止まった針は時の終わりに未来を見る   作:ドレットノータス

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第9刻 不死鳥

翌朝、一誠の様子が少し変わっていた。

 

弱っているわけではない。むしろ逆だ。内側に何か増えたような、重心が一段下がったような、そういう変化だった。

 

「一誠」

 

「ん?」

 

「何かありましたか」

 

「え、何が」

 

「昨日より、少し雰囲気が違います 」

 

「雰囲気?」

 

「あなたの中に、別の何かが起きたように見えます」

 

 一誠は少し間を置いた。それから、妙に落ち着いた声で言った。

 

「……ドラゴンと話した」

 

「それは冗談で言ってますか 」

 

「夢の中でだけど」

 

「夢の中なら正常、とは言えません 」

 

 一誠は苦笑した。

 

 私は前を向いたまま、頭の中で情報を並べた。

 

 一誠の中には赤龍帝がいる。廃教会でリアス先輩が言っていた。神器の中でも特別な、神滅具の一つ。

 

 自分の中には、時の魔王と名もなき神々の王女がいる。

 

 私だけが異物ではない。この男も、自分の中に巨大な何かを抱えて、それでもいつも通り騒がしく登校している。

 

安心、とは違う。

 

けれど、自分だけが得体の知れないものを抱えているわけではないのだと、少しだけ思った。

 

それが救いなのか、危険が増えただけなのかは、まだ分からない。

 

 

 昼過ぎ、廊下で一誠を見つけた時、彼は壁に背をつけて座り込んでいた。その両隣に、同じように座り込んでいる男が二人。

 

 理由を察するのに、三秒もかからなかった。

 

「あなたはなぜ、自分の評価を定期的に地面へ叩きつけるのですか」

 

「男には、行かなきゃならない時があるんだよ……」

 

「ありません」

 

「即答!?」

 

「今回ばかりは小猫さんの処置が妥当です」

 

「小猫ちゃん容赦なかったんだよ! 本当に!」

 

「そうでしょうね」

 

 私は三人の傷の具合を一通り確認した。

 

 少なくとも、今すぐアーシアさんを呼ぶほどではない。立てる。しばらくは痛いだろうが、授業には出られる。

 

 そんな判断を、平然としている自分に少しだけ気づく。

 

 この数日で、私は何に慣れ始めているのだろう。

 

 

 放課後の部室は、いつもより静かだった。

 

 リアス先輩がソファに座っている。表情は穏やかだ。朱乃さんがお茶を用意している。木場くんは本を読んでいる。小猫さんは菓子を食べている。

 

 どれも、普段通りの光景だった。

 

 普段通りなのに、空気が違う。

 

 私は昨日から続くリアス先輩の「半拍の遅れ」を、今日もまだ感じていた。話の継ぎ目で、彼女の視線が一瞬だけ、どこか遠くへ行く。

 

 聞くべきか、また迷った。

 

 ここにいていい理由は得た。けれど、他人の胸の奥へ踏み込む理由までは、まだ持っていない。だから私は、気づいていながら、聞けなかった。

 

 そこへ、扉が開いた。

 

 

 銀髪。メイド服。隙のない所作。

 

 ただ立っているだけで、部室の空気が整列するようだった。

 

 もし時間に折り目があるなら、この人はそれさえ正確に畳みそうだと思った。

 

 リアス先輩が、その人の名を呼んだ。

 

 グレイフィア・ルキフグス。

 

 一誠の口から聞いたことがある名前だった。昨夜、リアス先輩を連れ戻しに現れたという銀髪の女性。

 

 使用人、と聞いていたが、その言葉では足りない。

 

 この人は、仕える者であると同時に、場を裁く者でもある。少なくとも、私にはそう見えた。

 

 彼女の登場と同時に、リアス先輩の表情が、かすかに硬くなった。

 

 それを見て、私はようやく理解した。

 

 今日は、普段とは違う日だ。

 

