〇月××日――。
あまりに予想外で端的に書きすぎた。日記なんだから何が起こったのか記しておかなければ。
俺と怜奈ちゃんはとある芸能事務所が開催していたアイドルオーディションに行った。高校生活にも慣れはじめた5月も中旬に差しかかるころだった。
その事務所は前世でも芸能界に様々なアイドルを輩出していた超大手の事務所で、一般人でも名前を知ってるレベルの由緒正しき会社である。
当然、応募人数も桁違いだ。俺も怜奈ちゃんも最初っから最高の結果なんて高望みはしていなかったもので、当たって砕けろ的な精神でオーディションを受けにいったのだ。
その3日後、俺の家に合格を告げる書類が送られてきた。
今後の打ち合わせや方針を兼ねて連絡をほしいという電話番号にすぐさま連絡をした。事務所のマネージャーを名乗る男性に俺が怜奈ちゃんは合格したかと聞くと、電話越しでもわかるぐらい困惑した声が返ってきた。
コミュ障の波動が俺を思いとどまらせようとしたが、これはもっとも重要なことなのだ。友人であることを伝えると、少しの間のあと、マネージャーさんは教えてくれた。
――今回合格したのは、俺一人であるということを。
は?
思わずそのまま口に出すところだった。
だって! ありえない! 大手のアイドル事務所ともあろうものが!! 怜奈ちゃんを差し置いて俺だけを合格させるなんて!!!!
確かに俺はパパとママの遺伝子のおかげか、今世のビジュアルは良いものだと思う。それは認めざるを得ないことだ。
だけど怜奈ちゃんだってめちゃくちゃ可愛いくてかっこいいし、ダンスや歌だって圧倒的に怜奈ちゃんのほうが俺より上手い! それにそれに、アイドルとして一番大事な『輝き』だって間違いなく持っている!!
それなのに怜奈ちゃんの圧倒的才能を見逃して、あろうことか俺を選ぶだなんて……。
正直、失望してしまった。
俺は怜奈ちゃんと一緒でなければアイドル活動をする気はないと告げ、合格を辞退した。
受けてから勝手に辞退なんてとんでもなく失礼な話ではある。それは俺もわかっているし、事前に説明していなかった俺が100%悪いのではあるが、ここだけは譲れない。俺の生まれ変わった存在意義なのだから。
マネージャーさんは動揺した様子で俺のことを説得しようとしていたのだが、俺の決意が固いとわかると諦めてくれた。想いに変わりはないが、相手側からしたら本当に良い迷惑だろう。俺も反省した気持ちで何度も謝罪した。
次からは、面接の段階でその旨をちゃんと伝えよう。
〇月××日――。
3回目のオーディションで、俺と怜奈ちゃんは合格することができた。最初の事務所ほどではないがかなり有名な事務所だ。
しかも、その事務所は俺たちを2人ユニットとして売り出していく方針らしい。面接でしっかり自分の想いを伝えたから、その影響もあるかもしれない。すごく嬉しい。
合格したことがわかったときは、二人一緒にはしゃぎまくった。特に怜奈ちゃんの喜びようはすごくて、子供の頃のような無邪気な笑顔を浮かべる怜奈ちゃんはとても可愛かった。まじもう尊い……ムリ……。
合格したこともそうだけど、俺と一緒受かったことが嬉しかったらしい。はぁあああぁあああああんもう可愛すぎぃいいぃいいいいいいいい!!!!!!!
あまりに可愛すぎて呼吸止まりそうになった。
我に返って、子供のようにはしゃいだことを恥ずかしがってた怜奈ちゃんはもう国宝級に最高だった。俺の網膜に焼き付けておいたのでいつでも思い出そう。
〇月××日――。
アイドル活動は順調だ。
いや、厳密に言うとまだアイドルとしてデビューはしていないのだが。
なんか社長が『とんでもない逸材だ!』とか言い出して、とんとん拍子でデビューの日付が決まってしまい、デビュー曲も即発注された。現在はデビューに向けて歌やダンスのレッスンをしている状況である。
ふふん、流石怜奈ちゃんの才能を見抜いた社長。とても見る目がある。
レッスンもすこぶる順調で、厳しい先生だがしっかり俺たちのことを褒めてもくれる。アメとムチのバランスが良いので辛くても練習を頑張れる。
子供の頃からアイドルになりたくて歌やダンスを習っていたと怜奈ちゃんが言うと、先生は納得といった感じだった。
デビューまであと少し、頑張ろう!
