※怜奈視点
「『Contrast』のお二人で3番しょぉおぶ! まず第一の勝負は、運も実力のうち! 黒ひげ危機一髪~!!!」
力強く声を張り上げる小日向さんに、私もヒカリも姿勢を正す。3番勝負となれば、負けられるのは一度だけ。気を抜くことなんてできない……たとえそれが運だけのゲームだったとしても。
スタッフが持ってきた黒ひげ船長は、テーブルの上で不敵に笑っている。これから自分が刺されるというのになぜこの表情なんだろうと一瞬頭の中で考えたが、オモチャにそんな野暮なツッコミをしても仕方がないだろう。
同じく黒ひげ船長を見ていたヒカリとどちらともなく向き合い、右手同士を出す。
「最初はグー!」
「「じゃんけんぽん!!」」
ヒカリが出したのはチョキで、私はグー。私の勝ちである。
……つまり先攻か後攻かを私が選ぶことができる。
「さぁ~、怜奈ちゃん先攻後攻どっち?」
「……ちょっと待ってください!」
「な、なにしてるの……?」
私は二人の言葉を聞き流しながら、黒ひげ危機一髪の剣を刺せる穴の数を数える。ヒカリが怪訝そうな表情を浮かべているが、これは勝つための大事な作業なのだ。
「……24個、か。なら先攻で!」
「オッケー先攻やな。ちなみになんで穴の数調べてたか聞いてもええ?」
「最後までお互いが当たりを引かずにもつれ込んだとき、偶数なら先攻が勝ちますから」
「えぇー……?」
私の言葉に少し引いているようなヒカリ。そんな可愛いお顔を見せようが、手加減はしないからね。
勝負ごとに勝つには、何事も気迫が大事なのだ。
意思の強さは、ときにすべてを凌駕することもある。
「それじゃあ先攻の怜奈ちゃんから、穴に刺したってください!」
「よし……ここ!」
ゲーム始まりの合図を受けて、私は決めていた箇所へと意気揚々と剣を刺す。
少しの静寂を経て、誰もが私の刺した穴はセーフだったことを確認する。まぁ、24分の1だ。確率で考えたら当たるほうがおかしいのでここはまだ通過点。
「セーフセーフ。まあまだ序盤ですから。それじゃあ次、ヒカリちゃん!」
「よ、よーし……えいっ!」
当然、ヒカリに刺されても黒ひげはピクリとも動かなかった。
……そうこなくては。こんな簡単に終わったらゲームにも、撮れ高にもならないしね。
私はニヤリと笑みを浮かべ、続く自分の番で刺す箇所を模索するのだった。
それからの展開は、まさに危惧していたとおりの展開だった。
私が刺し、そうしたらヒカリも刺す。お互いが当たりを引かないまま順番に刺し続けていく。そうしていくうちに気づけば刺せる穴は残り2個になってしまっていた。
偶数なので次は当然、私の番だ。
私は緊張で少しだけ武者震いをしながら、おもちゃの剣を持つ。
「さぁ! まさかのラスト2個! 怜奈ちゃんが言うてたとおりの展開になってしまいました!! ここでセーフなら自動的に怜奈ちゃんの勝ちが決定します!!」
「やだー! 当たり引け~当たり引け~!!」
「ヒカリちゃんがなんや可愛らしく祈ってますが、実際そう簡単な話ちゃいますよ! 最後の確率は2分の1! 50%の確率で怜奈ちゃんが逆に負けですからね!」
私の隣で小日向さんとヒカリがトークを繋ぎながら騒ぎ立てる。
ヒカリは両手を顔の前で組んで祈るように私の敗北を祈っているが……甘い。私はこうなることまで視野に入れて先攻を選んでいたのだ。人事を尽くして天命を待つ……私は勝つためにやれる手はすべてうった。ならば、負ける道理なんてない。
「……ッ!!」
そんな気合を入れた私が見えたものは、残りの2箇所のうちの一つの穴が光り輝いている姿だった。もう片方の穴はいつも通り、ただの黒い空間にしか見えないというのに……その穴はまるで、勝利への道筋かというように眩い光を放っていて。
私は確信する。この穴が……この穴こそが勝利につながる穴なのだと!!
