一度書き終えたのですが、設定に齟齬があったので書き直しました。
「【ソーマ・ファミリア】のサポーター、か……しかも、派閥内で孤立している」
ベルから告げられた単語に、グランは応接室に設置された椅子の背もたれから背を離した。隣に座るネルティとハトホルも、思案顔をしている。
ベルから相談を持ち掛けられたのは、ダンジョンで偶然にも再開し、地上に辿り着いた直後のことだった。当然グラン達に断る理由もなく、
「はい。実は少し前から契約を結んでいて……すみません、話すのが遅くなってしまって」
「責めたいわけではないんだ。他派閥のサポーターと契約を結ぶ話は、あまり聞かなくてな」
ある程度の勢力を持つ【ファミリア】ならば、下位団員を連れ添ったりしていることが多い。目的はサポーターとしてだけでなく、深い階層の経験を積ませる目的も存在している。
「そのサポーターの少女──名前はリリだったか。その子のことで、話したいことがあるんだな」
「はい。契約を結んでから、初めてダンジョン探索をした時なんですけど……」
ダンジョン探索中、ベルは自身の腰元──《ヘスティア・ナイフ》に視線を感じていたという。実際、ナイフについて色々聞かれたとのこと。確かに駆け出しのベルが、【ヘファイストス・ファミリア】の刻印が刻まれた武器を持っているのは、気になってしまう心情も理解できる。
だがベルは嫌な予感を覚え、探索を終わらせた後十全に管理したという。それのおかげなのか、実際に何か起こることはなく、その日は解散したとのこと。
「グランさんは、【ソーマ・ファミリア】について、どのくらい知っていますか?」
「私達も詳しく知っている訳ではないな。基本的な情報程度……寧ろ、ギルド職員の方が知っているだろう」
【ソーマ・ファミリア】。
男神ソーマを主神とする派閥。
「君が聞きたいのは、あの派閥に関する噂についてか」
「知っていたんですか?」
「ああ。直接見聞きしたわけではないが、同じ冒険者として耳にしたことはある」
その噂というのは、所属する冒険者達についてのものだった。曰く、換金をする鑑定職員に難癖をつけ、異常なまでの金への執着を見せているという。それを見ていた者達からは、死に物狂いだと言われる程に。故にギルド職員からも疎まれている。
「なら、そのリリっていう子は、お金を手にするためにベルのナイフを見ていたわけなの?」
「その可能性が高いだろうな。だが、肝心の何のために金を稼ぐかが分からない。ベルは何か聞いていないか?」
グランの問いにベルは必死に思い出そうとする素振りを見せる。同じ派閥に所属するサポーターならば、その理由が分かるかもしれない。
「すみません、リリからは特に何も──」
ベルがそう言いかけた時、何かを思い出したように、ベルの体が硬直した。次には自然と口が開かれ、再び説明し始めた。
「リリが言ってたんですけど、【ソーマ・ファミリア】では月に一度、集会が開かれるそうなんです」
「集会って、【ファミリア】の運営方針を決めるのかしら?」
「そうだろうな。団員達が異常なまでの金に対する執着を見せるのも、運営方針によるものかもしれない」
だがそうであったとしても、大金を求めている理由が判明したわけではない。どのような運営方針となり、金が必要になってくるのか。派閥内で大規模な計画を行う予定なのか、単なる資金稼ぎだけなのか。情報の少なさ故に、思い付くことも少なくなってしまう。
「他に何か、サポーターの少女から聞いたことはないか?」
「リリが言うには、ソーマ様はお酒の製造に没頭している──所謂趣味神だそうです。それに、今市場に流れているお酒は全部、失敗作だと言っていました」
ベルから伝えられた真実に、グラン達は小さく目を見開いた。【ソーマ・ファミリア】の酒は絶品だと評判で、需要も高い。
「ソーマ様が【ファミリア】を作った目的は、その趣味の為だそうです」
「集会で資金を集めさせるのも、製造の出費を稼ぐ為……」
