魔女の遺したもの   作:森山中

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過ぎていく日々

「グランさん……!もう一度、お願いします!!」

 

「いや、少し休憩にしよう。続きはその後だ」

 

「はい……わかり、ました」

 

 緊張の糸が切れたのか、ベルは地面に座り込んだ。大粒の汗を流し、全身で呼吸を行っている。

 

「二人とも、お疲れ様」

 

 回復薬(ポーション)を手にグラン達に近づいてきたのは、金髪の髪を携える黒妖精(ダークエルフ)のネルナッティ。【ハトホル・ファミリア】の副団長にして、Lv.6の冒険者。皆からは、ネルティと呼ばれている。ベルもそれを習い、ネルティと呼ぶことにしている。

 

「ありがとう、ネルティ」

 

「ありがとうございます、ネルティさん」

 

 ネルティから回復薬(ポーション)を受け取ったベルは、それを勢いよく飲み込んだ。グランにも渡そうとするネルティに、グランは大丈夫、と言い断った。

 

「ベル、段々と剣筋が良くなってきているな。最初に比べると、見違える程に変わってきているな」

 

「ええ。動きも良くなってきてるし、確実に強くなっているわ」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

 グランとネルティの評価に、ベルは下を向いていた顔を上げ、喜びの笑みを浮かべていた。それ程までに、グラン達の言葉が嬉しかったのだ。グラン達もまた、ベルの成長を喜んでいた。

 

 

「僕、強くなりたいです!」

 

 そんなベルの願いを聞いたのは、もう数年前のことだ。グランがベルのもとで生活をしていた当初は、様々なことを学ばせる為、多くのことをベルに経験させていた。

 

 そんな生活を送る中で遂に訪れてしまったのが、グラン達が迷宮都市──『オラリオ』に帰ることだ。ロイマンとの契約で、一週間程度の短い期間ではあるが、グランは都市外に出る権利を手に入れていた。

 

 そんなグラン達がベルのもとを去る前日の夜、ベルは自らの願いをグランに伝えた。その言葉を最後まで聞き遂げたグランは、ベルの正面に立ち、その小さな手を握った。

 

 「ベル。今から私の言うことを、しっかり守れるか?」

 

 「やります!……いや、できます!!」

 

 ベルもまた、その小さな手でグランの手を強く握る。

 

 「私はまた、必ずここに戻ってくる。その日まで体を鍛え、知識を身につけ、経験を積むんだ」

 

 「その三つ……だけですか?」

 

 「ああ。君が強くなる為には、この三つが大切なんだ。少しづつでいい、着実に自分の糧にしていくんだ」

 

 「はい!」

 

 それが、グランとベルの最初の別れ。泣きそうになりながらも、涙を堪えグラン達を見送るベルの姿を、グランは洋紅(カーマイン)の瞳に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 「あの、アルフィアに……甥っ子がいたの⁉︎」

 

 「ああ。信じられないと思うが、事実だ。この一週間、ベルの住んでいる村で、生活をしていたんだ」

 

 オラリオに帰還したグランは、これまでの生活のことを、ネルティに全て話していた。一通り話を聞いたネルティは、エルフだとは思えない程表情がころころと変わっていた。

 

 「甥っ子って、ことは……アルフィアには他に兄弟か姉妹がいたの?」

 

 「双子の妹だと聞いている。村に住んでいるのは、妹さんの実子だ。そして……ベルの面倒を見ているのは……あのゼウス様だ」

 

 「か、神ゼウスがどうして⁉︎アルフィアの血縁なら、神ヘラの方じゃないの⁉︎」

 

 「妹さんが亡くなる前に、ゼウス様に託したらしい。このようなことを言うのはアレだが……正直ゼウス様で良かったと思っている」

 

 「……確かに、神ヘラよりはまだ、神ゼウスの方が良いわね」

 

