間違えて一回消してしまいました。
大観客の歓声と拍手が地震のように鳴り響く。
闘技場内のアリーナでは、今この瞬間に【ガネーシャ・ファミリア】の
「やはり凄いですね。こうも容易く
「技術だけでなく、
「そうね。流石は【ガネーシャ・ファミリア】の団員達だわ」
華美な服装を身に纏いモンスターを大人しくさせた
次はどんなモンスターが出てくるのか。わくわくと楽しさが混じった感情を抱くネルティ達のもとに、急ぎ足で駆け寄る数人の男女の姿が。
「【黒褐の魔女】並びに【ハトホル・ファミリア】の団員達……お楽しみの最中申し訳ないが、事態の収束に協力して欲しい」
「何かあったの?」
駆け寄ってきた【ガネーシャ・ファミリア】の団員を目視し、只事ではないと察したネルティが尋ねる。息を整えた団員が語ったのは、モンスターが脱走したという事態。市民の安全を守る為協力を要請しているという。
「わかったわ。急ぎましょう。二人は彼等と協力して、市民にを安全な場所に移して」
「「かしこまりました!」」
【ガネーシャ・ファミリア】の団員達と闘技場の外に向かう二人と反対に、ネルティは一番高い闘技場の一角に飛び上がった。
「アイズ。貴方もいたのね」
「ネルティさん。はい、ギルドの人達の要請で」
ネルティより先に闘技場の上から町を俯瞰していたアイズに、ネルティは隣に立ち声をかける。二人が近辺の確認を行うと、発見できたモンスターも数は四体。現時点で脱走したというモンスター数は九体で、そのうちの五体が確認できないが、グランが討伐したのだとネルティは推測した。
「アイズ、半分は任せたわ」
「分かりました」
ネルティ達は二方向を見つめ、視界の先に存在するモンスターに狙いをつける。即座に戦闘態勢に移り、地上目掛け疾走していった。
「あ、ありがとうございますっ」
「助かりました!」
「彼等の指示に従い、避難をお願いします」
助けた市民をギルド職員のところまで誘導し、グランはこの場を離れていった。周囲はモンスターが暴れた影響で瓦礫が散乱し、怪我を負った市民までいる。彼等を救出する為に【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が駆け寄っていた。
グランがギルド職員の要請を受け、討伐したモンスターの数は四体。脱走したモンスターの数が九体であり、後の五匹が発見できていない状況だが、ギルド職員の話に耳を傾ければネルティも対処に当たっているとのこと。ならば心配はないと、グランが周囲を見渡した瞬間。
「おい!『ダイダロス通り』の方で、
グランの立っている建物の下、ギルド職員に詰め寄る一人の男性の姿が。何よりグランが聞き取った白髪の子供、という単語がグランの心を侵食していく。驚愕と焦りの感情が渦を巻いている。
「その子供は……まだ『ダイダロス通り』で戦っているのか?」
「あ、あんたは……!ああ、そうだ。俺は助けられたんだ!今のあの餓鬼戦ってるに違いないっ……!」
男性の言葉を聞き終えたグランは、誰の目にも映ることのない速度で『ダイダロス通り』に向かっていく。
『ダイダロス通り』。
都市に存在するもう一つの迷宮と称される広域の貧困街。度重なる区画整理により複雑怪奇な構造となり、一度入ったら二度と出られないとまで言われている。当時名工が生み出した地上のダンジョン。
(もし、戦っているのがベルならば……)
身を焼くような危機感を、グランは感じていた。
グランがこれまでに討伐した四体は中層域のモンスター。個体にもよるだろうが、今のベルでも討伐できる可能性のあるモンスター。だが、脱走したモンスターの中には、深層域のモンスターが含まれている。
例え、長年技術を磨いてきたベルでも、単純な能力の差で勝てる可能性などない。そして、彼が言っていた女神と言うのはヘスティアのことだろう。ベルだけでなくヘスティアですら犠牲になってしまう。
(それだけは、阻止しなくてはならない……!)