〇月××日――。
俺たちの通う高校は芸能活動に理解のある高校なので、学生ながらアイドル活動をすることに特に問題はない。もちろん、二人でそういう高校を調べて受験をした。
まだデビューはしていない俺たちだが、そこは有名事務所。推すと決めたら労力は惜しまないようで、すでに様々な媒体でデビュー前注目アイドルとして宣伝をされている。デビュー曲のMVも撮影を終えていて、クラスの中でも俺たちのことを知っている子もいるみたいだ。
そのせいなのかは知らないが、今日また怜奈ちゃんが告白をされていた。
フられた当の男子が、さして悔しそうな顔もせずに『やっぱダメか~』とヘラヘラしていたのが妙に鼻についた。
告白自体は別にいい。すっごい悲しいしすっごい悔しいけど、怜奈ちゃんが誰かと付き合うことを止める権利は俺にはない。だけど、そいつは真剣に『怜奈ちゃん』のことを好きなようには到底見えなかったから。『アイドルの卵』に今のうちに唾つけておこう……そんなトロフィーをゲットするような感覚で怜奈ちゃんに告白するのがとてつもなく腹立たしい。
怜奈ちゃんはお前のアクセサリーじゃねえんだよ!!
怜奈ちゃんがそんなしょうもない男に引っかかるわけはないのだが、ムカつくものはムカつくものだ。俺の目が黒いうちは絶対にそんなクソ男を近づけさせないからな!!
ちなみに俺の目は青である。比喩表現だからいいの!
そういえば、俺は告白をされたことがない。
前世ならともかく今世の俺の容姿は良いほうだと思っていたが、それを考えるとやっぱり怜奈ちゃんのほうが魅力的なのだろう。うんうん……やはり怜奈ちゃんは最高である。
〇月××日――。
今日はデビュー当日! ミニライブのお披露目会だった!
俺たちの持ち曲はデビュー曲しかないからほとんどは事務所の先輩方のカバー曲とかトークとかだったんだけど、注目されているのかマスコミの人たちも結構来ていてびっくりした。社長どんだけ本気なんだ……。
小さい頃から練習していたとはいえ、大勢の前でパフォーマンスをするのは初めてだったからめちゃくちゃ緊張した。心臓がうるさいぐらいにバクバクして、絶対に致命的なミスをすると確信するぐらいにガチガチだったんだけど……不思議と怜奈ちゃんの顔を見ると、気持ちが楽になった。
自分も緊張しているだろうにこちらを見て、安心させるようにウィンクをしてくれた。怜奈ちゃんは可憐な女の子なはずなのに、俺なんかよりずっと頼りがいがあって……胸の中の緊張がするすると解けていく感覚がして……。
気づけば、ライブは終わっていた。
自分が何をしたのかまるで覚えていないが、周りの空気からしてやばいミスはやらかしていないっぽくてほっと息をついた。これがいわゆるトランス状態というものなのだろうか。
汗びっしょりでやりきった笑顔の怜奈ちゃんを見て、やっと終わった実感が湧いてきて思わず泣いてしまった。怜奈ちゃんはそんな俺を見て苦笑して、それからぎゅっと抱きしめてくれた。
お互いに汗だくのはずなのに、なんだかとても良い気分だった。
家に帰ったらパパとママからめちゃくちゃ褒められた。当然のようにライブに来ていたらしい。恥ずかしいけどやっぱり嬉しいので、撫でられたり抱きしめられたりとされるがままだった。
……怜奈ちゃんも今頃ご両親に褒められているのだろうかと思った。
――そんなこんなでこの日、二人組ユニット『Contrast』はアイドルデビューを果たしたのだった。