「全員、移動する。遅れるな」
ユキノさんの指示を受け、FOX小隊とRABBIT小隊が一斉に動き始めた。
つい先ほどまで銃撃戦が繰り広げられていた三十七階のラウンジには、薬莢や砕けた家具の破片が散乱し、壁にも床にも無数の弾痕が残っている。けれど、それを片づける時間などあるはずもなかった。
私も《アストラノヴァ》を抱え直し、皆さんの後へ続く。
身体には疲労が残り、無理を重ねた左脚も、踏み込むたびに鈍く痛んだ。それ以上に気になるのは、手の中の《アストラノヴァ》だった。
《コズミック》で機能を重ね続けた熱が、まだ銃身に籠もっている。装甲の隙間からは時折細い光が漏れ、これ以上負担をかければ、いつ不具合が起きてもおかしくなかった。
「ミライさん、歩行に問題はありませんか?」
隣へ来たニコさんが、私の足元へ視線を落とした。
「はい。少し痛みますが、移動はできます」
「分かりました。必要でしたら、すぐにお声がけくださいね」
「ありがとうございます」
ニコさんは頷くと、すぐにユキノさんたちの方へ戻っていった。
「RABBIT1より全部隊。これより十階の会談室へ向かい、護衛対象者と合流します。RABBIT2、先行して経路を確認してください」
「了解。階段室を見てくる」
「RABBIT4は後方の警戒をお願いします。RABBIT3、外部の状況は?」
『こっちは変わりなし! ホテルの周りも相変わらずだけど、機体は問題なく飛べてるよ』
「了解しました。引き続き待機してください」
『任せて!』
先行するサキさんとクルミさん、全体を見るミヤコさん、後方へ目を配るユキノさんたち。それぞれの役割は、誰が決めるでもなく自然に収まっていた。私はその間に入り、階段を降り始める。
階段室の壁には細かな亀裂が走り、踊り場には剥がれた内装材が散らばっていた。途中で二度ほど経路を変えることになったものの、先行する二人がすぐに別の階段を確保してくれたおかげで、足止めされることはなかった。
ただ、屋上からの衝撃だけは相変わらずだった。頭上の遥か遠くで雷鳴のような轟音が響くたびに、手すりが僅かに震え、天井の隙間から埃が降ってくる。
一誠たちは、今も戦っている。
一度だけ頭上へ目を向け、無事でいてほしいと願ってから、私は前へ視線を戻した。今の私たちには、果たさなければならない別の役目がある。
二十階を過ぎ、さらに数階を降りたところで、前方からサキさんの声が届いた。
「十四階、異常なし。このまま十階まで行けそうだ」
「了解しました。降下を継続してください」
その時だった。
――ドン。
足の裏から、妙に低い振動が伝わってきた。
屋上戦の余波とは違う。建物のずっと下から、何かが突き上げてきたような感覚だった。
「……RABBIT1」
先頭のサキさんが言葉を続けるより早く、二度目の音が響いた。
――ドンッ!
今度は、はっきりとした爆発音だった。照明が大きく振れ、手すりが軋み、天井の隙間に溜まっていた埃が一斉に降ってくる。
「全員、姿勢を低くしてください!」
身体を屈めた、その直後。
――ドォォンッ!!
凄まじい衝撃が、階段室全体を突き上げた。
掴んでいた手すりごと身体が横へ持っていかれる。壁に新しい亀裂が走り、天井から外れた照明器具が、すぐ近くの踊り場へ甲高い音を立てて落ちた。
「下層からだ! 相当大きいぞ!」
サキさんが、階段の下へ銃口を向けて叫ぶ。
「RABBIT3、こちらRABBIT1。外部の状況を報告してください」
『見えてる! ホテルの下の方で爆発が起きたんだ! 窓がまとめて吹っ飛んで、外壁から炎が噴き出してる!』
通信機越しの声にも、いつもの軽さがなかった。
「爆発地点は分かりますか?」
『かなり下! 地上に近いところから煙が出てるけど……待って、今度はもっと上で光った!』
――ドォンッ!!
