死ぬ気で戦ったら宿儺に親友認定された件 作:雨天
時間が飛びます。
あの後、宿儺は五虚将の足止めから抜け出して来たらしい裏梅に連れて行かれた。俺の方は穴の中で呑気に鼻歌を歌いながら救助を待っていた。
俺も無事に回復した仲間達に回収され、成果を報告することになった。
俺は皆に端的に、宿儺と引き分けて親友になったと伝えた。
当然、大敵を倒すどころか友となるなど言語道断と切り捨てられると思ったが、意外にも皆は驚嘆の後に良くやったと俺を褒めてくれるという結果に終わった。
あの宿儺と引き分けるなんて、流石はあの『暴食』ですね、とか。災厄を治めて友となることなど君にしかできまいと賞賛の嵐だった。
皆が実際に戦い、返り討ちにされたからこそ実感の籠った賞賛を受けて、俺は超デレデレした。
それはもう、頰の緩みが止まらない程にニコニコした。
死地に向かうという恐怖から一転して勇気を振り絞り、仲間達の倒れる姿を見て死ぬ気で戦う覚悟を決め、そして遂には引き分けにすら持っていった。
これ以上ない戦果である。何せ原作では五虚将も日月星進隊も涅漆鎮撫隊も殲滅されたのだから。
確かに、宿儺は流石としか言いようがない程強かった。初手で呪具ではなく領域を使われてたら俺は負けていたかもしれない。
格闘戦に持ち込み、黒閃を放って隙を作り、そこに奥義をぶっ放す。この工程がなければ最後に立っていたのは宿儺だった。
つまり引き分けたのは奇跡に近い。俺は俺を賞賛するぜ!
これからは宿儺と親友というとんでもねえ肩書きで都を歩くことになる。術師達からは凄い目で見られるんだろうな。
俺も化け物扱いされるんやろか。避けられたりしたら悲しいやろうなぁ。
そんな下らないことを考えながら都に帰還すると呪術界の重鎮や藤原家を始めとするお偉方に成果の程を聞かれた。
此方は詳細に状況を説明した。先ず、藤原北家直属の五虚将と日月星進隊は壊滅、涅漆鎮撫隊も俺を残して壊滅、残った俺が疲弊した宿儺と死闘を繰り広げ、その果てに引き分け親友となったことを伝えた。
お偉方は当然ひっくり返って驚いた。派遣した部隊が悉く壊滅させられたこともそうだが、何よりそれを行った相手に単独で引き分ける程の戦力を持つ俺に注目が集まった。
まあ、宿儺と対等にやり合った術師とか警戒するわな。
さて、それだけの大戦果を上げれば褒美もある。
俺の家系は家名もない術師の家柄だったのだが、あの五条家に迎え入れられることになった。
つまり今の俺の名前は五条空である。
その他にも俺個人に望む褒美はあるかと聞かれた。
だから俺は後に藤原家の陰謀に巻き込まれて処刑される日月星進隊隊長を嫁に迎えることにした。
名前がないとのことなので、原作から頂戴して亨子と呼ぶことにした。
俺以外にも多少なりとも宿儺打倒に貢献した術師達には褒美が与えられたようである。
戦友の一人、天使は莫大な金が支給されたらしい。家の為になると喜んでいた。
天使は堕天をこの世から消し去ることができなかったことをとても悔やんでいた。
潜在的な脅威を思えば分からんくもない。
嫁の話に移るが、亨子は俺との婚姻を嫌がる様子はなかった。
宿儺の話に関しては酷く怯えた様子を見せたが、俺の隣にいる時は精神は安定している。
戦うことしかしてこなかったようで、料理とか洗濯・掃除などの家事は覚えている最中である。
そんな訳で、俺は新たに宿儺の親友という肩書きを得ながらも今まで通り術師として活動している。
偶に宿儺が俺の家に突撃することを除けば実に平穏な毎日である。
◇
「あ、それは俺の柿!!」
俺が任務から帰ると居間に宿儺が居座っていた。手には柿を幾つか持っており、それを適当に口に放り込んでいる。
「いつもより遅かったな。強い相手だったのか?」
「こいつ平然と…!別に手こずってねえし!現実改変する系の術式だから手間取ったとかじゃねえ!」
「それはまた、良い術式を手に入れたな」
「使い方次第だよ。こんな風にな」
そう語る俺の手には柿が握られていた。
宿儺が自分の手の中を見て、一つ柿が減っていることに気付く。
俺の手には宿儺が持っていた柿が一つ握られている、と現実を改変したのだ。
「成程、手間取る訳だ」
「そゆこと」
俺は柿を頬張る。特段好きという訳でもないが、平安の世でおやつというと余り種類が多くないから、果物に偏りがちなんだよな。
「砂糖菓子が食べたい!ふわふわパンケーキとか苺ケーキとか!」
