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「君達も、ここで打ち上げをしていたのかい?」
「ああ。ベルが昼間に誘われて、折角ならお邪魔することに決めたんだ」
奇遇だと言わんばかりのフィンが、店員に断りを入れ、グランの隣の席に座る。
「ベル……ああ、アイズが話していた冒険者のことか。君やアイズがいたとはいえ、謝らなければいけないな」
アイズから話を聞いていたのか、フィンは申し訳なさそうな顔をしている。
「昼間の件のことなら、気にしないでくれ。むしろ、他の冒険者に被害が出なかったことを、喜ぶべきだろう」
例えアイズがいなくとも、自分一人で対処できていた。そんなグランの意図を理解したフィンは、静かに頷いていた。同時にグランの言葉で最悪の未来を想像し、額に手を当てていた。
「そうだね。あれは僕達の怠慢だ。もし被害が出てしまっていたら、償い切れるか分からなかったよ……」
そう語るフィンの表情は、何事も起こらなかったことを、心から安堵しているようだった。故意ではないとしても、被害者が出ていたのなら、小さくない責任を【ロキ・ファミリア】は追求されていただろう。
「彼と話をしたいのだが……時間は大丈夫だろうか?食事の最中だったら、彼が良ければ一緒にどうだい?」
「私は構わないが……ベルに聞いてみよう」
グランは横に体を向け、アイズと話をしているベルに声をかける。フィンの視線に気付いたアイズは、ベルとの会話を止めた。
「ベル。昼間の件で、彼が話をしたいと言っているんだが、構わないか?」
「あ、はい。僕は大丈夫ですけど……話をしたい人ですか?」
ベルは顔を傾け、グランの後方に視線を向けた。瞳に映った金髪の
「すまない、まだ名乗っていなかったね。僕はフィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】の団長で、グランとは昔からの仲なんだ。よろしく頼むよ」
「だ、団長さんって、ことは……貴方が【
「ベル・クラネル、驚かせてすまないね。どうしても君に、謝罪をしたかったんだ。僕達のせいで危機に晒してしまい、申し訳ない」
謝罪とともに頭を下げるフィンに、彼の後ろにいる団員達は驚きを隠せず、全員が同じ反応を見している。そんな中、席を立ち上がり、グラン達に歩み寄る二つの影が。
「私からも謝罪をさせてほしい。すまなかった」
「儂等のせいで、すまんかったの」
翡翠の髪を肩下まで伸ばしたエルフと、茶色の長い髭を携えるドワーフがグラン達の前に姿を現した。二人の真摯な姿勢に、またしても団員達に淀めきが広がっていく。
「リヴェリア、ガレス。君達も来ていたのか」
名を呼ばれた二人は、グランの方に視線を向ける。グランが二人に声をかけようとした瞬間、視界の先で粗暴な口調とともに立ち上がる者が。
「そんな雑魚に、謝る必要なんかねえだろ」
「止めろ、ベート。今回の一件、我々の不手際だ」
「そうじゃぞ、ベート」
諭すようにリヴェリアとガレスが話すが、ベートはそれを鼻で笑い、高圧的な笑みを浮かべる。
「黙ってろ、ジジイ、ババア。一人で戦えないなら、戦場に出てくるんじゃねえよ。そんな奴、虫唾が走るぜ」
強者の驕り。弱者を見下し、侮辱する彼の言葉に、フィンが止めに入ろうとした時。先に口を開いたのは、グランであった。
「【
「あ?」
怒りも、軽蔑も、そんな感情は込めず、グランは言った。その言葉にベートは、真正面からグランに疑念をぶつける。
「この子は、アイズが来る前に
「なら彼は、挑むつもりだったのかい?圧倒的な格上──『冒険』に」
フィンが出した答えに、【ロキ・ファミリア】の団員達は驚愕をあらわにする。無謀としか言いようのないことに、冒険者達は目を見開く。
「私の言葉に、嘘はございませんよね、
頷き、フィンに肯定するのと同時に、グランは彼等の主神に問うた。誰もが視線を主神──糸目を小さく開く、朱色の髪を持つ女神に向ける。眷属の視線を集める女神は、一切の動揺も見せず答えた。
「嘘はない。その少年、本気でミノタウロスに挑む気やったで」
『本当なのか⁉︎』
『五階層ってことは、まだ
『いくら【閃光】がいるからといって……無謀過ぎる!』
