翌朝、一誠の様子が少し変わっていた。
弱っているわけではない。むしろ逆だ。内側に何か増えたような、重心が一段下がったような、そういう変化だった。
「一誠」
「ん?」
「何かありましたか」
「え、何が」
「昨日より、少し雰囲気が違います 」
「雰囲気?」
「あなたの中に、別の何かが起きたように見えます」
一誠は少し間を置いた。それから、妙に落ち着いた声で言った。
「……ドラゴンと話した」
「それは冗談で言ってますか 」
「夢の中でだけど」
「夢の中なら正常、とは言えません 」
一誠は苦笑した。
私は前を向いたまま、頭の中で情報を並べた。
一誠の中には赤龍帝がいる。廃教会でリアス先輩が言っていた。神器の中でも特別な、神滅具の一つ。
自分の中には、時の魔王と名もなき神々の王女がいる。
私だけが異物ではない。この男も、自分の中に巨大な何かを抱えて、それでもいつも通り騒がしく登校している。
安心、とは違う。
けれど、自分だけが得体の知れないものを抱えているわけではないのだと、少しだけ思った。
それが救いなのか、危険が増えただけなのかは、まだ分からない。
昼過ぎ、廊下で一誠を見つけた時、彼は壁に背をつけて座り込んでいた。その両隣に、同じように座り込んでいる男が二人。
理由を察するのに、三秒もかからなかった。
「あなたはなぜ、自分の評価を定期的に地面へ叩きつけるのですか」
「男には、行かなきゃならない時があるんだよ……」
「ありません」
「即答!?」
「今回ばかりは小猫さんの処置が妥当です」
「小猫ちゃん容赦なかったんだよ! 本当に!」
「そうでしょうね」
私は三人の傷の具合を一通り確認した。
少なくとも、今すぐアーシアさんを呼ぶほどではない。立てる。しばらくは痛いだろうが、授業には出られる。
そんな判断を、平然としている自分に少しだけ気づく。
この数日で、私は何に慣れ始めているのだろう。
放課後の部室は、いつもより静かだった。
リアス先輩がソファに座っている。表情は穏やかだ。朱乃さんがお茶を用意している。木場くんは本を読んでいる。小猫さんは菓子を食べている。
どれも、普段通りの光景だった。
普段通りなのに、空気が違う。
私は昨日から続くリアス先輩の「半拍の遅れ」を、今日もまだ感じていた。話の継ぎ目で、彼女の視線が一瞬だけ、どこか遠くへ行く。
聞くべきか、また迷った。
ここにいていい理由は得た。けれど、他人の胸の奥へ踏み込む理由までは、まだ持っていない。だから私は、気づいていながら、聞けなかった。
そこへ、扉が開いた。
銀髪。メイド服。隙のない所作。
ただ立っているだけで、部室の空気が整列するようだった。
もし時間に折り目があるなら、この人はそれさえ正確に畳みそうだと思った。
リアス先輩が、その人の名を呼んだ。
グレイフィア・ルキフグス。
一誠の口から聞いたことがある名前だった。昨夜、リアス先輩を連れ戻しに現れたという銀髪の女性。
使用人、と聞いていたが、その言葉では足りない。
この人は、仕える者であると同時に、場を裁く者でもある。少なくとも、私にはそう見えた。
彼女の登場と同時に、リアス先輩の表情が、かすかに硬くなった。
それを見て、私はようやく理解した。
今日は、普段とは違う日だ。
グレイフィアさんが簡潔に告げた。
ライザー・フェニックス様がいらっしゃいます、と。
同時に、彼がリアス先輩の婚約者であることも。
ライザー・フェニックス。
その名を聞いた瞬間、頭の奥の棚が勝手に軋んだ。
炎。再生。不死。
倒されるたびに蘇り、蘇るたびに強くなる赤い怪物。希望を守る魔法使いを何度も苦しめた、不死鳥の名を持つファントム。
もちろん、これから現れるのはそれではない。
悪魔。貴族。フェニックスの名を持つ誰か。
それでも、嫌な名前だった。
次の瞬間、魔法陣が広がった。
彼は部室の中に立った瞬間から、場を占有していた。
背が高い。金色の髪。端整な顔立ち。貴族の余裕と、それが当然だという自信。
リアス先輩を見る目に、敵意はない。
婚約者を見る目。あるいは、いずれ家に迎える相手を見る目。
そこに悪意はない。
だからこそ、私は少し嫌だった。
「リアス。いつまで子どもの意地を張るつもりだ」
「これは意地ではないわ。私の意思よ」
「貴族の婚姻は、意思だけで決めるものではない」
声は穏やかだった。それが問題だと思った。
悪意ではない。だからこそ厄介だった。この人は、自分の距離が相手を傷つける可能性を、最初から大きく見積もっていない。
リアス先輩の拒絶が、彼の認識の中では最優先になっていない。婚約とはそういうものだと、本気で思っている。
ライザーはそこで、私に気づいた。
「見ない顔だな。グレモリーの新しい眷属か?」
「違います」
「では、盤外の者か」
「そのようです」
「ならば、この婚約に口を挟む立場もあるまい」
「立場はありません。ですが、感想を持つ自由はあります」
彼は少し目を細めた。面白がっているように見えた。
深くは追ってこなかった。
「レーティングゲーム、とは」
私が問うと、グレイフィアさんがリアス先輩へ視線を向けた。説明を促したのだと分かった。
「悪魔の眷属同士で行う、公式の競技よ」
リアス先輩が答えた。
「競技」
「ええ。ただし、勝敗には現実の意味が伴うわ」
ゲームには規則がある。勝利条件がある。盤面がある。
けれど、これは娯楽ではない。盤面の向こうで傷つくのは、駒ではなく知人だ。
「私は」
