止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第82刻 幕はまだ下りない

――ドォォォンッ!!

 

 足元から突き上げてきた振動に、俺は思わず膝を曲げた。

 

 ロキが術式を起動してから、下層の爆発は止まらない。最初は遠い地響きのようだったものが、今では屋上の床まで大きく震わせ、そのたびにどこかで何かが崩れる音が聞こえてくる。

 

 下にいる爺さんたちのことを考えるたびに、胸の奥がざわついた。

 

「……随分と下の様子が気になるようですね」

 

 ロキが、薄く笑った。

 

「もっとも、気にしたところで、あなた方にできることは何もありませんが」

 

「……てめぇ!」

 

『相棒、来るぞ!』

 

 ドライグの声と同時に、ロキの背後へ幾つもの魔方陣が開いた。放たれた魔力のうち、正面の一つをミョルニルで弾き飛ばす。槌頭の雷とロキの魔術がぶつかり、夜空に白い閃光が広がった。

 

 けれど、左右へ分かれた別の術式が、それぞれ違う角度から俺を狙っている。

 

「イッセー君!」

 

 朱乃先輩の雷撃が頭上から降り注ぎ、迫っていた魔術を空中で弾けさせた。その隙間へ、バラキエルさんがさらに雷を叩き込む。二人の攻撃はほとんど同時で、俺がどちらへ避けるべきかまで考えてくれているのが分かった。

 

「助かりました!」

 

「礼は後でいい!」

 

 治療を受けたとはいえ、片翼を広げたバラキエルさんの動きにはまだ硬さが残っている。それでも、放たれる雷はロキが片手間で処理できる威力じゃなかった。

 

「イッセー!」

 

 部長の滅びの魔力が、正面からロキへ襲いかかる。それを防ぐために幾重もの魔方陣が展開された瞬間、俺は翼を噴かせて側面へ回り込み、全身の力を込めて槌を振り抜いた。

 

 ――ガァンッ!!

 

 ロキの身体が大きく揺れる。けれど次の瞬間には、足元に開いた魔方陣から魔力の槍が伸びてきて、俺は屋上の床を転がされていた。

 

「ぐあっ!」

 

 やっぱり、強い。何度攻撃を当てても、ロキは倒れる気配を見せない。それどころか、俺たちの攻撃を捌きながら、別の場所で戦っている仲間たちへまで魔術を飛ばしていた。

 

 少し離れた場所では、木場とゼノヴィア、小猫ちゃんが、ソーナ会長たちと一緒にスコルとハティを押さえ込んでいる。

 

 匙のヴリトラの黒炎と、ロスヴァイセさんの拘束魔術が二匹の動きを縛っているものの、少しでも連携が乱れれば、すぐに包囲を破られそうだった。

 

「くそっ……! まだ暴れんのかよ、こいつら!」

 

「匙、もう少しだけ耐えて!」

 

「分かってますよ、会長!」

 

 そして屋上の反対側では、ヴァーリがフェンリルと戦い続けていた。相手は、警察官のような制服姿の女性だ。見た目だけなら、こんな場所とは無縁に見える。

 

 けれど、その拳銃から撃ち出される《牙》は、神さえ殺す一撃だ。ヴァーリが白い翼を広げて踏み込めば、フェンリルは素早く身を翻し、至近距離から銃口を向ける。

 

 ――ドォンッ!!

