▽おや?怜奈ちゃんの様子が…
「目ぇデカッ……顔ちっちゃ……」
「ほんとに同じ人間か……? まじで可愛いな月島さん」
……中学のときもそうだったけど、そんな露骨な態度で気づいていないとでも思っているのだろうか。
バレバレの内緒話をしている男子を見て、私は何度目かもわからないため息をつく。
高校生になったヒカリは、さらに人目を集めていた。
当然だ。だってヒカリは史上一可愛いのだから。
プラチナブロンドのロングヘアに真っ白な肌、ブルーの瞳。日本人っていうのはハーフに憧れがある生き物だと思うけど……それが美少女ならば言わずもがな。
余白の少ない小さなお顔に、クリクリのお目目。まるで精巧なお人形さんのようで……そのくせ、胸だけは大きい。思春期ぐらいから大きくなり始めたそれは、高校生になってひときわ目を引くサイズまで成長しているようだった。
そんなの……男にとってみたらそれはたまらないだろう。可愛くておっぱいがデカい女の子なんて妄想の具現化、好きにならないはずがない。女の子だって、うらやましくて仕方がない。
「怜奈ちゃん! 一緒に帰ろ?」
「……えぇ」
ヒカリは高校生になった今でも私にベッタリで、弾けるような笑顔を見せてくれる。
……だというのに、私の心には焦りが生まれていた。理由は自分でもはっきりわかっている。
『月島さんって、いっつも星川さんと一緒にいるよな』
『あー……俺中学同じだったけど、昔からそうだったよ。何でもちっちゃい頃から一緒なんだと』
『まじ? 幼馴染ってやつか……』
『そうそう』
『うらやまし~! あんな美少女と幼馴染とかラブコメ主人公じゃん!! 俺もなりて~!』
『鏡見てから言えや。てか星川さんだってめっちゃ可愛いだろ』
『いやまあそれはそうなんだけどさぁ。まだ常識的な範疇っていうか……』
『探せば他の学校にも一人はいそうっていうか……
偶然聞いてしまった、クラスの男子たちの会話。
彼らにはきっと悪気なんて一かけらもないんだろう。そんなことは私にだってわかっている。でも……だからこそ、その言葉は私の胸に深く突き刺さった。
『ヒカリと私は違う』。
薄々はわかっていた。ヒカリは見る人全てを虜にしてしまうほどの美しさを持っていて……まるで物語から飛び出してきたかのような現実離れした存在感の持ち主で。
私はそんなお姫様の隣に、偶然立っているだけのモブ。たまたま小さい頃に出会うことができて、友達になれた運の良い一般人。そんなことはきっと……最初からわかっていた。
自分が恵まれていることはわかっている。私だって容姿は整っていると思うし、世間一般で言う美少女のレベルには達していることぐらい自覚している。そういう自信がなければ、アイドルなんて目指すのは失礼だ。
だけど……足りない。ヒカリの隣に立つには……まだ、全然。
小さな頃は、まだ夢を見ていられた。
成長して大人になるころには私だって頑張って、頑張って、がんばって。ヒカリと同じぐらい綺麗になって、胸を張ってあなたの隣に立つんだって。
だけど現実は残酷で……時が経つほどに差は開いていく。わからされる。
『次元が違う』んだって。
「いよいよ来週だね! オーディション!!」
「そうね。だからって今から気合入れてたらもたないわよ?」
「うぐっ……そ、そだね」
……ねぇ、ヒカリ。
「……ったく。ヒカリはおっちょこちょいなんだから、空回って当日に体調崩さないでよ?」
「わかってるよ! 俺だって成長してるんだって!」
私まだ……あなたの隣にいてもいいのかな?
「き、緊張してきた……」
「私も……うわ、振り飛んだらどうしよう」
「縁起でもないこと言わないでよ怜奈ちゃん! う、大丈夫かな……」
「ヒカリ、面接中に『俺』とか言わない?」
「言わないって! もうそういうの無し!!」
一週間後、とあるビルの一室で私とヒカリは待っていた。
……今日は人生初めてのアイドルオーディション。このために子供のころから二人で準備はしてきたけれど、緊張はどうしようもなく拭えない。だって、この事務所は一般人でも名前を知っているレベルの、芸能界でも大手の事務所。受かればアイドル人生安泰とまでは思わないけれど、最高のスタートダッシュであることは間違いないんだから。
不安を紛らすために二人で他愛もないことをしゃべっても、全てを消し去ることなんてできない。
二人ともが合格する。これは何も言うことがない……最高の結果だ。
二人ともが不合格になる。悔しいことに違いはないけれど、諦めはつく。だってこんな有名な事務所なんだ。人生初のオーディションですんなり合格できるとは思っていない。
……でも、もしどちらか一方だけが合格してしまったら?