言いかけて、止まった。
私はグレモリー眷属ではない。悪魔ですらない。公式の眷属戦に、私の席はない。
グレイフィアさんが静かに言った。
「天童ミライ様はグレモリー眷属ではありません。今回のゲームに参加する資格はございません」
「……理解しています」
参加できない。その事実は、当然だった。
私は部員になった。けれど、駒ではない。悪魔でもない。そして何より、私の力はまだ、誰かのゲームに乗せていいものではない。
それは分かっている。分かっていても、部室の中に、自分だけ別の場所に立っているような感覚があった。
ライザーが手を鳴らした。
魔法陣が複数展開され、次々に人が現れる。
全員、女性だった。
数が違う。経験が違う。場に慣れている空気が違う。それぞれが、己の場所をすでに知っているように立っていた。
木場くんの手が、わずかに剣を握る形を取った。
小猫さんは、菓子を食べる手を止めていた。
朱乃さんの笑みも、いつもより薄い。
私はざっと見渡した。
これは、勝負の形をした不均衡だ。
ライザーが一誠を見た。視線が、格付けをしていた。
「お前か。リアスの駒になった人間は」
「……そうだ」
「弱そうだな」
一誠の肩が揺れた。
「兵藤一誠、待ちなさい!」
言葉より先に、彼は動いていた。
「ミラ」
ライザーが短く名を呼ぶ。
眷属の一人が前に出た。次の瞬間、一誠は床に叩きつけられていた。
一撃だった。
「一誠さん!」
アーシアさんが立ち上がりかける。
けれど、朱乃さんが静かに制した。
私は、走りかけた足を止めた。
終わっていた。もう終わっている。私が間に入る余地もなかった。
無謀。無策。挑発に乗っただけ。
そう切り捨てるのは簡単だった。実際、戦術としては最悪だ。
けれど、一誠は立ち上がろうとしていた。
床に手をついて、それでも顔を上げようとしていた。その顔は、リアス先輩を向いていた。
その最悪が、誰かの心を動かすことがある。
「受けるわ」
リアス先輩の声は、静かだった。
ライザーが眉を上げる。
リアス先輩は、一度だけ一誠を見た。
それから、ライザーを正面から見据える。
「私のために怒ってくれた子がいるのに、私だけが黙っているわけにはいかないわ」
彼女の声は、さっきまでよりも透き通っていた。
「レーティングゲーム。受けます」
ライザーは少しだけ、意外そうな顔をした。それから微笑んだ。
「いいだろう。楽しみにしている」
魔法陣が展開され、彼らは消えた。
部室に残ったのは、静かな空気と、床に座り込んだままの一誠と、眷属たちと、私だった。
一誠が、なんとか立ち上がった。
「部長……」
「ありがとう、一誠」
リアス先輩の声は、決めた人間の声だと思った。
私は部室の端に立ったまま、何も言えなかった。言うべき言葉が見当たらなかった。
言えることといえば、あなたの判断は戦術的に最善ではないかもしれない、という話だが、それを今言う意味はない。
だから黙っていた。
帰り道は一人だった。
レーティングゲーム。
悪魔の眷属同士で行う競技。勝敗の先には、リアス先輩の未来がある。
私は参加できない。グレモリー眷属ではないから。悪魔ではないから。そして何より、私の力はまだ、誰かの盤面に乗せていいものではないから。
それでも、目を逸らすつもりはなかった。
フェニックス。炎。再生。不死。
嫌な名前が、胸の奥でまだ燻っている。
ライザー・フェニックスは、悪人ではないのかもしれない。貴族として、婚約者として、自分の世界の中では正しく生きているのかもしれない。
だが、リアス先輩が拒んでいることを、彼はまだ同じ重さでは受け取っていない。
それだけは、私にも分かった。
次に盤面へ立つのは、私ではない。
兵藤一誠だ。
一撃で倒された。何もできなかった。それでもリアス先輩のために怒れた男が、次に進む。
なら私は、見届ける。
彼がどこまで進むのかを。
夜道の向こうに、店の明かりが見えた。
壁の時計たちが、今夜も時を刻んでいる。
私は扉を開けて、中へ入った。
仮面ライダーマイスのディザーPVと情報解禁きましたね。皆さんは確認しましたか?色々言いたいことがありますが一つだけ言わせてください。
”マオウドライバー”
とても平成を感じるいい名前です。
この物語に求めている成分は?その他を選んだ方は是非感想欄で教えて下さい
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ハイスクールD×D要素
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仮面ライダー要素
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ブルーアーカイブ要素
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ツンデレミライ
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我が魔王
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全部
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その他
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特にない