〇月××日――。
今日はグラビア撮影の日だった。
どうでもいいけどグラビアって聞くとなんか水着写真のイメージがあるけど、普通に違うんだよな。前世のころ、なんか微妙に勘違いしてた。
もちろん今世の俺も、怜奈ちゃんも高校生なので普通のファッション誌用の撮影だ。今売り出し中で人気が出ている俺たちを起用して若者への訴求力を高めたいんだろうとかなんとか、マネージャーの塚原さんが言っていた。
そう、なんと俺たちデビューしてからまだ1か月だというのに、結構な人気なのである。
まあ事務所が全面的に俺たちをバックアップしてくれているってのが一番デカい。やっぱり大手ってのはそういうことができるから大手であり、宣伝力はバカにはならない。
……まあ、怜奈ちゃんのアイドルとしての才能ももちろんスゴイんだけどね!! 社長は本当に見る目があるな!!
ファッション誌の撮影ということで、当然色々な服を着て、色々なポーズで撮影をした。俺も女の子として生まれた今世ではアイドルを目指すと決めたのもあり、ある程度勉強していたつもりだったが……やっぱり最先端っていうのはすごいものだ。
ちょっとした組み合わせや差し色の使い方で、オシャレに見える。怜奈ちゃんはガーリーもストリートもモードも……どんな系統でも完璧に着こなしていて、本当に眼福だった。……仕事なのにご褒美をもらっていいのだろうか。
……ちなみに俺はフェミニンやガーリーの可愛い感じのスタイルがすごく多かった。あれ? 逆じゃね? 俺の男らしさ is どこ?
まあ、別に男として生きていたときも男『らしさ』なんてもんはそんなに持ち合わせてなかったけどさ。
女の子なのに、可愛いもカッコイイも自由自在な怜奈ちゃんがやっぱり最強すぎる。
……はぁ、一生分また好きになっちゃったかも。
二人で並んで撮影をする場面も結構あったんだけど、めちゃくちゃ緊張した。
だってあんな近くで怜奈ちゃんの隣に立つなんて!! いやそんなこと言ったら今世は幼馴染なんだからそんな機会いくらでもあるだろって言われるかもしれないんだけど!!
普段の日常生活でのそれと、みんなに見られている場所でのそれはまた違うんだよ!!
怜奈ちゃんも仕事モードでめっちゃ真剣な表情してるし、『ちょっと笑顔くださーい』って言われるとパーフェクトな笑顔を俺のすぐ横で見せてくるし。……浄化されて灰になりそうだった。
そんで! 緊張して上手く笑えない俺のほっぺたをひっぱる怜奈ちゃんが天使すぎた!!
『緊張しすぎ』って悪戯っぽく笑って俺の頬に両手を添える怜奈ちゃん。ドキドキしすぎて顔が真っ赤になっていたかもしれない。でもカメラマンさんがパシャパシャ撮りながら『今のいいですね!!』って言ってくれたし、うまいこと緊張のほぐれた表情をしてたのかもしれない。
やっぱ怜奈ちゃんは神。はっきりわかんだね。
〇月××日――。
今日は雑誌のインタビューを怜奈ちゃんと一緒に受けた。
『今をときめく人気アイドル、Contrastの二人に独占取材!! 超ロングインタビューで二人のパーソナリティを赤裸々に!?』という感じの企画らしい。まあ、売れるとよくあるやつだ。
マスコミというものに少し苦手意識もあったが、そこはそれ。アイドルを目指す以上は避けては通れないものでもある。幸いインタビュアーの人は感じのいい女性の人だったし、雰囲気良く取材は進んでいった。
取材の中で好きな異性のタイプについて聞かれたときは一瞬『うおっ』と思ったけど、そういえばうちの事務所は大丈夫だったんだなということを思い出して事なきを得た。
そう、実はうちの事務所……アイドルだからといって『恋愛禁止』はされていないのである。バレないようにしろよ、というわけでもなく表立って恋愛しようが別に構わないというのだから驚きだ。
アイドルというのは、どうしてもやっぱり疑似恋愛を売りにしている部分もある。それが良いか悪いかはともかくとして、好きなアイドルを恋人のような感覚で応援している人というのはいるし……口では彼女の幸せを願っているとは言っても実際に自分ではない彼氏がいると発覚すると憤慨してしまう。そういうファンは決して少なくはない。
俺としては推しのアイドルというのは元気をもらうものであって、自分が関わってどうこうという存在ではないので恋人がいようが関係はないが……それが大多数かというと難しいところなのである。
だから社長のその方針にはびっくりしたのだけど、曰く『恋愛という経験も人間としての魅力につながる』……らしい。『それもひっくるめて応援されるようなアイドルを育てるのが私の夢だ』とも言っていた。
大手の会社の社長とは思えない、信じられないほどの理想家だとは思った。……同時に、素晴らしい社長だとも。
歌やダンス、トーク……そしてその人の持つ、人柄。そういったものだけで応援されるアイドル。叶えるなら、それがやっぱり一番いい。そのためにする努力なら、惜しくないと思う。
それはそれとして……好きな異性のタイプ、という質問は普通に困った。
どうしても前世の意識が邪魔をするのか、15年女の子として生きた今でも、やはり男性を恋愛対象として見るのは難しいのだ。かといって、ずーっと女の子と混じって一緒に暮らしていると、女の子に興奮するということもなくなってしまった。
強いて言うなら俺が好きなのは……やっぱり、怜奈ちゃん。なんちゃって!!
