「……別のもの、ですか?」
ミヤコさんが、天照様の言葉を繰り返した。
窓の外では、モエさんのヘリが今も旋回している。こちらからは確かに見えているのに、神域に阻まれて、それ以上近づくことができない。足元の振動は先ほどよりも強くなり、下層で何かが崩れるたびに、床の硝子片が細かく震えた。
「ええ。同じことをお願いするつもりはありませんよ」
天照様は穏やかに微笑み、窓の向こうの夜空を見上げた。
「どれほど立派な建物でも、いつかは朽ちます。どれほど栄えた国にも、いつかは終わりが訪れます。それは、神の作ったものだって同じことなのです」
「……終わり、ですか?」
「ええ。千年先かもしれませんし、もっとずっと先かもしれません。けれど、始まりのあるものが、永遠にそのままでいられるわけではありません。ロキの神域も同じです」
天照様が、そっと片手を持ち上げる。その指先に、小さな金色の光が灯った。
「力任せに壊そうとすれば、ロキ様と正面から張り合うことになります。今の私に、そんな余裕はございません。ですから――照らすのです」
「照らす……?」
「どれほど深い闇の中に隠れていても、光が届けば、その姿は見えるようになります。あの神域にいつか訪れるはずの『終わり』も、照らし出して差し上げましょう」
天照様が、ミヤコさんへ向き直る。
「そして、ミヤコちゃん。あなたには、私が照らしたものを斬っていただきたいのです」
今まで誰も突破できなかった神域を、まるでカーテンでも開けるような調子で終わらせると言っている。けれど、その手元の光は、頼りなく揺れていた。
ミヤコさんは、すぐには答えなかった。握った手に、僅かに力が籠もるのが見えた。
「……先ほどの技は、私にとっても簡単に使えるものではありません。今の状態では、もう一度発動させるだけでも相当な負担になります」
「ええ、分かっています。ですから、私の力もお渡しします」
「天照様も、まだ本来のお力を取り戻されていないはずです」
「だからこそ、二人でやるのですよ。私が照らし、あなたが斬る。一人ではできないことでも、二人ならできるかもしれないでしょう?」
ミヤコさんが、ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。やってみます」
天照様は嬉しそうに微笑み、ミヤコさんの肩へそっと手を置いた。
「話はまとまったようじゃのう」
振り向くと、オーディン様が杖を手にこちらを見ていた。その傍らにはアザゼル先生もいる。神域に力を抑えられたままの二人は、先ほどから何やら小声で話し込んでいたらしい。
「天照が本当にあの神域を終わらせられるというのなら、儂にもやっておきたいことがある。なに、ちょっとした仕返しじゃよ」
オーディン様が、杖の石突きで床を軽く叩く。乾いた音とともに、足元へ淡い光が広がり、見慣れない文字が幾重にも組み合わさった模様が浮かび上がった。
「……ルーンですか?」
「うむ。ただし、今の儂一人では少々足りん。そこの六人、手を貸してくれんか。儂の術式へ、少しばかり力を流してくれればそれでいい」
オーディン様が視線を向けた先には、FOX小隊の四人と、サキさん、ミユさんがいた。ユキノさんが一度ミヤコさんを見て、それから短く頷く。
「FOX小隊、協力する。各員、位置に就け」
「RABBIT2、RABBIT4。オーディン様の指示に従ってください」
「了解」
「は、はい……!」
六人が位置を取ると、床の模様がゆっくりと回転し始めた。それぞれの足元へ細い光の筋が伸び、天井を抜けて上へ向かうものと、窓の向こうへ広がっていくものに分かれていく。
「オーディン様。これは……?」
「ロキの奴、屋上だけは自分の舞台として保っておるじゃろう。だが神域が消えれば、それも維持できなくなる。じゃから、その維持を本人に縛りつけてやるのよ」
「……本人に、ですか?」