主神から告げられた事実に、今度こそ冒険者達は声を荒げる。その声に【ロキ・ファミリア】ではない同業者達も、信じられない、と誰もがベルの方を見やる。その最中、グランはフィンに質した。
「さて、フィン。君達が正式に謝罪をしたいのなら、後日改めて君達の
「ああ。構わないよ。この場では目立ち過ぎるからね」
ベルの隣に立つフィンに、グランは座りながら伝える。フィンはロキに視線を送り、ロキは無言で頷いた。次にグランはベルの方に顔を向け、言葉をかける。
「ベル。今日は帰るとしよう。これ以上ここにいてしまっては、かえって迷惑をかけてしまう」
「わかりました……シルさん、これで失礼します」
「ベルさん……」
勘定をミアへと渡し、グラン達は店の出口まで歩いていく。この場全ての者の視線を浴びながら、グラン達は店を後にした。誰も声を発せず、見つめることしないできなかった最中。
「クソが……」
ただ一人
「ロキの奴め、僕のベル君になんてことを〜〜!」
「落ち着いてください、神様。僕は無事ですから」
通りを歩くヘスティアが、昨夜の出来事に対しもう何度目かわからない憤慨をする。それを宥めるベルの姿を、グランとネルティ、そしてハトホルは後ろから見ていた。
「フィン達は何か言っていたの?」
「謝罪だけは伝えていた。あの場ではあまり大事にはできないからな。今日改めて話すつもりだろう」
「それもそうね。周囲の目もあるし、正式なことはできないものね」
「それにしてもー、無事で良かったねー」
締めくくるように呟いたハトホルに、グランとネルティは、本当に、と頷いた。何よりも喜ぶべきは、ベルが無事であったこと。そのことにグラン達は安堵していた。
「グランさん、ここですかね?」
「ああ、そうだ。ここが【ロキ・ファミリア】の
「ロキの奴、随分といいところに住んでるんだね」
ベルが地図と照らし合わせ、ヘスティアが嫉妬を含んだ視線を向ける建物──『黄昏の館』。都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】の
グランが門の前に立ち、呼びかけようとした瞬間。門が左右に広がり、奥に立っていた人物が声を発する。
「待っていたよ、グラン。それに、ベル・クラネル……そちらの女神は?」
「ベルの主神のヘスティア様だ。まだヘスティア様は下界の情勢に慣れていないのでね、ハトホル様もお連れしている」
「そうだったか。ここで話すのもアレだからね、入ってくれ」
出迎えをしていたフィンに招かれ、グラン達は門をくぐる。フィンに案内されるまま建物に入り、上の階を目指し階段を上がっていく。
「歩かせてしまってすまない。ここにロキ達が待っている」
フィンが止まった場所は、一室の部屋だった。フィンが扉を開けグラン達を手招きする。中にあるのは数人が座れそうな
「よぉー来たなー、ハトホル……って、ドチビ⁉︎」
左側の長椅子に座るロキが、ヘスティアの方に向かって叫ぶ。
「何でドチビがおんねん⁉︎あの白髪の少年は、ハトホルの眷属やないのか⁉︎」
「僕の、ベル君だからね!それより……お客様に対して、その態度は何だい〜?」
煽るように返すヘスティアに、ロキは悔しそうに握り拳を作っている。
「止めろ、ロキ。お前達がどんな関係か知らないが、グラン達は正当な客人だ。それ相応の態度をしなければ」
「分かっとる、リヴェリア。ほら座れ、ドチビ」
ヘスティアが座るのと同時に、ベル、グラン、二つ目の長椅子にネルティ、ハトホルの順で続いて座っていく。
「まずはご足労いただき感謝するよ。ベル・クラネル。そして神ヘスティア。先日の件、改めて謝罪させてほしい。本当にすまなかった」
フィンの謝罪に続き、ガレスとリヴェリア、渋々な態度のロキも同じく謝罪をする。頭を上げたフィンは、一つの提案をベルに伝えた。
「もし君が何かを望むなら、僕達はできる限り叶えたいと考えている。何か要望はあるかな?」
「そのことについて、ベルから話がある。聞いてやってくれ」
フィンの提案に口を開いたのは、対面に座るグランはであった。グランの一言でベルに視線が向き、ベルは緊張しながらも話し始める。
「僕は正直、何かを望んでいるわけではありません。僕以外の冒険者の人にも犠牲は出なかったですし、僕個人は不運な事故だったと思っています」
