遅れてしまいました。お気に入り登録ありがとうございます。
満身創痍のアイズに寄り添うリヴェリアが口開こうとした瞬間、リヴェリアは思い出したかのようにグランの方に視線を向けた。その翡翠の瞳には二人だけにしてほしい、そんな思いが宿っていた。その思いを感じ取ったグランは無言で頷き、残る
(今この時間は,二人にしておいた方がいい)
きっと、
それから数分後、グランを呼びにリヴェリアがルームの外に姿を見せた。
「すまないグラン、遅くなってしまった」
「気にしないでくれ。話したいこともあっただろう」
「ああ」
微笑みながら短く呟いたリヴェリアの後を追い、グランは再びルームの中に戻って行った。中央にはアイズがウダイオスの灰に埋もれる魔石やドロップアイテムを回収していた。グランとリヴェリアも作業を手伝い、37階層を後にした。
それから、三日程の時間をかけ、グラン達は『上層』に辿り着いた。最短ルートを選択し、グランが先導することで、消耗したアイズと彼女を支えるリヴェリア達が円滑に進めていた。『中層』まで脱出するのは比較的速やかで、18階層の『リヴィラの街』で
グラン達は現在、六階層の道を進んでいる最中だった。そんな中、グランの横を歩くリヴェリアの問いが、アイズの耳に飛んだ。
「アイズ、あのドロップアイテムを預けてしまって本当によかったのか?」
「うん……私は、大剣はあんまり使えないから。それに……グランさんも、いらなかったみたいだし」
「私には、これがあるからな」
アイズは答えながらグランに話を繋げ、グランもまた背負っている大長剣に触れながら返した。
リヴェリアの言う大剣とは、『ウダイオスの黒剣』のことだった。
アイズが討伐したウダイオスのドロップアイテムを回収している中に、ウダイオスが戦闘の最中に使用した大剣もあったのだ。激しい戦闘で破損している部分もあり、ちょうど冒険者の扱う程度の剣身になっていたが。
この戦利品を前に『リヴィラの街』も冒険者達はお祭り騒ぎとなっていた。ウダイオスの未確認ドロップアイテム──入手条件は
「また、襲われるかもしれないから……強い武器があれば、安心出来るって」
「全く、ボールスのやつめ……」
「流石は、
リヴェリアが吐息と共に愚痴を溢す横で、ボールスの趣味嗜好を知っているグランが、皮肉を込めたように呟いた。
やがて5階層に到達し、暫く進んでいると。
「【フレアボルト】!」
グラン達は前方から聞こえる雄叫びと、視界の先で出現した光線を形どった炎が、一体のモンスターを貫いていた。
「あれは……ネルナッティ?何故こんな階層に?」
「それに、ベルもいる……ベルって、魔法発現してたんだ」
「いや、私もそんな話は聞いていないが……」
グラン達の前にいるのは、ネルティとベルの二人だった。軽装備を身に纏い、
「お帰り、グラン。少し遅かったわね」
「すまない。少し手伝いをしていたんだ。ベルも、元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです、グランさん。聞いてください!僕、魔法が使えるようになったんです!」
普段の大人しい口調のベルではなく、昔の子供に戻ったようなベルの姿に、グランは思わず笑みを溢していた。懐かしい感覚を覚えながらも、グランは疑問に感じてたことをネルティに尋ねる。
「ネルティ、どうしてベルが魔法を使えてるんだ?」
「ええと……ちょっと……」
気まずそうに指先で髪をいじるネルティが、グランの視線に耐えかねて語り出した。
グラン達が『上層』に到達する前のこと。ベルに
執務室の扉を小さく叩く音と共に、昼間にオッタルの来訪を伝えに来た団員が扉の向こうから声を発した。ネルティは入室の許可を出し、失礼します、と答え団員は部屋の扉を開けた。
「どうしたのこんな時間に?書類に不備でもあったかしら?」
「いえ、そうではなく。彼が──ベル・クラネルがお見えになっています。ネルナッティ様にお会いしたいとのことで」
「ベルが?わかったわ、すぐに向かう。外で待ってるのかしら?」
「はい。玄関の前でお待ちになっています」
報告に来てくれた団員に感謝を伝え、ネルティは玄関に向かっていった。団員の言葉通り、玄関先ではベルの姿が。だが私服ではなく、ダンジョン探索に向かう用の軽装備を身に着けていた。
「珍しいわね、こんな時間にここに来るなんて。……もしかして、昼間のこと?」
「すみません、こんな時間に」
ベルは申し訳なさそうに頭を下げ、話を続けた。
ネルティが帰った後、仕事を終えたヘスティアが
「そうね、私が同行すれば魔法の扱い方は問題ないけど……どんな魔法が発現したの?」
「これです」
そう言いベルは、【ステイタス】の写し──魔法の部分だけを切り取った紙をネルティに渡した。
「これは……!」
目を通した瞬間、ネルティの形の整った柳眉が上がった。そのままの表情でベルの方を向くと、気まずそうに頭を掻くベルが映る。
再びネルティは手元の羊用紙に視線を移し、書かれている内容をなぞるように目に通す。
《魔法》
【フレアボルト】
・速攻魔法
(『詠唱』が書かれていない……ヘスティア様の書き忘れではないことは、この速攻魔法という項目で理解できるけど……なら、この魔法は──)
まるで、あの
魔導士でありながら圧倒的な才をもって、前衛同様の動きをこなす。魔法を無効化する魔法に、海の覇王を討伐した魔法……考えれば考えるだけ、ネルティは頭が痛くなっていっていた。