「屋上を使いたいのはロキじゃ。ならば、支えるのもあやつの仕事じゃろう。ついでに、街に余計な被害が出ぬよう、幕を張る役目も押し付けておく」
……そんなことができるのだろうか。
「相変わらず、とんでもないこと考えるな、爺さん」
「人の会談を台無しにした挙げ句、ホテルまで壊そうとしておる身内の方が、よほどとんでもないわい」
アザゼル先生の苦笑に肩を竦め、オーディン様は天照様へ目を向けた。
「あやつの神域が消える、その瞬間を使う。天照、お主らに合わせるぞ」
「はい。こちらも、もう少しです」
ミヤコさんの肩に置かれた手から、金色の光が少しずつ広がり始めていた。
○
最初に変化したのは、ミヤコさんの装備だった。
ヘルメットの輪郭が淡く光り、胸元の防護板や腰のポーチ、身体へ固定されていた武器までが、青白い粒子となってほどけていく。代わりに現れたのは、紺色の水着と白い薄手の上着。大窓を突き破って現れた時に、一瞬だけ見た姿だった。
右手へ集まった月光が、一振りの刀を形作る。黒を基調とした鞘に金色の意匠が走り、月明かりを受けるたびに淡い輝きが滑っていった。
けれど、今回はそれだけではなかった。
「……っ」
ミヤコさんが、小さく息を呑む。
その瞳の奥へ青紫の光が差し込み、虹彩の外側に細い金色の輪が浮かび上がった。月光のような冷たい輝きと、太陽のような温かな光。二つが同じ瞳の中で、互いを打ち消すことなく重なっている。
「……見えますか?」
天照様が静かに尋ねた。
ミヤコさんは窓の外へ視線を向けたまま、目を細める。私に見えるのは、相変わらず満月と夜空だけだった。
「……はい。今までとは違います。境界ではなく、もっと奥に……」
「ええ。そこです。私が照らしていられる間に、お願いします」
ミヤコさんが刀を腰へ引き寄せ、それから、ふとこちらを見た。
「ミライさん。少しだけ、周囲の警戒をお願いします」
「……分かりました」
《アストラノヴァ》を握り直す。熱はまだ残っているけれど、今の私が何かを斬る必要はない。ミヤコさんが斬り、天照様が支え、オーディン様たちが次の準備を進めている。なら、私は私の役目を果たせばいい。
Shield ON
天井から剥がれ落ちてきた破片を、展開した防御板で弾く。揺れ続ける床へ視線を走らせ、いざという時の退避経路を確かめた。
背後で、ルーンが一層強く輝き始める。
「……頃合いじゃな」
ミヤコさんが静かに呼吸を整え、右手が柄を握った。
周囲の音が、不意に遠ざかる。足元の振動も、下層の爆発音も、窓の外で唸る風さえも、どこか遠い場所の出来事のように感じられた。
金色の輪を宿した瞳が、夜空の一点を捉える。
「――《月蝕識・暁天残照》」
抜刀。
月光のような白銀の刃に、金色の輝きが重なった。夜空を横切った一筋の光を追うより早く、刀は鞘へ戻り、澄んだ鍔鳴りが静寂の中へ響く。
何も起こらなかった。少なくとも、最初の一瞬はそう見えた。
――パキン。
どこかで、硝子の割れるような音がした。
満月の浮かぶ夜空に、一本の細い亀裂が走っている。窓硝子ではない。何もないはずの夜空そのものに、線が刻まれていた。
それが、枝分かれしていく。一つが二つへ、二つが四つへ。やがて数え切れない亀裂となって満月の周囲から広がり、見上げた夜空が、巨大な硝子の天蓋に変わってしまったかのようだった。
そして、その全面へ亀裂が行き渡った瞬間。
――砕けた。
月光を弾きながら、無数の破片が夜空へ散っていく。きらきらと輝く硝子の雨。そう見えたのは、ほんの一瞬だった。
破片が、途中から黒く染まり始める。鋭い輪郭が羽根の形を取り、一枚、また一枚と、無数の烏へ変わっていった。夜空そのものが砕け、そこから数え切れないほどの烏が一斉に飛び立ったように見えた。
黒い翼が満月を横切り、街の上空へ広がっていく。けれど、その群れはどこへも辿り着かなかった。羽ばたく影は次々に薄れ、夜の闇へ溶けるように消えていく。
最後の一羽が消えた後も、満月は変わらずそこにあった。ただ、見えない隔たりだけが、完全に失われていた。