ネルティの出した結論に、ベルは無言で首を縦に振った。
神が目的の為に【ファミリア】を結成、もしくは利用する為に団員達を集めるのは珍しくない。娯楽を絶えず求める神々は、暮らしを確保する以外にも、道楽の一環が含まれているのは普通のことだ。
「だが君は、違和感が払拭しきれないと」
「はい……リリの境遇を聞いてから何だか、歪なもののように見えてしまって……」
そう答えるベルの表情は、何も出来ない自分を情けなく感じているように見えた。目の前に溝がありながら、それを埋めることが出来ない。そんなベルを慰めるように、グランは話を続ける。
「私達の方でも、あの派閥について調べておく。君はサポーターの少女を見ておいてほしい。何かあったら、逐一連絡をしてほしい」
「ありがとうございます、グランさん。僕はこれで、失礼します」
「ああ。気をつけてな」
姿勢よく頭を下げ、席を立ったベル。グランは見送る為に共に応接室を後にし、ベルと
「調べると言っても、ギルドは機密的に話せないでしょうし、かといって直接【ファミリア】に尋ねるのも……」
「今回だけで言えば、私達の方が手伝えることが少ない。それに近々『遠征』がある以上、団員達の手を借りることも出来ないな……」
【ロキ・ファミリア】との合同『遠征』まで約二週間程。その為の準備として、並走している団員達まで巻き込むことは出来なかった。何か策はないかと思案するグラン達に、今まで口を閉ざしていたハトホルが提案を口にした。
「ひとまずー、『遠征』のことは置いておいてー……ギルド以外の情報源ならー、一つ心辺りがあるよー」
「その、心当たりというのは」
「ロキなら何か知ってるんじゃないかなー。昔ソーマのお酒の追っかけをしてたらしいからー、もしかしたら内情とか知ってたりしてー」
主神の言葉に、グラン達は納得したように頷いた。酒好きのロキならば、グラン達が知らない情報を持っているかもしれない。ハトホルの案を採用したグランは、明日からの予定を伝える。
「ロキ様のところには、私が向かいます。ネルティとハトホル様には
「わかったわ。こっちは任せてちょうだい」
「頑張ってねー」
二人の了承を得たことでこの場は解散となり、各自の部屋に戻り、明日の行動の準備を進めて行く。
翌日。グランは必要な仕事を終わらせ、一人
現在地は都市北西の『冒険者通り』。数多くある商店の中でグランが寄ったのは、『リーテイル』という店であった。何故この店に訪れたかというと、【ソーマ・ファミリア】の酒が売られているという情報を、団員達から聞いたからだ。
昨夜何か手土産がないか考えたグランは、この『ソーマ』を購入しようと決めていた。近くにいた店員を呼び、会計を進め、その足で『黄昏の館』に向かっていった。
「【閃光】、本日はどのようなご用件で?」
「ご来訪のお話は聞いておりませんが?」
「いきなりの訪問で申し訳ない。ロキ様にお会いしたいのだが、いらっしゃるだろうか」
グランがここに来た要件を離すと、門番を務める団員達が丁寧に対応しようとした瞬間。
「なんじゃ、グランではないか。フィンからは何も聞いておらんが、儂等に何か用か?」
後方から聞こえてきた声に振り返ると、長い髭に手を当てながら話しかけるガレスの姿があった。
「久しいなガレス。急な訪問ですまない。ロキ様にお会いしたいのだが」
「ロキに?あやつなら館にいると思うが……儂が案内しよう、門を開けてやってくれ」
「わかりました」
ガレスが男女の門番に話をつけると、グランは何事もなく館内に入ることが出来た。ガレスに案内されるまま応接室に着いたグランにガレスは、ロキを呼んでくるから待っておれ、と告げ一人部屋を後にしていった。
「久しぶりやな、グラン。この前はアイズ達が世話になったなあ。それで、うちになんの用や?」
「お久しぶりです。まずはこちらを。突然の訪問でしたので、ちょっとした手土産です」
数分後、ガレスに連れられたロキが、軽快な声を上げグランの対面に腰を降ろす。ガレスもその横に座った。同時にグランが
