「行きたくない゛ぃい~……」
「うふふ……熱烈だったものねぇ、昨日の会見」
「はっはっは。いいじゃないかそれぐらい」
早朝の食卓。俺はご飯を食べ終えた後もしばらくテーブルの前でくだを巻いていた。お母さんとお父さんは楽しそうに声をかけるけど……実に他人事な笑顔である!
記事のことを知ってみんなで対策会議をしたのが金曜日。記者会見をしたのが日曜日。そして今日は週末明けの月曜日ということになる。
……つまり、今日が記者会見後の初めての学校なのだ。
うぅう……。あんなことになっちゃって、どうやってクラスメイトと顔を合わせればいいんだよぅ。そりゃあ俺たちの仲を説明しないといけない以上、ある程度の恥ずかしさは覚悟していたけど……あんな変なことを言うつもりじゃなかったのに。
絶対『全国放送で堂々とバカップルを宣言した奴ら』って認識になってる……!!
違うんだ……いや怜奈ちゃんのことが大好きなのはウソじゃないし100%本当なんだけど、そうじゃなくて……。
自分の醜態を思い出して、思わず両手で顔を覆ってテーブルに突っ伏してしまう。それなのに、そんな俺を心配することもなくお母さんとお父さんは上機嫌に会話をしていた。
「いや~、ヒカリは記者会見でも格別に可愛かったなぁ。特にあの怜奈ちゃんを大好きですって言うところとか……」
「わかるわぁ。あまりに可愛すぎてもうほんとに永久保存版!」
「本人の前で言うなぁ!!」
家族団欒をしていて羨ましい限りである。その団欒の輪に愛娘が入っていないんですがいいんですかねぇ!?
ちなみにうちの両親は記者会見も当然のように録画済みで、すでに何回か見返していた。理解がある親っていうのは良いものかもしれないけど、ありすぎるのもどうかと最近思い直してきているところである。ハズカシイカラヤメテ……。
ピーンポーン。
そんな感じで登校時間を無限に引き延ばしていた俺の耳に、終わりを告げるインターホンの音が鳴る。
……確認しなくてもわかる。こんな時間にうちの家を訪ねてくる人物なんて、一人しかいないのだ。
「おはようございまーす! ヒカリ、そろそろ行かないと遅れちゃうよー?」
そう、俺の最推しにして最愛の恋人……星川怜奈ちゃんである。
半袖の白シャツに紺色のスカート。赤い小さなリボンを丁寧に胸元につけているその姿は、まさしくクールビューティというのにふさわしい出で立ち。少しだけ横にハネた淑やかな黒髪に涼し気な目元がカッコ良くも愛らしく、アイドル『星川怜奈』を完璧たらしめているバランスだろう。
一番会いたいけど……今は一番会いたくない人。大好きな人。
「あら怜奈ちゃんいらっしゃい。ヒカリったら行きたくないってぐずっちゃって」
「ねぇ……怜奈ちゃん、今日お休みじゃダメ?」
「何言ってんの、休んだら次の日もっと行きづらくなるよ。ほら、さっさと準備する!」
「うぉお……正論パンチだ……」
見苦しい俺の抵抗も呆れたような顔の怜奈ちゃんに一蹴される。わかってはいる、わかってはいるんだけど……誰しもが怜奈ちゃんのように割り切ることができないんだよ。
それでも、怜奈ちゃんを待たせるわけにはいかない。俺は諦めて自分の部屋からカバンを持って来るのだった。
「はぁ……」
俺たちの学校は、アイドル活動に対して理解のある学校だ。そういう学校を二人で調べて選んだし、だからこそたまに仕事でお休みをするときも快く協力してもらっている。
そういう学校に通っている生徒だからかはわからないけれど、普段は俺も怜奈ちゃんも多少の注目はあれど普通の学校生活を送れているのである。
ただ、それは何もない平凡な日に限った話である。記者会見からの昨日の今日ではどうなるか、まったく予想もつかないものだ。
「まだ気にしてるの? もう、いい加減覚悟決めなって」
「だって……」
通学の途中、思わず漏れたため息に怜奈ちゃんが苦笑する。
俺はこんなにも気が重いのに、怜奈ちゃんの顔にはまったくの翳りもない。いたっていつも通りに可愛いパーフェクト怜奈ちゃんだ。
「……怜奈ちゃんはなんでそんな平気なの? 恥ずかしくないの?」
「全然。むしろこれで余計な心配もなくなってスッキリするけど?」
口から出た疑問にも、何でもないかのように怜奈ちゃんは答える。
……余計な心配ってなんだろう?
