pixivにて同じ名前で投稿していた者です。前々から書き直そうと考えていて、この際新しく書くことにいたしました。
「何故っ、
男の声は、戦火の雄叫びにかき消される事なく、眼下の女に届いていた。怒号にも似た声色には、悲壮感を漂わせていた。それ程までに、女に告げられた言葉が、男にとって耐え難いものだった。
「こんな私に……
全てを捨てた
「あるだろう! 貴方に流れる血が、何よりの資格じゃないのか⁉︎」
男の言葉は、魔女ではなく、一人の
「……私は、死にゆく妹の決断に、何も、口を挟まなかった。今更、どんな顔をして、会いに行けと……」
先の男以上に、女の声は悲壮感に包まれていた。そんな顔も、そんな声も、何一つ男は聞いたことも、見たこともなかった。
「妹の子より、『終末の時計』を遅らせることを、選んだ。……だから、私に子供の面倒を、見る資格なんて、ない……」
「ッ──!!」
魔女の言葉に、男は何一つ言い返せなかった。
「でも、貴方に欠片でも愛があるなら、会うべきだったんじゃない? 私は、家族に会う資格なんて、それで十分だと思うよ、
静寂に包まれる最中、言葉を発したのは一柱の女神。未だ戦火の絶えないこの迷宮において、彼女の声は凛としていた。
「ハトホル様の仰る通りだ、アルフィア。家族になる資格なんて、私はないと思っている」
女神の眷属も、自らの思いを隠すことなく伝える。
神と眷属の真剣な眼差しを受けたアルフィアは、ふっ、と小さく笑みを浮かべた。先程までの自虐的な笑みではなく、自然な笑みであった。
「資格なんて、大層なことを、言ったが……そんなことは、ない」
静かに目を瞑り、アルフィアは話を続けた。自らの胸の内を、吐き出すように。隠してきた思いを、曝け出すように。
「『お義母さん』なら、ともかく……『おばさん』なんて、私は……絶対に呼ばれたくない。それ、だけだ」
「……は?」
「あー。なるほどねー」
思いもよらない言葉に、眷属は呆然と口を開き、女神は全てを悟ったように声を捻り出した。
「まさか……そんなことで、か?」
「
女神の捲し立てる言葉に、グランと呼ばれた眷属は小さく頷くことしかできなかった。それを見ていたアルフィアは、当たり前だ、と言わんばかりの視線を向ける。
「聞かせてくれ、アルフィア。どうして、そんな話を私にしたんだ」
アルフィアは瞳を開き、真っ直ぐグランを見つめた。
「……
初めて、『英雄』は己の名前を呼んだ。そのことに驚きを覚えながらも、グランは冷静さを保っていた。
「あの子を……お前に託す」
「いいのか?その子供が、戦う運命になるかもしれないぞ」
「……ああ。もし、そうなら、お前があの子を強くしろ。……あの子に、何かあったら。天界から、お前を殴りに、来てやる……」
「相変わらず、理不尽な魔女だよ」
「当たり、前だ。…………私は、
さも当然かのように話すアルフィアに、グランは諦めたように笑みを浮かべた。
「お休みなさい、アルフィア。貴方の主神ではないけど、最期を見届けることはできる」
「ふっ……
人の身であるグランからも、目の前の英雄が生き絶えることなど、容易に見てとれた。最後の力を振り絞るように、アルフィアは天を見上げる。震える唇で、悲願の想いを口にする。
「嗚呼……
その言葉は、魔女でも、英雄でもなく、一人の家族の言葉だった。最期まで、愛する妹への想いを、グランは最後まで聞き届けた。それこそが、今の自分にできる、意志を示すことなのだと、グランは理解しているから。
「後は、任せてくれ。アルフィア」
貴方が託したものは、私が必ず守る。静かに決意を固めるグランに、安心したかのように、アルフィアの表情は穏やかなものだった。
「この先に、
「はい。アルフィアから知らされた場所は、この先の筈です」
悪路が続く山林の中を、グランとハトホルは進んでいた。燦々と輝く太陽の光が、ハトホルを容赦なく照らし、暑さに悶えている。木々の隙間を通り抜ける日差しは、この場所が自然豊かであると表している。
