ようやくテストが終わりましたので、執筆の時間を増やせます.
「お〜。とても美味しそうじゃないか」
「当たり前やドチビ。うちの子のお手製やぞ」
「ロキ。そうやって神ヘスティアに突っかかるのは止めてくれ」
席に配膳された料理を前にして、ヘスティアは歓喜の声を溢す。それに突っかかるロキに、隣に座るフィンが制止をかける。その様子にさらに隣に座るガレスとリヴェリアは、ため息をしている。
「冷めないうちに、いただきましょうか」
「そうだねー。ロキもヘスティアも、早く食べよー」
グランとハトホルが中間に入ることによって、ロキとヘスティアの間を取り、何とか食事を始めることができた。ベルやヘスティアは食べたことのない都市内の料理に、舌鼓を打っているようだ。
「美味しかったです。ありがとうございました、フィンさん」
「ありがとう、ベル・クラネル。後で厨房の団員に言っておくよ」
昼食を食べ終え、食器を片付けた後。席に戻ったベルが斜め前に座るフィンに向かい、料理の感想を述べていた。隣に座るヘスティアも、料理の味に満足している様子だ。
「フィンさん。お隣のお二人って、【
フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ガレス・ランドロック。この三名は【ロキ・ファミリア】の最古参であり、派閥の絶対的な主柱として団員達から信頼を寄せられている。
「グランとネルナッティから聞いたのかな?」
「はい。昨日は、落ち着いて挨拶することができなかったので、グランさん達に聞きまして……それに、リヴェリアさんの名前は、昔ネルティさんから聞いて……」
「ほお。それは気になるな……なあ、ネルナッティ」
今までベルに向けられていた翡翠の瞳が、グランの隣に座るネルティに向く。唐突な暴露に、ネルティは気まずそうに視線をずらしている。二人の関係を知るフィン達は、またか。のような表情をしている。
「それ言うなら、リヴェリア。君だってネルナッティのことを、時々話しているじゃないか」
「なっ……⁉︎フィン!」
「まったくお主らエルフ共は、昔から変わらんのう」
予想外からの追撃に、不意をつかれたリヴェリアの瞳が揺らぐ。そんなエルフ達の変わらない姿に、ガレスは呆れたように口にしている。子供のような言い合いをするエルフ達を尻目に、隣に座るベルが声をかける。
「グランさん、二人の関係って……」
「簡単に言えば、
都市最強の
リヴェリアとネルナッティの両名は、都市内においてそう称されている。その実力はたった二人のパーティでありながら、第一級冒険者の一団を超える殲滅力を誇る程。
「そんな評価を得てはいるが……ご覧の通り、二人の関係は昔から変わらなくてな」
「ははは……確かにお二人の様子だと、一緒のパーティは難しそうですね」
「仲が悪いわけではないんだが、時折ああなってしまうんだ。昔に比べたら、丸くなったんだがな」
そう語るグランの表情は、苦労人のようなものとなっていた。
「二人とも、そろそろ落ち着いてくれ。ベルの前でそんな姿を晒すのは、あまり教育上良くないからな」
グランの一声でハッと、二人はベルの視線に気付きすぐさま姿勢をベルの方に向けた。
「ご、ごめんなさい。ベル」
「すまない……ベル・クラネル」
ネルティは勿論のこと、態度を崩し過ぎたリヴェリアは、己の醜態を恥じるように謝意を見せた。そんなやり取りに対し、話しながら聞き耳を立てていた神々も、呆れ笑いを浮かべていた。
「僕は大丈夫ですので、気にしないでください」
少しも邪険に思っていないと答えたベルに、ネルティ達は感謝しつつ、一応の謝罪を互いにし合っていた。その様子を目視したフィンは、仕切り直すように口を開く。
「ベル・クラネル……いや、毎回本名で呼ぶというのもあれだからね。君のことを、ベルと呼び捨てても構わないだろうか?」
「はい。大丈夫です。好きなふうに呼んでください」
「ありがとう……改めてベル。君に聞きたいことがあるんだ」
試す……もしくは、見極めるような視線に、ベルの体が無意識に硬直していく。その視線はフィンだけでなく、リヴェリアとガレスの視線も含まれていた。