「ソーマやないかッ‼これ、貰ってもええんやなッ⁉」
「勿論です。今日お尋ねしたのは、ロキ様にお聞きしたいことがございまして……そのソーマに関係していることです」
最後にグランがそう話すと、ロキの糸目が僅かに開かれる。話の流れが分からないガレスは、会った時と同じように髭を撫でていた。
「なるほどなぁ……わざわざうちにまで聞きに来たっちゅうことは、ある程度は知ってるんやな?」
「待て待て。お主ら、一体何の話をしておるのだ?」
ガレスがそう切り込むと、ロキの瞳がグランを見やる。その視線にはまるで、話すことを促されるように感じた。グランは隠す意味もないので、ここに来た目的と経緯を全て話した。市場に出回るソーマが失敗作だという話は、流石のガレスでさえ驚いていた。
「ドチビの子がめんどいことに巻き込まれそうで、うちのことを頼りに来たと」
「その通りです。ロキ様であれば、何かご存じでないでしょうか?」
「せやな。こんな手土産までくれたんやし、教えたるわ」
「儂も気になってきたのぉ。それでロキ、お主は【ソーマ・ファミリア】についてどのくらい知っておる」
グランに頼み込まれ、ガレスにせかされたロキは、口元に笑みを浮かべながら告げた。
「結論から話すわ。どこまで知ってるかと言われたら……全部やな」
ロキから答えられた内容に、グランは驚きの反応を見せ、つかさず尋ね返したしまう。
「本当ですか?」
「何故お主が他派閥の内情を知ってるのか気になるが、今は追求せんとしよう」
「ありがとな、ガレス。じゃあ、話したるわ」
ソーマが市場に出回り始めた当初、その味に惚れ込んだロキは、直接【ファミリア】に尋ねに行ったらしい。そこまでは良かったが、館内に誰もいないことが分かったロキはなんと、無断で侵入を決行したという。
「何をしておるのだ、お主は……」
横からガレスの呆れ声が飛ぶが、お構いなしにロキは話を続ける。侵入したロキは庭で酒の原材料を採取しているソーマと出会い、紆余曲折ありながらも【ファミリア】の内情を聞きだしたと。
「ソーマのやつは運営する気がないんやろな……グランも知ってるやろ、あの派閥がソーマの趣味の為にあるって」
「はい。その為に団員達から資金を集めて──」
「逆や」
言い切ろうとしたグランの言葉を止めたロキに、ガレスからの疑念の声が伝わる。
「逆とはどういう意味だ?あそこの団員達は全員、その為に金を稼いでおるのだろう?」
「結果的にはそうなんやが、過程が違うんや。そこで重要になってくるのが例の『
「それが、完成品の……」
「そ、『
ロキの話を聞き、グランは完全に理解した。団員達が異常なまでに金への執着を見せるのは、一度味わってしまった『
「あそこの子達が崇めてるのはソーマやない、『
断言するように、ロキは告げた。ソーマの評判に似つかわしくない構成員の数は、生み出された
「なるほどのぉ……要するに、神ソーマが酒を餌に金を集めさせておると」
「せや。賞品言うても全員に配れるわけやない。だからノルマを決め、上位者だけに与えるようにしたんや」
「今の【ファミリア】の現状は、その悪循環がうまくいったからなのだと……」
ソーマのずさんな【ファミリア】運営、
「ドチビの子にも伝えた方がええ。大事にはならくとも、痛い目に遭うかもしれんからな」
「ありがとうございます、ロキ様。私はこれで、失礼いたします」
ロキとガレスに頭を下げ、グランは『黄昏の館』を後にする。もし例のサポーターも同じ立場であるなら、ベルは確実に何かに巻き込まれてしまう。嫌な想像をしてしまいながら、グランは帰路に就いた。
「行け、ベル!助けに行くんだろう、サポーターの少女を!」
「行って、ベル」
「ありがとうございます、グランさん!アイズさん!」
ベルに迫りくるオークとインプの群れを、間に入ったグランとアイズが仕留める。その隙にベルは上層に向かう通路を進んでいく。それを見たグラン達は、すぐさま残るモンスターの殲滅を開始し、瞬く間に終わらせる。