再び階段室が揺さぶられ、壁の向こうから大量のガラスの割れる音が響いた。少し遅れて、何か大きなものが落ちる轟音まで聞こえてくる。
「……下から順番に?」
偶然の事故にしては、間隔が短すぎる。モエさんの報告が正しいのなら、爆発している場所そのものが、少しずつ上へ移動していることになる。
「意図的な攻撃と考えるべきでしょう」
ミヤコさんが通信機へ手を当てた。
「RABBIT1より全部隊。下層で連続爆発を確認。地上への脱出経路が破壊されている可能性がありますが、護衛対象者はまだ十階にいます。降下を継続してください」
「了解!」
私たちは再び階段を駆け下りた。
十階まで、ほんの四階分。けれど、下から響く爆発が近づいてくるように感じられて、その僅かな距離がひどく長く思えた。
十二階で照明が一斉に消え、階段室が暗闇に包まれる。サキさんたちのライトが行く先を照らし、私の頭上に浮かぶヘイローの淡い光が、壁へ揺れる影を落とした。下からは、焦げ臭さが漂い始めている。
「FOX3、十階まで行けるか?」
「大丈夫! 少なくとも階段は残ってる!」
「なら進め。長居はできない」
十階の扉を開けると、下の方から火災報知器の音が途切れ途切れに響いていた。それでも、会談室へ続く廊下はまだ通れる状態だった。
「前方、異常なし。会談室まで進める」
サキさんの報告を受け、私たちは廊下を急いだ。
途中に人影はない。壁や天井には爆発による損傷が広がっていたが、幸い、会談室へ続く扉はまだ無事だった。
ユキノさんが扉の前へ進み、中の様子を確かめる。
「FOX1だ。迎えに来た」
その声に応えるように、扉が内側から開かれた。
「――おお、ようやく来おったか!」
「オーディン様!」
杖を片手に歩み寄ってきたオーディン様は、私の顔を見るなり大きく頷いた。
「ミライ嬢、無事じゃったか! 上から随分と派手な音がしておったから、心配しておったぞ」
「はい。何とか合流できました。オーディン様も、ご無事で何よりです」
「うむ。もっとも、いつもどおりとはいかんがのう」
そう言って笑う顔は、あまり色がよくなかった。杖を握る手にも、妙に力が籠もっている。
「おう、ミライ。随分と派手にやられたみたいだな」
その後ろから、アザゼル先生も顔を出した。
「アザゼル先生こそ、大丈夫なんですか?」
「どうにかな。ロキの野郎が、こっちの力を封じるために相当な術式を組んでやがる。俺もオーディンの爺さんも、まともに力を振るえねえ状態だ」
北欧神話を代表する最高神なら、本来、この程度の建物から抜け出すのに困るような方ではない。それなのに今は、その足取りにさえ普段の余裕が見えなかった。
「まったく、困ったものですこと。せっかくの会談だというのに、こんな目に遭わされるなんて」
不意に、華やかな女性の声がした。
会談の場で一度だけ姿を見かけた、日本神話側の女性。日本神話を代表する太陽神にして、オーディン様と同格の最高神――天照大御神だった。
その名に相応しい気品をまといながら、表情も物腰も驚くほど親しみやすい。下層で爆発が続いているというのに、その笑顔には動揺の欠片も見えなかった。
「天照様も、ご無事でしたか」
「あら、ミライちゃん。ええ、こちらは何とか。ですが、ここまで酷い目に遭わされますと、さすがの
天照様は微笑んだまま、隣のオーディン様へ視線を向けた。
「そもそも、これは北欧神話の家庭内問題でしょう? どうして日本神話まで巻き込まれなくてはいけないのです?」
「何故そうなるんじゃ!? 儂だって被害者じゃぞ!」
「まあ、それは大変お気の毒に。ですが、招待客まで巻き込まれている以上、もう少し責任を感じていただきたいところですねぇ♡」
「責任ならロキ本人に取らせればよかろう!」
「ええ、もちろんですとも。ですから、まずはご本人を捕まえていただけませんか?」
「それができれば苦労せんわい!」
「まあまあ。そんなに大きな声を出されなくても聞こえておりますよ?」
……このお二人、本当に仲がいいのだろうか。
天照様の言葉には遠慮というものがまるでないのに、オーディン様の反応を見る限り、こうしたやり取りには随分と慣れているようだった。
「皆さま、失礼します」
ミヤコさんが一歩前へ進み出た。
「ホテルの下層で連続爆発が発生しています。地上への経路はすでに危険な状態にあるため、上層へ移動し、外部からの回収を目指します。準備ができ次第、出発したいのですが」
