとめて盾に叩き込んできたよね!?」
「はい」
「次の階では八個!」
「はい」
「最後の最後に、またネットとワイヤー!」
「近かったので」
「そういう問題じゃない!」
「待て」
横から、サキさんの声が入った。
「七つ?」
「はい」
「七種類の能力を同時に使ったのか?」
「正確には、複数の効果を《アストラノヴァ》へ重ねました」
「……八つも?」
「はい」
サキさんが黙った。その隣では、ミユさんがいつの間にか少しだけ後ろへ下がっている。
「ミユさん?」
「な、なんでもありません……」
「今、下がりましたよね?」
「下がってません……」
そう言いながら、もう少しだけ離れた。
「ほら! 普通そうなるんだって!」
なぜかクルミさんが、嬉しそうに指を差す。
「私たちも、かなり気を遣っていたんですよ?」
今度は、ニコさんが加わった。
「そうだったんですか?」
「……本当に気づいていなかったんですね」
「はい」
「ミライさんを倒しきってしまわないように、射線や攻撃の入れ方はかなり選んでいました。それなのに、こちらには普通に家具が飛んできました」
「敵だと思っていましたので」
「その言葉、万能ではありませんからね?」
『私は遠くにいたからまだマシだけど~』
オトギさんも、対物ライフルを肩へ担ぎ直した。
『射線は潰されるし~、位置は全部見つかるし~、撃ったらすぐ《シールド》が出てくるし~』
「《レーダー》がありましたので」
『うん~。そういう説明が欲しいんじゃないんだよね~』
最後に、ユキノさんまでこちらを見る。
「戦術的には合理的だった」
「ありがとうございます」
「褒めていない」
「……はい」
「相手を敵と判断していた以上、手段の選択自体に問題はない。だが、相手に回すと非常に面倒だ」
「すみません」
「そう! もっと反省して!」
すぐに、クルミさんが割り込んでくる。
「反省はしています」
「顔に出して!」
「難しいです」
「そこから!?」
少し離れた場所で、RABBIT小隊の三人が何とも言えない顔で私を見ていた。やがてミヤコさんが、静かにFOX小隊へ向き直る。
「……FOX小隊の皆さん」
「なんだ?」
「よく無事でしたね」
「そっち!?」
クルミさんの叫びが、今日一番大きく響いた。
「私の心配してよ! 特に私!」
「実際、一番前にいたのはFOX3ですよね」
「そうだよ!」
「プールへ落とされて、感電も?」
「した!」
「七つの能力も?」
「盾で受けた!」
「八つは?」
「それは全員!」
「……なるほど」
ミヤコさんが私を見る。続いてサキさん、最後にミユさんも。三人とも、何とも言えない視線だった。
「何でしょうか」
「いえ」
「何ですか?」
「本当に何でもありません」
ミヤコさんまで、僅かに目を逸らした。
「皆さん、失礼ではありませんか?」
「プールに落として感電させた人が言う!?」
「敵だと思っていましたので」
「またそれ!」
その時、屋上から再び大きな衝撃が落ちてきた。空気が震え、さっきまで騒いでいた全員の表情が、一瞬で変わる。
「話は後です」
ミヤコさんが、短機関銃を持ち直した。
「次へ移ります」
「FOX小隊、再編」
「了解!」
「はい」
『は~い』
クルミさんも大盾を持ち上げた。ただ、私の横を通り過ぎる直前に、ぴたりと止まる。
「あとで絶対続きだからね!」
「……まだあるんですか?」
「あるよ!」
どうやら、戦闘は終わったらしい。
けれど、私の方は、まだ終わっていないらしかった。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
-
平成二期ライダー要素
-
令和ライダー要素
-
劇場版・Vシネマなどの要素
-
その他(感想欄で教えてください)