ロキの事件がようやく一段落し、オーディン様たちが北欧へ帰った翌日、私は久しぶりに自分の家へ戻ることにした。
兵藤家には随分とお世話になってしまったが、いつまでも時計店を閉めておくわけにはいかない。あの日から一度も様子を見に帰っていないのだから、店の中がどうなっているのか、少しばかり心配だった。
「お店の入口には、しばらく休業するという張り紙を貼らせてもらっているわ。ただ、中までは何もしていないから、掃除が必要かもしれないわね」
「ありがとうございます。そこまで気にかけていただいていたんですね」
リアス部長に礼を述べ、帰ったらまず掃除だと考えていると、廊下から遠慮がちな声が聞こえてきた。
「あ、あの……ミライ先輩。僕も、お手伝いしていいですか?」
振り返ると、ギャスパー君がこちらを覗いていた。その肩には、見慣れた蝙蝠が乗っている。
「もちろんです。ありがとうございます、ギャスパー君」
「おう! だったら俺もついていくぜ。時計屋なんて面白そうじゃねえか!」
「……キバット、見学だけではなく、ちゃんとお掃除もお願いしますね」
「分かってるって!」
返事だけは随分と頼もしい。ただ、あの小さな身体で何ができるのかは、行ってみないと分からない。ともあれ、こうして私はギャスパー君とキバットを連れ、天童時計店へ帰ることになった。
○
見慣れた通りの角を曲がると、『天童時計店』の看板が目に入った。お爺さんが長い間守り、今では私が二代目として営んでいる小さな時計店だ。
外観は最後に見た時とほとんど変わらない。ただ、入口のガラス戸には『しばらく休業します』と書かれた紙が一枚貼られていた。私はそれをしばらく眺めてから鍵を取り出し、久しぶりに店の扉を開けた。
「……ただいま」
誰に聞かせるでもなく呟いて中へ入ると、木の棚と古い紙、金属部品と機械油の混ざった、懐かしい匂いがした。
ただ、いつもなら店のあちこちから聞こえてくる時計の音が、随分と少ない。電池で動く時計はいくつか時を刻んでいるものの、ゼンマイを巻く必要のある古時計は、すっかり止まってしまっていた。
「わあ……時計がいっぱい……。でも、何だか静かですね」
「ええ。いつもは、もう少し賑やかなんですけどね」
カウンターの端を指でなぞると、薄く積もった埃が指先についた。展示棚のガラスは少し曇り、床の隅にも細かな塵が溜まっている。荒れ果てているほどではないけれど、一度きちんと掃除をしておきたい状態だった。
「……思っていたより、大変そうですね」
「ぼ、僕、頑張ります!」
まずは換気のために窓を開け、表通りに面した日差しの強い窓だけは、ブラインドを半分ほど下ろしておく。振り返ると、ギャスパー君が少し安心したように微笑んでいた。
その間にも、キバットは店の中をゆっくりと飛び回り、壁時計や展示棚を興味深そうに眺めていた。
「へえ……いい店じゃねえか。古い時計も随分あるんだな。……それにしても、妙に落ち着くぜ、この店」
「そうですか?」
「ああ。初めて来た気がしねえっていうか……何だろうな」
キバットは不思議そうに首を傾げたものの、それ以上考えることもなく、今度は天井近くの壁時計へ飛んでいってしまった。
私は物置から掃除道具を取り出し、二人に布を渡した。精密工具や預かり品のある作業台は私が受け持ち、ギャスパー君にはカウンターと展示棚の外側、それに床をお願いする。
キバットには、飛べることを活かして、高い場所の確認と埃払いを手伝ってもらうことにした。
「おおっ! 棚の上にも結構溜まってるぜ!」
「……キバット。そこで勢いよく羽ばたかないでください」
「ん? なんでだ?」
「今、こちらへ全部飛んできています」
「おっと、悪い悪い!」
舞い上がった埃が朝の日差しに照らされ、細かな粒になって店の中を漂う。結局、先に高い場所を片付けてもらい、落ちてきた埃を私たちが拭き取る順番に変えることになった。
しばらくして、展示棚を拭いていたギャスパー君が、一本の腕時計に目を留めた。
「あの、ミライ先輩。これって、古い時計ですよね?」
「ええ。故障していたものを仕入れて、修理したんです。うちは販売もしていますけど、基本は修理が中心ですから」
