前書きって、書くことがあったりなかったり。
「あの……大丈夫、ですか?」
ベルに近づき上目づかいをする金髪の美少女は、口をもごもごとするベルの様子に、首を傾げている。
「あ……はい、大丈夫、です……」
絞り出したか細い声に、金髪の美少女は不思議に感じながらも、よかった、と呟いた。
「すまない
「あ、グランさん」
アイズと呼ばれた金髪の美少女は、グランの方を向いた。同時にその綺麗な顔から表情を落とし、申し訳なさそうにしている。
「あの、……このミノタウロスは、私達のせいなんです……」
「どういうことだ?下層の方で、
本来の『ミノタウロス』の出現階層は中層域。ここよりも10階層も離れた階層域で、『ミノタウロス』は最強格のモンスターだ。そんなモンスターが『上層』まで上がってきたのは、何かしらの事態が起こったということ。
「実は……」
沈んだ声でアイズが語ったのは、自分達が取り逃がしたミノタウロスが、この『上層』にまで逃げてしまったということ。全てを語り終えたアイズは、金髪を靡かせ頭を下げた。
「私達には問題なかったが……他に被害に遭った冒険者はいるのか?」
「それは、大丈夫です。ベートさんが、倒してくれましたので」
「【
グランが後方に視線を向けると、アイズも振り返った。二人の耳に伝わるのは、地を蹴る音と金属の擦れる音。こちらに伝わってくる足音は、次第に近くなっていき、次の瞬間には音の正体が姿を現す。
「おい、アイズ。こっちは終わったぞ」
視界の先の迷宮のかどからアイズを呼んだのは、灰色の毛並みを携える
「こっちも終わりました、ベートさん」
ベートはアイズの声に、手間かけさせやがって、と舌打ちとともに『ミノタウロス』への愚痴を溢した。同時にグラン達の存在に気づき、琥珀色の瞳を縦に開く。
「あ?何で光野郎がいやがるんだ?」
「この子の訓練で、この先に向かおうとしたところ、ミノタウロスに遭遇していたわけだ」
「はっ、わざわざ雑魚の為にか?」
「それが先達の役目だろう」
ベルを一瞥し煽るように言うベートの口調に、グランはさも当然かの如く返す。グランの答えに、ちっ、と再び舌打ちをし、ベートは踵を返した。
「行くぞ、アイズ」
「あ、はい。すみません、先に行きます」
「ああ。気をつけてくれ」
ベートに引っ張られるように踵を返すアイズに、グランも軽く手を振りながら見送る。先へ進むベートの背を、アイズが追いかけようとした瞬間。
「あ、あの!」
今まで言葉を控えていたベルが、去ろうとするアイズを呼び止める。
「どうしたの?」
「助けていただいて、ありがとうございました!」
感謝とともに、勢いよく頭を下げたベル。その姿にアイズは形の良い目を小さく開きながらも、向けられた想いに応える。
「無事で、よかった」
そう言い残し、アイズはこの場を去っていった。グラン達は彼女を見送り、姿が見えなくなった頃、グランが口を開いた。
「どうする、ベル?このまま先へ進むか?」
「今日は……ここまでに、しておきます」
落ち着かない素振りのベルに対し、グランは確信を付く言葉をかける。
「そんなに、アイズのことが気になるのか?」
「へ……な、何で⁉」
図星を付かれたベルは顔を赤くし、大きく体を震わせた。
「あれだけ熱烈な視線を送っていたんだ。気づかない方がおかしい……一目惚れ、というやつか」
「え、いやっ、そういうわけじゃ……!」
必死に否定しようとするベルだが、誰がどう見ても明らかな態度である。
「なに、馬鹿にしているわけではない。むしろ、そういった想いは大切にした方がいい」
「グランさん……」
「ま、目指すべき壁が、高すぎるかもしれないがな。それも
そんなグランの一言に、ベルは揶揄われたと思われながらも、グランに尋ねた。
「確かあの人って……【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインさん、でしたよね?」
「そうだ。都市に存在する『第一級冒険者』の一人、【
「凄い人でしたね。あの人がどうやってミノタウロスを斬ったか、僕には見えませんでした」
「そのうち分かるようになる。それまでは、もっと頑張らないとな」
「はい」
グランの言葉にベルは頷き、あっ、と声を出した。そのまま地面を見つめ、数秒沈黙したままの様子だ。気になったグランも下を向き、ベルの視線の方角を見やると。
「ミノタウロスの『魔石』か。アイズ達が帰ってしまった以上、私達が回収するしかないな。下手をすれば
地面に落ちていた紫根色の宝石。この階層の『魔石』よりも倍以上に大きく、濃い色をしている。グランは地面に手を伸ばし『魔石』を回収し、持参していた袋に詰めた。
「先程も言ったが、今日はここまでにしよう。ベルの約束もあるわけだからな」
「そうですね。早めに帰りましょうか」
振り返り、帰路に就くグラン。後を追うようにベルも歩き始め、二人は地上を目指していく。道中ベルがあれこれ質問を始めるが、グランは揶揄いながらも一つ一つ答えていった。
「神様も、来れればよかったんですけどね」
「仕方がない。今日は、ハトホル様とご一緒だということだ。お二人で話したいことがあるのだろう」
「確かに、そうですね」
(まあ、本当は……ただのやけ酒なのだがな)
昼間、ダンジョンで起こったことを、ヘスティアに包み隠さず伝えたグランは、真っ先にヘスティアの張った声を受けた。ベルが一目惚れをしたかもしれない。そのことにヘスティアは、例えようもない怒りを覚え、無理矢理ハトホルを誘い教会内で飲み始めている。
(ハトホル様には申し訳ないが)
今もやけ酒に付き合わされている主神に、グランは心からの謝罪をした。
「グランさんも、シルさんのお店を知ってたんですね」
「あの店は知り合いの店で、【ファミリア】でも利用したことのある、馴染み店なんだ」
「そうなんですね。人気なお店なんですか?」
「冒険者も一般市民も利用している、評判の良い店だ。人気な理由は味が良いというのもあるが……店に着いてみれば分かる」
「それは楽しみですね」
現在、グラン達がいるのはメインストリート。蒼い宵闇とうっすらと輝く満月、そして数え切れない陽気な笑い声に包まれている。今日の朝、ベルが集合場所に来る前に出会っという酒場の娘に誘われ、グランも知るその酒場に、二人は夕食を食べに行こうとしていた。
「それにしても、本当に『魔石』を落としたのか?」
「僕は落とした記憶なんてないんですけど……グランさんと一緒に換金もしましたし。でも実際、シルさんは『魔石』を持っていましたから……」
「『魔石』は全て私の持っていた袋に回収したからな。紛れ込んでいた。その可能性はなさそうだが……客引きでもされたと思えばいいだろう。何より……昼食を貰ってしまったからな」
「はい……悪意があったわけではなさそうでしたし。昼食の恩を考えると、向かわない方が失礼ですしね」
朝からダンジョンに向かうベルを見て、昼食の弁当を渡してきたという。こういったことにベルは断りづらく、代わりに夕食を食べに行くことを約束したとのこと。
「さて、着いたぞ」
「他の酒場よりも、大きいお店ですね」
「見惚れるのはいいが、他の客の邪魔になってしまう。中に入ろう」
「はい」
グランの後に続くように、ベルも店内に入っていく。店内は既に多くの人が座っていて、酒や料理を楽しんでいる。周囲を見渡していたベルが、店員に女性しかいないことに気付き、少し体を硬直させてしまう。その姿にグランは小さく笑みを浮かべ、席を探し始める。空いている席を探すグラン達のもとに、右方から声がかかってくる。
「ベルさん。来てくれたんですね」
「あ、シルさん。はい、約束していましたので」
「ありがとうございます。それに……まさか【閃光】様もご一緒だったなんて」
「様は止めてほしい。普通の客として扱ってくれ」
「分かりました。 お客様二名入りまーす!」
シルに案内されるまま、グラン達はカウンターの席に着いた。二人が気楽に食事を楽しめるようにと、気遣いなのだろう。そんな風に思っていると、カウンターの内側から声がかかる。
「グランじゃないか。シルが言っていた客ってのは、アンタのことだったのかい?」
「私ではなく、この子のことだ。ミア」
「何だい、新しい団員の子かい?随分可愛い顔をしているじゃないか」