「分かった。儂らはいつでも動けるぞ」
オーディン様が頷く。天照様も冗談めいた雰囲気を少しだけ引っ込め、ミヤコさんを見た。
「下へ逃げようとすれば、その先を潰される。でしたら、上を目指すのは妥当でしょうね。私も異論はございません。ただし、あまり大きな力は期待なさらないでくださいね? この領域のせいで、こちらも少々不自由しておりますので」
「承知しています。移動はこちらで支援します」
最高神を相手にしても、ミヤコさんの態度は変わらなかった。
「FOX1、護衛対象者の確認をお願いします。RABBIT2は先行して経路の確保を」
「分かった。FOX2、三人の状態を見ろ」
「はい」
「了解。先に見てくる」
皆さんが動き始め、私も《アストラノヴァ》を構え直した。ようやく合流できたのだから、あとはこのホテルから脱出するだけだ。
そう思った直後だった。
――ドォォォォンッ!!
「――っ!?」
足元が激しく跳ね上がった。
突き上げてきた衝撃に会談室の家具が揺れ、壁の装飾品が床へ叩きつけられる。天井に残っていた照明が割れ、砕けたガラスが降り注いだ。
「伏せろ!」
サキさんの声に合わせ、FOXとRABBITの隊員たちが一斉に動いた。クルミさんがオーディン様たちの前へ出て、ニコさんが三人を廊下へ誘導する。その間に私は《アストラノヴァ》を持ち上げ、落ちてくる天井材へ銃口を向けた。
Shield ON
銃口から伸びた幾本もの光の線が瞬く間に広がり、展開した防御板が破片を受け止める。鈍い衝撃が腕へ伝わったが、防御板は持ちこたえた。その間に三人が廊下へ抜け、ユキノさんが最後尾へ回る。
「ミライさん、もう大丈夫です!」
「分かりました!」
最後にユキノさんが部屋を出たことを確かめ、防御板を解除して廊下へ飛び出す。
鼻をつく焦げ臭さが、さっきよりずっと濃くなっていた。廊下の奥では何かが激しく燃え、破損した配管から水が噴き出している。
「RABBIT1、正面の階段は使えない! 踊り場が崩れてる!」
先行していたサキさんが叫んだ。
「了解。全員、右の業務用通路へ移動してください!」
走り出した私たちの背後で新しい爆発が起こり、会談室の壁の一部が崩れ落ちた。
もう、あの場所へは戻れない。爆発は、確実に近づいていた。
○
十階を離れてからは、それまでのように順調には進まなかった。
上層へ続く階段が途中で崩れていたり、火災で廊下が塞がっていたりと、少し進むたびに経路の変更を迫られる。何とか形を保っていたホテルの内部は、時間が経つほど危険な場所へ変わっていった。
それでも、ミヤコさんの指示は途切れない。
「RABBIT2、左の階段は?」
「十六階までは使える。その先は確認中だ」
「了解。ひとまずそこまで進みます。FOX1、後方をお願いします」
「分かった。FOX、配置を維持しろ」
サキさんとクルミさんが進路を確かめ、ニコさんは護衛対象者の歩調に合わせて移動を支える。ユキノさんたちは後方へ注意を払い、ミユさんとオトギさんも周囲に目を配っていた。
私はその間で、通路の損傷を確かめながら進む。《アストラノヴァ》の熱は、先ほどの《シールド》でまた一段上がっていた。皆さんが進める場所では余計なことをせず、必要になった時だけ力を使う。そう決めていた。
「それにしても、何とも賑やかな避難になってしまいましたねぇ」
背後から、天照様の声が聞こえた。
「オーディン様、次の会談はぜひ高天原へお越しくださいな。今回のような歓迎はいたしませんので、ご安心くださいませ♡」
「次の会談があると思っておるのか!?」
「あら。まさか、これほどの騒動を起こしておきながら、日本神話との外交までお断りになるおつもりですか?」
「そういう意味ではないわい!」
「ふふっ。存じておりますよ」
相変わらず楽しそうなのに、その足取りには無駄がない。ニコさんの注意には素直に従い、段差や床の亀裂も慎重に避けている。危険が迫れば、隊員たちの邪魔にならない位置へ自然に身を移していた。
ふざけているように見えても、状況はきちんと理解しているらしい。
「……おい」
不意に、アザゼル先生が声を低くした。
「爆発の間隔がおかしくなってきてねえか? 最初は下から順番に響いてたが、今は近い場所で起きたり、妙に短い間隔で続いたりしてる」
言い終わるより早く、廊下の奥で耳障りな破裂音が響いた。
――バァンッ!!
