今後少しづつ、文字数を増やしていくかもしれません。
『ギイィッ⁉』
迫りくる『キラーアント』の鈎爪を、硬殻の隙間を狙い腕ごと斬り飛ばす。片腕を飛ばされ、後退するキラーアントを逃すことなく、ベルは先と同様に硬殻の隙間から首を切り裂く。
『ギィ……』
短い断末魔を残し、キラーアントの体は灰となった。零れ落ちた『魔石』をグランが拾い、腰に掛けている袋に詰める。
【ロキ・ファミリア】の会合から一日が経ち、ベルは再びダンジョン攻略に励んでいた。現在の階層は7階層。アビリティ評価だけなら下の階層でも問題はないが、グランの指示のもと一つ一つの階層を攻略している。
「そろそろ、新しい武器が必要だな。今のナイフではこの先、心許ないだろう」
「そうですね。このナイフだと、下層のモンスター相手には厳しそうですし」
ベルが使用しているナイフは、数年前に【ゴブニュ・ファミリア】にグランが制作を依頼したナイフ。軽さと扱いやすさを重視した、速度特化の代物。それ故に、キラーアントのような敵は苦戦してしまう。防具のライトアーマーも同じ素材で製造された一品。
「この半月で稼いだ資金なら、良い武器が買える。帰りに少見てみよう」
「ありがとうございます」
その後も、7階層で戦闘を行い、いつもより早めに地上向かうことに。
「あれ……モンスターを運んでる?」
『始まりの道』と呼ばれる横幅が限りなく広い1階層のい大通路を抜け、10М近くある筒状の螺旋階段を上った先──白亜の巨塔『バベル』の地下一階で、巨大なカーゴを目視したベルが呟く。
「ああ、もう
「
「ベルはオラリオ来たばかりだから、まだ知らなかったな」
「モンスターを
「
「つまり、その流れを
「そういうことだ」
グランの説明で目の前の光景に納得したベルは、感嘆の眼差しを向けている。普段戦っているモンスターを、倒さずに
「気になるのなら、当日に見に行ってみるといい。さて、今は武器を見に行くか」
「お店って、上の階でしたよね?」
「そうだ。あの昇降設備で向かおう」
後方まで続いているカーゴの列を邪魔しないよう、グラン達は端の道を通り、昇降設備に入っていく。目的地は八階のお店。【ヘファイストス・ファミリア】が武具を売り出す店舗の中でも、新米
静止した昇降機の手動のドアを開いた先は、様々な種類の武器武具の専門店が広いフロアに展開されている。
「冒険者の方が多いですね」
「この階は下の階とは異なり、ベルと同じ駆け出しの冒険者の客層が多いからな。値段も手を出しやすい」
壁際に設置された槍棚に付けられた値段は、一二〇〇〇ヴァリス。他の装備を見てもどれも同じような値段で売られている。
「この値段なら、僕でも全然買えますね」
「色々と見て回るといい。気に入るものがあるかもしれない」
「はい。行ってきます」
気分が高揚しているのか、足取りが早いベルを見送り、グランは出入り口の近くで待機することに。それから数十分後、木箱を抱えたベルが歩み寄ってくる。箱の中には同じ装備のライトアーマーが。
「どうやら、良いものが見つかったようだな」
「はい。何だか、強く惹かれてしまって」
「それは良かった。
ベルが箱の中の胸当てを手に取り、くるりと返すと──【ヴェルフ・クロッゾ】という名がサインが。
(クロッゾ……あの魔剣鍛冶師の家名か)
だがベルはそんなことを知らず、純粋にただ惹かれたのだろう。今ここでその話をするのは、意味がないと考え、グランは何も言わなかった。
「次はナイフだな。折角なら、同じ
「ありがとうございます。もう一回、探してきてみます」
ベルは武器を専門とする店に向かった。その間グランは木箱のライトアーマーを見ていた。純粋な白い金属光沢を放ち、素材のままの姿をしている。
(【ファミリア】のロゴは入っていないが、それでも良い作品だ)