 二大派閥が存在していた頃の時代を知る者なら、あの女帝の派閥がどれだけ恐ろしいか、身をもって知っていることだろう。特に主神となれば、眷属だけでなく、他の神々すら恐れおののく程だ。そんな女神の愛を、一心に受けていたゼウスは、その部分だけを見れば尊敬できる。

 

 「それでだ、ネルティ。君も、ベルに会ってみないか?」

 

 「私も?それは全然いいけど……そんなに早く、都市外には出られなくない?」

 

 「ああ。早くても、数年後。だが、確実に年甲斐に出る方法がある」

 

 グランはそう言い放ち、ネルティにロイマンとの契約書を見せた。それを一瞥したネルティは、形の良い瞳を大きく開いた。

 

 「よくこれを、あの『ギルドの豚』が許したわね」

 

 「まあ……これだ」

 

 と、グランは手でお金の方を作った。それを見たネルティは、納得したように、なるほどね。と呟いていた。『ギルドの豚』と称されるだけあって、金銭的利益が絡むと、楽に交渉が行える。

 

 「それで……ベル君だったっけ?その子は今何をしているの?」

 

 「私が与えた鍛錬をこなしている。武器の扱いを教えるのは、次に会った時にと約束しているんだ」

 

 「その方が良いわね。まだ未熟な体で無理に武器を扱えば、体が壊れる可能性が高いし、自身の喪失にも繋がるかもしれないからね」

 

 「ああ。ゼウス様にも頼んでいる。次に会う時が、楽しみだ」

 

 笑みを浮かべるグランの顔を、ネルティは楽しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 次にグランがベル達のもとに訪れたのは、それから四年後のこと。11歳となったベルは、当然のことだが大きく成長していた。小さかった背も、幼い体付きも、口調も。全てが大人びていた。そんな立派に成長したベルの姿に、グランは少し泣きそうになっていた。

 

 そんなベルだが、初めてネルティ──黒妖精(ダークエルフ)ではあるが、妖精(エルフ)に会えたことに興奮していた。ベルの住んでいる村には、エルフが住んでいないので、昔から憧れていたとのこと。

 

 最初は、アルフィアの血縁ということで警戒していたネルティだが。そんなベルの姿を見て、すっかり仲を深めていった。途中、ベルを見るネルティの目が少し怖かったが。

 

 「グランさん、これで……!」

 

 「ああ。今日から、武器の扱い方を教える」

 

 「はい!」

 

 ようやく臨んだことが現実となったからか、ベルは喜びを全身で表していた。その様子に、まだまだ子供だの、とゼウスが呟いた。彼の横で、ハトホルは子供だもんねー、と言い。ネルティもそうですよ、と頷いていた。

 

 今回、グラン達が滞在できる日程は、約半月。その間、グランとネルティは様々な武器を、ベルに使わせていた。無論、まだ子供ということもあり、扱えない武器もあるが。その中でベルの動きにあっていたのが、剣とナイフの二つだった。

 

 「近接戦闘……その中でも、ベルは一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)の戦い方が合っているな」

 

 「そうね。足も速いし、思い切りもいい。私的にはナイフの方が良いと思うけど……グランはどう?」

 

 「私も賛成だ。ベル、君はどちらが良い?」

 

 「僕も、ナイフの方が良いと思います。振りやすいし、僕の動きにも合いますから」

 

 「なら、決まりだな。早速、練習としよう」

 

 「はい!」

 

 グランとネルティの感想としては、ベルには()()がなかった。だからといって、ベルは戦えない。そんなこともなかった。ネルティが言っていたように、足は速く、思い切りがいい。それは、ベルのある種の才と言えた。グランとネルティは技術や立ち回り以外にも、体の使い方や、戦う為の知識・知恵。それら全てをベルに叩き込んでいた。

 

 

 (最初の頃が懐かしいな)

 

 隣に座るベルの姿を見て、数年前からの過去を、グランは思い出していた。それ程までに濃く、大切な日々であったからだ。

 

