止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第76刻 兎と狐

「ミライさん、下がってください!」

 

 ミヤコさんは、こちらを振り返らなかった。短機関銃をFOX小隊へ向けたまま、背中越しに声だけが飛んでくる。

 

 少し前、私は一度、この人たちを探し回っている。だから見間違えるはずがなかった。

 

「でも――」

 

 最後まで、言わせてもらえなかった。

 

「FOX4」

 

『りょーかい~』

 

 ユキノさんの声の直後、腹の底へ響く轟音が走った。

 

「RABBIT4!」

 

「はいっ!」

 

 ミユさんが床を蹴る。ほんの一瞬前まで頭があった場所を対物弾が通過し、その後ろのテーブルが中央から吹き飛んだ。砕けた木片が宙を舞う中、ミユさんは横へ転がりながら狙撃銃を肩へ引き上げる。

 

 一発。

 

 返された銃弾がラウンジを斜めに横切り、オトギさんが身を隠していた柱の角が弾けた。その姿が完全に見えなくなるより早く、二発目の轟音が響く。

 

「FOX3、正面」

 

「了解!」

 

「RABBIT2、前!」

 

「了解!」

 

 ほとんど同時に、クルミさんとサキさんが動いた。

 

 クルミさんが大盾を前へ突き出す。その正面から、サキさんは退かなかった。大型の機関銃が連続して火を噴き、銃弾が盾の表面へ次々と叩きつけられる。甲高い金属音と火花を撒き散らしながら、それでもクルミさんは止まらない。

 

「うおおおっ!」

 

 最後の数歩を一気に詰め、そのまま盾を振り抜いた。サキさんが直前で身体をずらすが、避けきれない。盾の縁が肩口へ激突し、身体が横へ飛んだ。

 

「サキさん!」

 

 低いテーブルを一つ巻き込み、ソファへ背中から突っ込む。今の私なら、立て直すだけでも時間が掛かるような衝撃だった。

 

 けれど。

 

「まだだ!」

 

 ソファが後方へ倒れるより先に、サキさんはもう身体を起こしていた。肩を一度回しただけで機関銃を構え直し、今度は至近距離から撃ち返す。

 

「っ!」

 

 数発が盾を外れ、クルミさんの肩や脇腹へ叩き込まれた。身体が僅かに揺れる。それでも足は止まらず、大盾を横へ振って銃身そのものを払い除けた。

 

 その直後、クルミさんの背後からニコさんが飛び出す。

 

「FOX2、右から入れ」

 

「はい!」

 

 ショットガンの銃口がサキさんへ向く。けれど、その横から一条の銃火が走った。

 

「させません」

 

 ミヤコさんだ。ニコさんが身体を翻して床へ滑り込み、さっきまで胸があった場所を通過した弾丸が、バーカウンターへ穴を穿つ。

 

「FOX1、RABBIT1を抑える」

 

 そこへユキノさんの銃口が向き、乾いた銃声が連続した。ミヤコさんは横へ走りながら撃ち返し、二人の間を何発もの銃弾が交差する。その途中へニコさんが割り込み、さらにサキさんが追いかけた。

 

 私は、一歩だけ後ろへ下がった。

 

 速い。三十六階までずっと戦ってきたFOXの動きは、知っているつもりだった。でも、RABBIT小隊の三人が加わった瞬間、戦場そのものが別の形へ変わっている。

 

 サキさんが前へ出ればクルミさんが止め、ニコさんが横から崩そうとすればミヤコさんが射線を入れる。そのミヤコさんをユキノさんが狙えば、今度はサキさんがそちらへ火力を向ける。

 

 離れた場所では、ミユさんとオトギさんが、互いの姿すらほとんど見せないまま撃ち合っていた。

 

 腹の底へ響く轟音。伏せたミユさんのすぐ横で、対物弾が床へ突き刺さり、カーペットとその下の床材が大きく抉れる。その破片の中から、ミユさんの狙撃銃が一度だけ火を噴いた。

 

 遠くで、何かが砕ける音。

 

『……危ないな~』

 

「位置変更を確認しました」

 

 そう小さく呟いた時には、ミユさんはもう次の照準へ移っていた。

 

