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「レオンの関係者ということは、君は『学区』の者なのか?」
「いや、私は『学区』に所属している者ではない。彼とは個々的な取引をしている者だ。そして……君が使用している武器の制作に協力した一人でもある」
「!」
黒衣の人物から告げられた事実に、グランは驚きの反応を見せ、同時に思い出した。
「知らなかったとはいえ、失礼な態度を取ってしまった。謝罪させてほしい」
「君の態度は当たり前のことだ。気にしないでほしい」
話に付いていけないアイズはグラン達を交互に見ているが、グランの態度からアイズも警戒の構えを解いた。場の空気が変わったことで、黒衣の人物は名を名乗った。
「まずは名を名乗ろう。私のことは
黒衣の人物──フェルズの発言に、グラン達ははっとした。18階層で遭遇した彼女は確かに、『真っ黒なローブ』『男か女か分からない』
「君達に声をかけたのは、
報酬は勿論用意する。フェルズはそう付け足し話を続ける。ことの原因は階層の最奥に存在する
「依然、ハシャーナを向かわせた30階層で、今回と酷似した現象が起こっていた。このことから、『リヴィラの街』を襲撃した人物……例の『宝玉』と関係している可能性が高い」
『‼』
フェルズの予想にグラン達は目を見開いた。何故18階層のことを知っているのかと、問いただしたい気持ちを抑え、グランは依頼を了承する。
「深刻な事態のようだな。私もあの存在達の情報を探っている、引き受けよう……アイズ、君はどうする?」
襲撃者──赤髪の
「わかりました……引き受けます」
ややあって、アイズはその細い顎を引いた。了承したグラン達にフェルズは感謝を告げる。互いの協定が結ばれた中、グランはフェルズに頼みごとをする。
「こちらからも、一つ頼みたい。私達の【ファミリア】に伝言をしてほしい」
「ああ、そのくらいは頼まれよう」
グラン達は腰の
「まず、『リヴィラの街』に寄ってくれ。『協力者』が既にいる」
「わかった」
特定の酒場に向かい『合言葉』を伝える、という指示の内容に、グラン達は頷いた。伝えるべきことを伝えたフェルズ姿を消し、後退し霧の中に消えていった。それを見届けたグラン達は無言で向かい合い、最初の目的地である18階層へ足を進めるのだった。
グラン達がフェルズからの依頼を受け18階層に向かっていた、同時刻。ハトホルは眷属のネルティを連れ、『黄昏の館』を訪れていた。理由は新種のモンスター達の情報のすり合わせと、近日に控えている『遠征』について話し合う為だった。
場所は塔の前の狭い庭園。そこには卓と椅子が設置されている。ネルティはハトホルの少し後ろで立っている。
「結局ー、ウラノスは白とみていいのー?」
「なんか隠してそうやけど、今回の騒動には関係ない気はするなぁ……」
勘やけど、とロキは根拠のない自身の直感を告げる。それは十日前、地下水路を調べていた際にデュオニュソスから頼まれ、ロキは一人ウラノスのもとを訪れたこと。何か得たものはないかと、ハトホルは尋ねたのだ。
「そっかー。まあー、今のところは警戒はしなくてもいいかもねー」
「せやな。変に探って面倒ごとになるのは嫌やしな」
そう女神達は結論付け、ひとまずこの話し合いを終わらせた。次に話題に出たのは、18階層についてのことだった。事件の元凶である赤髪の
「
「グランでも知らない存在だって言ってたよー」
「その上、うちのフィンとリヴェリアの二人がかりでようやく
ロキの言葉にハトホルはうんうん、と頷いている。二柱の会話を聞いていたネルティも、相手にしたくないと心の底から思っている。
「じゃ、次は『遠征』についてやな。ファイたんとは話がついたから、
「『深層』の
以前の『遠征』では芋虫型のモンスター腐食液によって、苦戦を強いられた両派閥。撤退を余儀なくされた経験を活かし、武器の修復を出来る
「それに『
「大切な子供達を失うよりはいいでしょー。子供達が万全な状態で戦えるなら、それに越したことはないよ」
「ああ、同感や」