「そう言ってくれると、僕達も気が晴れるよ。君の心遣い、心から感謝する。その上で、君は何が言いたいんだい?」
「僕個人はこの問題を、もう終わらせようと考えています。例え皆さんが起こしてしまったことでも、僕はアイズさん助けられました。なら、この件は既に皆さんが挽回したと僕は思います」
「君はもう、この件を不問にしようとしているのかい?君を否定するわけではないが、アイズが助けたのは結果論に過ぎない」
「それでもです。むしろ僕の方こそ感謝しています。助けていただき、ありがとうございました」
フィン達を許し、それだけでなく自身の方が感謝を告げる。その姿勢にフィン達だけでなく、グラン達も驚いていた。
「ドチビ。お前はそれでいいんか?」
糸目を開き、ロキは神として、親としてヘスティアに問う。
「僕としては、ベル君が許すつもりならそうするさ。危ない目に遭ったのはベル君だしね。何を言うのも、求めるのも、ベル君の権利だから」
「そうか……うちからも謝らせてくれ。すまんかった、
「ロキ……」
告げられた自身の名にヘスティアは目を見開きながらも、気にしないでくれ、と親として答えた。
「本当に、これで終わりでいいのかい?ベル・クラネル」
「はい。僕の方こそ、大事にしてしまって、すみません」
「謝らないでくれ。悪いのは僕達だ。君が気を遣う必要はないよ」
確認をするように尋ねたフィンに、ベルは迷いなく答えた。その言葉にフィンは再び頭を下げ、感謝の意を表した。
「まさか、こんなに早く終わるとは……正直思っていなかったよ」
「彼……ベル・クラネルの心意気に感謝するべきだな」
「昨日から感じておったが、本当にできた若造よ。うちのやつらも見習ってほしいものだ」
「止めてくれ、ガレス。身内のことを口にするのは」
肩の力を抜いたフィン達の会話に、名を出されたベルは苦笑を浮かべていた。隣のヘスティアは、そうだろう。と自慢げに答えていた。完全に場の空気は変わり、フィン達は苦労話を進めていった。
「これ私達、必要だったかしら?」
「そうだねー、ネルティ。座ってただけだったしねー」
「本当にすみません」
今度は隣で愚痴を呟くネルティとハトホルに、グランは本当に申し訳なさそうに謝っている。ベルもその様子に、隣の席から頭を下げている。
「これからのことだが……時間が良いことだし、ぜひうちで昼食を取っていかないかい?」
「いいんですか?」
部屋の天井付近に設置された時計を見て、フィンは昼食を共にしようと提案をする。その言葉にヘスティアは喜びをあらわにし、ロキから、うっさいわ、と注意を受けていた。
「構わないよ。こんなことで謝礼になるなら、いくらでもご馳走しよう。それに、僕個人も君と話したいことがあるからね。グラン達も一緒に来てくれないかい?」
ベルから視線を移し、グラン達の方にも提案を勧める。
「私達もいいのか?」
「ベル・クラネル達だけでは気まずいだろう。君からも話が聞きたいからね。ぜひ来てくれ」
「分かった。お言葉に甘えよう。よろしいですか?ハトホル様。ネルティ」
「構わないよー」
「私も同じく。お言葉に甘えるわ」
「感謝するよ。神ハトホル。ネルナッティ」
ハトホル達の了承を得たことで、フィンは安堵の息を吐いた。その様子にガレスとリヴェリアも、肩の荷が降りたような空気を纏っている。
「ほな。食堂に行くんやろ?さっさと行こうや」
ロキの一言により、全員が立ち上がり、廊下に出ていく。一番遅くに出たグランとフィンは、少し距離を取り小声で話し合っている。
「最初から分かっていたのかい?ベル・クラネルが、どんな選択をするのか」
「私はただ、ベル自身が言いたいことがあると言われただけだ。何を伝えるのかも、何を考えていたのかも、私は何一つ知らないさ」
「そうか……性格だけで評価するな、彼は冒険者には向いていないな」
「違うさ、フィン」
廊下に伝わる靴の音が響く中、グランは足を止め、真っ直ぐにフィンを見つめる。碧眼と紅眼が交差し、グランは言葉を紡ぐ。
「あの子は誰よりも、冒険者だ」
確信。グランの言葉からフィンが感じたのは、それだけ。だがそれが、何よりフィンの心を突き動かした。
「尚更、彼に興味が湧いてきたよ」
話し合いの場がフィンだけだったのは、話を円滑に進める為です。後は単純に、全キャラ書けなさそうだと思ったからです。次回に登場させていく予定です。