「先日のことを掘り返すようで申し訳ないが……君が何故、ミノタウロスに挑もうとしたのか。それを教えてほしい」
それはグランが先日に語ったこと。グランが前に立ち、アイズがたどり着く前に、ベルは武器を構え戦う意志を示していた。それが自身にとって
「『英雄』に、なりたいんです」
告げられた問いに対し、ベルは偽ることもなく答えた。返された答えにリヴェリアとガレスは目を見開き、ロキが興味と視線を向ける中、フィンは再び問うた。
「グラン達の影響……そうではないんだろう?」
「はい。この
グラン達と出会う前から、ベルは『英雄』に憧れていた。ただその感情が形となり、明確なものとなったのはグラン達と出会った後。漠然と抱いていた願いが、今では目指すべき理想に生まれ変わった。
「僕には、辿り着きたい理想があります。それがどれだけ険しくて、辛いことなのか……きっと今の僕では何も足りない」
グランだけでなく、フィン達も経験してきた過酷は、口で語れるほど容易なものではなかった。力も、知恵も、意志も。全てをかけようやく辿り着いた景色。今のベルでは挑むことも、進むことすらできない覇道。
「でも……ここで諦めてしまったら、そんな夢と理想は終わってしまう。今までの僕を裏切り、捨て去って」
それだけは、ベル・クラネルが何よりも許せなかった。理想を諦め、願いを捨てることは。今までの全てを否定し、何にもなれないことの証明。
「だから僕はあの時、『冒険』に挑もうとしたんです」
理想に行き着く為、未来を得る為のこと。それが何より不可欠なのだと、グラン達は伝えてきた。来るべき日に備え、ベルが今までの自分に失望しない為に、グラン達は全てを教えてきた。ベル自身の為に。
「……聞かせてくれてありがとう、ベル」
そう答えたフィンの表情は、満足したかのような微笑んでいた。目の前の、まだ未熟な子供の言葉が、誰よりも
「君に出会えて良かった」
昔の自分が抱いていた純粋な想いを、ベルを通して思い出したのかもしれない。そんな勇者の姿に、旧知の仲であるドワーフとエルフは驚きを隠せず、道化の主神は口元を綻ばせていた。
「あれー?君って昨日の酒場にいた子だよね?」
ベルの告白から数十分後。何気ない話を広げていたグラン達のもとに、アマゾネスの少女が近づいてくる。彼女の追うようにもう一人のアマゾネスの女性と、小柄なエルフの少女。そして。
「あ、ベルもお昼を食べてたの?」
「はい。フィンさんに誘われて。先日ぶりですね、アイズさん」
そう挨拶を交わす二人の関係に、アマゾネスの少女達は驚いた様子をしていた。
「アイズ。いつのまにこの子と仲良くなったのよ?」
黒の長髪を後ろで結んだアマゾネスが、アイズの横に立ち尋ねた。
「昨日の酒場で少し話をしてて、そこから……」
「なるほどね。あんたは確か……ベル・クラネルだったかしら?昨日はうちのベートが申し訳なかったわ。わたしからも謝らせてちょうだい」
「いえ、気にしないでください。ええと……貴方は?」
「ああ、名前を言ってなかったわね。わたしはティオネ・ヒュリテ。こっちは妹のティオナ。あっちのエルフはレフィーヤよ」
ティオネと名乗った長髪のアマゾネスは、妹のティオナと同行していたエルフのレフィーヤを紹介した。
「ティオナって呼んでね」
「れ、レフィーヤ・ウィリディスです。初めまして」
明るく活発に名乗るティオナと対照に、レフィーヤと名乗ったエルフの少女は緊張した面持ちだ。
「初めまして、僕はベル・クラネルです。よろしくお願いします」
簡素だが、礼儀正しくベルは頭を下げて挨拶を返した。
「君のこと、昨日から気になってたんだ!ミノタウロスに挑もうとしたって、本当⁉︎」
まくしたてるように話すティオナに、ベルは完全に押され気味だった。妹に参戦するように姉のティオネも次々と質問を投げ、ベルが対応に慌てている中。
「二人とも、ベルが困っているだろう。僕達の話は終わったから、次は皆んなで話したらどうだい?構わないかな?ベル」
「はい、僕はいいですけど……」
「じゃあ、ベルもこっちに」
手招きするアイズに従い、ベルは席を移動する。ベルの後を追うようにヘスティアも付いていった。残ったグラン達は楽しそうに話すベル達の姿を、優しく見守っていた。