誰よりも自分の子を愛している女神達は、子供達が生きて帰ってくることを一番に臨んでいる。故に、【ファミリア】の決定を見守るつもりなのだ。
必要事項の会議を終わらせたハトホルが席を立とうとした瞬間、女性の団員がロキに話しかける。耳打ちの会話だったので聞こえてはいないが、ロキの表情から面倒ごとだと読み取れた。
ロキはすまん、といい席を外し、門の方に向かっていった。ハトホルはネルティと目を合わせ、一緒に待つことにした。数分後、ほとほと嫌な顔をするロキとデュオニュソス、眷属のフィルヴィスが姿を見せる。デュオニュソスはハトホルと同じ卓に座り、フィルヴィスはすぐそばで立っている。
「デュオニュソスじゃんー。今日はどうしたのー?」
「気になる情報を仕入れたんだ。その事を伝えたく、ロキのところに訪れたのだが、ハトホルもいてちょうどよかったよ」
「挨拶はええから、はよ話せや」
心底嫌な顔をするロキに、デュオニュソスは呆れ笑いを浮かべながら話し始めた。
24階層でモンスターの大量発生が起こっていると。『リヴィラの街』ではその話題に揺れ動き、20階層以降の探索を控えようとする動きもあると。
「あまり知られていないが、30階層でも似たような大量発生が起こっている」
30階層、という単語にハトホルは目を細める。殺害されたハシャーナが宝玉を回収したのも件の階層であると、グラン達から報告を受けていた。
事件は三週間程前のことであり、上級冒険者の間でも取り沙汰されていなかったと。『下層』に進出出来るものは上級冒険者でも限られ、それ故に目撃者も僅かだったと、デュオニュソスは語った。そして次には、ギルドが情報を制限しているのだと続けた。ウラノスが裏で暗躍し、私兵を送り込んでいるのではないか、とも。
「やっぱり、ギルドは信用ならんか?」
「……ウラノスに探りを入れたのはロキだ、君が白だと見たのなら私も異論はないが……どうも、ね」
きな臭いところがギルド側にあるのは確か、という発言にロキが同意する。その点だけを見ればハトホルも賛同している。
「それでー、デュオニュソスは私達に何させたいのー?」
「そうや。自分、報告だけ来たわけじゃないやろ」
「ははは、何かあったら報告に来ると言っただろう?他意はないさ」
胡乱な視線を送るハトホルとロキに対し、デュオニュソスは清々しい笑みを浮かべる。面倒ごとの押し付け合いをする主神達を、眷属達は静かに見守っている。
「うちんとこの子は今で払ってるから、調査なんて無理やー」
「私もー。みんな忙しいー」
「二人して、例の地下水路の調査かい?」
勘のいいやつ。と女神達は思いながら頷いた。魔導士たちを除いた団員達を派遣させていることを話す。他の子も、『遠征』の準備でいないと付け加えて。
一瞬の静寂が訪れ、ロキが声を発しようとした直後。ぼとり、と頭上から小さな羊皮紙の巻物が落ちる。ハトホル達が真上を仰ぐと、空には一羽の梟が飛んでいた。
ハトホルとロキが自身の手元に落ちた巻物を確認すると、嘆くような声とあー、という気の抜けた声が伝わる。
「アイズが24階層に行きおった……」
「グランもだよー」
告げられた内容にネルティが驚きの反応を見せる。グランはベルを見守る為に行ったのだが……ベルの方の安全は確認できたのだろうか。
「ハトホル様……」
「グランが向かってるということは、ベルの方は大丈夫だと思うけど……
「はい」
すぐさまネルティがその場を離れようとした時、ロキの声が横から入る。
「うちからも、レフィーヤとベートを向かわせる。何があるかわからんからな」
ロキは自身の団員に二人を呼んでほしいと頼む。
そう決める女神達に対し、デュオニュソスも眷属であるフィルヴィスを同行させると。フィルヴィスは声を荒げ聞き返すが、ハトホル達の信用を得たいデュオニュソスの判断に、フィルヴィスは渋々頷いた。
ややあって、ハトホル達に見守られる正門前には、ネルティ、ベートとレフィーヤ、そしてフィルヴィスが集結する。既に殺伐とした空気を漂わせる、ベートとフィルヴィス。そして二人を仲裁しようとするレフィーヤ。