 その中で、ユキノさんの弾丸がサキさんの胸元と肩へ数発命中する。それでも、止まらない。

 

「RABBIT2、左へ!」

 

「了解!」

 

 サキさんは身体を捻りながら機関銃を撃ち返し、ソファを蹴って一気に位置を変えた。次の瞬間には、その場所へオトギさんの対物弾が飛び込んでいる。

 

「……すごい」

 

 思わず、声が漏れた。

 

 同じ銃撃戦なのに、私がFOXと戦っていた時とはまるで違う。クルミさんの盾がサキさんを吹き飛ばしても、サキさんの銃弾がクルミさんへ何発も入っても、ミユさんとオトギさんが互いの遮蔽物ごと撃ち抜いても、誰も止まらない。

 

 その頑丈さは、私も知っている。けれど今の私は、もうそれを当てにできるほど残っていなかった。

 

「ミライさん、今は下がっていてください!」

 

「……はい!」

 

 反射的に返事をして、大窓から離れる。正直、助かった。

 

 手の中の《アストラノヴァ》はまだ熱く、腕も重い。左脚も、踏み込むたびに鈍い痛みが走る。ここへ来るまでに負った傷も、疲労も、消えたわけではない。

 

 RABBIT小隊が来てくれたのなら、今は任せる。

 

 そう思った。

 

 思った、のだけれど。

 

     ○

 

「FOX3、RABBIT2を押し切れ!」

 

「任せて!」

 

 クルミさんが、再びサキさんへ突っ込んだ。

 

 サキさんが正面から機関銃を撃ち、盾に火花が散る。そのまま横へ抜けようとしたところには、ニコさんがいた。

 

「そこです」

 

 ショットガンが持ち上がり、サキさんが一瞬だけ止まる。前にはクルミさん、横にはニコさん。ミヤコさんはユキノさんと撃ち合っていて、ミユさんはオトギさんを抑えている。

 

 なら。

 

「……ここですね」

 

 気づいた時には、《アストラノヴァ》を持ち上げていた。

 

 Net ON

 

 撃ち出したネットが、クルミさんの足元へ広がる。

 

「うわっ、またこれ!?」

 

 盾を立てて踏み越えようとしたところへ、さらに照準をずらす。

 

 Winch ON

 

 ネットへ絡んだワイヤーを横へ一気に引くと、クルミさんの体勢が大きく崩れた。

 

「ちょっ――!」

 

 その一瞬を、サキさんは逃さなかった。

 

「助かる!」

 

 床を蹴ってニコさんの射線から抜け、そのままクルミさんの盾の横へ回り込んで機関銃を連射する。

 

「痛っ、痛いって!」

 

「戦闘中だ!」

 

「知ってる!」

 

 クルミさんが盾を振ってサキさんを追い払う。私はさらに一歩、前へ出た。

 

「ミライさん!?」

 

「援護します!」

 

「いえ、今は――」

 

「FOX1、前を見ろ」

 

 ユキノさんの弾丸が、ミヤコさんの言葉を断ち切った。ミヤコさんは即座にそちらへ銃を向け直す。私へ何か言っている余裕は、もうなくなったらしい。

 

 なら、できることをする。《レーダー》へ、意識を向ける。

 

 七つの反応。その間にいる私。これまで追い続けてきた四つと、新しく加わった三つの位置関係が、一気に頭へ入ってくる。

 

 ニコさんがサキさんの後ろへ回ろうとしている。ユキノさんは、ミヤコさんを正面へ固定しようとしている。クルミさんが、サキさんへ再接近。そしてオトギさんは――位置を変えた。

 

「ミユさん、右奥です!」

 

「確認しています!」

 

 返事と同時に、ミユさんが発砲した。ほとんど間を置かず、腹の底へ響く轟音が返ってくる。二発が空中ですれ違う。

 

 ミユさんのすぐ横の柱が大きく抉れた。破片を浴びながら、彼女は床へ伏せる。オトギさんの方でも、狙撃位置にしていたカウンターの一部が砕けていた。

 

「FOX4、後退」

 

『は~い』

 

「RABBIT4、追わなくていいです。射線だけ切ってください」

 