怖い。私だけが受かったとしても、ヒカリだけが受かったとしても……私たちの道は分岐する。同じアイドルは目指せるにしても、離れてしまう。
そう思って、気づく。
……そうか。私って、ヒカリが一緒じゃない人生なんて今まで経験したことがなかったんだ。
そんなとき、ドアが開いた。
「お待たせしました。ただいまよりオーディションを開始させていただきます。受付でもらった番号を呼ばれた方から順番にお呼びしますので、それ以外の方はそのままお待ちください」
妙齢の女の人が説明を始めると、この部屋にいるみんなが真剣な顔つきに変わっていく。
そうだ、余計なことなんて考えている場合じゃない。私は私の全力を尽くさなきゃ。
説明が終わり、最初の番号の人が一緒に部屋を出ていく。
私とヒカリはどちらともなく顔を見合わせると、頷きあう。……絶対、受かろうね。ヒカリの目がそう告げているように煌いた。
「9番の方、お待たせしました。別室までお越しください」
――私は番号札を握りしめ、立ち上がった。
「結局、ダメだったね」
「……俺も」
結果としては、私たちはどちらも不合格だった。家にその書類が届いたときは絶望感と不安でいっぱいだったけど、あとからヒカリも同じだったということを知って私は安心している。
……なんて最低なんだろう、親友が落ちてほっとするなんて。でも、まだ一緒にいられる。
「でも、俺はともかく怜奈ちゃんを落とすなんて見る目ないな~あの事務所」
「なーに言ってんの。超大手なんだから求める基準も相当高いんでしょ」
じゃなきゃ、ヒカリが落とされるわけはない。ヒカリは私よりも歌やダンスの技術は拙いし、試験中に緊張してミスをしたと言っていた。きっとあの事務所は、ビジュアルだけではなく歌やダンスの基準も相当に高いのだろう。
「でも……」
「落ちちゃったもんは仕方ないでしょ? ここしか芸能事務所がないわけじゃあるまいし、また挑戦するだけ」
「……う、うん! そうだね!」
私の言葉に、やっとヒカリに笑顔が戻る。
ずいぶん落ち込んでいたように見えたけど、少しは元気が出たみたいだ。やっぱりヒカリは笑っていたほうがずっと良い。……しょげた顔も可愛いけど。
「……ウソ」
それから、もう1回別の事務所のオーディションに落ちて。
また次に受けた事務所のオーディションで、私は合格した。家に合格書類がきた私は、何かまだどこか信じられないような浮ついた気持ちで。呆然とつぶやきながら、何度も何度も文章を読み返す。
「……ほんとに、合格、してる」
何度見ても、その文面は変わらなかった。
「…………あはは」
じわじわと喜びが湧き上がってきて、小さな笑いがこぼれる。
手の震えは、いつの間にか止まっていた。
テーブルに置いてあるスマホを取り出して、真っ先に親友へ電話をかける。心臓の鼓動がうるさくて、早く早くと無意味に私を急かす。
10秒ほどで着信音は途切れ、お望みの相手の声が聞こえた。
「もしもし、怜奈ちゃん?」
「ヒカリ!! ……あっ」
大急ぎで合格の報告をしようとして、気づく。
私は合格していたけど、もしもヒカリが落ちていたらどうしよう。私が受かってヒカリだけが落ちているなんてこと、ありえない……とは思うけれど、合格を決めるのは私ではない。判断基準がどこにあるかなんて、その事務所にしかわからないんだから。
沸騰していた気持ちが、スーッと冷えていくのを感じながら私は慌てて声色を取り繕う。
「えっと……オーディションの書類、届いた?」
恐る恐る確かめると、スマホを通して元気な声が響いた。
「あ、うん! 合格してた!!」
「……ッ!!」
思わず、叫びだしそうになった。
……良かった、ヒカリも合格していたんだ。これで、何の心配もいらない。
「わ、私もッ! ……私も、合格してたの」
溢れだしそうな激情を何とか堪えて、言葉を絞り出す。口に出して言葉にすると、何だかようやく実感が湧いてきたような気もした。
「やった!!! おめでとう!!!!!!」
「う、うるさっ……! 声デカすぎ!」
「だって、だって嬉しいんだよ!! 良かった~!! これで一緒にアイドルできるね!!!!」
「……!! うん……!!!」
音割れするようなヒカリの大声に鼓膜が破壊されそうになっても。
大騒ぎをして駆け付けた母さんに怪訝な声で声をかけられても。
今はただ、喜びだけが勝っていた。
これでまた、ヒカリと一緒にいられるんだ。
◆
「君たちをね、デュオユニットとして売り出していきたいと思っているんだよ」
「え、えぇええっ!?」
「ほ、ほんとですか……!?」
社長室に呼び出された私たちに、社長はニコニコと人好きのする笑顔で言った。
かなり大手の芸能事務所の社長だというのに、社長は堅苦しい雰囲気も威圧的な雰囲気もなく……そう、どこか親戚のおじさんのような気さくな人柄だった。
「うむ! 君たちを初めて見たときからティンと来てね! これは最高のアイドルユニットになると思ったんだよ!」
「あぁいや! もちろん一番大事なのは君たちの意見だ! ソロでアイドルをすることが夢だというのなら無理強いはしない!」
真っ黒に焼けた顔で少年のような笑みを浮かべる、ちょっと変な社長。
でも、それは私にとっては願ってもないことだった。
「私は、ヒカリと一緒にアイドルやりたいです。やらせてください!」
「あ、わ、私も!怜奈ちゃんと一緒がいいです!!」
「そうかね? ……うむ!それならば決定だ! 君たちのユニット名は、Contrast!」
私とヒカリの返事を聞くと、社長はまるで決まっていたかのようにユニット名を告げる。
……いや、事実社長の中では決まっていたんだろう。喜色満面で一人納得してる姿は、きっと言いたくて仕方がなかったんだろうなと思わせるに十分だった。
「夜を溶かしたかのような艶やかな黒髪の怜奈くん! 対して月の光のように柔らかくも美しい金髪のヒカリくん! 実に対照的で、絵になる二人だ! うむ! 私のネーミングセンスもまだ捨てたものじゃないな!!」
「そ、そですね……」
よくそんなポエムみたいな言葉を堂々と言えるなぁ……。
少し引きながら困った笑いを浮かべているