TS転生者は推しのアイドルを救いたい   作:アキレスけん

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 ※怜奈視点

 ちょっと時が巻き戻ります。


05.私の、輝く幼馴染

「怜奈ちゃん……はぁ……今日も可愛い……」

 

 私の隣で、声が聞こえる。

 鈴の音が鳴るようなという表現が相応しい、綺麗で透明感のある声だ。

 

 私は声の主へと振り向いて、胡乱げにその少女を見た。

 

「えっ、なんで見るの……!? そ、そんな見つめないでって!!」

 

 日本人離れしたプラチナブロンドの長髪に、透き通るような空色の目。頭に『絶世の』と付けねばとても表現が追いつかない美少女がそこにはいた。

 新雪のごとき真っ白な肌は、漫画のように本当にほっぺたは赤くなるんだということを私にいつも教えてくれている。

 

「うっ……鋭い目付きの怜奈ちゃんもかっこいい……」

 

 

 

 私の幼馴染の『月島ヒカリ』は、今日も世界一可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ヒカリに初めて会ったのは、幼稚園の頃だった。

 

 そのときのことは今でもはっきりと覚えている。

 

 私ははじめ、お姫様が現れたのかと思った。そして次に、やっぱり妖精かもしれないと思い直した。みんなと同じような服を着てることを遅ればせながらに気づき、最終的にようやく彼女が同じ幼稚園の子供だということを理解した。

 太陽の光を浴びてキラキラと光り輝く金の髪。こぼれ落ちそうなくらいに大きな目。愛くるしくも彫刻かのような均整のとれた顔立ち。冗談抜きにこのときの私は彼女を絵本に出てくる特別な存在だと思ったのだ。

 

 小さな頃から可愛いものが大好きだった私は、『何としてでもお話しなくちゃ』と頭の中がいっぱいになった。今思うと大した度胸だと思うが、子供の頃特有の無謀さとは恐ろしいものである。

 

 妖精は誰かと追いかけっこをするでもなく、一人遊びをするでもなく、無言で外を眺めていた。チャンスだと思った私がドキドキしながら声をかけると、その大きな瞳が私を捉える。

 

「あなた、なんていうおなまえなの? れいなはね、れいなっていうのよ」

 

「……ヒカリ」

 

「ひかり?」

 

 言葉を返してくれたことが嬉しくて、困惑している彼女に私は笑顔を浮かべて言った。

 

「ひかり! いっしょにあそびましょ!」

 

 ヒカリは差し出した私の手をおっかなびっくり握り返して、控えめに微笑んだ。

 

 そうして、私たちは友達になったのだ。

 

 

 

 

 

 キラキラした見た目とは裏腹に、ヒカリはとても大人しい子だった。

 引っ込み思案で自分が気を許した相手以外とはあまり話したがらない。私の背中に引っついて様子を窺い、私ごしに誰かと話す。そんなヒカリの姿に私は鬱陶しいと思うことはなく……多大なる庇護欲と、ちょっとした優越感を感じていた。

 誰もが目を奪われるプリンセスが、自分にだけ懐いてちょこちょこと後ろをついてくるのだ。雛鳥のようなヒカリに私は同い年だというのにお姉ちゃん風をビュービューに吹かせていた。

 一人っ子で下の子が欲しいと思っていたのもあったのかもしれない。幼い私にとってヒカリは宇宙一可愛い妹のような存在だった。

 

 私は幼いながらに決意を固めた。ヒカリに釣り合うような自分にならなければ、と。

 

 この天使のごとき美貌の存在の親友でい続けるには、自分も追いつかなければいけないのだ。幼稚園児の自分がそこまで明確に言語化した思いがあったわけではないが、漠然とそういう思いを感じたのは事実である。

 

 

 二人で同じ小学校に入学してしばらく経った頃。テレビでアイドルの女の人を見て私は思った。

 

 『これだ!!!』……と。

 

 テレビの中のそのアイドルは歌が上手くて、ダンスも上手で……なにより、笑顔がとてもステキだった。キラキラしていたのだ……初めて会ったときのヒカリみたいに。

 こんな存在になれれば、ヒカリに恥じない自分でいられる。ヒカリの隣に胸を張って立つことができる。

 