おいコラ!! 恐れ多いだろうがボケ!!! 何が怜奈ちゃんだよわきまえろ!!!!
〇月××日――。
俺たちがデビューしてから1年経ち、忙しさも少しはマシになった。
いや、今でも前世に比べれば頭おかしいぐらい忙しいんだけど……学生だから色々事務所も配慮してくれて、何とか未だに倒れずこなしていけている感じだ。
マネージャーさんの運転する車の中で寝ることはしょっちゅうあるけどな!
なんで走っている車に座っているとあんなに眠くなるんだろう……。世の中の七不思議だ。
うちのお母さんとお父さんは今でも欠かさず俺が出ている番組を録画している。コレクションとしてもうかなりの量になっているのだが、やめてくれる気配は一向にない。
たまーに俺がいる前で普通に流し始めたりもするのは、本当にやめてほしい。『可愛い』って言われながら自分の両親と自分が出演した番組見るの、普通に地獄だろ。恥ずかしさで死ねる。
…………。
……そういえば、最近何か忘れているような気がする。
日々の生活に忙殺されてるからだろうか。何か大切なことがあったような気が……。
まあ、そのうち思い出せるだろう。
〇月××日――。
最近、怜奈ちゃんの様子が変だ。
今でも十分ハードなスケジュールなのに、レッスンをやめたがらない。利用できる限界ギリギリまでレッスンをしている姿は……なんだか何かを焦っているように見える。
俺もマネージャーさんも声をかけるのだが、本人は大丈夫だと声を返すばかりで……。
俺なんかよりよっぽど歌もダンスも上手いのに、どうしてしまったんだろう。
憑りつかれたかのように頑張る怜奈ちゃんが心配だ。
こんなとき、何もできない自分がもどかしい。
〇月××日――。
とうとう怜奈ちゃんが倒れてしまった。
顔色が悪い怜奈ちゃんにもうやめようと声をかけたのだが、それでもと怜奈ちゃんは練習を続けようとした。不安に思っていたら身体がフラついてバランスを崩したので、慌てて支えた。
座り込んでしまった怜奈ちゃんは幸いにも意識はあったけど、どう考えても緊急事態なのでスマホでマネージャーさんに連絡。10分も経たずに駆けつけてきたマネージャーさんの車で、病院に連れて行くことに。
診断の結果、怜奈ちゃんは過労だった。
それはそうだろう。ただでさえ学校とアイドル活動という二足のわらじを履いているのに、怜奈ちゃんはどちらも一生懸命。それに加えて自主練習までのめり込んだら、キャパシティを超えてしまう。
怒るお医者さんに謝る二人を見て、ふがいなさに拳を握りしめた。
『大人としての責任』という言葉でお医者さんは怒っていたが、それなら俺が一番の責任だ。
怜奈ちゃんはもとより、マネージャーさんよりも、前世も含めれば俺は年上なのに。
無理やりにでも怜奈ちゃんの無茶を止めさせなければいけなかったんだ。ほんとうに情けない。
軽い過労だから今回は大ごとにはならなかったけど、それはただの結果だ。次があってはならない……絶対に。
怜奈ちゃんには前世だけじゃない、今世でもたくさんのモノをもらった。怜奈ちゃんのことを守るのは、俺の役目だ。
〇月××日――。
怜奈ちゃんは1週間の休養となった。
病院にいたのは大事をとった最初の1日だけで、残りは仕事も何もキャンセルしてのんびりとする時間。
俺は怜奈ちゃんの家に毎日遊びにいった。怜奈ちゃんのお母さんが『ヒカリちゃんが来るとあの子も楽しそうだから』と言われたので、俺で良ければいくらでも助けになるつもりだ。
怜奈ちゃんは自分のせいでみんなに迷惑をかけてしまったと落ち込んでいたようだけど、そんなことは気にしなくていいんだよと必死に励ました。
だって、頑張りすぎてたゆえの失敗なんだ! 仮に少しぐらい空回ったとしても、罪悪感を覚えることなんて大人なら誰も望まないはずだ!
怜奈ちゃんはがんばりやで、人一倍がんばりすぎてた結果なんだから。
怜奈ちゃんは『ありがとう』と笑いながらも、どこかぼんやりと考え事をしているようだった。
……結局、なんで怜奈ちゃんはあんなに必死になっていたんだろう。それはまだ、聞けていない。
〇月××日――。
休養も終わり、明日からまた学校にも復帰する。怜奈ちゃんは『休みすぎて身体がなまっちゃった』と冗談めかして笑っていた。
一見完全に元気になったように見えるけど……俺にはわかる。怜奈ちゃんはまだ、何かを悩んでいるんだ。
伊達にずっと怜奈ちゃんだけを追い続けてきたわけじゃない。今の怜奈ちゃんが、何か無理をしているってことぐらい……わかるんだ。
踏み込むことが怖くて、踏み込みすぎて拒絶されることが怖くてこの間は失敗したけれど。今度はもう迷わない。
怜奈ちゃんが何かを悩んでいるのなら、力になりたい。一緒に悩んで、一緒に考えて、一緒に悲しみを背負いたい。仮に俺だけの力ではどうすることもできない悩みだったとしても、寄り添うことぐらいはできるから。
……明日、怜奈ちゃんに思い切って聞いてみよう。
くぅ~疲れましたwこれにて日記形式終わりです!
次回からは主人公の推しアイドル、星川怜奈ちゃんの視点。
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