「砂糖なら取り寄せれば良いだろう」
「取り寄せても作り方が分からん」
何せ料理とかからっきしなので。
でも、可愛い嫁と試行錯誤しながら一緒にお菓子作りとか夢あるよなぁ。
そこまで考えたところで、俺は唐突に電波を受信して閃きを得た。
「そうだ!熊の肉で鍋パしようぜ!近くの森に出たらしいからさ!」
「料理は裏梅に任せるのが一番だろう」
「鍋は雰囲気を楽しむもんなの!皆で鍋囲って飯食うのが良いんじゃん!」
「そういうものか」
「亨子ー!裏梅ー!ちょっと熊仕留めてくる!」
俺は腹から声を出して二人に伝える。
二人の困惑の声を聞きながら、俺は宿儺を連れて熊狩りに向かったのだった。
その日の鍋は大変美味しゅうございました。
◇
俺と宿儺が親友になってから数十年が経過した。
宿儺は寿命でこの世を去り、俺と裏梅と亨子が取り残された。裏梅は今でも慎重に宿儺の遺体をせっせと管理している。
宿儺が保持していた飛天と神武解は五条家の忌庫に保管してある。
俺達はのんびりと余生を過ごしていた。
そこに姿を現したのは呪術廻戦の黒幕、羂索であった。
「やぁ、老いてなお凄まじい呪力だね」
「何の用だ。俺は呪物になどならんと言った筈だが。貴様の仕組む殺し合いにも興味がない」
「宿儺も裏梅も私の提案に乗ったよ?」
「俺は亨子と居られればそれで良い。宿儺ともっと遊べたらと思うのは我儘というものだ」
「良いじゃない。我儘を押し倒すだけの力が君にはあるし、私は手を差し出せる」
「……お前と縛りを結ぶのは御免被る」
羂索の思惑に乗るのは嫌だ。俺には転生という手段がある。一度転生した時に勘を掴んでいるから、今度は自分の意思で転生することができる。
その時は亨子も一緒だ。魂の通り道で待機しておけば良い。そして一緒に転生するのだ。
そうすればまた出会える。姿形が変わっても愛の形は変わらない。
此処で態々羂索の誘いに乗ってやる義理もないしな。
「宿儺と君は親友だったんだろう?同じ時代に受肉させてあげるよ?」
「必要ない。お前の手を借りずとも、俺達なら同じ時代に出会えるさ」
「生まれ変わったとして、記憶が保持されてる保証はない」
「そうかもな。だが、きっと思い出す。俺達が歩んだ数十年は決して軽いものじゃない」
それに宿儺が覚えていてくれる。なら、俺は身を任せて転生するだけだ。
羂索は説得を諦めて帰っていった。そのまま川にでも落ちてしまえと呪いを掛ける。
不幸の原因は大体アイツである。宿儺と俺に散々ストーカーしやがって。女の体で迫って来た時は本気でぶん殴ったものだ。
そんな風に威勢良くいられるのも長くない。
明確な肉体の衰えを感じる。命の灯火が少しずつ減っているのを自覚している。
幽鬼のように森を彷徨いて呪霊を祓う。
祓っても祓っても湧いて出る。いつになれば終わりが来るのか。いつになれば亨子と自堕落な生活を送れるのか。
そんなことを考えながら呪霊の死骸を食べると新たな術式を得た。
その術式は対象一つを老化させる効果を持つ。
この術式を反転させれば、もしかすると若返るのか?
俺は反転術式で生み出した正のエネルギーを術式に流し込む。術式が発動し、みるみる内に肉体が若返っていく。
肉体が全盛期に戻ったところで術師を止める。
体は完全に生きる活力を取り戻している。
手を握ったり開いたりして感触を確かめる。実際は筋肉が元に戻った分重くなっているのだが、体が軽くなったような錯覚を覚える。
俺は急いで家に戻る。
するとそこには夕飯の支度をしている亨子がいた。
亨子は振り返って俺を見ると驚愕を露わにする。
「貴方、どうして若返っているの?」
「老化の術式を得たんだ。その術式反転の効果さ。ほら亨子も」
俺は年老いて弱々しい亨子の手を取る。
術式反転を発動して亨子の肉体を若返らせる。
亨子は信じられないものを見るような目をする。
「これなら、裏梅達が受肉する時代まで生きられる」
「あぁ、寿命の心配はいらなくなったな。まあ、馬鹿みたいに呪力消費するけど」
俺は激しい呪力の消耗に息を荒くする。
二人分一気に若返らせたんだ。そりゃあ反動も大きい。
でも、これで俺達は確実に宿儺と裏梅と再会することができる。
俺は拳を握ってガッツポーズをするのだった。
・老化術式持ち呪霊
漏瑚並みに手強いのに瞬殺された可哀想な呪霊
・宿儺
オリ主のような、親友になれる相手と出会えるかもと羂索に唆されて呪物になった。