壁の内側で何かが弾け、天井の隙間から炎が噴き出す。ほんの一瞬前まで通れたはずの廊下が、あっという間に熱気と黒煙に包まれた。
「前方、火災!」
「全員、右へ!」
サキさんが叫び、クルミさんが護衛対象者の前へ飛び出す。ミヤコさんの指示で、私たちは反対側の廊下へ駆け込んだ。背後では炎が内装材へ燃え移り、何かの設備が壊れる金属音まで響いてくる。
「……今のも、ロキが?」
「さあな。だが、あれだけ派手に建物を壊してるんだ。火災や設備の破損で、別の爆発が起きてもおかしくねえ。厄介なのは、そうなりゃロキ本人にも予測できねえってことだ」
背筋が冷たくなった。
始まりはロキの術式でも、今のホテルでは、その結果が新しい事故を呼び始めている。それなら、たとえ屋上でロキを止められたとしても、この崩壊がすぐに収まるとは限らなかった。
「急ぎましょう。ここから先は、さらに経路が変わる可能性があります」
ミヤコさんの声に頷き、再び走り出す。
けれど、上層へ続く業務用階段で、今度こそ完全に足が止まった。
「……くそっ、ここもか!」
階段が、途中から大きく崩れていた。
踊り場の先は半分ほど失われ、砕けたコンクリートと露出した鉄筋が、下層へ向かって不規則に垂れ下がっている。向こう側に残った踊り場は見えるのに、その間を繋ぐ足場がなかった。
「迂回路はありますか?」
「あるにはあるが……さっき火が出た区画を通ることになる」
ミヤコさんが周囲を見回す。私も崩れた階段へ目を凝らした。
向こう側の踊り場に、大きな金属製の梁が残っている。根元は固定されたままで、崩落の衝撃で先端だけがこちらへ傾いていた。あれをもう少し動かせれば、周囲の床材と組み合わせて通路を作れるかもしれない。
「ミヤコさん。向こう側の梁を引き寄せれば、足場を確保できると思います」
指差した先を、ミヤコさんとサキさんが確認した。
「……確かに、あれなら使えそうだ。だが、あの重さをどうやって動かす?」
「私が引きます。皆さんには、足場の固定をお願いできますか?」
「分かった。やってみよう」
私は《アストラノヴァ》を構えた。銃身の側面へ光の線が走り、内部の機構が切り替わっていく。
Winch ON
射出したワイヤーが向こう側の梁へ絡みつく。固定を確かめてから、慎重に引き寄せる力を加えた。
重い金属が擦れる音とともに、梁が僅かに動く。
「……っ!」
思ったよりも動きが悪い。力を加えるたびに反動が腕を叩き、機構の内部から熱が伝わってくる。それでも少しずつ位置を調整し、どうにか手前へ寄せることができた。
「ミライ、そこで止めろ! FOX3、そっちの床材を使うぞ!」
「了解!」
二人が大きな床材を運び、梁の上へ渡していく。残った階段の支柱を利用して固定すると、サキさんが先に向こう側へ渡り、何度か足場を踏みしめた。
「大丈夫だ! 全員通れる!」
「了解。護衛対象者から順番に移動してください。足元に注意を」
ニコさんたちがオーディン様たちを誘導していく。私は梁の位置を保つことだけに集中した。装甲から淡い光が漏れ、ワイヤー越しの負荷が腕を震わせる。長くは続けられないが、幸い、移動は滞りなく進んでいた。
「ほほう。面白い道具を使うのう、ミライ嬢」
「ありがとうございます。ですが、今は足元に気をつけてください」
「うむ。分かっておる」
「まあまあ、ミライちゃんったら頼もしいですねぇ♡」
ニコさんの補助を受けながら、天照様も楽しそうに笑う。
「後で、その不思議な武器について詳しく聞かせていただきたいですわ。私、そういうものが大好きですので」
「……はい。無事に脱出できたら、ぜひ」
「ふふっ、約束ですよ♡」
天照様は危なげなく向こう側へ渡っていった。