 

 交差した腕で受け止めたヴァーリの鎧が砕け、身体が大きく後方へ吹き飛ばされた。それでも、あいつは瓦礫を蹴って再び飛び上がり、真正面から突っ込んでいく。今あのフェンリルを止められるのは、ヴァーリだけだった。

 

「……本当に、よく頑張りますね。ですが、いつまで続くのでしょうか」

 

「……黙れ!」

 

 俺が再び飛び出すと、ロキの正面へ魔方陣が展開された。けれど今度は、俺が飛び込むより早く、ギャスパーの瞳が赤く輝いた。

 

「――今です!」

 

 《停止世界の邪眼》。

 

 ロキが魔方陣へ伸ばしていた腕の動きが、僅かに鈍った。それに合わせて魔力の流れも乱れ、完成しかけていた術式が一瞬だけ揺らぐ。

 

 完全に止まったわけじゃない。ロキが力を込めれば、すぐに元の速さへ戻ろうとする。けれど、その僅かな遅れだけで十分だった。

 

「おおおおっ!」

 

 術式が完成する前に間合いを詰め、ミョルニルを振り下ろす。どうにか腕で受け止めたロキの身体が、大きく後退した。

 

 追撃しようとした、その瞬間。

 

 ――ドォォォンッ!!

 

 また下から、さっきよりも遥かに近い爆発が響いた。足を取られた俺は、咄嗟に翼を広げて飛び退いた。

 

 爆発は、確実に上へ近づいてきている。今にも崩れそうなホテルの屋上で、俺たちはなおも戦い続けていた。

 

     ○

 

 最初は、何が起きたのか分からなかった。

 

 ――パキン。

 

 ロキの魔術を防ぎ、次の攻撃へ移ろうとした時、妙に澄んだ音が頭上から聞こえてきた。爆発でも、魔術がぶつかった音でもない。薄い硝子が割れたような、小さな音だった。

 

 見上げた夜空には、変わらず満月が浮かんでいる。けれど、そのすぐ脇に、見覚えのない細い線が走っていた。

 

 線は見る間に枝分かれし、月を取り囲むように広がっていく。まるで、夜空そのものにひびが入っていくみたいだった。

 

「……な、何ですか……これは……?」

 

 ロキの声が聞こえた。さっきまでの薄笑いが、跡形もなく消えている。慌てて持ち上げた手から魔力が流れ込んでも、亀裂は止まらなかった。

 

「ちょ、ちょっと……! 待ちなさい! どうして……!」

 

 ――パキィィィンッ!!

 

 夜空が、砕けた。

 

 無数の破片が舞い上がり、それが次々と黒い烏へ変わっていく。満月の周囲を埋め尽くした黒い翼に、屋上で戦っていた誰もが一瞬だけ動きを止めた。

 

 俺だって例外じゃない。魔術も神器も嫌というほど見てきたけれど、空が砕けて烏になる光景なんて、初めてだった。やがて最後の一羽が闇に溶け、空にはただ満月だけが残った。

 

「……う、嘘でしょう……?」

 

 ロキの声が、明らかに震えていた。

 

「私の神域が……そんな……どうして……!?」

 

 神域。ホテルとその上空を丸ごと閉じ込め、転移さえ封じていたロキの結界。それが、今の光景と一緒に消えたのだとしたら。

 

「……神域が、破られたの?」

 

 部長の呟きに、ロキは答えなかった。両手を広げ、何度も夜空へ魔力を流し込んでいる。砕けた神域を、繋ぎ直そうとしているんだろう。けれど注がれた魔力は、どこにも届かないまま、ただ虚しく散っていくだけだった。

 

「……どうして……繋がらない……? いえ、違う……これは、壊されたのではなく……」

 

 ロキの手が、止まった。直すべきものが、もうどこにも残っていない。それにようやく気づいたような顔だった。

 

「……終わらされた……?」

 

 その時、ロキの足元に見慣れない文字が浮かび上がった。

 

「――っ!?」

 

 文字は一斉に輝き、ロキの身体へ絡みつくように広がっていく。腕から胸元へ、胸元から背中へ。幾重にも重なったルーンが、あっという間に全身を覆い尽くした。

 

「な、何ですか、これは……!」

 

 振り払おうとしても、文字は消えない。それどころか、ロキが魔力を込めるたびに新しいルーンが浮かび、さらに複雑な模様を描いていく。

 

「――ぐ、あぁぁっ!?」

 