 天啓のようなひらめきに突き動かされ、私はアイドルを目指すことにした。

 

 一つ誤算があるとすれば、私がアイドルを目指すという話を聞いたヒカリが自分もアイドルを目指すと言い出したことだ。

 私にベッタリな当時のヒカリがそう思うのも無理はない。それにヒカリは宇宙一可愛いのだから、アイドルになるのも自然の摂理とも言えるだろう。いや、そもそもすでにアイドルのようなものか。

 

 とにかく、私はアイドルを目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、その『俺』ってなに?」

 

「へっ!? れ、れれれ怜奈ちゃん!?」

 

 いつのことだっただろうか。

 私がいつもどおりヒカリの家に遊びにいくと、自分の部屋で独り言をしゃべっているヒカリの姿を見つけて……驚かせてみようかと軽い気持ちで息をひそめていると、ヒカリが自分のことを『俺』と口にしていた。

 

「自分のこと、本当は俺って言ってんの? 私の前では隠してたの?」

 

「あっ、えと、違くて……そのっ……」

 

 別に怒っているつもりはなかったのだが、衝撃に思わず問い詰めるような口調になってしまう私。ヒカリはまったくの予想外だったのか、白い頬を真っ赤に染めてしばらく挙動不審に何かを言い繕おうとして――。

 

「ごっ、ごめんなさいっ……気持ち悪いよね……? 嫌わないで……怜奈ちゃん……」

 

 泣いた。

 

 

 その時の私の感情といえば筆舌に尽くしがたい。

 親友を泣かせてしまったという罪悪感。泣き顔ですらこんなに可愛いヒカリという存在の奇跡への驚愕。時たま、男の子のような部分があるなと漠然と思っていたことへの納得。ヒカリに何か言葉をかけてあげなければという焦燥感。

 

 そして、そのすべてを濁流のように飲み込まんとする……高揚。

 

 ヒカリが……いつもほにゃほにゃとした笑みを見せてくれるヒカリが泣いている。

 私に嫌われることを恐れて、泣いて、いる。

 恥も外聞もなく顔をボロボロにして、許しを乞うている。

 

「ごめんなさいっ……もう、言わないから……」

 

 その、縋るような目に。

 

「ごめんなさい……」

 

 か細い、懇願するような声音に。

 

「うっ……うぅ~っ……」

 

 

 興奮していた。

 

 

「ごめん……びっくりしただけ」

 

「……え?」

 

「別に怒ってないから。気持ち悪いとも思ってない」

 

 これは果たして優越感なんだろうか。それとも――。

 

「ほ、ほんとに?」

 

「ほんとだって。別にいーじゃん……なんかヒカリってそういえば男の子っぽいところあるなーって思ってたし」

 

「えぇっ!? う、ウソだぁ!?」

 

「気づいてなかったの? おもちゃだって、男の子が好きそうなもの大好きでしょ?」

 

「ぅ……」

 

 私は気づかないふりをして、笑う。

 

「私の前でまで隠さなくてもいーよ。二人っきりのときならいーんじゃない?」

 

「……あ」

 

 可愛い可愛い、幼馴染の秘密。

 他の奴らになんて教えてあげない。教えるもんか。

 

「あ、ありがとうっ! 大好き! 怜奈ちゃん!!」

 

 私にだけ見せる笑顔は……私だけが知っていればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中学生になったヒカリは、ますますその美貌を輝かせていた。

 小学校の頃は色恋という概念に目覚めていなかった男子たちも、中学生にもなればそっちのほうにも興味は移る。少し大人びたヒカリは彼らにとって理想の女の子だっただろう。

 異国の血が混ざった日本人離れした容姿も、儚げに見える雰囲気も、人見知りであまり口数が多くない大人しさも。思春期に突入した男どもには劇薬だったはずだ。

 

 ……まあ、本当のヒカリは俺っ娘で、ゲームでやられると情けない声を上げ、好物のからあげに無邪気な笑顔を浮かべる感情豊かな女の子なのだが。私以外は知る由もない。

 

 私の後ろにばかりついていたヒカリは少しだけ独り立ちして、知らない人ともおっかなびっくりコミュニケーションを取ろうとがんばっていた……アイドルになるために。

 

 ……一生そのままでもいいのに。

 