 

 グレイフィアさんが簡潔に告げた。

 

 ライザー・フェニックス様がいらっしゃいます、と。

 

 同時に、彼がリアス先輩の婚約者であることも。

 

 ライザー・フェニックス。

 

 その名を聞いた瞬間、頭の奥の棚が勝手に軋んだ。

 

 炎。再生。不死。

 

 倒されるたびに蘇り、蘇るたびに強くなる赤い怪物。希望を守る魔法使いを何度も苦しめた、不死鳥の名を持つファントム。

 

 もちろん、これから現れるのはそれではない。

 

 悪魔。貴族。フェニックスの名を持つ誰か。

 

 それでも、嫌な名前だった。

 

 次の瞬間、魔法陣が広がった。

 

 

 彼は部室の中に立った瞬間から、場を占有していた。

 

 背が高い。金色の髪。端整な顔立ち。貴族の余裕と、それが当然だという自信。

 

 リアス先輩を見る目に、敵意はない。

 

 婚約者を見る目。あるいは、いずれ家に迎える相手を見る目。

 

 そこに悪意はない。

 

 だからこそ、私は少し嫌だった。

 

「リアス。いつまで子どもの意地を張るつもりだ」

 

「これは意地ではないわ。私の意思よ」

 

「貴族の婚姻は、意思だけで決めるものではない」

 

 声は穏やかだった。それが問題だと思った。

 

 悪意ではない。だからこそ厄介だった。この人は、自分の距離が相手を傷つける可能性を、最初から大きく見積もっていない。

 

 リアス先輩の拒絶が、彼の認識の中では最優先になっていない。婚約とはそういうものだと、本気で思っている。

 

 ライザーはそこで、私に気づいた。

 

「見ない顔だな。グレモリーの新しい眷属か?」

 

「違います」

 

「では、盤外の者か」

 

「そのようです」

 

「ならば、この婚約に口を挟む立場もあるまい」

 

「立場はありません。ですが、感想を持つ自由はあります」

 

 彼は少し目を細めた。面白がっているように見えた。

 

 深くは追ってこなかった。

 

 

「レーティングゲーム、とは」

 

 私が問うと、グレイフィアさんがリアス先輩へ視線を向けた。説明を促したのだと分かった。

 

「悪魔の眷属同士で行う、公式の競技よ」

 

 リアス先輩が答えた。

 

「競技」

 

「ええ。ただし、勝敗には現実の意味が伴うわ」

 

 ゲームには規則がある。勝利条件がある。盤面がある。

 

 けれど、これは娯楽ではない。盤面の向こうで傷つくのは、駒ではなく知人だ。

 

「私は」

 

 言いかけて、止まった。

 

 私はグレモリー眷属ではない。悪魔ですらない。公式の眷属戦に、私の席はない。

 

 グレイフィアさんが静かに言った。

 

「天童ミライ様はグレモリー眷属ではありません。今回のゲームに参加する資格はございません」

 

「……理解しています」

 

 参加できない。その事実は、当然だった。

 

 私は部員になった。けれど、駒ではない。悪魔でもない。そして何より、私の力はまだ、誰かのゲームに乗せていいものではない。

 

 それは分かっている。分かっていても、部室の中に、自分だけ別の場所に立っているような感覚があった。

 

 

 ライザーが手を鳴らした。

 

 魔法陣が複数展開され、次々に人が現れる。

 

 全員、女性だった。

 

 数が違う。経験が違う。場に慣れている空気が違う。それぞれが、己の場所をすでに知っているように立っていた。

 

 木場くんの手が、わずかに剣を握る形を取った。

 

 小猫さんは、菓子を食べる手を止めていた。

 

 朱乃さんの笑みも、いつもより薄い。

 

 私はざっと見渡した。

 

 これは、勝負の形をした不均衡だ。

 

 ライザーが一誠を見た。視線が、格付けをしていた。

 