「……神域が」
「ええ。終わりましたよ」
天照様の声は、不思議なほど静かに響いた。壊したのでも、一時的に穴を開けたのでもない。ロキが作り上げたあの神域は、今、この瞬間に終わりを迎えたのだ。
そう言った天照様の指先から、金色の光がふっと消えた。笑顔はそのままなのに、窓枠へ添えた手が、僅かに震えていた。
「今じゃ!」
オーディン様の声と同時に、床のルーンが一斉に光を放った。
六人の足元から伸びた光の筋が絡み合い、二つの大きな輪となって窓の外へ広がっていく。一つは上へ向かい、屋上を幾重にも取り囲んだ。もう一つは外側へ広がり、街を覆う薄い膜となって姿を消す。
「好き勝手やりおって。ならば、お主の舞台くらい自分で支えろ。後始末も、自分でせい」
幾つものルーンが重なり合い、最後に一本の線となって、遥か上空のロキへ伸びていった。
オーディン様が杖を下ろすと同時に、六人の足元から光が消える。
「……うむ。二つとも、あやつに押し付けてやったわい。これで、あやつが倒れるまでは屋上も街も保つじゃろう」
オーディン様が、杖に深く体重を預ける。
「もっとも、こっちに力を回しすぎたわい。儂も天照も、今は皆を運んで飛ぶほどの余力はない。あとは――」
下層から、大きな爆発音が響いた。足元が跳ね上がり、ラウンジの奥で天井の一部が崩れ落ちる。
「……この建物から、さっさと出ることじゃな」
私も、まったく同じことを考えていた。
○
「RABBIT3、聞こえますか」
『聞こえてるよ! 今の何!? 急に空が割れて、真っ黒な鳥みたいなのがいっぱい飛んでったんだけど!』
「説明は後です。神域の消滅を確認しました。回収地点へ接近してください」
『了解! ちょっと待っててね!』
窓の外で旋回していたヘリが、大きく機首を巡らせた。どれほど近づこうとしても縮まらなかった距離が、今度ははっきりと縮んでいく。当たり前のはずのその光景が、今は何よりも頼もしかった。
「これなら脱出できます」
そう言ったミヤコさんの声には、普段ほどの張りがなかった。
その身体を包んでいた光が、急速に薄れていく。刀が青白い粒子へほどけ、水着と上着が見慣れたSRTの装備へ置き換わり、最後に瞳の金色の輪が消えた。
直後、その膝が折れた。
「ミヤコさん!」
慌てて身体を支える。
「……ありがとうございます。少し、力が入らないだけです。意識ははっきりしています」
それでも、ミヤコさんはすぐには自力で立とうとしなかった。あの神域を終わらせたのだ。何の代償もないとは思えなかった。
「……ミヤコさん、無理は」
「はい。ですが、まだ任務は終わっていません」
私の腕を借りたまま、ミヤコさんが通信機へ手を伸ばす。
「RABBIT1より全部隊。これより撤収を開始します。護衛対象者三名の移乗を最優先。FOX1、移乗の指揮をお願いします」
「了解した。FOX小隊、外壁の崩落箇所へ移動しろ」
向かったのは、ホテルの側面が大きく吹き飛んだ場所だった。元は客室だったのだろう。壁の半分以上が失われ、床も途中から欠け落ちている。手すりも何もない縁の先には、遥か下まで続く暗闇が口を開けていた。
その先へ、大型輸送ヘリがゆっくりと近づいてくる。機体後部の大きなランプはすでに開かれ、内部から明かりが漏れていた。
『回収地点、視認! うわぁ……思った以上にボロボロじゃん!』
「RABBIT3、建物へ近づけすぎないでください。崩落と突発的な爆発に注意」
『分かってるって! その辺は任せて!』
ローター音が近づき、吹き込む風が一段と強くなる。それでも、ヘリとの間にはまだ跳び越えなければならない距離が残っていた。
私は《アストラノヴァ》を持ち上げた。
Winch ON
撃ち出したワイヤーがランプの縁の金具へ絡みつく。手元側を崩落箇所の脇に残った太い柱へ巻きつけて固定し、《アストラノヴァ》から切り離した。