「同じ【ファミリア】でもないんだ。知り合いの子でね。色々と教えているんだ」
「そうかい。『都市最強』に教えてもらえるなんて、ありがたいことだよ、坊主」
向けられたミアの豪快な笑みに、ベルは驚きながらも頷いた。その様子にミアは満足したようで、再び仕事を再開した。
「お知り合いの方って、店主さんのことだったんですね」
「ああ。腐れ縁、というやつだ。言動はあれだが、悪い人じゃない」
「言ってくれるじゃないか、グラン。まあいい、注文はどうするのさ?シルから聞いた話じゃ、そっちの坊主は大食漢なそうじゃないか」
「そうだったのか、ベル?」
「ち、違いますよ⁉︎どういうことですか、シルさん⁉︎」
グランとミアから発せられた言葉に、ベルは慌てて否定し、隣に立つシルの方を勢いよく向いた。
「……えへへ」
「えへへ……じゃないですよー⁉︎」
「頑張ってください、ベルさん!私、応援してますから!」
颯爽と去るシルの背を、ベルは唖然と見つめることしかできなかった。諦めたベルは、ミアに注文を頼み始めた。グランも同時に注文を始める。置かれた大量の料理に、ベルは度肝を抜かれながらも食べ進める。グランも助けるように、小皿に分けていく。
「お久しぶりです、【閃光】」
「ああ、君か。元気にしていたか?」
「はい。貴方の方も、お変わりないようで」
次々と食事を胃に運んでいたグランのもとに、薄緑色の髪を肩まで伸ばしたエルフの店員が、盆に乗せたお酒を運びながら声をかけた。カウンターに置かれた酒に、グランは礼を告げた。
「それにしても……今日は随分と頼まれているのですね」
「君のところの看板娘に揶揄われてね、こうして色々と楽しませてもらっているんだ」
「それは……シルがすみません。後から言っておきます」
「気にしないでくれ、無理で食べているわけではないんだ。ミアの料理の腕も、年々上がってきている」
先程まで食べていた料理の感想を口にすると、エルフの店員は綺麗にお辞儀をし、感謝を述べていた。グラン達の隣では、ベルとシルが楽しそうに話をしている。
「隣の方が、シルの言っていた方なのですか?」
「ああ、そうだ。君も聞いていたのか」
「はい。貴方が二人で食事など、中々に珍しいことですが……お知り合いの方で?」
「知り合いの子なんだ。つい最近冒険者になったばかりで、色々と面倒を見ている」
「そうでしたか」
グランの答えにエルフの店員は表情を変えずに頷いた。
「それでは、私はこれで失礼します。仕事に戻らなくては」
「話止めてすまなかった。仕事、頑張ってくれ」
「いえ、お気になさらず」
最後まで表情を変えず、エルフの店員は去っていった。
その後もグランとベルは食事を楽しみながら、会話を広げていた。そんな中、出口の方を見ていたベルが声を漏らす。
「グランさん……あの人達って」
「彼等も、ここで打ち上げだったのか」
店内に入ってくるのは、十数人規模の団体。予め席を予約していたのか、グラン達ちょうど右下のぽっかりと空いた席に案内される。一団は種族がてんで統一されない冒険者達だが、同時に全員が実力者だと見て取れる。
『……おい』
『おお、すげえ上物ッ』
『馬鹿、やめろ。エンブレムを見てみろ』
『……げ、【ロキ・ファミリア】じゃねえか』
周囲の人間が【ロキ・ファミリア】だと気付いた途端、これまでと変わったざわつきを広げていく。顔と耳を近づけ、まるで密談をするかのように。
(運が良いと言うのか、悪いと言うのか)
場違いな感想を心の中でつぶやくグランは、静かに食事を再開した。隣に座るベルは、右往左往していて落ち着きのない様子だ。アイズがあるかもしれない。そんな考えが、ベルの頭を支配しているのだろう。
「君は、あの時の……」
「お久しぶり、です……」
ベルのもとに歩み寄ったのは、彼自身が求めていた存在。一人席を離れたアイズに、他の団員達が不思議そうに見つめる中。グランのもとにも、歩み寄る小さな影が。
「やあ、グラン。
「私は何もしていないさ、
爽やかな笑みを浮かべる
原作見返していると、色々忘れていた設定がありました。できる限り原作の設定を遵守した、話の展開にしていきたいと考えています。