 「どうしたの?グラン。上の空になっちゃって」

 

 「いや、何でもない。そろそろ、続きをしようか。ベル、立てるか?」

 

 「はい、大丈夫です。いけます」

 

 再び、剣戟の音が木々の間を木霊する。訓練が終わりを迎える頃、疲れ果てたベルをグランが背負い、ネルティが武器を背負って家に帰っていく。家で待っているゼウスとハトホル、そしてグラン達三人で食事をする。それが、この家での日々となっていた。

 

 だが、この先の夜で起こる()()()()がグランを苦しめていた。

 

 「どくのだ、グラン!儂は、夢を叶えにいくのだからな!!」

 

 「ただの覗きでしょう!もう何度目ですか⁉︎」

 

 「何度でもじゃ……それが、男の浪漫だからの」

 

 「ドヤ顔で、そのようなことを言わないでください!」

 

 毎度恒例、ハトホルとネルティ、そしてベルのいるを覗こうとするゼウスVSそれを阻止しようとするグラン。最初の時は、完全に油断していたグランだったが、二度目以降は何とか阻止に成功している。

 

 相手は彼の『神聖浴場』の覗きを、歴史上ただ一柱成功した神物。忘れたなどない。大神ゼウスという存在は、こういうものなのだと。

 

 「お主も男だろう!何故儂の邪魔をする⁉︎」

 

 「ベルの教育によくないからです。そもそも、久しぶりにあったベルが……()()()()なんて……ゼウス様の仕業ですよね⁉︎」

 

 「男の道を、伝授したまで」

 

 「だからそのドヤ顔をおやめください」

 

 なんてやり取りが、夜の村に響いていたとか何とか。

 

 

 そんな楽しくも騒がしい日々は、終わりを迎えていた。食事の席で、グランは自分たちが帰還することを、ベルに伝えた。そして、もうここには来れないことも、ベルに話していた。最初は、悲しそうにするベルであったが、次の瞬間には頭を下げていた。

 

 「グランさん、ネルティさん、そしてハトホル様。今まで、本当にありがとうございました」

 

 「気にしなくて良い。これは、私達から提案したことなんだ」

 

 「そうよ、ベル。貴方はとても頑張ってた。まずは自分を褒めなきゃ」

 

 「ええ。二人の言う通り。私達も、貴方と会えて良かった」

 

 グラン達の送る言葉に、ベルは静かに涙を流していた。隣で見守っていたゼウスは、豪快ながらも優しくベルの頭を撫でた。抑えきれない涙を、ベルは服の袖で拭き取り、声を押し殺していた。グラン達もゼウスと同じように、ベルの頭を撫でていた。

 

 

 「ベル。ここではお別れだが、私は先にオラリオで待っている」

 

 「はい。後数年したら、僕も必ず行きます!」

 

 村を発つ日の朝、見送りに来ていたベルとゼウス。大事そうにグランから貰ったナイフを手にするベルに、グランは声をかける。励ますように、導くように。

 

 「それまでは、私達が教えたこと、忘れないでくれ」

 

 「必ず、ベルの役に立つはずよ」

 

 「頑張ってね。応援してるから」

 

 「本当に、ありがとうございました!!」

 

 深く頭を下げ、ベルは最後に感謝を告げた。隣に立つゼウスも、神としてではなく、一人の祖父として頭を下げた。

 

 「三人とも、本当に感謝している。世話になった」

 

 そんなゼウスにグランは近づき、耳打ちをする。まるで、()()()()()()()()話をするように。

 

 「そう思うのでしたら、()()()()()()()などおやめくださいね。ベルは絶対に傷つきますから」

 

 「わかっておる。儂は旅に出ると、ベルにはそう伝える」

 

 そんなグラン達の様子を、ベル達は首を傾げて見ていた。

 

 「何の話をしていたの?」

 