冒険者ではあるが、それでも今まで多くの武具を見てきたグランは、原石の
「ありました、グランさん」
ベルが持ってきたのは、黒の持ち手に白い刃が施された一刀。シンプルな構造の、性能を重視した代物。
「一式揃ったことだ、会計をするとしよう」
「はい」
合計の値段が二〇〇〇〇ヴァリスと、ベルの財源でも余裕で支払えた。会計を済ませ、昇降機で下に降りた頃には、外は既に夕暮れとなっていた。茜色の光に照らされながら、グラン達は帰路に就いていった。
「行ってらっしゃいませ、ハトホル様、ヘスティア様」
「お見送りありがとうねー、グラン」
「ベル君のこと頼んだよ、グラン君」
「はい。どうかお任せください」
出発した馬車を見送り、グランは門をくぐり
「すまないね、ハトホル。ドレスまで用意してもらって」
「気にしないでー。グラン達からの送り物なんだからー、胸を張ればいいよー」
ヘスティアが身に纏っているのは普段の服装ではなく、青色を基調としたドレス。グラン達から送られた一品に、ヘスティアは心から喜んでいた。
「本当にいい子たちだよ……勿論、僕のベル君もね」
馬車の開き窓から外を眺めるヘスティアが、微笑みながら呟く。対面に座るハトホルは、静かに同意するように外の景色を見つめる。
都市に夜が訪れ、月が空に浮かび、周囲には闇の緞帳が下りている。耳をすましてみれば聞こえてくるのは、酒盛りに耽る賑やかな喧騒。馬蹄が響く音と混じり、ハトホル達の耳朶を震わせている。
「見えてきたよー、ヘスティアー」
「前にも見たけど……相変わらず奇天烈な形だね」
「本神は気にいってるんだけどねー」
女神達の目線の先には、象頭人体を模した巨大な像──【ガネーシャ・ファミリア】の
本日の『神の宴』の主催者である【ガネーシャ・ファミリア】の
『神の宴』は、その名の通り神のみが参加を許された会合。情報収集、特定の派閥との関係を深めようとする、一種の社交場である。基本的には、目的もなくただ騒ぐだけでもあるが。
長い廊下を歩いた先は大広間であり、中心には主催者のガネーシャが宴の挨拶を行っている。卓上に並べられた料理は世界中の食材だけでなく、迷宮産の食材も使われている。貴族のような礼服を着飾る神々が立食を楽しむ中、【ファミリア】の団員たちが給仕に努めている。
「ヘファイストスは来ているのかな?」
「来るっていう話はー、聞いているんだけどねー」
ハトホル達が周囲を見渡していると、あ、とヘスティアが声を漏らした。視線の先の移っているのは、燃えるような紅い髪と真紅のドレスを纏う女神。それよりも目立つのは、右眼を覆う黒の眼帯。ハトホル達の視線に気付いた女神は、腰まで伸びている髪を靡かせ歩み寄ってくる。
「久しぶりー、ヘファイストス」
「ええ、久しぶりねハトホル……それに、随分変わったわねヘスティア」
「グラン君達がくれたんだ。いいドレスだろう」
「グラン君って……もしかして【閃光】のこと?ハトホルと一緒にいるのも驚いたけど、あんたいつの間に都市最強と仲良くなってたの?」
言いづらそうにしているヘスティアの代わりに、ハトホルがヘファイストスに答える。無論アルフィアのことや過去のことを隠し、互いの【ファミリア】の関係をだけを伝えた。
「ヘスティアの子供が【閃光】や【黒褐の魔女】の弟子……少し会わなかった間に、そんなことになってたのね」
「今のボクは、前のように自堕落はしていないんだぜ」
「そうね。今のあなたを見れば分かるわ」
ヘスティアを見るヘファイストスの目つきは、穏やかなものだった。やはりヘスティアのことを、心のどこかで心配していたのだろう。近況報告に交え、他愛ない話を広げるハトホル達のもとに。コツコツ、と靴を鳴らす楚々とした音が伝わる。
「久しぶりね、ヘスティア。そのドレス、とても似合っているわ」