「了解です」

 

「FOX2、中央へ。FOX3はRABBIT1へ切り替えろ」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

 ミヤコさんとユキノさんの声が飛ぶたびに、人の配置が変わる。

 

 サキさんとクルミさん、ミユさんとオトギさん、ミヤコさんとユキノさん。そう見えた組み合わせが、一瞬後には全部崩れていた。

 

 クルミさんがミヤコさんへ、ニコさんがサキさんへ。ユキノさんの弾丸がミユさんへ向かい、それをサキさんが火力で押さえる。

 

 さらに、オトギさんがサキさんを狙った。

 

 Shield ON

 

 私が、その射線へ割って入る。

 

 青白い防御機構へ対物弾が激突し、衝撃が腕から肩へ抜けた。身体が後ろへ押される。でも、倒れない。

 

「ミライさん!」

 

「大丈夫です!」

 

 そう答えた直後、目の前へ大盾が迫った。

 

「またあんたも来るの!?」

 

「はい!」

 

「はいじゃない!」

 

 クルミさんが叫びながら盾を振る。私は《エアロ》で横へ身体を押し、紙一重でその軌道から抜けた。盾が床へ激突し、細かな破片が跳ね上がる。

 

 そこへ、サキさんが突っ込んできた。

 

「下がれ!」

 

「そっちが!」

 

 二人が、真正面からぶつかった。サキさんが銃身を盾の縁へ引っ掛けるようにして押し返し、クルミさんはそのまま身体ごと前へ出る。足元の床が軋んだ。

 

 その横を、ニコさんが抜ける。

 

「ミヤコさん!」

 

「見えています!」

 

 ミヤコさんの銃口がニコさんへ向く。けれど、その瞬間にはユキノさんが撃っていた。ミヤコさんの胸元で数発が弾け、身体が半歩だけ後ろへ滑る。それでも銃口はぶれず、ニコさんへ短く連射した。

 

 ニコさんがソファの陰へ飛び込む。

 

 N Magnet ON

 

 S Magnet ON

 

 気づいた時には、指が動いていた。床に散っていた金属片と、バーカウンター脇のワゴン、脚部に金属を使った家具が一斉に動き出し、ニコさんが飛び込んだソファまでが浮き上がる。

 

「また磁石!」

 

 金属製のワゴンがユキノさんとニコさんの間へ滑り込み、射線を塞いだ。

 

 ユキノさんがすぐ横へ移動する。その進路へサキさんの弾丸が走り、ユキノさんはテーブルを蹴って身体を投げ出しながら回避した。ところが、そのテーブルが磁力に引かれて、途中から軌道を変える。

 

「……っ!」

 

 ユキノさんが銃床でそれを弾き、弾かれたテーブルが今度はサキさんの前へ飛ぶ。

 

「邪魔だ!」

 

 サキさんが蹴り上げた。宙へ浮いたテーブルの下を、ニコさんが滑り抜ける。

 

「いただきます!」

 

 至近距離から、ショットガン。サキさんが腕で顔を庇い、発砲の衝撃で数歩後ろへ押された。それでも倒れず、逆に機関銃の銃身を横薙ぎに振る。

 

「わっ!」

 

 ニコさんが屈み、その頭上を銃身が抜けた。そこへ、クルミさんの盾。

 

「ニコ!」

 

「はい!」

 

 伏せたニコさんの上をクルミさんの大盾が通過し、その正面がサキさんへまともに入った。

 

 轟音。サキさんの身体が床から浮き、数メートル飛んで壁際のソファへ突っ込む。

 

「サキさん!」

 

「……っ、この程度!」

 

 サキさんが即座に起き上がる。その間に、ミヤコさんがクルミさんへ横から銃弾を浴びせた。

 

「っ、今度はそっち!?」

 

「RABBIT2から離れてください!」

 

「嫌だって言ったら!?」

 

「撃ちます!」

 

「もう撃ってる!」

 

 弾丸を盾で受けながら、クルミさんが旋回する。ミヤコさんへ向かおうとしたところへ、ユキノさんの声が飛んだ。

 

「FOX3、左へ避けろ!」

 

「え――」

 