ギャスパー君は、ケースの中で静かに時を刻む時計を、感心したように見つめていた。その隣には私が部品を集めて組み立てた時計も並んでいるけれど、こちらはお爺さんの頃にはなかった、私自身の趣味のようなものだ。
作業台の脇を片付けていたギャスパー君が、今度は古いラジオを見つけて首を傾げた。
「……ミライ先輩。ここって、時計店ですよね? ラジオも直すんですか?」
「……一応、ここは時計店なんですが。お爺さんの頃から、近所の方が時計以外のものも持ってこられるんです」
壊れた扇風機を抱えてきた近所のおばさんに、お爺さんが困ったように笑っていたことを思い出す。
『うちは時計屋なんだけどなぁ』
そう言いながら、結局は工具を持ち出していた。今の私も似たようなことをしているので、あまり人のことは言えない。
「ははっ! そりゃ面白い爺さんだったんだな!」
「……ええ。とても」
棚の上から聞こえたキバットの声に、私は小さく頷いた。
そんな時、棚の奥を掃除していたギャスパー君が、折り畳まれた一枚の紙を取り出した。
「あ、あの……ミライ先輩。これ、どうしたらいいですか?」
広げられた紙には、赤い文字で大きく、こう書かれていた。
『俺、参上!』
思わず、笑みがこぼれた。こんなものまで残っていたとは思わなかったけれど、誰が書いたのかは聞くまでもない。
「懐かしいですね。以前、ここに三か月ほど居候していた方の置き土産ですよ」
「へえ、随分と威勢のいい字じゃねえか。……ん?」
横から覗き込んだキバットが、紙を見た途端に動きを止めた。
「おい、ミライ。その居候って、もしかして赤くて、やたら喧嘩っ早い奴じゃねえか?」
「……モモタロスさんのことですか?」
「やっぱりか! はっはっは! まさか、こんなところであいつの名前を聞くとはな! 昔、ちょいと一緒に暴れたことがあってよ!」
知識の上では、二人に接点があることを知っていた。けれど、それを本人の口から聞くのは、まるで別のことだった。
「あの……モモタロスさんって、どんな人なんですか?」
「以前この店で一緒に暮らしていた、少々騒がしい方ですよ」
「少々どころじゃねえだろ、あいつは!」
「……否定はできませんね」
思わず苦笑すると、キバットも楽しそうに笑った。
「……キバットさんは、どこで会ったんですか?」
「昔、電王って奴と一緒に戦った時にな。あの赤い奴らは、そいつに力を貸してたのさ」
「その電王さんも……仮面ライダー、なんですか?」
「まあ、お前らの言い方なら、そうなるな」
そう答えてから、キバットは何かを思い出したように笑い出した。
「そういや、あの赤いのが渡に憑依したこともあったっけな。普段はあんなに大人しい奴が、急に別人みたいになっちまってよ!」
その言葉に、私は掃除の手を止めた。
その光景を、私はなぜか知っていた。赤く逆立った髪に、普段とはまるで違う振る舞いをする紅渡さんの姿まで、はっきりと思い浮かぶ。けれど、それをいつ、どこで知ったのかは、どうしても思い出せなかった。
「……ミライ先輩?」
「あ、いえ。何でもありません」
私は紙を丁寧に畳み直した。考えても、すぐに答えが出るものではない。少なくとも、モモタロスさんたちがこの店で暮らしていたことは確かなのだ。捨てるのも忍びなくて、作業台の横の壁に画鋲で留めておくことにした。
○
「ふぅ……。少し、休憩しましょうか」
「は、はい……!」
「おう! いやあ、掃除ってのも案外大変だな!」
椅子に腰を下ろしたギャスパー君とは対照的に、キバットはまだ元気そうだった。もっとも、足で布を押さえながら棚を拭くのは、それなりに苦労したらしい。
二人に飲み物を用意してから、私は作業台で、預かっている修理品の点検を始めた。
引き出しの奥には、ブランクウォッチを仕舞っている小箱がある。ギャスパー君に一つ渡してから、そこは一つ分だけ空いたままだった。
「おっ、こりゃまた、いいもんがあるじゃねえか! 装飾の感じからすると、十九世紀のフランスあたりか?」
展示棚から聞こえた声に振り返ると、キバットが真鍮の装飾を施した古い置時計を眺めていた。