小日向さんやヒカリには見えていないのだろう。これは私の勝利への執念が呼び寄せたものなのかもしれない。
「すうーっ……ここ、です!」
軽く一回息を吸い、二人が見守るなか私は迷うことなく光り輝く穴へと剣を突き刺した。
1秒が1分にも感じられる時間のなか、息を飲んで黒ひげ船長の行く末を私は見守る。
1拍、2拍。静寂はいつまで経っても破られない。
「っし!!」
「あぁ~……!」
いくら時間が過ぎても飛び出さない船長を見て、私は右手を振りながら握りしめた。
「これホンマに黒ひげ危機一髪か? なんや気迫がエライごっついんやけど……まあええか」
苦笑した小日向さんが黒ひげのタルを持って、カメラに向けて残った一つの穴が見えるように回してくれた。
「第一勝負は怜奈ちゃんの勝ち~!! や、まさかここまでもつれこむとは思わへんて!」
「あとちょっとだったのに~……!!」
「ふふん、私には最後の2択、答えが見えてたわよ! 私の意思に剣が答えてくれた……」
「何言うてんの怜奈ちゃん? ヒカリちゃんは惜しかったな~!」
とりあえず最初の勝負は私が制することとなった。運の勝負とはいえ、勝利は勝利なのだ。
自分が持っていたおもちゃの剣を握りしめて悔しそうにするヒカリを見て、私は思わず笑みを浮かべてしまう。そんな姿でも可愛いのだから、ヒカリというのはまったくもって罪な人間である。
終わったあとの黒ひげ危機一髪をスタッフが台ごと片付けて、スタジオがまたスッキリとしたところで小日向さんは次へとうつる。
「第二勝負はこちらぁ!! 『どっちが好きなの!? 心拍数チェッカーで愛の告白対決~~!!!!』」
「……?」
「告白対決ぅ!?」
小日向さんの言葉とともにまたスタッフが台を押してくる。その台の上には、黒いベルトのような……恐らくは小日向さんの口ぶりからして心拍数を測る物。
さらに大き目の黒のモニターも2つ、台に連結した様子でそれぞれ私とヒカリの椅子の近くに置かれていく。
「お二人はね、この番組を見ている視聴者の皆さんもお分かりかと思う公式のカップルなんです! ほいでじゃあこれはやらにゃならんと、ディレクターが! ボクじゃないですよ!!」
恒例のディレクター弄りをしながら、小日向さんは黒のベルトを手に持った。小さくスタッフの笑いが漏れる。
「これを胸の下あたりから巻いてもらうと心拍数が測れるようになってます! そいでこの機械は線をつなぐとその結果をモニターに映すこともできるんで、いわゆる心電図のように波形で表示されるわけや!」
「お二人にはこれを着けてもらって順番に愛の言葉を投げかけてもらい~! 照れたり動揺して波形が閾値を超えるぐらい揺らいだら負け! っちゅーことですわ!!」
「なるほど……」
説明を聞いて、だいたい理解する。
たまにびっくり系やホラー系での動揺を数値化して心拍数を遊びに使うようなアプリがあるけど、それと方向性は同じ感じのものだろう。
ただ、これは私が有利すぎるのではないだろうか。
私はヒカリのことが大好きで大好きで仕方がないけれど、恥ずかしがり屋なのは断然ヒカリのほうだ。
もう一線は超えたというのに、未だに手を繋いだりキスをするだけで毎回顔を真っ赤にする姿は日常茶飯事である。私はそれを見るたびに押し倒したい衝動に駆られるのだが……まぁそんなことは今はいい。そんなヒカリにはこの勝負は難易度が高すぎるのでは。
私がチラリとヒカリのほうを横目で見ると、すでに自分の負けを察したかのようにへにゃりと眉を下げている可愛い生き物がそこにはいた。空色の眼は不安そうに潤み、小さいお口をキュッと引き結び必死に動揺を隠し通そうとしている。
……よーし、収録が終わったらだな(?)