 ロキの身体が、大きく折れ曲がった。周囲を漂っていた魔力が乱れ、幾筋もの光となって屋上の床へ流れ込んでいく。別の光は屋上の外側へ広がり、夜空の向こうへ消えていった。

 

「……この術式……まさか……!」

 

 全身の文字を見下ろしたロキが、目を見開く。

 

「オーディン……! あなた、何をしたんですかぁっ!?」

 

 その叫びとともに、ロキが膝をついた。今までどれだけ攻撃しても崩れなかった姿勢が、初めてはっきりと乱れている。

 

 何が起きたのか、詳しく分かったわけじゃない。けれど、爺さんが下で何かをやってくれたことだけは分かった。

 

「イッセー!」

 

「分かってます!」

 

 部長の声に応えて、俺はロキへ突っ込んだ。展開された防御魔術は、さっきまでと比べて明らかに遅い。完成する前に、俺の槌が届いた。

 

 ――ガァンッ!!

 

 床を何度も転がったロキが、どうにか身体を起こす。その顔には、もう余裕の笑みなんて浮かんでいなかった。

 

     ○

 

「……転移が使えるわ!」

 

 最初に叫んだのは、ソーナ会長だった。屋上の一角に展開されていた魔法陣が、それまでとは違う光を放っている。

 

「外部との接続が回復しています! 拘束したまま、この二匹をまとめて移送します。全員、術式を維持して!」

 

 仲間たちが一斉に動き出した。降下してきたタンニーンのおっさんの巨体が二匹の逃げ道を塞ぎ、ロスヴァイセさんの拘束魔術と黒歌の仙術が足元へ絡みつく。そこへ匙の黒炎が重なり、漆黒のドラゴンが二匹の脚を床へ押しつけた。

 

「会長! 早くしてください! マジでもう限界です!」

 

「……ま、待ちなさい! 何を勝手に……!」

 

 移送を妨害しようとロキが突き出した手の先へ、朱乃先輩とバラキエルさんの雷撃が飛び込んだ。

 

「あなたの相手は、こちらですわ!」

 

 ロキが防御魔術を展開した隙に、俺が飛び込んでミョルニルを振り抜く。どうにか身を翻されたものの、その動きは明らかに鈍っていた。

 

「イッセー君。お父様たちも、あの二匹と一緒に移動しますわ」

 

「分かりました!」

 

 俺が頷くと、バラキエルさんは朱乃先輩へ向き直り、小さな宝石を差し出した。淡い紫色の光を宿した結晶で、表面には細かな文字が刻まれている。

 

「緊急脱出用の転移術式を封じてある。握り潰せば、周囲にいる者をまとめて兵藤家の地下へ運べるように調整した。今は転移を使えるが、ここはもう安全な場所ではない。必要になったら、迷わず使いなさい」

 

「……分かりましたわ、お父様。お父様も、どうかお気をつけて」

 

「ああ」

 

 以前の二人なら、こんなふうに言葉を交わすことも難しかったはずだ。けれど今は、互いに目を逸らすこともなく、ごく自然に向き合っている。

 

 バラキエルさんは朱乃先輩の肩へ軽く手を置くと、翼を広げてソーナ会長たちの方へ飛んでいった。

 

 転移魔法陣の輝きが強まった、その瞬間だった。

 

「――グルァァァッ!!」

 

 咆哮とともにスコルが身を捩り、前脚を縛っていた黒炎の鎖を引き千切りかけた。拘束陣の縁に亀裂が走り、匙が苦しげな声を上げる。

 

「させるか!」

 

 タンニーンのおっさんが巨体ごと覆い被さり、暴れる子狼を床へ押しつけた。すかさずロスヴァイセさんが術式を重ね、ひび割れた拘束陣を内側から補強していく。

 

「移送準備、完了しました!」

 

 ロスヴァイセさんの声と同時に、巨大な転移魔法陣が広がった。

 

 ソーナ会長とその眷属たち、アーサー、美猴、黒歌、タンニーンのおっさん、バラキエルさん、ロスヴァイセさん。ヴァーリを除いた仲間たちが、二匹の子狼ごと光の中へ包まれていく。