「よくご存じですね。お爺さんが昔から扱っていた時計なんです。中は何度か修理していますから、全部が当時の部品というわけではありませんけど」
「そりゃそうだ。こういうのは時計ってだけじゃなく、工芸品としても面白いんだよ」
思っていた以上に、美術や工芸に詳しいらしい。私が内部の機構について話すと、キバットはそれも興味深そうに聞いていた。
作業台へ戻り、前回の記録と照らし合わせながら修理途中の腕時計を確かめていると、いつの間にかキバットがすぐ近くまで飛んできていた。
「……へえ、そうやって直すのか。なんだか、渡を思い出すぜ」
その名前に、ギャスパー君が顔を上げた。
「あ、あの……キバットさん。さっきも言っていましたけど、渡さんって……?」
「おう。俺の昔の相棒さ。紅渡っていってな。ヴァイオリンを作るのが好きな奴で、今のミライみたいに、細かい仕事をしてる時は随分と真剣な顔をしてたぜ」
キバットは懐かしそうに笑い、それからギャスパー君へ目を向けた。
「そういや、最初はお前とそっくりだと思ったんだよ。人前に出るのが苦手で、すぐ縮こまっちまうところとかな。……まあ、今はそうでもねえけど」
「ぼ、僕と、ですか? ……その人も、キバだったんですか?」
「ああ。俺と一緒に戦った、キバさ。……あの屋上で、お前が纏ったのと同じ鎧だ」
ギャスパー君は、そっと自分の手の甲に触れた。あの夜、キバットが噛みついた場所だ。
屋上で何が起きたのか、私は自分の目で見たわけではない。一誠から聞いた話と、満月を背にしたあの写真でしか知らない。それでも、手の甲を見つめるギャスパー君の横顔を見れば、あれが夢ではなかったことくらいは分かった。
自分より前に同じ力を使っていた人がいると知って、気になったのだろう。ギャスパー君は少し考え込んでから、遠慮がちに口を開いた。
「あの……もっと、聞いてもいいですか?」
キバットは一瞬だけ目を丸くして、それから何とも嬉しそうに笑った。
「へへっ。そいつは、ちょいと長い話になるぜ? ――よし、せっかくだ。少しばかり昔話と洒落込むか!」
キバットは翼を大きく広げ、先ほどの置時計の上へ舞い降りようとした。
「……キバット。その時計の上は駄目です」
「おっと、悪い悪い」
隣の棚の上に降り直したキバットは、舞台に上がった役者のように胸を張り、私たちを見渡した。
「――さあ、お立ち合い! これより語るは、人と夜の一族、二つの世界の狭間に生まれ、一本のヴァイオリンとともに歩んだ、一人の若者の物語!」
「……何だか、急に雰囲気が変わりましたね」
「へへっ! こういうのは雰囲気が大事なんだよ、ミライ!」
そう言って笑うと、キバットは今度はゆっくりと翼を畳み、歌うような調子で語り始めた。
「――昔々、というには、まだそう遠くない時代。ある町に、紅渡という若者が暮らしていた。亡き父の遺したヴァイオリンを大切にしながら、自らも美しい音色を生み出そうと、日々楽器作りに励んでいた青年さ」
随分と大仰な語り口なのに、不思議と耳に残る声だった。
「音楽を愛し、静寂を好み、他人との付き合いを何より苦手とした若者だった。家の外へ出るのも一苦労、知らない人間が訪ねてくりゃ、まともに話もできやしねえ。……まったく、あいつを外へ連れ出すのには苦労したぜ!」
最後だけ普段の口調に戻ったので、ギャスパー君が恥ずかしそうに肩を縮めた。
「……何だか、本当に僕みたいです」
「だろ? けどな、ギャスパー。あいつには、自分でも知らない秘密があったんだ」
キバットは一度言葉を区切り、声の調子を落として続けた。
「若者には、人間の父とファンガイアの母がいた。昼の世界に生きる人と、夜に生きる一族。その二つの血を受け継ぎながら、渡は長いこと、自分の生まれについて何も知らずにいたんだ」
「……ふぁんがいあ、ですか?」
「おっと、そこからか。人間の命――ライフエナジーってやつを吸って生きる、夜の一族さ。お前ら吸血鬼とは別もんだが……まあ、ちょいと似たところはあるかもな」
「人間と、夜の一族の……」
ギャスパー君が、小さく繰り返した。人間と吸血鬼、二つの血を引く彼にとって、それは他人事に聞こえなかったのかもしれない。
私は、ピンセットを動かす手を少しだけ緩めた。