私は密かに決意を秘め、そしてある程度手加減をするべきかと考える。
ここで私が勝ったら2勝目。3番勝負なのに3本目の対決を見るまでもなく勝敗が着いてしまう。それは番組的にもまずいし、ヒカリが少し可哀想かなという気持ちもあるのだ。
「さぁ、この勝負に負けたらヒカリちゃんは罰ゲーム確定やで! 踏みとどまれるか~!?」
「……ッ」
小日向さんの言葉に、私は少し遠くにある衣装掛けを見やる。そして忘れそうだった自分の心に再度鞭を入れる。
そうだった……。ヒカリのコスプレがかかってるんだった……!
私の中から手加減の文字が消えていくのがわかる。ごめん、ヒカリ……そんなことできるほど、私は人間ができていないの。
不安そうなヒカリを見つめてニッコリと笑ってみせると、不安だった表情が安心するような笑みに変わる。
わかってる……ここで終わらせるからね。
私とヒカリは服を着たまま胸の下にベルトを巻き、お互いに対面して椅子に座る。私とヒカリの少し後ろには真ん中あたりで立っている小日向さん。そしてそれぞれの椅子の傍にはカメラにも映るようにモニターが置かれていた。
お互いに一回の持ち時間は30秒。二人ともが動揺して失敗したらもう一回延長して、片方だけが負けたときに勝敗が決まるらしい。私とヒカリの椅子の間には、テレビでよく見る自立するストップタイマーみたいなものもしっかりある。
ジャンケンの結果、今度はヒカリが先攻を取ることとなった。
「それでは参りましょ~! まずはヒカリちゃんのファーストアタック! はじめぇ!!」
「あっ! あの……怜奈ちゃんっ」
開始と同時に喋りかけるも、顔をほんのり赤くして言葉に詰まるヒカリ。冷静に考えたら、普通はこれ言うほうも相当恥ずかしいような……むしろ言うほうがよりきついのでは?
そんな思いでヒカリをジッと見つめていると、ヒカリは面白いぐらいに勝手に動揺していった。
「うっ、あっ、かっこいい……や、違くて……」
「ヒカリちゃん何も言えてへんで! ていうか心拍数ヒカリちゃんのほうがバリ上がってるけど!?」
自爆しているヒカリに小日向さんがツッコミを入れる。私も思わず声に出して『可愛い』って言うところだったけど、受け手側は言葉をしゃべってはいけないルールだったことを思い出して何とか事なきを得た。
制限時間が刻一刻と削られていくなか、ヒカリは何とか気合を入れなおすように膝に置いた手をグーにして(可愛い)、言葉を発した。
「れ、怜奈ちゃん! 大……だい、好きっ……!」
「…………」
このゲームもしかして最高なのでは?