 

「イッセー! そっちは任せたからな!」

 

「おう! そっちも頼んだぜ!」

 

 匙は笑ったようだった。黒炎のドラゴンごと光に呑まれ、その姿が消える。光が収まった時には、スコルとハティの姿はもうなかった。直前に拘束陣から離れた木場たちが、俺の方へ戻ってくる。

 

「あとは、ロキとフェンリルだけだね」

 

「ああ!」

 

 改めてロキへ向き直った、その時だった。

 

 ――ドォォォォォォンッ!!

 

 今までとは比較にならない衝撃が、足元から突き上げてきた。咄嗟にミョルニルを床へ突き立てて身体を支える。屋上のあちこちに亀裂が走り、縁から大きな破片が剥がれ落ちていった。

 

 けれど、本当の異常はその下だった。

 

「……おい、嘘だろ……?」

 

 屋上の端から見下ろした先で、ホテルが崩れていた。何十階もの建物が、下層から次々と折れ重なるように潰れていく。窓が砕け、外壁が剥がれ、炎に包まれた巨大な柱が途中から折れていった。

 

「……そんな……!」

 

 アーシアの声に、俺は何も答えられなかった。

 

 爺さんも、アザゼル先生も、日本神話の神様も、ちゃんと逃げられたんだろうか。胸の奥が、嫌なほど冷たくなっていく。

 

 けれど、その直後に、もう一つの異常に気づいた。

 

「……待てよ」

 

 俺たちの立っている屋上だけが、落ちていない。下の建物が完全に崩れ去っても、屋上だけは何十階分もの高さを保ったまま、夜空に浮かび続けていた。

 

『相棒、ロキを見ろ』

 

 ドライグに言われて視線を向けると、ロキの全身に浮かんだルーンのうち幾つかが強く輝き、屋上の床へ魔力を送り込んでいた。

 

「……オーディン……! こんなものまで、私に押し付けるなんて……!」

 

 憎々しげに呻くロキの顔は、苦しそうに歪んでいた。詳しい仕組みは分からない。けれど、爺さんのルーンがロキ自身に屋上を支えさせ、その分だけあいつの力を削り続けているらしかった。

 

 ホテルも、柱も、壁もなくなった。夜空に取り残されたこの屋上だけが、最後の戦場になっていた。

 

     ○

 

 ――ドォンッ!!

 

 轟音とともに、白い鎧の一部が砕け散った。

 

「……ぐっ!」

 

 大きく後退したヴァーリの正面で、フェンリルが拳銃を構え直している。制服はあちこちが破れ、身体にも無数の傷が走っていた。それでも表情一つ変えず、次の一撃を放とうとしている。

 

 その身体には、ロキが刻んだルーンが幾つも浮かんでいた。光が強まるたびにフェンリルの魔力が膨れ上がり、ヴァーリを少しずつ押し返していく。

 

「……まだだ!」

 

 ヴァーリが白い翼を大きく広げ、自分から踏み込んだ。フェンリルも真正面から迎え撃とうと、腕のルーンを輝かせて銃口を持ち上げる。

 

 その瞬間だった。

 

 ――パキンッ!!

 

「……え?」

 

 フェンリルの腕に刻まれていた文字の一つが、突然砕け散った。何かが飛んできたのか――そう思った時には、もう砕けたルーンの破片が夜風に散っていた。

 

 フェンリルの身体には、傷一つ増えていない。けれど、その動きが明らかに変わった。銃口が止まり、全身から溢れていた禍々しい魔力が、急速に萎んでいく。

 

「……な、何が……!? どうして、そのルーンが……!」

 

 ロキの声に、さっきまでとは違う焦りが混じった。

 

 フェンリルは、もうヴァーリを撃とうとはしなかった。持ち上げていた腕が力なく下がり、身体が大きく傾いて、そのまま前のめりに倒れる。

 