最後尾のユキノさんまで渡り終えたのを見届け、私もワイヤーで身体を引き寄せる。着地した途端、左脚へ鋭い痛みが走ったが、何とか姿勢を保った。
「ミライさん、大丈夫ですか?」
「はい。次はどちらですか?」
「右です。ここから外周のラウンジへ向かいます」
走り出した直後、背後で大きな破砕音が響いた。振り返ると、渡ったばかりの階段がさらに大きく崩れ落ちている。
ほんの少し遅れていたら。そんな考えが一瞬だけ頭をよぎったが、すぐに前へ向き直った。戻る道がもうない以上、進むしかなかった。
○
外周のラウンジへ辿り着いた時、ホテルの様子はさらに悪化していた。
窓という窓のガラスが吹き飛び、夜風が容赦なく吹き込んでくる。壁の一部も崩れていたが、外へ面した広い空間だけは、辛うじて残っていた。
「……ここなら」
サキさんが窓の外へ目を向ける。
その先には、真夜中の街と、炎に包まれた高層ホテルの下半分があった。複数の階から黒煙が立ち昇り、大きく欠けた外壁から崩れた建材が闇へ吸い込まれていく。新しい爆発が起こるたび、赤い光が外壁を舐めるように照らした。
私たちが階段を登っている間にも、破壊は進んでいたのだ。
「……まったく、派手にやってくれるぜ。これじゃ、建物がいつまで持つか分からねえな」
アザゼル先生が、窓の外を見ながら呟いた。
「そうですね。いくら私でも、倒壊するホテルの中で夜を明かす趣味はございませんので♡」
「……お主の趣味については聞いておらんぞ」
「まあ。では、今度ゆっくりお話ししましょうか?」
「遠慮しておくわい」
そのやり取りを横目に、ミヤコさんが通信機へ手を当てた。
「RABBIT3、こちらRABBIT1。回収地点に到着しました。こちらの位置は確認できますか?」
『確認した! 窓のところにいるね!』
少し離れた夜空に見える小さな光が、モエさんのヘリだった。旋回しながらこちらへ機首を向けてはいるものの、一定の距離から先へは近づいてこない。
「境界の状態は?」
『変わらないよ。近づこうとしても、やっぱり距離が縮まらないんだ。速度は出てるのに、全然近づけない!』
「了解しました。無理に接近しないでください」
『分かってる。でもさ、ホテルの下の方、かなり危なくなってるよ! 早くしないと本当に崩れちゃうかも!』
「承知しています。こちらで方法を検討します」
ロキの領域。外からは決して近づけない、あの不可解な空間だ。目の前にヘリがいるのに、その距離だけが縮まらない。
「ミヤコさん。RABBIT小隊がホテルへ入った時は、どうやって境界を越えたんですか?」
「《月華識・十六夜残影》で、一時的に境界へ裂け目を作りました。ただ、開いていたのはごく短い間だけで、私たちが通り抜けた直後には閉じています」
「……なるほど」
「それに、あの規模では数名が通るのが限界です。ヘリを近づけて全員を回収するには、まったく足りません」
ここには要人三人を含めて十一人がいて、ホテルはいつ崩れてもおかしくない。一時的な通路を作れたとしても、それだけで全員を回収できるとは限らなかった。
私も《アストラノヴァ》へ視線を落とす。ロケットで外へ飛び出すことも、ワイヤーを伸ばすことも、できなくはないかもしれない。けれど、領域を越えられる保証はないし、私一人が外へ出られても意味がない。
必要なのは、全員が脱出できる経路だった。
「……面倒なことをしてくれる。ここまで来て、最後の最後でこれか」
ユキノさんの低い声には、さすがに苛立ちが滲んでいた。
「――あら?」
振り返ると、天照様がミヤコさんを見つめていた。
「先ほどのお話、とても興味深く聞かせていただきました。あの境界を、力任せではなく、一時的に切り開いたのですね。それも、こんな厄介な神域を相手に」