『ダイダロス通り』に繋がる通りを目前としたグランの右方から、とてつもない速度で飛来する大剣が。
確実に自身を定めた攻撃に、グランは護衛用の長剣をもって上空に弾く。回転しながら落下する大剣を掴み取り、飛来してきた方角見つめ。
「オッタル……」
「久しいな、グラン」
前方の通路、自身に向け大剣を構える
【
「何故、君がここにいるのか……考えても意味がない。退いてくれ、オッタル」
「女神の神意だ。去るのはお前だ、グラン」
淡々と、己が受けた命を執行する。変わらぬ口調と、放たれる威圧感からグランは自然と手にした大剣を構える。オッタルもまた、もう一本の大剣を背から抜き取った。
かける言葉などなく、示すのは戦意のみ。聞かぬなら、退かぬなら、押し通る。ただ、それだけ。
誰も知らない戦場で、二人の怪物が対立する。
「他に被害はないかしら?」
「ここら辺はもう、大丈夫です」
モンスターを倒し、周囲の被害を確認するネルティに、アイズが歩み寄り答える。周囲には破壊された露店が霧散している。
「……?」
「地面が、揺れてる?」
形の良い瞳を細め、地面を見つめるアイズと、褐色の長耳で振動を感知したネルティ。地震というには稚拙な揺れであるが、彼女達は不穏な感覚に襲われていく。
ダンジョンで培われてきた感覚が、どんなに些細な出来事にも、いかなる前触れにも彼女達を過敏に反応させる。
そして、自然と身構えていた彼女達のもとに、何かが爆発したような爆音が届いてくる。
「「⁉」」
弾かれるように視線を飛ばすと、通りの一角から、膨大な土煙が立ち上がっていた。
『い──いゃあああああああああああっ‼』
次いで響き渡る女性の叫び声。炎のように揺らめく煙の奥から姿を現したのは、石畳を押しのけ地中から出現した、蛇に酷似した長大のモンスター。
悲鳴を上げ逃げ纏う市民を守るべく、ネルティ達がモンスターに走り出した。
「何、このモンスター……?」
「見たことないモンスター……新種?」
モンスターに駆け寄る中、土煙が完全に晴れモンスターの全容があらわになる。
細長い胴体に植物のような滑らかな皮膚組織。頭部には眼などの器官は存在しなく、若干の膨らみを帯びている。全身は淡い黄緑色をしていて、ネルティ達は嫌な既視感を覚える。
「アイズ、挟んで」
「はい」
目付きを鋭くするネルティの指示に、アイズと、モンスターも反応を示す。地面から生える体を蠢かせ、対峙するネルティ達に矛先を向ける。
力任せの突撃をネルティは回避し、長剣による一撃を叩き込む。蛇のように体をくねらせるモンスターに対し、アイズもレイピアの斬撃を繰り出すが。
「この武器じゃ、攻撃が通りずらいっ」
「もう、刃が……!」
ネルティの持つ長剣は予備の武器。アイズも同じく本来の武装ではなく、代用の一品。それに加え『魔法』の使用により、アイズのレイピアは限界を迎えていた。
「アイズ、私の武器を使いなさい」
「ありがとうございます」
ネルティ達の攻撃により悶えるモンスターの巨体を回避しながら、ネルティは予備の長剣をアイズに渡す。アイズが前衛を務め『魔法』発動し、ネルティも同じく詠唱を開始した瞬間。
モンスターが急速に体をうねらせ、前衛に立ったアイズの方を振り向いた。その異常な速度の反応にネルティは嫌な予感を抱く。
(今の反応……まさか、『魔力』に反応した⁉)
詠唱を中断し、敵の動きを観察するネルティだったが。地中から聞こえてくる音に反応し、瞬時にこの場から退避した次の瞬間。
地面から伸びた、黄緑の突起物──ネルティの腕程もある触手が、ネルティの立っていた地面に叩き込まれた。地面から突然生えてきた謎の触手は不気味に蠢動し、その背後のモンスターにも変化が訪れていた。
空を仰ぐように体の先端部を上に起こしたと思うと、幾筋もの線が先端部に伝わり、次には、咲いた。
『オオオオオオオオオオオオオッ‼』
破鐘の雄叫びが轟き渡る。開かれた何枚もの花弁に、毒々しい内部の色は極彩色。中央には牙の並ぶ巨大な口が存在し、生々しい口腔の奥には魔石の光が反射している。
その姿は蛇ではなく植物。醜悪な相貌を晒す食人花の咆哮に反応したように、辺りの地面が隆起し、ネルティを取り囲むように複数の食人花が出現した。
「他の個体⁉」
「っ……!」
ネルティの叫び声と同時にアイズが後方に下がり、食人花達と距離を取る。
「ネルティさん……」
「私の『魔法』で倒すわ。少しだけ、敵を引き付けて」
「任せてください」
ネルティの策を信頼したアイズが一人食人花の群れに向かっていく。前衛のアイズの信頼に応えるべく、ネルティは再び詠唱を開始した。
「【暗き森よ、我が声に応えよ。凍てつく夜を焦がす、黒き魔炎をもって、月影に移りし我が願いを示せ】」
魔法効果を高める
「【闇を食らい、星空を焼き尽くす業火よ。猛りし怒りとなりて、偉大なる力と化せ】」