 クルミさんが反射的に踏み込んだその脇を、オトギさんの対物弾が通り抜けた。

 

 標的は、ミヤコさん。

 

「危ない!」

 

 Shield ON

 

 青白い防御機構へ、真正面から対物弾が激突した。視界が白く弾ける。

 

「くっ……!」

 

 腕が痺れる。熱いというより、グリップを握っている感覚そのものが、少し曖昧になってきていた。

 

「ミライさん、無理をしないでください!」

 

「まだ大丈夫です!」

 

「そういう問題では――」

 

「RABBIT1!」

 

 サキさんの声に、ミヤコさんが即座に振り向いた。ニコさんが、すでに目の前まで来ている。

 

 ショットガンと短機関銃、至近距離で二つの銃口が交差した。互いに身体を捻りながらの発砲で、散弾の一部がミヤコさんの肩を叩き、弾丸がニコさんの脇腹を掠める。

 

 二人とも、そのまま踏み込んだ。ニコさんの銃床をミヤコさんが腕で受け、膝を入れようとしたところへ、クルミさんが横から突っ込んでくる。

 

「RABBIT1!」

 

 サキさんが走り、クルミさんの盾へ肩からぶつかった。また、轟音。二人が互いに押し合う。

 

 そこへユキノさん。そのユキノさんへ、ミユさんの一発。ユキノさんが頭を下げ、弾丸が背後の壁へ突き刺さった。

 

『RABBIT4、見えてるよ~』

 

「こちらもです」

 

 ミユさんが伏せた次の瞬間、彼女がいた位置の床が吹き飛ぶ。舞い上がる破片の中を後ろへ転がりながら、ミユさんはもう一発撃ち返していた。

 

 誰か一人を見ているだけでは、何が起きているのか追い切れない。

 

 私は《レーダー》へ意識を集中した。一つが前へ出れば、別の一つが横へ。そこを三つ目が狙い、四つ目が潰す。五つ目がその隙間へ入り、六つ目が押し返す。そして私がそこへ一つ加えるたびに、また全部が変わっていく。

 

「……」

 

 不思議だった。

 

 三十七階へ来るまで、私はずっと、自分の手札を増やそうとしていた。けれど今は、その必要がなかった。

 

 全部やらなくていい。誰かが押されているなら、そこだけ埋めればいい。

 

「ミユさん!」

 

「はい!」

 

 オトギさんの射線へ《シールド》を差し込み、その陰からミユさんが一発。

 

「サキさん、右です!」

 

「了解!」

 

 ニコさんの足元へ《ネット》を撃ち、サキさんが横へ抜ける。

 

「ミヤコさん、ユキノさんはお願いします!」

 

「――分かりました!」

 

 ユキノさんとの間へ《エアロ》で煙を流すと、ミヤコさんはその一瞬で位置を変えた。

 

 一つずつ、今必要なことだけをする。それで、戦場は動いた。

 

 けれど。

 

「……また!」

 

 クルミさんだけは、なぜかさっきから、私を見るたびに声が大きくなっている。

 

「今度は何!?」

 

「まだ何もしていません」

 

「その構えがもう嫌なの!」

 

「……?」

 

「首傾げないで!」

 

 そんなことを言われても困る。私はクルミさんを敵だと思って戦っているのだから、使えるものを使うのは当然だった。

 

「FOX3、余所見をするな」

 

「してないって!」

 

 その直後、サキさんの蹴りが盾へ入る。

 

「くっ!」

 

 クルミさんが一歩下がり、サキさんが追う。ニコさんがその背後へ、ミヤコさんがニコさんへ、ユキノさんがミヤコさんへ。オトギさんがミヤコさんの射線を狙い、ミユさんがそのオトギさんを抑える。

 

 そして、私は。

 

 Aero ON

 

 床を蹴り、熱を持った《アストラノヴァ》に身体を引かせるようにして、一気に中央へ入った。

 

「ミライさんまでですか!?」

 

「はい!」

 

「皆さん、元気ですね……!」

 

「ニコ、左!」

 

「はい!」

 

 ショットガンがこちらを向く。

 

 Shield ON

 

 衝撃を受け、そのまま身体を回す。

 

 Net ON

 