「……はい」
「ふふっ。なかなか大したものです」
笑顔は柔らかいままなのに、その視線にはどこか探るような鋭さがあった。
「……あなた、先ほど使った力の名残が、まだ少しございますね」
ミヤコさんが、僅かに眉を動かした。
「……分かるのですか?」
「ええ。月の光に似た、とても静かな気配です。見た目には分からないでしょうけれど、私には少々馴染みのあるものですから。先ほどの技名にも月にまつわる言葉がございましたけれど、どうやら名前だけではないようですね」
「……使用した時の痕跡まで、読み取れるのですね」
「ふふっ。こう見えても太陽神ですので♡」
天照様は再び窓の外へ目を向けた。燃え上がる外壁と、それを取り囲む見えない領域。
「一時的に切り開くことはできても、すぐに閉じてしまう。しかも、同じことを短い間に繰り返すのは、あなたにも負担が大きいのでしょう?」
「……はい。容易ではありません」
「でしたら、裂け目を開き続けることを考えるより、別の方法を探した方がよさそうです」
その声は、先ほどまでの軽口とは少し違っていた。
天照様はゆっくりと窓へ歩み寄り、夜空を見上げる。雲の隙間から、大きな満月が姿を覗かせていた。
「太陽と月は、互いに異なる性質を持つもの。だからこそ、組み合わせることで見えてくるものもあるのですよ。……あなたがあの境界へ刃を入れた時、何を感じました?」
「……抵抗はありました。ですが、物理的な障壁を切った感覚とは違います。空間そのものに干渉しているような……上手く説明できませんが、通常の障害物とは異なるものでした」
「十分です。それだけ分かれば、試してみる価値はありそうですね」
「……何か、方法があるのですか?」
「さて。成功するかどうかは、実際に確かめてみなければ分かりませんけれど」
悪戯っぽく笑った、その時だった。
――ドォォォォンッ!!
ラウンジ全体が激しく揺れた。
窓の外で下層から巨大な火柱が噴き上がり、崩れ落ちた外壁が瓦礫となって夜空へ散っていく。足元にも新しい亀裂が走り、ラウンジの奥で天井の一部が崩れ落ちた。
「くそっ、もう時間がねえぞ!」
アザゼル先生が叫ぶ。私も《アストラノヴァ》を握り直した。この場所まで崩れ始めた以上、悠長に方法を考えている余裕は、もうなかった。
「……そうですね」
天照様が頷く。その声は、不思議なほど落ち着いていた。
「では、そろそろ始めましょうか。ミヤコちゃん、私に、少しだけお力を貸していただけませんか?」
「……私の力を、ですか?」
「ええ」
天照様は、いつもの華やかな笑顔を浮かべた。
「あなたが一度、あの境界を切り開いたというのでしたら――今度は私と一緒に、別のものを切ってみません?」
その言葉が何を意味しているのか、私にはまだ分からなかった。けれど、天照様の眼差しには、もう迷いがないように見えた。
窓の向こうでは、燃え上がる高層ホテルの遥か上空に、真夜中の満月が輝いていた。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
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平成二期ライダー要素
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令和ライダー要素
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劇場版・Vシネマなどの要素
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その他(感想欄で教えてください)