 元の位置に戻ったグランに、ネルティが尋ねるが。グランは、何でもない、と言った。とても、ネルティ達には聞かせられない話だからだ。そんな話を断ち切るように、グランはわざとらしく咳をして、流れを変えた。

 

 「短い間だったが、本当に楽しかった。ベル。君と冒険ができる日を、私は待っている」

 

 「私もよ。待っているわ、ベル」

 

 「楽しみに待ってるね」

 

 「はい!」

 

 元気よく、別れの悲しみなど吹き飛ばすほど腕を振るベルに、グラン達も大きく手を張った。それは別れではなく、再会の証なのだから。

 

 

 

 

 

 

 「はい、更新お疲れー」

 

 「ありがとうございます、ハトホル様」

 

 背中から聞こえるハトホルの声に、グランは感謝を告げ机に視線を移す。紙に書かれた【ステイタス】の写しを確認し、予想はしていたがそれを実感すると、何とも言えなくなってしまう。

 

 「やっぱり、伸びないねー。ちょっとでも伸びるだけでも、ありがたいことなのかなー?」

 

 「ここまで数値を上げれば、伸びにくいのも仕方ありません。前回もそうでしたし、()()()の限界はここなのでしょう」

 

 グランバルト。

 

 Lv.7。

 

 力:S999

 

 耐久:B719→B720

 

 器用:A846

 

 敏捷:S999

 

 魔力:C658

 

 《アビリティ》

 

 耐異常:E 閃走:E 速攻:F 治力:G 覇光:G

 

 《スキル》

 

 【閃撃剣闘(ルミナス・グラディウス)

 

 ・戦闘時、『力』と『敏捷』に高補正。

 

 【偉光眷属(ウレルト・ブラッド)

 

 ・豊穣の加護(ハトホル・ディバレ)

 

 ・『治力』及び『耐異常』に高補正。

 

 ・環境不調時、その環境に適応。

 

 《魔法》

 

 【セケム・セプター】

 

 ・時限式段階強化魔法。

 

 

 「【ステイタス】が伸びなかったのは、残念だけどー。来るんでしょ、遂にあの子が」

 

 「はい。今頃は、もう都市に着いているかもしれません」

 

 「そういえば結局ー。私の【ファミリア】に入るんだっけー?」

 

 「【ファミリア】探しはベル自身の手で、と決めています。もし何派閥が巡ってダメそうでしたら、私達の【ファミリア】に勧誘いたします」

 

 「なるほどねー。最初の冒険ってわけかー」

 

 グランの考えを悟ったハトホルは、そう結論づけた。

 

 「この先は、ベルの進む道です。あの子が自分で選び、歩むことを私は望んでいます。【ファミリア】決めは、その一歩目です」

 

 「確かに、その方があの子に為になりそうだね。例え【ファミリア】が見つからなくても、私達がいるからねー。そういうところは、ちゃっかり甘いんだからー」

 

 「揶揄わないでください。この件にはネルティも賛成していますし、ベル本人もです」

 

 村に訪れられない間、グランはある()()()に頼み、村に手紙を送っていた。そこでベルがいたオラリオに訪れるか。それまでにオラリオの地図や情報を書き記し、迷わないようにした。当然、【ハトハル・ファミリア】の場所も記した地図だ。

 

 「団長、ハトハル様。応接室にて、()()()がお待ちです」

 

 扉を叩く音とともに、団員の声が伝わってくる。その声にグランとハトホルは目を合わせ、頷いた。

 

 「噂をすれば、何とやら。だねー」

 

 「ええ」

 

 (遂に、この日が来たのか……)

 

 グランは窓の外を眺め、()()()()光景を思い出した。

 

 (アルフィア。貴方の託した想いは、必ず私が)

 

 





原作よりつよつよベル君、誕生。ベル君に剣技を褒められた主人公君は、夢の中でザルアルにボコられたり。
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