『正邪の決戦』──『大抗争』から数週間後、グラン達はようやく、アルフィアから聞かされた子供に会いに行けることになった。都市を発つまでに、様々な苦労があったのを、神と眷属は今でも思い出せる程だ。
瀕死に近いし傷を負ったグランを、無理矢治療院のベットに括り付けたのは、後に聖女と呼ばれる小さき
「ふざけているのですか?」
と、上目遣いに怒られ。無言でベットに寝そべった。隣で同じ治療を受けていた猪も、その圧に押され無言でベットに戻ったのを、聖女に助けられたアマゾネスがひっそりと覗いていた。
ようやく退院をすることができたグランは、真っ直ぐ『ギルド』まで足を運んでいた。理由は勿論、アルフィアから聞かされた子供に会いに行く為。案内された豪華なギルド長室にて、開幕グランに怒号が飛んできた。
「許すわけないだろう、そのようなこと!!」
当然、こうなることを想定していたグランは、ある秘策を出した。
それは、アルフィアが生前残していた30億ヴァリスの大金。アルフィアからは好きに使え、と言われていた。子供の為に使おうと考えていたが、その子供に会えないのなら、本末転倒もいいところ。ならば、この場で出すしかない。グランとハトホルは、そう話を付けていた。
「本来なら都市の復興に役立てるところだが……この大金は今は私のものだ。
「……良いだろう。許可をしてやる」
なんて、気取った態度で話してはいるが。ロイマンの態度はお菓子を待つ子供のように、そわそわと落ち着きのないものだった。
「それでー、全部ロイマンに渡しちゃったのー?」
「いえ。半分は都市の復興へ、もう半分を私とロイマンで分けることにいたしました。アルフィアには申し訳ないですが」
「残りはー、その子供に送れば良いもんねー」
「ええ」
それから、少し歩いて行いくと。ようやく山林を抜け、開けた場所に辿り着いた。辺りを見渡すと、いくつかの家屋が見える。近くには大きな麦畑があったりと、田舎の農村、と
「お二人さん、旅の方ですかな?」
休憩をするハトホルの横に立ち、辺りを観察するグランのもとに、麦わら帽を被った農家の男が声をかけてきた。
「ええ。実は、この村に用がございまして」
「こんな田舎の村にですか?」
「子供を探していまして。
ベル、という名を耳にした農家の男は、目を見開いて驚いていた。
「……ベル坊と、お知り合いの方で?」
次の瞬間には、見開いた目をすっと細め、農家の男は警戒の空気を漂わせる。
「知り合いの家族でして。つい最近話を聞き、一目会おうと思いまして……警戒させて申し訳ございません」
「いえいえ! ベル坊の家族の知り合いでしたのなら、こちらこそ申し訳ない。ベル坊はあの麦畑の奥の、丘の上の家に住んでいます」
頭を下げ、立ち去る農家の男にグランは感謝を申した。
「ハトホル様、あの子の──ベルの家が分かりました。早速、向かうといたしましょう」
「りょーかいー」
よっこらせ、とハトホルは立ち上がり。麦畑へと歩いて行く。麦畑を迂回して歩き、小さな丘を登った先に、その家はあった。都市にもありそうな、木造りの一軒家で、他の家と変わらない造りになっている。
「すみません。どなたかございませんか?」
木の扉を叩いた直後。はーい、と幼く元気な声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、グランはこの子がベルであると、瞬時に悟った。ゆっくりと扉が開き、家の中から出てきたのは、白髪赤目の7歳程の男の子だった。
「えっと……お兄さん、達は?」
「君の
自分の身長の半分もないベルに合わせるように、グランは地面に膝をつき小さく笑みを浮かべて尋ねる。
「はい……おじいちゃんなら、家にいます」
待っててください。と、礼儀正しく頭を下げ、ベルは家の中に戻っていった。膝を地面から離し、グランはハトホルの方に視線を変える。