「やがて若者は、その秘密を知ることになる。人間を守ろうとして戦ってきたのに、敵だと思っていた者たちと、自分自身がつながっていた。自分は人間なのか、ファンガイアなのか。……悩んださ」
キバットは、そこでわずかに目を伏せた。
「けどよ、どっちか一つを選んで、もう片方を簡単に捨てられるような奴じゃなかった。どっちの世界にも、大切なものがあったからな」
ギャスパー君はすっかり聞き入っている。その隣で、私は手元の時計に視線を落としたまま、何とも言えない感覚を覚えていた。
紅渡という人の名前も、その出生も、どんな戦いを経たのかも、私は知っている。けれど、その知識をどこで得たのかは分からない。
渡さんには、自分の出自を知り、それについて悩むことのできる過去があった。
一方の私には、お爺さんに拾われるより前の記憶がない。あの人と一緒に暮らし、この店で時計の直し方を教わり、何度も失敗しながら仕事を覚えた日々なら、今でもはっきりと思い出せるのに。
そこへ至るまでの時間だけが、綺麗に抜け落ちていた。
「――そして若者は、戦いの中で多くのものを知り、多くのものを失った」
キバットの声に、私は再び顔を上げた。
「どれほど強い力を持っていようと、守れねえものだってある。……渡にもな、大切な人を失った時があったんだ」
先ほどまでの華やかな語り口とは違い、その声には静かな悲しみが滲んでいた。
「若者は深く嘆き、とうとう一つの決断をした。今ある悲しみを受け入れる代わりに、その悲しみが生まれるよりも前へ戻ろうとしたんだ。――二十二年前の世界へな」
私は、今度こそ手を止めた。
「そこで渡は、自分の父親と母親が結ばれることを阻もうとした。自分が生まれなけりゃ、きっと違う未来になる。……そう考えたんだろうな」
「……どうして、そんな……」
戸惑ったように呟くギャスパー君に、キバットはしばらく黙り込んでから、静かに答えた。
「……誰だって、どうしようもなくなることはあるさ。何もかも、なかったことにしたくなる時だってな。渡があの時どれだけ思い詰めていたのか……俺だって、全部分かってたわけじゃねえよ」
その時、小さな金属音が響いた。
指先から滑ったネジが工具トレーの縁に当たり、作業マットの上へ転がっていた。私は黙ってそれを拾い、元の場所へ戻したけれど、すぐには作業を再開できなかった。
起きてしまった出来事を、なかったことにする。そんな話を聞いて、あの日のことを思い出さずにいられるはずがない。アーシアが次元の狭間へ消え、一誠が《覇龍》となった、あの時のことを。
私は、あの力を使った。誰かに命じられたわけでも、ただ力に操られていたわけでもない。自分の意思で《オーマ》を選び、すべてを作り直そうとしたのだ。
「……それで、渡さんはどうなったんですか?」
ギャスパー君の声に顔を上げると、キバットは表情を和らげていた。
「――さて、物語はここから思いがけない道を辿る。過去へ向かった若者は、そこで自分の父と出会い、両親がどんな人間で、何を願っていたのかを知っていくんだ。……まあ、親父の方はとんでもなく騒がしい男だったがな!」
一度だけ懐かしそうに笑ってから、キバットは静かな声に戻った。
「そうして渡は、もう一度考えるようになった。自分がいなくなればいいなんて、そんな簡単な話じゃなかったんだ。自分が消えれば、それまで出会ってきた奴らとの時間まで、全部消えちまうんだからな」
私は、その結末を知っていた。渡さんが自分を消すことをやめ、元の時代へ帰ってきたことも、その後も自分の人生を歩み続けたことも。
それでも、キバットの声で聞くそれは、私が知っている物語とは少し違って聞こえた。彼にとって渡さんは、知識の中にいる人物ではない。一緒に笑い、悩み、時には喧嘩もして、同じ時間を過ごしてきた相棒なのだ。
「――かくして若者は、再び自分の時代へ帰ってきた。失ったものが全部戻ったわけじゃねえし、悲しかったことがなかったことになったわけでもねえ。それでも、あいつは帰ってきた。自分の人生を、もう一度生きるためにな」
棚の上で翼を畳むと、芝居がかった口調は消え、いつもの得意げな笑みが戻っていた。
「……ま、そういう奴だったのさ。俺の昔の相棒はな」