「え……フ、フレイヤ?」
ハトホル達の視界に現れたその女神は、まさしく美を体現した女神だった。新雪を思わせる白のドレスを纏い、黄金律という概念が摘出されたような完璧なプロポーションを見せている。
「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」
「そんなことはないけど……ボクは君のこと、苦手なんだ」
「うふふ。貴方のそういうところ、私は好きよ?」
微笑を浮かべ答えるフレイヤに、ヘスティアは止めてくれと言わんばかりに手を振っていた。その反応にも、フレイヤは笑みを浮かべている。
「ハトホルも久しぶりね。元気だったかしら?」
「うん。元気元気ー」
「それは良かったわ。また一緒に、お茶しましょう。いいお店があるのよ」
そんなフレイヤの提案に、ハトホルは、いいねー。と変わらない口調で乗っていた。
「おーい!ファーイたん、フレイヤー、ハトホルー、ドチビー」
「……もっと、めんどくさいやつが来たよ」
「あ、ロキー」
苦笑するヘスティアとは異なり、ハトホルは歓迎の雰囲気だ。振り返ってみると、こちらに大きく手を振りながら近付いてくる女神がいた。朱色の髪を夜会巻きにし、細身の黒のドレスを着こなしている。
「珍しいねー。ロキがこういう場にいるなんてー」
「いやな、ドチビが来るって聞いて、来たんやが……なんや自分、そんなドレス持っとったんか?」
「これは送り物なんだよ。グラン君達からのね」
自慢するように見せつけるヘスティアに、ロキはほーん、と軽く返事をしていた。そんな二人の様子に、ヘファイストスとフレイヤは、意外そうに見つめていた。
「貴方達って、そんなに仲良かったかしら?」
「ええ。正直意外だわ。いつもなら目を合わせるだけで、口喧嘩をしていたのに」
ミノタウロスの一件を知らない二柱からしたら、今のヘスティア達の姿は思いがけないものだろう。
「まあ、色々あってな……」
「うん……そうなんだ」
「何があったのよ」
塩らしい態度を見せるヘスティア達に、ヘファイストスは首を傾げている。そんな女神の横で、フレイヤが動きを作った。
「じゃあ、私はこれで失礼させてもらうは」
「なんや、もう帰るんか?」
「もういいの。面白いものが見れたしね」
そう言ってフレイヤは、ヘスティアとロキに視線を向けた。コトン、と持っていたグラスをテーブルに置き、髪を翻した。神々の中に姿を消した彼女の姿を、ハトホル達は見送っていた。
「ならうちも帰るとするわ。他に話したいやつもおるし」
周囲を見渡しながら呟いたロキに、貴方も?と、ヘファイストスが口を開いた。
「じゃあねー、ロキー」
ハトホルの別れの言葉に、じゃあなー。と言い返し、ロキもこの場を去っていった。一瞬の静寂が訪れた空間を好機だと悟ったヘスティアが、本来の目的を思い出し、ヘファイストスの方に体を向ける。
「ヘファイストス、話があるんだけど……時間は大丈夫かい?」
「お金は貸さないわよ……って、ハトホルまでどうしたの?」
自身に向けられた視線が一つだけでないと気付いたヘファイストスが、ハトホルの方に視線を移した。
「ヘスティア話はねー、私も関係あることなんだよねー」
「貴方にも関係があるって……さっき話してたヘスティアの子供のこと?」
この会場であった時の話を思い出し、ヘファイストスは答えに辿り着いた。ハトホルはうんうん、と頷きヘスティアに視線を向けた。
「それで……あんたの話は何なの?」
凛とした眼差しに、ヘスティアは覚悟を決め、ゴクリと喉を鳴らした。
「ベル君にっ……僕の眷属に、武器を作って欲しいんだ!」
今更ですが、今先は主人公、ネルナッティ、ハトホルの視点で書こうと考えています。
必要な部分があれば上記以外のキャラで書いていきます。