気になるけど、何だか聞いてはいけないような気がして口をつぐむ。怜奈ちゃんはそんな俺を見てニッコリと笑顔を浮かべた。
「恋人がいるってわかったら告白もなくなるんじゃない? 嬉しくないの? ヒカリ、私が告白されてるといつも機嫌悪そうにしてたのに」
「えっ!? き、気づいてたの!?」
「そりゃ当然。大好きな人のことだもの」
驚きで声が裏返る俺を、怜奈ちゃんは真っすぐに見つめ返す。さっきまでの無邪気な笑顔から一転して真剣な顔に、自然と心拍数が上がるのを感じた。
うっ……真剣な表情の怜奈ちゃん、カッコイイ……。それに『大好きな人』だって……!
「どうせ注目されるんだし、見せつけちゃいましょ! ほら!」
「あっ……」
真っ赤になっている俺の左手を、怜奈ちゃんのたおやかな右手がぎゅっと包む。なめらかで柔らかい、怜奈ちゃんの手。俺の……大好きな手。
触れた先から熱が伝わってくるような錯覚がして、頭がクラクラする。でもきっとそれは、幸せな熱で。
ぽーっとする俺に寄り添って、怜奈ちゃんが囁く。
「ヒカリ、好き。大好きよ」
「ぇう……」
その言葉は反則だと思う。だって、言われるだけで胸がぽかぽかした気持ちでいっぱいになって……何も考えられなくなる。全身が幸福で満たされて、フワフワとした気持ちでおぼつかなくなってしまう。
怜奈ちゃんの大好きに、俺は抵抗する術がない。
「うん……」
蚊の鳴くような声で頷いて、俺は繋いだ手を離さないように強く握りしめた。
なんかめっちゃ選択間違えたような気がする!!!!
学校へ近づくにつれて、道で目にする俺たち以外の生徒の数もちらほらと増えてきて。その全員からめっちゃ見られながら歩くハメになった。
そりゃあそうだよね!! 昨日熱烈な記者会見をした二人が、一緒に登校するだけでなく手まで繋いでいたらそれは見てしまうよね!! うん! 俺でもそうするかも!!
こちらを見ながらしきりに何か話している生徒たちを横目に見ながら、俺は努めて気にしないフリをして……怜奈ちゃんは心なしか嬉しそうな顔で軽やかに歩いていた。
こんなの公開処刑なのに、怜奈ちゃんのメンタルが強すぎる……! さすがは俺の一番星(白目)。
玄関の靴箱で一度離した手も、内履きに履き終えたあとに有無を言わさず再び握られてしまった。最近気づいたんだけど、こうなったときの怜奈ちゃんは無敵である。いよいよもって俺に逃げ場はなさそうだ。
廊下を歩いていると気のせいか、キャーという黄色い声が聞こえるような気がする。抑えたような声だけど、耳に届くには十分な声量で……願わくば勘違いだと思いたい。
――そうして俺たちのクラスの扉の前までたどり着いたとき、俺はもうすでにぐったりしていた。
「レッスンよりきつい……」
「ふふっ……ヒカリ、顔真っ赤」
優しい笑顔の怜奈ちゃんを見ると、少しだけ疲弊した精神が回復するのだから怜奈ちゃんは偉大だ。
……あれ? でも朝からこんなに疲れたのもある意味怜奈ちゃんのせい? これってマッチポンプなのでは……?
グルグルとわけのわからないことを考えている間に、怜奈ちゃんは澄ました顔で教室の扉を開いた。
「おはよう」
「お、おはよ~……」
――挨拶の言葉を発した瞬間、クラスにいる全ての人が一斉にこちらを見た。
それまで話していた声がピタッと止まり、静寂とともに数多の視線が全て俺たち二人に向けられる。獲物を見つけたようなギラついた目が『記者会見以上のことを聞かせてほしい』と、その眼が雄弁に語っていた。
こ、こえぇ……! こんなんホラー映画の演出じゃん!! なんで自分の教室に入っただけでこんな体験しなきゃいけないんだよ!!