「……すごい人だったんですね」
「へへっ! そりゃあ、俺の相棒だからな!」
何か言おうとして、うまく言葉が見つからなかった。私は手元の時計を見つめたまま、静かに息を吐いた。
しばらくして、ギャスパー君が何かを考え込むように、ぽつりと口を開いた。
「……僕も、怖かったです」
「ギャスパー君?」
「屋上でロキさんの前に立った時も、キバットさんに力を貸してくださいってお願いした時も、本当はずっと怖かったです。鎧を着ている間も、足がずっと震えてて……」
「…………」
「でも、皆さんが戦っていたので……僕も、少しでも力になれたらって……」
照れくさそうに自分の手を見つめるギャスパー君は、あの夜、怖がりなまま、仲間のために危険の中へ飛び込んでいった。それが決して簡単なことではなかったのを、私たちはよく知っている。
ギャスパー君は、怖かったのに選んだ。私も、あの時は自分で選んだ。
けれど、本当に怖いのはその先だった。一度、また一度と使ううちに、世界を作り変えることさえ、当たり前の選択になってしまうのではないか。
私が怖いのは――いつか、怖くないまま選んでしまうことだ。
「……ミライ先輩?」
呼ばれて顔を上げると、ギャスパー君が心配そうにこちらを見ていた。
「……すみません。少し、考え事をしていました」
「い、いえ……大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
あまり上手な返事ではなかったと思う。それでもギャスパー君はそれ以上尋ねず、小さく頷いてくれた。
そんな私たちを、棚の上から眺めていたキバットが、ゆっくりと翼を広げた。
「……ま、渡も随分遠回りしたもんさ。最初から答えを知ってたわけじゃねえ。立ち止まって、間違えて、また悩んで……そんなことばっかりだったぜ。長い物語ってのは、途中で何度も立ち止まるもんだろ?」
私に何かを教えようとしている言葉ではないのだろう。昔の相棒について、思い出したことを話しているだけだ。すぐには返事ができなかったけれど、やがて私は小さく頷いた。
「……そうですね」
「よーし! 昔話はここまで! そんじゃ、掃除の続きをやるとするか!」
「……キバット。さっきから、ほとんどお話ばかりしていませんでしたか?」
「なっ!? 俺だってちゃんと働いてたぜ!」
「で、でも……棚の上に、ずっといましたよね」
「おいおい、ギャスパーまでそんなこと言うのかよ!」
大げさに驚くキバットに、私は思わず笑ってしまった。
○
それから三人で残りの棚を拭き、床を掃き、作業台の周りを片付けていくと、夕方になる頃には、店の中はすっかり綺麗になっていた。
もちろん、掃除が終わったからといって、すぐに営業を再開できるわけではない。預かっている修理品の状態や部品の在庫、仕入れ先への連絡と、確かめなければならないことはまだたくさんある。
「二人とも、本当にありがとうございました。助かりました」
「い、いえ! 僕も、楽しかったです!」
「へへっ。まあ、たまにはこういうのも悪くねえな!」
最後に私は、キバットが乗ろうとした、あの真鍮の置時計を確かめることにした。外装の埃を払い、機構に異常がないことを確かめてから、慎重にゼンマイを巻き、振り子を揺らす。
しばらくすると、静かだった店の中に、規則正しい音が響き始めた。
「あっ、動きました!」
「長く止まっていましたから、しばらく様子を見る必要はありますけど」
「おお、いい音じゃねえか!」
嬉しそうな二人の顔を見てから、私はゆっくりと針を進め始めた時計へ視線を戻した。
まだ、あの力は怖い。もう一度使わなければならない時が来たとして、自分がどんな決断をするのかも分からない。
けれど、今こうして時計を直しているのは、私だった。お爺さんに教わり、何度も失敗しながら少しずつ覚えて、自分で続けようと決めた仕事だ。誰かに命じられたわけでも、そうしなければならなかったわけでもない。
私が好きで、選んだことだった。
時計の刻む音を聞きながら、私はそっと工具を置いた。
「……さて。入口の張り紙も、変えておきましょうか」
店の外へ出て、リアス部長が貼ってくれた休業の張り紙を丁寧に剥がし、代わりに新しく書いた紙を貼る。