「お前か。リアスの駒になった人間は」

 

「……そうだ」

 

「弱そうだな」

 

 一誠の肩が揺れた。

 

「兵藤一誠、待ちなさい!」

 

 言葉より先に、彼は動いていた。

 

「ミラ」

 

 ライザーが短く名を呼ぶ。

 

 眷属の一人が前に出た。次の瞬間、一誠は床に叩きつけられていた。

 

 一撃だった。

 

「一誠さん!」

 

 アーシアさんが立ち上がりかける。

 

 けれど、朱乃さんが静かに制した。

 

 私は、走りかけた足を止めた。

 

 終わっていた。もう終わっている。私が間に入る余地もなかった。

 

 無謀。無策。挑発に乗っただけ。

 

 そう切り捨てるのは簡単だった。実際、戦術としては最悪だ。

 

 けれど、一誠は立ち上がろうとしていた。

 

 床に手をついて、それでも顔を上げようとしていた。その顔は、リアス先輩を向いていた。

 

 その最悪が、誰かの心を動かすことがある。

 

 

「受けるわ」

 

 リアス先輩の声は、静かだった。

 

 ライザーが眉を上げる。

 

 リアス先輩は、一度だけ一誠を見た。

 

 それから、ライザーを正面から見据える。

 

「私のために怒ってくれた子がいるのに、私だけが黙っているわけにはいかないわ」

 

 彼女の声は、さっきまでよりも透き通っていた。

 

「レーティングゲーム。受けます」

 

 ライザーは少しだけ、意外そうな顔をした。それから微笑んだ。

 

「いいだろう。楽しみにしている」

 

 魔法陣が展開され、彼らは消えた。

 

 部室に残ったのは、静かな空気と、床に座り込んだままの一誠と、眷属たちと、私だった。

 

 

 一誠が、なんとか立ち上がった。

 

「部長……」

 

「ありがとう、一誠」

 

 リアス先輩の声は、決めた人間の声だと思った。

 

 私は部室の端に立ったまま、何も言えなかった。言うべき言葉が見当たらなかった。

 

 言えることといえば、あなたの判断は戦術的に最善ではないかもしれない、という話だが、それを今言う意味はない。

 

 だから黙っていた。

 

 

 帰り道は一人だった。

 

 レーティングゲーム。

 

 悪魔の眷属同士で行う競技。勝敗の先には、リアス先輩の未来がある。

 

 私は参加できない。グレモリー眷属ではないから。悪魔ではないから。そして何より、私の力はまだ、誰かの盤面に乗せていいものではないから。

 

 それでも、目を逸らすつもりはなかった。

 

 フェニックス。炎。再生。不死。

 

 嫌な名前が、胸の奥でまだ燻っている。

 

 ライザー・フェニックスは、悪人ではないのかもしれない。貴族として、婚約者として、自分の世界の中では正しく生きているのかもしれない。

 

 だが、リアス先輩が拒んでいることを、彼はまだ同じ重さでは受け取っていない。

 

 それだけは、私にも分かった。

 

 次に盤面へ立つのは、私ではない。

 

 兵藤一誠だ。

 

 一撃で倒された。何もできなかった。それでもリアス先輩のために怒れた男が、次に進む。

 

 なら私は、見届ける。

 

 彼がどこまで進むのかを。

 

 夜道の向こうに、店の明かりが見えた。

 

 壁の時計たちが、今夜も時を刻んでいる。

 

 私は扉を開けて、中へ入った。

 




仮面ライダーマイスのディザーPVと情報解禁きましたね。皆さんは確認しましたか?色々言いたいことがありますが一つだけ言わせてください。
”マオウドライバー”
とても平成を感じるいい名前です。

この物語に求めている成分は?その他を選んだ方は是非感想欄で教えて下さい

  • ハイスクールD×D要素
  • 仮面ライダー要素
  • ブルーアーカイブ要素
  • ツンデレミライ
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