「すまないな、アイズ。巻き込んでしまって」
「いえ、大丈夫です……ベルにも、やらなくちゃいけないことが、あるんですよね?」
「ああ」
場所は十階層。辺りに霧が立ち込める空間で、グランは共に来てくれたアイズに謝罪をする。ベルを見送った二人は、武器を鞘に戻していく。今朝のベルの意志を見たグランは、何も問題がないと確信している。
時は少し戻り、グラン達がまだ地上にいた時のこと。
「ベル君。そのサポーター君は、本当に信用に足る人物かい?」
「神様……」
「ベル。ヘスティア様も私も、そのサポーターの少女を知らない。君が教えてくれたこと、私が調べた【ソーマ・ファミリア】という情報でしか判断できないが……何かを隠しているように感じてしまう」
グランとヘスティアから告げられた言葉に、ベルも気付いていたのか、表情を暗くしてしまう。
場所はベル達の住む教会の隠し部屋。昨日ロキから教えられた情報を話に、グランは朝一人訪れていた。無論ネルティとハトホルの許可を取り、二人にも昨日のことを話している。
「僕もグラン君も、君を責めたいわけじゃない。だけど、君が被害に遭うのなら、僕達は無理にでも止める」
昨日、ベルはサポーターの少女を狙う同業者と遭遇し、陥れる作戦に誘われたが断ったという。ベルならそうするであろうが、問題はそこではない。
「このままサポーターの少女と共にいれば、その冒険者達に巻き込まれてしまう。その上で、君はどうしたい?」
ヘスティアとグランは決して、ベルの考えを尊重していないわけではない。むしろ率先してベルの考えを第一とし、その為に協力をするつもりだ。だからこそ、ベルの意思を尋ねたのだ。
「僕は、リリを助けたいです……もし、ここで見捨ててしまったら……あの日、グランさんに手を差し伸べてもらった僕を、否定することになる」
先程までの表情から一転し、瞳に意志の炎を宿すベルは、力強くグラン達を見た。それを見たヘスティアは微笑み、グランは自然と笑みが浮かんでいた。
「そうだね、ベル君……君は、そういう子だ」
「行ってこい、ベル。君が望む未来の為に」
「はい!」
曇りなく答えたベルは、一目散に階段を昇って行った。そんなベルの姿を、最後までグラン達は眺めていた。
そして現在。
最悪の可能性を考慮し、べルの後を追おうとしていたグラン。ギルドに辿り着いたグランを出迎えたのはアドバイザーのエイナと、彼女からベルを助けてほしいと頼まれたアイズだった。
目的を同じくしていたグランとアイズは共にベルを追い、そして今に至っていた。
「さて、そろそろ出てきてもらおうか」
そんなグランの言葉に、アイズが速やかに抜剣し、立ち込める霧の方を見やる。奥にいる存在に、アイズも気付いたからだ。
「……気付かれてしまうか。御見それする」
霧が揺らめき、奥から浮かび上がるのは、漆黒の陰であった。黒のローブを全身に纏い、両手には複雑な紋様が書かれた
「最初から付いてきていただろう。敵意は無いから無視をしていたが……私達に何か用か?」
「ああ、その通りだ。その前に、彼女の剣を下してほしい。危害を加えるつもりはない」
歩み出てきた黒衣の人物に、敵意がないことはアイズも分かっている。アイズは静かに剣を下し、話を聞く姿勢を見せる。
「敵意がなくとも、君の素性が分からない私達では、君を完全に信用することは出来ない」
「なら、こう言えばいいだろうか」
更にグラン達に近づいてくる黒衣の人物。両手は小さく上に上げられている。告げられた言葉の意味は分からないが、グランも話を聞く姿勢を見せる。
「私は、
「レオンの……!」
告げられた名に、グランは目を見開いた。それはこの都市にはいない、もう一人の
主人公の武器も、レオンの武器と同様の手順で造られています。
ですがレオンに仲介役をしてもらっているので、フェルズの存在を知りません。
武器の副次効果も同じで、魔法とスキルを併用した主人公の出力に耐えれる武器の一つです。