「……どしたの? 怜奈ちゃん」

 

「……っ」

 

 何を考えているんだ、わたしは。親友の成長を素直に喜べないなんてどうかしている。ヒカリはこんなにもがんばっているのに。

 

「うぅん……なんでもない」

 

 心配そうに見つめる青の瞳は、吸い込まれるようにキレイだった。私のことは大好き大好きと言うくせに、自分のことはまったくもって頓着しない幼馴染。

 

 きっと、男子に高嶺の花だって思われていることすら知らないんだろう。私が告白されているのに拗ねて不機嫌になっているヒカリは、その裏で倍以上の男子が牽制し合い、あまりの釣り合わなさに結局尻込みしていることも知らない。

 本当のヒカリも知らないくせに、ただ不純な気持ちだけでヒカリに近づこうとする男なんて私は認めない。

 ヒカリに大好きって言われる権利は、そう簡単に渡さない。

 

 

 

 

 

「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエーイッ……はい、ターン!」

 

 

 私たちはいま、まだアイドル活動はしていない。義務教育中は準備期間にしようと、ヒカリと話し合って決めたことだ。

 その代わりといってはなんだけど、ダンスとボイトレの教室に通っている。私の両親もヒカリのご両親もだいぶ親バカが入っていると思う。

 ……まあ、ヒカリみたいな子供がいたら親バカになるのも仕方がないとは思うが。

 

「いいわね、星川さん。とても良く動けています……指先まで意識もできている」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 汗をタオルで拭っている私に、先生は微笑んだ。私はどうやらそこそこには才能があるらしく、ダンスでも歌の練習でも先生方にはよく褒められている。それは素直に嬉しい。

 

「月島さんは、そうね……。とりあえず、振りを完璧に身体で覚えましょうか。頭で考えちゃっているうちはどうしてもそちらに意識が向いてしまうから」

 

「は、はい……すみません……」

 

「大丈夫、一生懸命やっているのはよく伝わってくるわ。そこに技術がついてくればきっととっても素敵なダンスになりますよ」

 

 反対にヒカリはあまり得意ではないようで、悪戦苦闘しながらも毎回必死にがんばっている。ただ、がむしゃらに練習をする姿はウケがいいようで先生方がヒカリを見る目はいつも温かい。

 まぁ、それはそうだろう。銀河一可愛いヒカリが拙いながらも真剣に自分の技術を覚えようとレッスンに取り組んでいるのだ。出来の悪い子ほど可愛いという言葉もあるし、元から可愛いヒカリがそうなら先生にとってはひとしおの愛しさであることは想像に難くない。

 

 それに、私たちが目指しているのはプロのダンサーでも歌手でもない。アイドルだ。

 ダンスや歌が上手であるにこしたことはないが、それが全てではない。どんな熟練のダンスも、伸びやかな歌声もそれを凌駕する輝きには叶わない……私はそれがアイドルだと信じている。

 

 つまるところ、ヒカリがダンスや歌が苦手だろうとアイドルになることには何ら支障がないということだ。だからといって練習をしなくていいわけではないが。

 

 ……私がヒカリに釣り合うには、せめて得意なダンスや歌でぐらい圧倒的に上手くならなければ。

 そうじゃないと、私はヒカリの親友ではいられないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレザーの怜奈ちゃんもすごく可愛い……」

 

「はいはい、ありがとう。ヒカリも可愛いけど?」

 

「ぇうっ!? そ、そんな……ぁ、いや……」

 

「ほら、ショートしてないでさっさと行く! 遅刻するわよ」

 

 今日は高校の入学式だ。

 私たちはアイドル活動を認められている高校に揃って進学した。私もヒカリも歌、ダンス、可愛さに十分磨きをかけてきたつもりだ。高校生からは本格的に事務所所属を目指して動き始める……夢に向かっての第一歩に、胸が高鳴る。

 

「これからもよろしくね、怜奈ちゃん」

 

「毎年毎年よく飽きないわねぇ……それ」

 

 幸せそうに微笑むヒカリに、私も笑みを返す。

 

 ……いつまでだってよろしくされてあげるけど?

 

 

 あなたの隣に立つのは、ずっと私なんだから。




 ぽにょ、のうやきすきー!
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