「アルフィアに似ているねー」
「髪や瞳の色は異なりますが、小さい頃のアルフィアに顔つきが似ています」
そんな話を広げていると、再び扉が開いていった。大きく開かれた扉からは、グランよりも背の高い、髭を蓄えた老人──いや
「お主達は……」
「お久しぶりです。
「なるほどの。アルフィアが、お主にそのようなことを……」
「はい。だからこそ、私はここに来たのです」
「今はまだ、あの子に話すつもりはございません。ゼウス様のお知り合い……そのような立場にしていただきたい、と愚考しております」
「確かに、今はその方が良さそうだの。ハトホルも知らぬ仲ではない。そういったことに、しておこう」
「お気遣い、ありがとうございます」
この話も、グランとハトホルがここに来るまでに決めていたことだ。まだ幼い子供に、家族の死を伝えるよりも。別の理由でここに訪ねたことにすれば、ベルが傷つくこともない。
「それで……お主は具体的に何をするつもりなのだ?」
「アルフィアからは、特に言伝はないのですが……もし、あの子が『英雄』を目指すのであれば、鍛えてやってほしいと」
「……ベルには儂が
「ゼウス様の方では、鍛錬のようなことを?」
グランがそう尋ねると、ゼウスはうーむ、と悩む様子を見せた。
「少し前にな……あの子が冒険に憧れ、森の中の『ゴブリン』に挑んだのだが……」
「負けてしまったと?」
「儂が寸前で助けたのだが、それ以降そういったことをすることがなくてな。もしかしたら、自分には才がないのだと、悲観しておるのかもしれん」
そう語るゼウスの表情は、少し悲しげに見えた。それは祖父としてのはこだま顔でもあり、子を想う神としても顔にも感じられた。
「そのようなことが……ですが今のところ、私はそのようにする予定はございません。しばらくは、あの子ことを知っていこうかと」
「そうだの。それが、あの子の為になるだろう」
グランの意見には、ゼウスも心から納得したように頷いた。
「そのことだが、お主達はどのくらいここにいられるのだ?今のお主の立場であると、あまり長居はできなさそうだが」
「そのことに関しては、ご安心を。少なくとも一週間近くは、滞在可能でございます。お世話になる身分ですので、どうぞこちらを」
グランが机の上に置いたのは、この村に来るために持参してきた、生活費や役に立ちそうな
「わざわざすまんの」
「いえ」
グラン達が一通りの話し合いを終えた頃、背後の扉を開く音がグランの耳朶を震わせる。ゼウスが奥に視線をやった後に、グランも振り返った。
「おじいちゃん、お話し終わったの?」
「ああ、ちょうど今終わったところだ。待たせてすまんの」
「ううん。ハトホル様とのお話しが楽しかったし、全然大丈夫だよ」
最初に会った頃に比べ、自然と笑みを浮かべるようになったベルに、グランは安心感を覚えた。流石、最強の
そんなベルにグランは歩み寄り、最初に会った時とは同じく床に膝をつけた。
「挨拶が遅れてしまった。ハトホル様から聞いているかもしれないが、改めて名乗ろう。グランバルトだ。これからよろしく頼む」
「ベル・クラネルです。……あの、これからって?」
小さく首を傾げ、不思議そうに見つめるベルに。グランは先程決めた、ここでしばらく暮らすことを伝えた。すると、ベルは祖父のゼウスと、ハトホルを交互に見ていた。二人に微笑まれ、先のことを想像したのか、ベルは満面の笑みを浮かべ、目を輝かせていた。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ。よろしく頼む」
嬉しそうにグランの手を取ったベルに、グランは久しぶりに心の底からの笑みを浮かべた。その二人の様子を、二柱の神は静かに見守っていた。
pixivで書かなかった方の設定で、書き進めていく予定です。ご感想、ぜひコメントにお書きください。