『営業再開準備中』
「あの……ミライ先輩。また、お手伝いに来てもいいですか?」
「もちろんです。でも、次は普通に遊びに来てください」
「……はい!」
「へへっ。そんじゃ、今度はもっと面白そうな時計を見せてもらおうかな!」
「構いませんけど、勝手に触るのは駄目ですよ?」
「分かってるって!」
キバットは笑いながらギャスパー君の肩へ戻り、帰りかけたところで、もう一度だけ店を振り返った。
「……やっぱ、いい店だな」
「……ありがとうございます」
二人を見送ってから、私は店の中へ戻った。
明日は、預かっている時計の点検から始めよう。必要な部品を確かめて、仕入れ先への連絡も済ませておきたい。掃除を終えた店の中には、久しぶりに、いくつもの時計の音が重なって響いていた。
「……明日も、頑張りましょうか」
そう呟いて作業台に向かうと、壁に留めた赤い文字が、視界の端で妙に威勢よく主張していた。私は小さく笑って、修理記録を開いた。
今後、本作で特に見てみたい仮面ライダー要素は?
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歴代ライダー本人の登場
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歴代ライダーとの共闘
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歴代ライダーとの対決
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ライドウォッチ
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アーマータイム
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ミライ独自のライダー形態
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他キャラの仮面ライダー化
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ライダー由来の武器・アイテム
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ライダーマシン
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怪人・敵組織
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歴代ライダーの能力再現
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歴代ライダーの必殺技
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原作ライダーの名場面オマージュ
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仮面ライダー側の世界観・設定
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昭和ライダー要素
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平成一期ライダー要素
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平成二期ライダー要素
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令和ライダー要素
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劇場版・Vシネマなどの要素
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その他(感想欄で教えてください)