 しばらく警戒していたヴァーリが、ようやく拳を下ろした。

 

「……どうやら、戦う必要はなくなったらしいな」

 

 そう呟いた直後、その身体が大きく揺らいだ。白い鎧が光の粒子となって崩れ、翼も消え、ヴァーリは片膝をつく。

 

「ヴァーリ!」

 

 駆け寄ったアーシアが、治癒の光を広げた。どうにか床へ手をついて倒れずに済んだものの、ヴァーリの顔はひどく青ざめている。

 

「……悪いな。どうやら、少しばかり使いすぎたらしい」

 

「少しってレベルじゃねえだろ!」

 

 あれほど長い時間、しかも神喰狼を一人で抑え込みながら、《覇龍》を使い続けていたんだ。まともに立っていられなくなっても、何も不思議じゃない。

 

「……兵藤一誠。悪いが、俺はもう前には出られそうにない」

 

「分かってる。十分やってくれたよ。後は俺たちが――」

 

「ただし、援護くらいならできる。俺の力は、殴らなければ使えないわけじゃないからな」

 

「……無茶するなよ」

 

「お前にだけは言われたくないな」

 

「うるせえ!」

 

 ヴァーリが、小さく笑った。少し離れた場所では、小猫ちゃんが倒れたフェンリルを慎重に移動させている。気を失っているけれど、呼吸はあるらしい。

 

 スコルとハティは移送され、フェンリルも倒れた。残る敵は、一人だけだ。

 

「……ロキ」

 

 全身にオーディンの爺さんのルーンを浮かべたまま、ロキが顔を上げた。肩で息をしているのに、その目だけはまだ戦う意思を失っていない。

 

「まさか、これで勝ったつもりではないでしょうね?」

 

「……いいや」

 

 俺は、ミョルニルを握り直した。

 

「今から勝つんだよ!」

 

     ○

 

 フェンリルが倒れたことで、ようやく全員がロキ一人へ集中できるようになった。

 

「木場!」

 

「分かってる!」

 

 魔剣を構えた木場が側面へ回り込み、ロキの注意を引きつける。ロキが片手を向けた瞬間には、反対側からゼノヴィアが飛び込んでいた。

 

「そちらばかり見ている余裕はないぞ!」

 

 振り下ろされたデュランダルを防御魔術が受け止め、そこへ別の角度から突き刺さった木場の魔剣が、表面に亀裂を走らせる。

 

 続く部長の滅びの魔力から身を翻した先へ、朱乃先輩の雷撃が降り注ぎ、さらに小猫ちゃんの仙術を纏った拳が腹部へ叩き込まれた。

 

「――おおおおおっ!」

 

 その隙へ飛び込み、ミョルニルを振り抜く。ロキの正面で、防御魔法陣が幾重にも重なった。

 

『Divide!』

 

 少し離れた場所から、聞き慣れた電子音が響く。アーシアに身体を支えられたヴァーリが、片手だけをこちらへ向けていた。半減の力で防御の輝きが弱まった瞬間、俺の槌が正面から叩き込まれる。

 

 ――ガァンッ!!

 

 吹き飛ばされたロキが床を転がり、口元に血を滲ませながら体勢を立て直した。

 

「まだまだぁっ!」

 

 追いかけようとして、脚が言うことを聞かなかった。踏み出した膝が大きく揺らぎ、その隙を見逃さずに放たれた魔力の槍が、まともに俺を弾き飛ばす。

 

 手から離れたミョルニルが、甲高い音を立てて床を転がっていった。

 

「イッセー!」

 

「……大丈夫です!」

 

 どうにか立ち上がったものの、転がっていった槌を拾いに行く余裕は、もうなかった。腕も脚も背中も痛み、ずっと戦い続けてきた疲労が、今になって一気に押し寄せてくる。

 