ベルとヘスティアを食堂に残し、グラン達は【ファミリア】の執務室に向かっていた。ここからはベルの後見人としてではなく、【ハトホル・ファミリア】の団長としてのグランであった。
「すまないね、ここまで移動させてしまって」
「君の部下達はともかく、ベル達には聞かせられない話だからな……君達も遭遇したのだろう。あの
グランがネルティだけでなく、ハトホルも連れてきた理由は、ヘスティアの為だけではなかった。その理由は、グラン達が一ヶ月以上前に行った遠征で遭遇した、新種のモンスター。その件の擦り合わせの為でもあった。
「お主の報告通りじゃったわ。もし知らされておらんかったら、部隊の被害が何倍にもなっておったろう」
「逆に言えば、事前の警告もなしに被害が少なかったお前達の方が、驚きなのだがな」
「グランが殆ど一人で殲滅したからね。それでも被害ば合ったわ。私は部隊を後退させていただけ……ほんと一人で無茶する団長よ」
深層域の50階層。グラン達が未到達階層に進出する準備をする中、突如として出現した新種のモンスターの襲撃を受け、グラン達は敗走を余儀なくされた。最悪の想定をするガレスの横で、リヴェリアは含みのある視線をグラン達に向け、ネルティは皮肉を交えながらも答えた。
グランの持つ大長剣、《覇獣の大崩剣》は
「とはいえ、あのモンスター……強烈な毒の攻撃を持つ。単体の脅威は低いものだが、群れを成すのが厄介だ。下手に応戦するよりも、遠距離による攻撃が有効だな」
「グランの言う通り、名称も、正確出現階層も、何もかもが不明。今までに確認されたことないモンスターだ。少なくとも、僕達は情報を擦り合わせた方が良い」
団長として、報告を繰り返す二人。突如として出現した
「それにグラン。僕達が遭遇したのはあの芋虫型だけじゃない」
「他の新種も発見したのか?」
「ああ。姿は全くの別種。むしろ人型に近い。だが保有している能力は同じだった。アイズが討伐に成功したが、下手に対処すれば被害ば甚大の筈だ」
六Mを誇る巨体に、触手のように伸びる手。特徴を語るフィンの言葉を、グランは脳裏に焼き付ける。同時に、少なくとも、発見されたこの二種は何かしらの関係がある。フィンの報告を受けたグランは、その可能性を考えた。むしろその可能性しかない。
「ロキはどう思うー?私はグラン達から報告されてことしか知らないからさー、考えを聞きたいんだよねー」
「うちも同じや。だけど……きな臭いことが起こっとる」
「だよねー」
確実にこの先何かが起こることを、二柱の神は予想をする。同じように、歴戦の冒険者達も同じ感を抱いている。
「現段階では情報が少な過ぎる……今の所打てる手は、様子見しかないだろう」
「そうだね。モンスターである以上、地上での情報収集には限界がある。しかも出現階層は深層域ときた。僕達であっても、下手に行動できないのが歯痒い」
グランやフィンの【ファミリア】であったとしても、そう何度も深層域に遠征になど向かえない。特にグラン達は少なくない被害を受け、此度の遠征は失敗に終わっている。
「だが、能力が判明しているだけでもマシじゃ。何も分からんよりはよいだろう?」
「そうね。決して情報が少なくないわけじゃないわ」
悲観するグランとフィンに活を入れるように、ガレスが口を開き、ネルティも励ますように肯定する。二人の言葉にグラン達は申し訳なさそうにし、肩の力を抜いた。
「そろそろ解散とするか。ベル達も待っているだろうし」
「そうだったね。彼を待たせてしまったよ」
執務室を後にしたグラン達は、食堂にいるベル達とともに、帰宅することとなった。フィン達に見送られ、
「貴方は確か……ベートさん?」
自身に歩み寄る姿にベルは怯えることなく尋ねる。ネルティが警戒の態勢を見せるが、グランが制止をかえる。
「俺は、謝らねえ。だが……一つだけ言わせろ」
「はい」
「
それだけを言い残し、ベートは自身の
今作ハトホルF設定2。
第一級冒険者が少ない理由は、過去に派閥内で内部分裂が起こり、当時在籍していた第一級冒険者達が脱退したからです。