 撃ったネットをニコさんが飛び退いて避けた。床へ落ちる前に、

 

 Winch ON

 

 横へ引く。網は、そこへ走り込んできたクルミさんの盾へ絡みついた。

 

「なんで私!?」

 

「近かったので!」

 

「最悪!」

 

 クルミさんが力任せにワイヤーを引きちぎろうとし、その隙へサキさんが突っ込む。二人がまたぶつかった。

 

 ミヤコさんとユキノさんの銃撃が交差し、ミユさんとオトギさんの狙撃が行き交う。ニコさんが中央へ滑り込み、私は空いた場所へ《シールド》を入れる。

 

 銃声。盾の激突。対物ライフルの轟音。吹き飛ぶ家具と、砕ける床。夜風と、月光と、硝子。

 

 全部が、一度に混ざり合った。

 

 その時だった。

 

 ――轟音。

 

 今までとは比べものにならないほど大きな衝撃が、屋上から落ちてきた。

 

 三十七階そのものが大きく揺れ、天井から細かな埃が降る。残っていた照明が、一度だけ激しく明滅した。

 

「っ……!」

 

 それでも、誰も姿勢を崩さない。

 

 ただ、何かが変わった。

 

 その時になって、初めて気づいた。さっきまで三十七階の空気には、何か薄い膜のような圧迫感が張り付いていたらしい。

 

 それが、ふっと上へ引いた。

 

 次の瞬間。

 

「――止めろ」

 

「RABBIT小隊、射撃停止」

 

 ユキノさんとミヤコさんの声が、ほとんど同時に響いた。

 

 銃声が、消えた。

 

 サキさんはクルミさんの盾へ機関銃を押しつけたまま。クルミさんは盾を振り抜く寸前。ニコさんのショットガンはミヤコさんへ、ミヤコさんの短機関銃はニコさんへ。遠くでは、ミユさんとオトギさんが互いを照準に収めている。

 

 全員が、さっきまでとまったく同じ戦闘姿勢のまま。なのに、誰も撃たない。

 

「…………え?」

 

 熱を持った《アストラノヴァ》を構えたまま、私は一人だけ周囲を見回した。

 

 何が起きたのか、分からない。

 

 たぶん。

 

 この場で分かっていないのは、私だけだった。

 

「もういい。下ろせ」

 

 最初に動いたのは、ユキノさんだった。その一言で、さっきまでこちらへ向けられていたFOX小隊の銃口が一斉に下がる。

 

「RABBIT小隊、警戒解除。2、4も武器を下ろしてください」

 

「了解」

 

「りょ、了解です」

 

 サキさんとミユさんまで、それぞれ構えていた銃を下ろした。そして最後に、全員の視線が《アストラノヴァ》を構えたままの私へ集まる。

 

「ミライさんも大丈夫です」

 

「……何がでしょうか」

 

 ミヤコさんが、僅かに言葉を止めた。

 

「戦闘は終了しました」

 

「どうしてですか?」

 

 意味が分からないままユキノさんを見ると、彼女はいつもの変わらない表情で答えた。

 

「ロキの観測が屋上へ移った。これ以上、続ける必要がなくなった」

 

「続ける必要が……?」

 

「ああ」

 

「何をですか?」

 

「芝居をだ」

 

 今度こそ、言葉が止まった。

 

「……芝居?」

 

「そうだ」

 

「FOX小隊は……ロキ側へ寝返っていないんですか?」

 

「最初からそのつもりはない」

 

 あまりにも簡単に返ってきた答えに、私はしばらくユキノさんの顔を見つめた。冗談を言っているようには見えない。ニコさんも、少し申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。

 

「騙してしまってすみません、ミライさん」

 

『ごめんね~』

 

「……最初から?」

 

「最初からだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で、ずっと固まっていた何かが少しだけほどけた。

 

「……よかった」

 

 自分でも気づかないほど、小さな声だった。

 

 十階からここまで、何度も撃たれ、追いかけられ、何度も本気でぶつかった。それでも、この人たちが本当にロキの側へ行ったわけではなかった。そのことだけは、素直に安心できた。

 

 けれど。

 

「では……どうして、誰も十階へ戻らなかったんですか?」

 