張力を調整すれば、移乗の際に身体を支える補助線が一本だけ残る。最後に私が渡る時の命綱にもなるはずだった。
「助かる。あとは我々でやる」
ユキノさんは短く言うと、最初の一人へ向き直った。
「天照様。先にお送りします。足元が不安定だから、動かないでくれ」
「まあ、もう出発ですか? では、よろしくお願いいたしますね♡」
次の瞬間、ユキノさんは天照様の背中へ片腕を回し、もう片方の腕を膝の裏へ差し込んだ。
「……え?」
私が思わず声を漏らしたのと、天照様の身体がふわりと持ち上がったのは、ほとんど同時だった。
お姫様抱っこだった。
「まあ……!」
「しっかり掴まれ」
「は、はいっ♡」
頬を染めた天照様が、嬉しそうにユキノさんの首へ腕を回す。ユキノさんはその反応を気にも留めず、足元を確かめて膝を曲げた。
「行くぞ」
二人の身体が宙へ躍り出る。ホテルとヘリの間の空間を一息に飛び越え、ユキノさんはランプの上へ着地すると、天照様を機内の奥へ下ろした。
『護衛対象者一名、収容確認!』
「……見事なものですね」
「FOXの隊長だからな。あれくらいは当然だろう」
隣のサキさんはそう言うと、オーディン様へ向き直った。
「次は私が運びます」
「うむ。頼むぞ」
サキさんは杖を預かると、オーディン様の身体を抱え上げ――そのまま肩へ担いだ。
「……ん?」
サキさんの肩の上で、白い髭が揺れている。
「……待て、お主。儂の運び方が、先ほどの天照と随分違わんか?」
「こちらの方が安定します。しっかり掴まっていてください」
「安定というかのう……儂、一応、神々の王なのじゃが」
「分かっています。ですから、絶対に落としません」
「そういう問題では――」
言い終わる前に、サキさんが踏み切った。俵のように担がれたオーディン様が、夜空を越えていく。
「……大丈夫でしょうか」
「RABBIT2なら問題ありません」
「いえ、運搬技術の方ではなく……」
オーディン様の尊厳のようなものが、少し気になっただけなのだけれど。
「アザゼル様、こちらへ」
「おう、頼むぜ。飛べと言われりゃ飛べるが、今は素直に世話になっとくよ」
神域が消えて、力そのものは戻っているはずだ。それでも、長く抑え込まれていた身体まですぐに元どおりとはいかないらしい。ニコさんに肩を支えられたアザゼル先生が、補助線を頼りにヘリへ跳び移った。
『護衛対象者三名、全員収容!』
最優先だった三人は、無事に移乗を終えた。けれど、まだ私たちが残っている。
「次、RABBIT1だ。ミライ、そちらで補助できるか!」
「はい!」
ランプの上から、ユキノさんの声が飛んでくる。私はミヤコさんの身体を支え、崩れた床の縁へ向かった。
「ミヤコさん。私が送り出しますので、ユキノさんの手を掴んでください」
「……お願いします、ミライさん」
「任せてください」
ミヤコさんがこちらへ体重を預ける。今の彼女に、あの距離を自力で越える力は残っていない。私は彼女を支えたまま、足元へ《アストラノヴァ》を向けた。
Hopping ON
床に生じた反発力に合わせ、ミヤコさんの身体を前へ送り出す。必要な高さと距離を見極め、最後の瞬間に手を離した。
「ユキノさん!」
「任せろ!」
ランプから伸びた手が、ミヤコさんの腕を掴む。そのまま引き寄せられ、ミヤコさんの足が機内の床を踏んだ。
「礼はいい。座っていろ」
ユキノさんの短い声を聞いて、私はようやく息を吐いた。
「次、FOX3!」
「了解!」
クルミさんが大盾を背中へ固定し、床の縁まで一気に駆ける。重い装備などないかのように跳躍し、ランプの上へ着地した。
「FOX4!」
「りょーかい~」
オトギさんも狙撃銃を固定して跳び、着地するなりこちらへ手を振ってみせる。
「RABBIT4、移乗してください」
「……行きます」
最後にミユさんが、いつもの控えめな声とは裏腹に、少しのためらいもなく踏み切った。長い狙撃銃を抱えたまま、危なげなくヘリへ届く。
「ミライ、来い!」