「「「おはよう……!!」」」
男女たくさんの期待と興味が混ざった挨拶を受ける。あんまりにも異様な熱気が怖くて、俺は思わず怜奈ちゃんの背中に隠れてしまう。
うぅ……もう対人恐怖症は克服したはずなのに、情けない……。
怜奈ちゃんはそんな俺の様子を見て小さく笑い、俺の手を引いて歩き出す。
そして皆の視線を意にも介さず自分の席までたどり着くと、そのまま椅子に座る。
……そして俺を引っぱって、自分の膝の上に乗せた。
「ぇっ……!?」
「きゃぁああぁああっ!!?」
為されるがままだった俺が状況に気づいて顔を真っ赤にすると、静寂を切り裂くような歓声が上がった。
「うわ~っ!! やっぱりホントなんだぁ!!」
「お、おぉおお……! まじかッ……!!」
「く、クソォ……お幸せにッッ!!」
先ほどまでの静けさはなんだったのか、空気が一気に弛緩して各々が好き勝手に喋りだす。興奮して叫ぶ者、面白いものを見たような目を向ける者、悔しそうに嘆く者、顔を赤くして口元を手で押さえる者。
……さしずめ俺たちは思春期学生たちの格好のおもちゃだろうか。
怜奈ちゃんの柔らかいお膝を普段なら堪能できるのだが、そんなことを考えている余裕もなく。ベルトのように怜奈ちゃんに両腕を回されている俺は身体の向きも変えられず、顔だけで後ろを向く。
「怜奈ちゃぁん!!!!!」
「もう、暴れないの。どうせ質問責めになるんなら早いほうが気が楽でしょ? 私も一緒にいてあげるから、ね?」
「ぅ、でもぉ……この体勢……」
「ふふ、なに?」
「……なんでもない、です」
俺の苦し紛れの抵抗も、上機嫌の怜奈ちゃんの笑顔となでなでに封殺されてしまう。
くっ! このぉ……! 頭を撫でれば丸め込めると思ってぇ……!! へへ、へへへ……。
「わ、わ……すごい。完全に二人だけの世界だ……」
「ここ教室だよ……? あたしたち、これ見てもいい奴?」
ひそひそと俺たちを見て女子がざわめき立っているけど、なでなでの魔力にやられている俺にはそんな声は届かないのである。
……あぁ、何故好きな人からのなでなではこんなに気持ちいいんだろう。俺、前世は人だと思ってたけどもしかして犬だったのかな?
「はー……♡ ほんとにヒカリは……」
「……? 怜奈ちゃん?」
「なんでもない」
少し息が荒い怜奈ちゃんを訝しむも、すげなく一言で返される。まあ、ほんとに他愛もないことなんだろうけど。
短く咳払いをした怜奈ちゃんの右手で撫でられる俺。怜奈ちゃんはそのままそれを続けながら、近くにいるクラスメイトに言った。
「さて……えっと、みんなも気になってるみたいだから。HR始まるまでなら質問受け付けまーす。記者会見じゃ聞けなかったことも聞けちゃうよ? クラスメイト特権!」
パーフェクトに可愛いウインクを決める怜奈ちゃんに、再びクラスが揺れた。
雄叫びをあげるクラスメイトを見て、遠い目をしながら思う。
人の中身ってほんと一面だけじゃ量れないんだね。みんなのそんなテンション、初めて見たよ……。
「ねぇねぇ、いつから付き合い始めたの!? もしかして入学したときからすでに!?」
「えーまじめっちゃ応援する!! てかさ、月島さんって二人っきりでもあんな感じなん? もっと甘えてくる?」
「ちょっと、ちょっと耳かして星川さん。……ここだけの話、やっぱ星川さんが攻めなの?」
「はいはーい、順番にね! あと当然答えられない質問もあるから!」
我先にと群がる女子を怜奈ちゃんは俺を膝に乗せたまま平然と捌いていく。さすがに男子はその女子の輪に混ざって聞きにくる勇気はないみたいで遠巻きに、けれど決して聞き逃さないようにこちらをジッと見つめていた。
質問は怜奈ちゃんが答えてくれるし、思ったより楽かもしれない……。ちょっと恥ずかしいのにだけ目を瞑ればだけど……。
怜奈ちゃんの膝の上で、気分はぬいぐるみかマスコット。俺はひたすら怜奈ちゃんの手の感覚を味わいながら朝の喧騒をやり過ごすのだった。
「あれー? 怜奈ちゃん、遅いなぁ……」
そんな騒がしい一日も中ほどをすぎ、昼休み。お弁当を食べている最中にトイレに行った怜奈ちゃんをそのまま食べながら待っていたのだが。
ちょっと遅すぎやしないだろうかと首を傾げる。
もちろん、アイドルはウンコなんてしない! と言うつもりはない。そんな幻想を見てはいないし、怜奈ちゃんだって人間なのだから。
だけど席を立った怜奈ちゃんには全然そんな雰囲気はなかったし、それとも違う気がするのだ。