「戻る必要がなかった」

 

 ユキノさんは即答した。

 

「十階は別に任せていた。我々があそこへ戻れば、それこそ不自然だったからな。それに、ロキの前では、お前を追い続ける必要もあった」

 

「……別に」

 

 三十二階で考えたことを思い出す。この人たちは、自分の見ていない場所は仲間が埋めると、少しも疑っていなかった。

 

 あの時の考えは、間違っていなかったらしい。

 

「では、今のRABBIT小隊との戦闘も……?」

 

「敵対しているように見せるためだ」

 

「……あれが?」

 

「勘違いするな」

 

 ユキノさんが続ける。

 

「芝居だったのは敵対関係だけだ。戦闘そのものは本気だった」

 

 私はサキさんを見る。クルミさんの大盾で、何度も吹き飛ばされていた。ミユさんは、オトギさんと対物ライフルを撃ち合っていた。ミヤコさんの肩や胸元にも、ユキノさんの銃撃を受けた跡が残っている。

 

「……本気だったんですか?」

 

「はい」

 

 ミヤコさんは、普通に頷いた。

 

「では、事前に打ち合わせを?」

 

「していません」

 

「え?」

 

「FOX小隊の意図について、事前の連絡はありませんでした」

 

「では……あの公園で会った時にも?」

 

「知りませんでした」

 

 少し前、ほとんど願望に近い推測だけを頼りに探し回り、ようやくRABBIT小隊を見つけた公園。あの時点でも、FOX小隊のことまでは知らなかったらしい。

 

「領域へ侵入するまでは、FOX小隊を敵性と判断していました。それとは別に、通信を含めてロキに観測される前提で行動しています」

 

「それなのに、突入してから……?」

 

「迎撃を受けて、状況を判断しました」

 

「その場で?」

 

「はい」

 

「こちらも同じだ」

 

 ユキノさんまで、平然と答えた。

 

 RABBIT小隊が窓を突き破り、FOX小隊が撃つ。それを見て、その場で互いの意図を察し、本気で撃ち合い始めた。どう考えても、私には真似できそうにない。

 

 そして最後に、一つだけ嫌な疑問が残った。

 

「では……私は?」

 

 一瞬だけ、誰も答えなかった。その間で、なんとなく答えが分かってしまった。

 

「お前には何も知らせていない」

 

「……最初から最後まで?」

 

「ああ」

 

 私は、ゆっくりと《アストラノヴァ》を下ろした。

 

「つまり私は、皆さんが芝居をしている間……本当にFOX小隊を倒そうとしていたということですか?」

 

「そう!」

 

 それまで黙っていたクルミさんの声が、突然ラウンジに響いた。

 

「そうなんだよ! やっとそこまで来た!?」

 

「……クルミさん?」

 

 クルミさんは大盾を床へ置くと、今度はこちらへ向き直った。

 

「じゃあ私の話していい!?」

 

「はい?」

 

「まずプール!」

 

「……プール?」

 

「私を落としたよね!?」

 

「落としました」

 

「そのあと電気流したよね!?」

 

「流しました」

 

「即答するな!」

 

「ですが、皆さんを敵だと思っていましたので」

 

「それで全部済ませるなぁ!」

 

 クルミさんの声が、一段大きくなった。

 

「こっちはそのあともずっと最前線だったんだよ!? 追いかけて! 階段上って! 盾で受けて! 煙! 家具! 磁石! ネット! ワイヤー!」

 

「はい」

 

「途中から能力まで増えた!」

 

「増えましたね」

 

「七個まとめて盾に叩き込んできたよね!?」

 

「はい」

 

「次の階では八個!」

 

「はい」

 

「最後の最後に、またネットとワイヤー!」

 

「近かったので」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「待て」

 

 横から、サキさんの声が入った。

 

「七つ?」

 

「はい」

 

「七種類の能力を同時に使ったのか?」

 

「正確には、複数の効果を《アストラノヴァ》へ重ねました」

 

「……八つも?」

 

「はい」

 

 サキさんが黙った。その隣では、ミユさんがいつの間にか少しだけ後ろへ下がっている。

 

「ミユさん?」

 