ニヤつきそうになる顔を必死で抑えて、密かに思う。可愛いヒカリを存分に摂取できて、しかもあの恥ずかしがり屋のヒカリが自発的に私に愛の言葉を言わされる。そしてそれで顔を真っ赤にするヒカリもまた見られるという……まさにヒカリエネルギーの循環じゃないか。
一生この仕事だけ続けてたいな。そう思っていた私の耳に無慈悲な声が終わりを告げる。
「しゅ~りょ~!! 怜奈ちゃんはセーフ! というかヒカリちゃんがアウトになってるでこれ? 早くも怪しいけど大丈夫かいな!」
「う、うぅ~……こんなのテレビで言うの無理ですから」
羞恥プレイ……そういうのもあるのか。
いやいや、違う違う。今はそういうアレじゃないから、番組中だから。それに次は私の番だし、ちゃんと集中しないとね。
「ほいじゃあ今度は怜奈ちゃんの番! 準備はええですか、怜奈ちゃん!?」
「大丈夫です、いつでも行けます!」
「うっ……」
小日向さんの確認に手をあげて元気に言葉を返す。私のターンは私のターンで、可愛いヒカリが見られるはずだ。というか引き出す、私が。ゼッタイに。
ワクワクとその時を静かに待つ私を、しょんぼりとしたヒカリが上目遣いで見つめていた。
「それじゃあ怜奈ちゃんの番! はじめぇ!!」
合図を聞いた私は、ヒカリの目を真っすぐに見つめる。
私の大好きな、空のように澄み渡った水色の瞳。コロコロと表情がよく変わるのに、その目だけはいつでもキラキラと輝いて綺麗で、吸い寄せられそうになる。
「ヒカリ……好き」
「っ……!」
「おっといきなり急上昇してるぞ! ギリギリ耐えてるけど、ひじょーに危ない!!」
番組の企画だけど、愛おしさは嘘じゃなくて。
ヒカリを見ていると、心の底から無限に好きが溢れてくる。その好きをただ言葉にするだけなのだから、難しいことなんて何もなかった。
「あなたの表情がよく変わるのが好き。泣き虫で、ホラーとか感動モノを見てよく泣いたりもするけど……一番好きなのはやっぱり、陽だまりのような笑顔」
「~~~!!」
「うぉ……なんつう情熱的な……」
ヒカリの顔はすでに真っ赤だ。でも私はまだまだ伝えたいことも、言いたいこともたくさんある。
30秒なんかじゃとても……いや、番組の時間を全部使ったって語り切れないだろう。だからとにかく、しゃべりつづける。
「がんばりやなところが好き。私のことをちゃんと見てくれるのが好き。サラサラの髪の触り心地が好き。撫でると嬉しそうにはにかむのが好き。手を繋ぐと顔がちょっとだけ赤くなるのが好き」
「ぴゃぁあああぁ……!!」
「少しおっちょこちょいだけど、何でも一生懸命なところが好き。寂しがり屋で甘えん坊なところが好き。普段は大人しいけど私が――」
「ちょちょちょちょ! ストップ! ストーーッッップ!!!! ヒカリちゃんアウト! こんなんもうイチコロやって!! アウトォ!! 怜奈ちゃんの勝ちぃ!!!」
30秒が経ったかどうかはわからないが、どうやらヒカリの限界を超えてしまったらしい。慌てたような小日向さんの声で止められて、2番目の勝負はあっさりと私の勝ちになった。
モニターへ目を向けると、確かにヒカリの波形はひどいもので、大きく波打って動揺がわかりやすく形になっている。私の波形とは大違いだ。
何はともあれ、これで私の勝利は確定。ヒカリへのコスプレ権が私のものとなったということになる。
「私の勝ち! よーしぃ!」
「いや無邪気に喜んでるときは波形揺れるんかい。なんでさっきのセリフはつらつらつらつら何の動揺もせずに言えとんのキミ? ホンマにシラフなん?」
「え? だって思ってることそのまま言うだけなのに動揺とかするわけなくないですか?」
「ごっそさん! あーもうボクもう腹いっぱいですわ! 『Contrast』3番勝負は怜奈ちゃんの勝ちぃ!!」
「て、テレビの前でそんな……みんなに見られる……♡」
「おーいヒカリちゃん戻ってきぃ!! 罰ゲーム確定やでキミ! なんやねんこれ撮れ高の塊か!?」
右に左に身体を動かしてツッコミに忙しい小日向さん。汗をかきながら大声を張り上げて場を盛り上げる姿を見て、やっぱり芸人さんっていうのは大変そうだなぁと私は思うのだった。
「いやこれキミのせいやからね!?」
ちなみに、あまりに尺が短いということで消化試合ながら3番目に用意していたゲームもいちおう遊ぶことになった。
ゲーセンにあるような自分の足でステップを踏むダンスゲーム対決で、最高難易度のぶっつけ本番。当然のことながらダンスはヒカリよりずっと得意な私が勝つこととなり、結果は私の全勝となるのだった。
ガックリという効果音が聞こえるぐらいに落ち込んでいるヒカリは、かわいそうでとっても可愛かったことは言うまでもない。
怜奈ちゃんには勝てなかったよ……