 木場たちも同じだった。剣を振るう速度は明らかに落ち、ゼノヴィアも何度か膝をついている。部長と朱乃先輩は残りの魔力を慎重に使い始め、小猫ちゃんの表情にも疲労の色が隠せない。

 

 少し離れた場所では、ギャスパーが何度も邪眼を使い続けていた。ロキが攻撃しようとするたびにその動きを僅かに遅らせ、俺たちが避ける時間を作ってくれている。けれど、その顔色もひどく悪くなっていた。

 

「ギャスパー、もう無理するな!」

 

「だ、大丈夫です……!」

 

 答えた直後によろめいたギャスパーを、小猫ちゃんが支える。それでもあいつは、再びロキへ視線を向けた。俺はそれ以上、何も言えなかった。

 

 攻防を重ねるたびに、ロキも俺たちも、少しずつ動きが鈍っていった。

 

 そして、とうとう――素手のまま踏み込んだ俺の拳と、木場の魔剣が同時に叩き込まれ、ロキの防御がまとめて砕け散った。今だ。その隙へ、ゼノヴィアがデュランダルを振りかぶって飛び込む。

 

 けれど、踏み込んだゼノヴィアの脚が、そこで崩れた。

 

「――っ、くそ……!」

 

 振り下ろされるはずだった聖剣が、ロキの手前で床を抉る。ロキも反撃しようと片手を持ち上げたものの、掌に集まった魔力は、形になる前に散ってしまった。

 

 俺の脚も、そこで止まった。

 

「……はぁっ、はぁっ……!」

 

 片膝をついたまま顔を上げると、ロキも片手を床について、どうにか身体を支えていた。もうほとんど限界なんだろう。

 

 あと一撃。本当に、あと一撃だけなんだ。それさえ届けばきっと倒せるのに、その最後の一撃を放つ力が、もう俺たちには残っていなかった。

 

「……まったく……どうして、あなた方はそこまでしつこいんですか……」

 

 ロキが、荒い呼吸の合間に呟いた。

 

「これ以上続けたところで、双方に何の利益もないでしょう……? でしたら、ここで一度、仕切り直すのが合理的だと思いますが……」

 

「……ふざけんな。最初に仕掛けてきたのは、お前だろうが……!」

 

「……そういう話をしているのではありません」

 

 引きつった笑みを浮かべたロキの足元に、小さな魔法陣が浮かび上がった。その形には、見覚えがある――転移魔法陣だ。

 

「てめぇ、逃げる気か!」

 

「……逃げる? 随分と失礼な言い方をするのですね。私はただ、状況を見極めたうえで、適切な判断を下そうとしているだけです」

 

 ロキの周囲へ、俺たちを牽制する攻撃魔術が幾つも浮かぶ。その内側で、足元の転移魔法陣が少しずつ完成していく。

 

 立ち上がろうとしても、脚が動かない。木場もゼノヴィアも同じだった。部長が集めようとした魔力も、すぐに弱まってしまう。

 

「……では、ごきげんよう。次にお会いする時は、もう少し有意義なお話ができるといいですね」

 

 転移の光に包まれ始めたロキが、無理やり笑みを浮かべた。

 

 その瞬間だった。

 

「――行かせませんっ!!」

 

 ギャスパーの声が、屋上に響き渡った。

今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?

  • 歴代ライダー本人の登場
  • 歴代ライダーとの共闘
  • 歴代ライダーとの対決
  • ライドウォッチ
  • アーマータイム
  • ミライ独自のライダー形態
  • 他キャラの仮面ライダー化
  • ライダー由来の武器・アイテム
  • ライダーマシン
  • 怪人・敵組織
  • 歴代ライダーの能力再現
  • 歴代ライダーの必殺技
  • 原作ライダーの名場面オマージュ
  • 仮面ライダー側の世界観・設定
  • 昭和ライダー要素
  • 平成一期ライダー要素
  • 平成二期ライダー要素
  • 令和ライダー要素
  • 劇場版・Vシネマなどの要素
  • その他(感想欄で教えてください)
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