背後では火災が勢いを増し、床の下から金属の軋む音が絶え間なく響いている。けれど、もう誰かを待つ必要はない。
あと一度跳べば、終わりだ。
そう思った、その時だった。
○
足元の遥か下で、何か巨大なものが壊れたような、鈍い音がした。
次いで、ホテルの内部を振動が駆け上がってくる。
「――っ!?」
床が跳ね上がり、裂け、壁が砕けた。天井を支えていた梁が音を立てて折れ、下から吹き上がってきた炎が周囲の空気を赤く染める。補助線を結んでいた柱が、床ごと傾いていくのが見えた。
「ミライ!」
誰かの叫び声。私はとっさに床を蹴った。
Hopping ON
けれど、爆発の方が早かった。踏み切ろうとした床そのものが崩れ、身体が予定とは違う方向へ弾き飛ばされる。
「っ、あ……!」
視界が回る。足元にあったはずのホテルが、急速に遠ざかっていく。
違う。遠ざかっているのは、私の方だ。
Aero ON
気流で身体の向きを変えようとした瞬間、手の中から異様な熱が伝わってきた。表面を走る青白い光が不規則に揺れ、出力が一瞬落ちる。三十六階から使い続けてきた《アストラノヴァ》は、もう今までのようには応えてくれなかった。
それでも、何もしなければ落ちる。
Winch ON
まだ形を保っていた外壁へワイヤーを撃ち込む。引っ張られる感覚とともに、身体が僅かに持ち上がった。
しかし、固定したはずの外壁が、音を立てて崩れた。
ワイヤーの先で巨大なコンクリートの塊が砕け、そこから先は、あまりにも速かった。窓が割れ、柱が折れ、外壁が次々と外へ吹き飛んでいく。各階を支えていた構造が連鎖的に壊れ、傾いた上の階が、下の階を押し潰していった。
燃え上がる高層ホテルが、内側から崩れていく。その光景を、私は空中から見ていた。
『ミライちゃん! こっち! こっちに戻って!』
モエさんの声が通信から響く。
返事をしようにも、身体が思うように動かない。もう一度、《エアロ》を使っても出力が足りず、《ホッピング》で空気を蹴ろうとしても姿勢が定まらない。
頭上のヘイローだけが、黒煙の中で紫の光を引いていた。
「ミライ! 手を伸ばせ!」
見上げると、ヘリの後部ランプからユキノさんが身体を乗り出していた。安全索を身につけたその背中を、ニコさんとクルミさんが支えている。
けれど、届かない。この距離では、どれほど手を伸ばしても。
「ミライさん! まだです!」
機内に座り込んだまま、ミヤコさんが通信機を握っていた。
「RABBIT3、機首を右へ! 高度をもう少しだけ下げてください! RABBIT2、回収索を!」
『了解! ちょっと揺れるよ!』
「了解!」
サキさんがランプの外へ回収索を投げる。その先端が、私のすぐ近くを通り過ぎた。
Winch ON
最後に残った出力でワイヤーを撃ち出し、回収索の金具を捉える。絡みついた手応えと同時に、ユキノさんの声が響いた。
「よし、引け!」
身体へ強烈な力が掛かり、落下の勢いが止まった。今度は、ヘリへ向かって引き上げられていく。
けれど、吹き上がる熱風と崩壊するホテルから飛んでくる瓦礫が、機体を激しく揺さぶっていた。回収索を掴み直したものの、限界まで使い続けた腕は、もう自分の身体を持ち上げてくれない。
「こっちも引くよ!」
「FOX3、引きすぎるな! 身体が振られる!」
「分かってるって!」
「RABBIT4、反対側の索を! FOX4、周囲の瓦礫を!」
「りょーかい~」
銃声が響き、私のすぐ近くへ迫っていた破片が空中で砕け散った。ヘリが大きく揺れる。それでも、モエさんは機体の姿勢を崩さなかった。
『RABBIT1! これ以上は危ないよ!』
「あと少しです! そのまま!」
『……了解っ!』
ユキノさんが手を伸ばし、ニコさんとクルミさんがその身体を支える。サキさんとミユさんが索を引き、オトギさんが瓦礫を撃ち落とす。
ミヤコさんが全体を見て指示を飛ばし、モエさんが崩れゆくホテルのすぐ近くに巨大な機体を留め続けている。