「…………」
幸い、休み時間中にもひっきりなしに他のクラスの野次馬とかの対応をしていたため……昼休みは少し落ち着いている。俺と怜奈ちゃんの時間を大切にしてあげようという配慮だろう。
視線は感じながらも俺は席を立ち、トイレへと向かう。何だか少し……良くない予感がする。
――そして、俺のその予感は当たることになる。
トイレにたどり着いても怜奈ちゃんの姿を発見できなかった俺は、いよいよ心配になって辺りを探す。
俺の心配とは裏腹に、怜奈ちゃんはほどなく見つかった。
トイレから数十歩離れた曲がり角の先、掃除用具入れのある突き当りに見覚えのある後ろ姿を見かける。
「れ――」
「どういうこと? これ見よがしにアピールしちゃってさ」
呼びかけようとして、怜奈ちゃん以外の声に寸前で止まる。苛立ちの混じった、聞き覚えのある女子の声。
そっとバレないようにのぞき込むと……そこにいたのは怜奈ちゃんと、あの時怜奈ちゃんの悪口を言っていた三人の内の一人の女子。言っている内容も、声の雰囲気もどうも穏便なものではなさそうである。
……和解、なんて平和なものではないんだろう。
あの女子たちはその後、クラスで少しばかり浮いた存在になっていた。
俺や怜奈ちゃんが吹聴したわけではないが、あのときの俺の大声は少しばかり目立ちすぎた。人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、どうしても噂は広まってしまう。客観的に見て、人気アイドルでクラスでも存在感のある二人にケンカを売った存在は、どうしても煙たがられるものなのだろう。
もちろん俺だって怜奈ちゃんに言った発言は許していない。できることなら面と向かって怜奈ちゃんに謝罪してほしかったし、今過去に戻っても俺は同じ啖呵を切っただろう。
……だけど、孤立させたいわけでもなかった。
前世の苦い思い出が、ちくりと胸を刺す。クラスに居場所がない辛さは……これ以上ないほどによくわかっていたから。あの三人は『いま』イジメられているわけではないが、この先もそうなのかはわからないのだ。
だから、できることなら仲直りしてまたクラスメイトとして学校を一緒に過ごしたかった。
でもそれは叶わぬ願いなのかもしれない。こんな人のいないところにまた怜奈ちゃんを呼び出して……今度は何を言うつもりなのか。
三人ではなく一人だけなのがせめてもの救いなのかもしれない。残りの二人はついていかなったのか、それともタイミングが悪いだけなのか。何もわからないけれど、俺のやることはいつだって変わらない。
一人しか選べないのなら……俺は、怜奈ちゃんの味方だ。
「月島と付き合ってるからってアンタが月島みたいになれるわけでもないでしょ。仲良しアピールなんてしてバカみたい」
「アンタ自身がすごいわけでもないじゃない。勘違いしないでよ」
「…………」
その言葉にはこないだのような余裕はなくて。焦燥や怒り……そして諦念が含まれているような気がした。
孤立してしまった恨みを怜奈ちゃんにぶつけているのかもしれない。もう後には引けなくて、攻撃的な態度を止められないのかもしれない。
でもそんなこと、言われる怜奈ちゃんには関係ない。
この前の間違いを繰り返さないよう、大声は出さない。でも、怜奈ちゃんを一人にはしない!
いきり立った俺が決意を秘めて足を踏み出そうとしたとき。何の怒りも悲しみも感じていなさそうな怜奈ちゃんの声がした。
「え? 私のほうがすごいでしょ? ヒカリに好かれてるんだから」
「……は?」
瞬間、時が止まる。思わぬ言葉に俺だけでなくさっきまで悪態をついていた女子までもが、呆けたような目で怜奈ちゃんを見る。
だけど怜奈ちゃんは少しも堪えたような様子もなく、むしろ不思議そうに言葉を続ける。
「ん……? だってそりゃそうじゃん。ヒカリに好かれてる私と、何とも思われていないあなた。その時点でどう考えても人間的に私のほうが上でしょ?」
「は? え? ……な、なに言ってるわけアンタ!?」
「何って……常識? むしろ何で私がすごくないと思ったの? ヒカリの大好きな人なのに」
「ぁッ……!!??」
心底理解できないというような表情で目を細める怜奈ちゃん。対して女子は未知の生命体を初めて見たかのような困惑した顔で、力なく声を漏らしていた。
ごめん、怜奈ちゃん……俺、いつでも怜奈ちゃんの味方だって言ったけど。今だけはあっちの子の味方をしたい気分です。それいったいどういう理論?