(血縁者だからといっても、同系統の魔法になるなんて……いえ、違う)
アルフィアの影響を考えていたネルティだが、その考えをすぐさま斬り落とす。魔法は、その者の願い、理想、夢を──本心を形どっている。ならばベルの魔法は、彼の心のそこからの思いなのだ。
(そうね、ベル……あなたは昔から、燃えるような夢と、輝かしい理想を抱いているものね)
それを知っているネルティはベルの魔法を見て、懐かしい気持ちを覚えていた。要因が何であれ、ベルが理想の為に強くなれることを、ネルティは嬉しく感じていた。
「……ヘスティア様も仰っていたと思うけど、この魔法は名を発声するだけで使えるわ」
先程まで感じていた気持ちを明かすことなく、ネルティは心を落ち着かせ経験談を語る。
「神様も、同じことを言ってました」
「そうでしょうね。魔法は本来『詠唱』を必要とする……でもベルの魔法はそれが無いわ。ということから、魔法名を言うことがトリガーだと私とヘスティア様は考えたの」
ヘスティアからも同じ話を聞いていたベルは、納得したように頷いた。
「分かっているならよかったわ。この時間なら冒険者の数も少ないと思うから、練習するにはちょうどいいわね」
「はい!ありがとうございます!」
ネルティは一度自室に戻り
隣を歩くベルは自分が魔法を使えることが嬉しいのか、いつもより早歩きとなっていた。
そして今に至る。
昼間のオッタル来訪の件と纏めて話したからか、ネルティの視界の横でグランは片手を目元に当て、薄暗い天井の方を向いていた。もしネルティが逆の立場だったとしたら、空笑いも加えられていただろう。ネルティは心の中でグランに謝罪する。
【ファミリア】の話をしたいと、ベルたちと距離を取っていた上に、ネルティが小声で話していたことから、二人の様子が見られてはいなかった。
「……神フレイヤの思惑は分からないが、ベルに危害を加えていないだけましだろう」
「ええ、ハトホル様も同じことを仰っていたわ。ベルの力にもなるから、一応素直に受け取ったけど……」
「君が悪いわけではない。オッタル本人が来るなんて予想できないし、下手に断ればどうなっていたかわからない」
謝罪の品、という文言からも断ることは出来なかっただろう。【フレイヤ・ファミリア】と事を構えるのは、ベルだけでなく都市の存在自体にも影響を及ぼしてしまう。今の状況で出来ることは少なく、互いに動向を探る程度だろう。そのことを分かっているグランは、無意識にため息をついてしまった。
「それで、ベルの魔法はどういうものなんだ?先程見た光景から、攻撃系の魔法だと思うが……」
「……」
「ネルティ?」
グランの問いにネルティは答えなかった。嫌がっているというよりも、何処か気まずそうな様子だった。そんなネルティの姿にグランは首を傾げてしまう。
ネルティは無言のまま鞄に手を伸ばし、ベルから渡された紙をグランにも見せる。その瞬間、先程までのグランの表情が一転し、気の抜けた声を溢してしまう。
「これ……本当なのか?」
「気持ちは分かるけど、本当よ」
グランは再び、手渡された紙──ベルの【ステイタス】の写しに視線を移した。記載された内容に、グランは渦巻く感情が浮かび上がっていた。
「属性は異なるが、まさかアルフィアと類似した魔法だとは……」
「私だって、写しを渡された時は驚いたわ。アルフィアのこともあるけど、魔法を使う者としてもね」
ネルティの心情はグランでも理解できる。詠唱を必要とする魔法が、それが無くとも発動できる。
(まあ、そんな
そんな考えがグランの脳裏に過る。同時に、よく生きていたなという思いが浮かんでくる。ネルティも同じ思いを抱いていたのか、目が合い両者無言で頷き合っていた。
ネルティからの報告は以上で、次はグランの番となった。何か新しい情報はあったのか、赤髪の
ここまでの出来事を話していく中で、ネルティが最も声を荒げたのはアイズの偉業──単独での『ウダイオス』討伐だった。
「ウダイオスを単独で倒したのも驚いたけど……まさか剣を使うどころか、それがドロップアイテムになったなんて……!」
「私も初めて見たさ。あれを素材にすれば、第一級等武装が生まれていた可能性が高い」
実際に戦闘の光景を見ていたグランの言葉は、信憑性が含まれていた。同じく剣を扱うネルティもその言葉に、感心したように頷いていた。
「それよりも、彼女が強くなったことを喜ぶべきだろう」
「そうね。
そう呟いたグランの表情は、嬉しさといった感情が含まれていた。ネルティは知っていた。グランが多くの英雄を──意志を受け継ぐ者を求めていた。
十五年前。あのでたらめで、理不尽極まる、誰よりも輝いていた英雄たちを失った日から。同じ理想を抱く騎士も、もしこの場にいればグランと同じ気持ちを抱いていただろう。
それが自分の使命であり、役割なのだと。
「アイズが強くなったのは良いことだけど……グランが望んでいるのはベルだよね」
「ああ。きっとあの子なら、いずれ私をも超えるだろう」
七年前。ベルと出会い、グランに希望が生まれた。
受け継いだ意志が危惧を通り越し、無念の形に変わり果てようとし、この手だけで終末に挑まなければならないのか。そんな焦りを感じていた時。
──私は『
今作ベルの魔法は原作よりも、強力ものになっています。
原作が稲妻状の炎ならば、今作は光線状の炎です。
ただその変わり原作よりもマインドの消費が大きく、連発性能が下がっています。