(このパーティ、大丈夫かしら……)
ネルティは一人、不安な気持ちに襲われてしまう。そんなネルティに向けハトホルは心の中で
「指定された酒場は、ここか」
「こんなところに、酒場があったんだ……」
10階層から出発したグラン達は18階層に辿り着き、街の北部に存在する酒場の前に立っていた。フェルズが指定した酒場は『黄金の穴蔵亭』という、洞窟の中に設けられた酒場だった。
グラン達は木製の階段を下り切り、扉も仕切りもない空洞へ足を踏み入れると、そこには同業者達がたむろする酒場が広がっていた。
「んん?あれっ、【剣姫】に【閃光】じゃないか⁉こんなところで、奇遇だな!」
「君は……」
「……ルルネ、さん?」
グラン達に気付いた
「前は世話になったな、特に【閃光】には。おかげで死なずにすんだよ。改めて礼を言わせてくれ」
「あれから会うことはなかったが、元気そうでよかった」
「久しぶりです……」
グラン達はルルネと会話を広げながら、フェルズから指定されたカウンターの二、三番目の席──ルルネの隣に座る。
「二人で探索かい?この店を知っているとは、中々に通じゃないか」
「知り合いに教えてもらったんだ」
軽快に話ルルネの相手をグランはしながら、カウンターの中を見た。ドワーフの
「注文は?」
グラン達は、フェルズから教えられた『合言葉』を、ここで口にする。
「「『ジャガ丸くん抹茶クリーム味』」」
その直後だった。隣に座るルルネが──いや酒場内にいる冒険者達全員が、慌ただしく席を立ち放心した状態でグラン達を見つめていた。
「……あ、あんた達が、『援軍』?」
グラン達は悟った。この酒場の冒険者のだれかではなく、全員がフェルズの言う『協力者』だったのだと。
「このお二人で本当に間違いないんですか。ルルネ」
「あ、ああ。そうだよ……アスフィ」
グラン達を囲むように立ち上がった者達の中で、
「まさか、君達が『協力者』だったとは」
「ええ。こちらも驚きです」
グランは眼前の美女に声をかけると、彼女の方も片手を銀製の眼鏡に当てながら返した。
彼女の名は、アスフィ・アル・アンドロメダ。【ヘルメス・ファミリア】の団長にして、【
そしてグラン達と同じく、ベルの出自を知る数少ない人物でもあった。ベルにとっては少し歳の離れた姉のような存在だ。
「あの子は元気ですか?最後に会ってから数ヶ月も経ってますので」
「ああ、元気に冒険者をしているよ。君も時間があったら会いに行ってやってくれ」
「ええ。その時は、ヘルメス様も連れて」
なんて親戚同士のような会話を広げるグラン達の横で、アイズがアスフィに問いかけた。
「……貴方達も、依頼を受けたんですか?」
「この金に目がない駄犬のせいで、【ファミリア】全体が迷惑を被っています……はぁ」
「ア、アスフィ~」
容赦のない言葉とため息の後に、ルルネの情けない声が店内に木霊する。グラン達が目を向けると、彼女は決まりが悪そうな表情で事情を話した。
18階層の騒動後、ルルネは再びフェルズから依頼の話を持ち掛けられたが、前回の依頼で危険に晒された経験から断った。のだが、Lv.を偽っていることをバラすと脅され、泣く泣く依頼を受けたのだと。
「そのせいで、私達に皺寄せがきたということです……」
アスフィ達の状況を理解したグラン達は、同情の視線を彼女達に向ける。そんなグラン達を尻目にアスフィはルルネに憤懣をぶつけ、周囲に立っている尻拭いで集められた団員達が半眼を向けている。
「……これからのことだが」
「……すみません、見苦しいところを見せしました」
グランが控えめに声をかけると、アスフィは瞑目した後に表情を引き締め、目下に当たることになった
「依頼の目的地は24階層の
「はい」
「ああ。問題ない」
次にアスフィは自身達の戦力を伝える。アスフィ含め総勢十五名、
他にも
「【剣姫】、並びに【閃光】。貴方達がいてくれるなら心強い。短いパーティになりますが、どうかよろしく」
「こちらこそ」
「よろしく、お願いします」
他派閥同士の共同戦線。同じ
グラン達はアスフィ達と共に『黄金の穴蔵亭』を後にし、