「なんッで……アンタの話に月島が絡んでくるんだよ!」
「ヒカリが宇宙一可愛いからだけど? そんなヒカリが私のこと好きなんだから、私も可愛いじゃん」
「アンタほんとに頭イカれてんの!!?」
「…………?」
何とか再起動した女子の言葉にも、怜奈ちゃんは小揺るぎもせず。つらつらと意味不明な理論を垂れ流す怜奈ちゃんはいま、地球上でもっとも無敵な生き物だった。
『どうしてこんな当たり前のことが理解できないんだろう?』みたいな顔で女子を見つめる怜奈ちゃんはそれもまた様になっていて。一種のホラーなのに美しいという狂気の絵面がそこにあった。
「わけわかんない! 激ヤバ女!! 付き合ってらんない!」
「あぁ、私はどうでもいいけど……ヒカリに手を出したら、絶対許さないから」
「ッ……! だ、出さないわよッ!!」
諦めて立ち去ろうとする女子に怜奈ちゃんが声をかけて、気圧されたように女子は去っていった。
後に残るのは平然とした怜奈ちゃんと、呆然としている俺。
「ヒカリ、いるんでしょ?」
「わひゃいっ!?」
いきなり名前を呼ばれて、肩が跳ねる。
き、気づかれてたのか……! まぁ何回か出かけて足音とかもしたし、誰かいることなんてわかるか……。
俺は角を出て怜奈ちゃんの前に姿を現し、小さく頭を下げる。
「ご、ごめん……怜奈ちゃんが戻ってくるの遅いから。のぞく気はなかったんだけど……」
「別に怒ってないわよ。心配してくれたんでしょ? ありがとう♡」
反省して謝罪をすると、怜奈ちゃんはさっきまでの態度がウソのような上機嫌で俺の手を握る。
ほ、ほんとに何も気にしてない……あのときはあんなに辛そうにしてたのに。吹っ切れすぎじゃない……?
「怜奈ちゃん、あの……いい、の?」
「……あぁ、さっきの。別にいいんじゃない? 害がなければ気にすることもないでしょ」
「そ、そっか。……えっと、さっき言ってたこと――」
言いかけた俺の口を、怜奈ちゃんの口がふさぐ。突然の行動に俺の頭が真っ白になっている間にそれは終わり、素早く怜奈ちゃんの唇が離れていくのを呆然と見送る。
柔らかな感触に顔を赤くした俺に、怜奈ちゃんは囁いた。
「全部ホントのことよ? ……ヒカリがこんな風にしたんだから。責任……取ってね?」
「ッ……」
なんとも蠱惑的な響きに、動悸が抑えられない。重い、粘ついた愛の言葉にも似たそれは……綺麗なだけなものではなくて。
でもそれを言われて、嬉しいと感じてしまっている自分がいる。自分が怜奈ちゃんに求められている幸せ。怜奈ちゃんをこれからも好きでいていいんだという幸せ。
吹っ切れてからの怜奈ちゃんは前にも増してパワフルで、予想もつかないようなことの連続で。けれどそんな怜奈ちゃんに振り回されることも幸福だと思ってしまっている。
どのみち俺はもう、どうやったって怜奈ちゃんを嫌いになることなんてできないんだから。
「……うん♡」
肯定の言葉は、流されてではなくて自分の意思で。手に感じる怜奈ちゃんの体温がどこまでも愛おしかった。
ちなみにこの後一緒に教室に戻ったことで『どこかで逢引きをしていたのか』と疑われるハメになったことは内緒である。
うろたえる俺とは裏腹に、怜奈ちゃんはそんな状況でもずっと俺の大好きな笑顔を浮かべていた。
――その笑顔は憂いも翳りも微塵もない、世界一幸せな女の子の笑みだった。
これにて2章完結です!
ストックもさっぱり無くなったので、これにてこの物語はいったん完結とさせていただきます。またお話を思いついたら不定期に更新をするかもしれませんので、そのときはよろしくお願いします。
ハーメルンに小説を初めて投稿したのですが、思ってたよりずっと多くの人に読んでもらって感想もいっぱいもらえて嬉しかったです。
またこの小説の続きや、他の小説で会うかもしれませんがそのときまでサヨナラーッ!!
ありがとうございました!!レイヒカうぉおお!!