「な、なんでもありません……」

 

「今、下がりましたよね?」

 

「下がってません……」

 

 そう言いながら、もう少しだけ離れた。

 

「ほら! 普通そうなるんだって!」

 

 なぜかクルミさんが、嬉しそうに指を差す。

 

「私たちも、かなり気を遣っていたんですよ?」

 

 今度は、ニコさんが加わった。

 

「そうだったんですか?」

 

「……本当に気づいていなかったんですね」

 

「はい」

 

「ミライさんを倒しきってしまわないように、射線や攻撃の入れ方はかなり選んでいました。それなのに、こちらには普通に家具が飛んできました」

 

「敵だと思っていましたので」

 

「その言葉、万能ではありませんからね?」

 

『私は遠くにいたからまだマシだけど~』

 

 オトギさんも、対物ライフルを肩へ担ぎ直した。

 

『射線は潰されるし~、位置は全部見つかるし~、撃ったらすぐ《シールド》が出てくるし~』

 

「《レーダー》がありましたので」

 

『うん~。そういう説明が欲しいんじゃないんだよね~』

 

 最後に、ユキノさんまでこちらを見る。

 

「戦術的には合理的だった」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めていない」

 

「……はい」

 

「相手を敵と判断していた以上、手段の選択自体に問題はない。だが、相手に回すと非常に面倒だ」

 

「すみません」

 

「そう! もっと反省して!」

 

 すぐに、クルミさんが割り込んでくる。

 

「反省はしています」

 

「顔に出して!」

 

「難しいです」

 

「そこから!?」

 

 少し離れた場所で、RABBIT小隊の三人が何とも言えない顔で私を見ていた。やがてミヤコさんが、静かにFOX小隊へ向き直る。

 

「……FOX小隊の皆さん」

 

「なんだ?」

 

「よく無事でしたね」

 

「そっち!?」

 

 クルミさんの叫びが、今日一番大きく響いた。

 

「私の心配してよ! 特に私!」

 

「実際、一番前にいたのはFOX3ですよね」

 

「そうだよ!」

 

「プールへ落とされて、感電も?」

 

「した!」

 

「七つの能力も?」

 

「盾で受けた!」

 

「八つは?」

 

「それは全員!」

 

「……なるほど」

 

 ミヤコさんが私を見る。続いてサキさん、最後にミユさんも。三人とも、何とも言えない視線だった。

 

「何でしょうか」

 

「いえ」

 

「何ですか?」

 

「本当に何でもありません」

 

 ミヤコさんまで、僅かに目を逸らした。

 

「皆さん、失礼ではありませんか?」

 

「プールに落として感電させた人が言う!?」

 

「敵だと思っていましたので」

 

「またそれ!」

 

 その時、屋上から再び大きな衝撃が落ちてきた。空気が震え、さっきまで騒いでいた全員の表情が、一瞬で変わる。

 

「話は後です」

 

 ミヤコさんが、短機関銃を持ち直した。

 

「次へ移ります」

 

「FOX小隊、再編」

 

「了解!」

 

「はい」

 

『は~い』

 

 クルミさんも大盾を持ち上げた。ただ、私の横を通り過ぎる直前に、ぴたりと止まる。

 

「あとで絶対続きだからね!」

 

「……まだあるんですか?」

 

「あるよ!」

 

 どうやら、戦闘は終わったらしい。

 

 けれど、私の方は、まだ終わっていないらしかった。

今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?

  • 歴代ライダー本人の登場
  • 歴代ライダーとの共闘
  • 歴代ライダーとの対決
  • ライドウォッチ
  • アーマータイム
  • ミライ独自のライダー形態
  • 他キャラの仮面ライダー化
  • ライダー由来の武器・アイテム
  • ライダーマシン
  • 怪人・敵組織
  • 歴代ライダーの能力再現
  • 歴代ライダーの必殺技
  • 原作ライダーの名場面オマージュ
  • 仮面ライダー側の世界観・設定
  • 昭和ライダー要素
  • 平成一期ライダー要素
  • 平成二期ライダー要素
  • 令和ライダー要素
  • 劇場版・Vシネマなどの要素
  • その他(感想欄で教えてください)
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