透き通るような玉音が連なり、足元に
「【我が道を阻む者どもに顕現し、その暴威を証明せよ】!」
次の瞬間、弾ける音響とともに
「アイズ、避けて!」
合図と同時に照準、アイズは風を纏いながら金の旋風を作り出し退避。それを見届けたネルティが魔法を行使する。
「【ウリアス・ネセレト】‼」
放たれたのは竜の
「ごめんなさい、アイズ。一人で任せてしまって」
「気にしないで、ください。私の方も、助かりました」
そう言ってアイズが差し出したのは、ネルティが持ってきていた長剣。ありがとうございました。その一言とともに返された剣に、ネルティはこちらこそ。と言葉を返していた。
「それじゃあ、戻りましょう──」
話を続けようとしたネルティの聴覚が、剣戟の轟音と獣の如く咆哮を聞き取る。
「今のは……!」
アイズが周囲を警戒し、構えを取る中。ネルティは別の考えに至っていた。
(グランなの……⁉)
「「ウオオオオオオオオオオオオッッ‼」」
ネルティの予想は当たっていた。
彼女達が戦っていた場から南東、迷宮街の異名を持つ『ダイダロス通り』ににて、グランは激闘を繰り広げていた。
オッタルの剛剣をグランは絶技をもって防御する。距離を取ったグランが瞬時に接近し、オッタルの反応が遅れる速度で剣技を叩き込む。
「ふっ!」
「ヌオオッ!」
グランをも上回る防御を駆使し、オッタルはグランの連撃を防ぎきる。お返しと言わんばかりに横薙ぎを放つが、既にグランの姿はない。
両者の体は傷が刻み込まれ、服を赤色に染めていた。だが依然その戦意が衰えることなく、闘志を滾らせている。
再び、両者がぶつかり合う。もう何度目か分からない戦闘に、グランは苛立ちを覚える。
(ベルのところに早く向かわなければ……だが、オッタルが邪魔過ぎる)
そんな苛立ちをぶつけるように、グランは大剣を振るい、オッタルも同じ大剣で防御を選択する。幾千も攻防を繰り返し、ただ体を傷つけていく。
オッタルの猛撃をグランは閃撃で迎え撃つ。地鳴りのような金属音と、火花が交差し、戦場が更に激戦と化していく。
「邪魔だ、オッタル‼」
「オオオッ‼」
グランの声など意味もなく、オッタルは獣の如く戦意を返す。その行動にもグランは苛立ち、剣速を増していく。
頬が裂け、皮膚を斬られ、血が噴き出していく。外された一撃が地面を割り、大気を切り裂く。けたたましい音を奏で、戦闘は続く。
一撃が拮抗し、衝撃波を生み出した瞬間。ビギッ、という亀裂音が生じ、互いの大剣が粉砕した。手の中の獲物が壊れる光景に、グラン達は目を見開いた。
「終わりだ、オッタル。それとも、まだ続けるか?」
グランが抜き出したのは、腰に装備していた一本の剣。対するオッタルは拳を握りしめ、構えを取る。闘志は消えず、未だ神意を果たそうとしている。
「それが答えか」
グランも応えるように剣を向け、踏み出そうとした瞬間。
「もう大丈夫よ、オッタル。ありがとう」
ソプラノの声が戦場に木霊する。オッタルはすぐさま振り向き、その声の存在に近づいていく。
「神フレイヤ……」
「久しぶりね、【閃光】」
戦場となった通りの角から姿を現したのは、【フレイヤ・ファミリア】の主神、美の女神フレイヤ。
「貴方には、悪いことをしてしまったわね。でも安心して。ベル・クラネルは無事だから」
「お気遣い、ありがとうございます」
「あら?どうしてこうなったのか、聞いたりしないの?」
先程までの感情を沈め、グランは普段と変わらない態度を取った。その様子に、フレイヤは不思議そうにグランを見やる。
「では、お一つ聞かせください」
「ええ。良いわよ」
「いつから、ベルに目を付けていたのですか?」
グランは確信を抱いていた。この
「そうね……初めて見かけた時から、かしら」
「一目惚れ、というものですか?」
「ええ。そうよ」
嘘偽りなく答えるフレイヤに、グランは言いようのない感覚を感じた。美の女神がベルを認めたことに対して、それ故に狙われたこと関して。何も出来なかった自分に、乗り越えたベルの偉業を称える気持ちが。様々な感情が入り交ざった感覚が、グランの胸の中を支配していた。
「オッタル、帰るわよ」
「はっ」
そんなグランの心情を察知したフレイヤは、何も告げず去ろうとする。グランも何も言わず、ただ『ダイダロス通り』の方を見つめている。
「次は本気で来い」
「それは君もだろう、オッタル」
すれ違いざま、言葉をかけるオッタルに、グランは視線を向けずに返答した。
両者とも、切り札たる魔法やスキルを行使していない。単純な
(だけど……君は超えたんだろう。ベル)
グランの耳に響く歓声は、きっと勝利したベルを称えているもの。それだけは、グランが心の底から喜び、称賛を送る出来事。例え、フレイヤはによって演出されたことでも、自分の大切な弟子が戦い抜いたことを、グランは他の感情を斬り捨て喜んでいた。
次は幕話を出していく予定です。