誰一人、手を止めていなかった。
「ミライ、手を離すな!」
「……はい!」
残っていた力で身体を伸ばす。指先が触れ、次の瞬間、手首を強く掴まれた。
「掴んだ! 引け!」
何人もの力が一斉に掛かり、身体が大きく持ち上がる。最後にクルミさんとサキさんに抱き留められ、私は機内の床へ転がり込んだ。
「……はぁ、はぁ……」
呼吸が整わない。全身が熱く、手足にはほとんど力が残っていなかった。それでも、背中には床の感触がある。
落ちていない。
腕の中の《アストラノヴァ》から、青白い光の線が一本ずつ消えていく。最後の一本が消えても、熱だけはなかなか引かなかった。
「……ミライさん! 大丈夫ですか!?」
「……はい。何とか……」
「よかった……」
ユキノさんに支えられたミヤコさんが、こちらを見下ろしていた。その声には、いつもの落ち着きが少しだけ欠けていた。
「……ありがとうございました」
「こちらこそ、です。ミライさんが最後まで残ってくれたおかげで、全員が脱出できました」
「でも、最後は……」
「はい。最後は、私たちが助けました」
ミヤコさんが、静かに微笑む。
「それでいいんです」
何も言い返せなかった。けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
掴まれた手首が、まだ熱かった。
『全員収容、確認! 離脱するよ!』
ヘリが大きく機首を巡らせる。その窓の外で、最後の崩落が起こった。
上層を支えていた構造が折れ、建物の中央が沈み込む。無数の階層が折り重なるように潰れ、巨大な炎と粉塵が夜空へ巻き上がった。あれほど高く聳えていたホテルが、次々と形を失っていく。
そして、何も残らなかった。
少なくとも、建物そのものは。
「……あれ?」
崩れ落ちたホテルの、遥か上空。そこに、一つだけ残っているものがあった。
屋上だった。
下層も、それを支えていた柱も、すべて失われている。それなのに屋上だけが、見えない巨大な手に支えられているかのように、元の高さに浮かんでいた。
その上では、今も断続的に閃光が瞬いている。一誠たちの戦いは、まだ終わっていなかった。
「当然じゃ。儂が押し付けてやった術式じゃぞ。簡単に崩れてもらっては困るわい」
座席に深く腰掛けたオーディン様が、窓の外を見上げていた。
「下の建物は、さすがにどうにもならんかったがのう。もっとも、今夜は最初から貸し切りで、従業員も置いておらん。巻き込まれた者はおらんよ」
「……そうだったんですね」
「街へ被害が広がらぬようにもしてある。無関係な者の目には映らんし、戦いの余波も外へは漏れん。もっとも、儂らの目まで塞ぐつもりはないがのう」
「……ロキが倒れるまで、ですか?」
「うむ。その後は、隠しておく必要もなくなる」
ホテルは失われた。けれど、ロキはまだ、あそこにいる。
「……一誠」
ここから、何か手助けできるだろうか。そんな考えが一瞬だけ頭をよぎったけれど、今の私は、まともに立つことさえできない。
それに、あそこには一誠たちがいる。
一度だけ目を閉じ、それから窓の外へ視線を戻した。
「……お願いします」
誰へともなく、小さく呟いた。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
-
歴代ライダーとの共闘
-
歴代ライダーとの対決
-
ライドウォッチ
-
アーマータイム
-
ミライ独自のライダー形態
-
他キャラの仮面ライダー化
-
ライダー由来の武器・アイテム
-
ライダーマシン
-
怪人・敵組織
-
歴代ライダーの能力再現
-
歴代ライダーの必殺技
-
原作ライダーの名場面オマージュ
-
仮面ライダー側の世界観・設定
-
昭和ライダー要素
-
平成一期ライダー要素
-
平成二期ライダー要素
-
令和ライダー要素
-
劇場版・Vシネマなどの要素
-
その他(感想欄で教えてください)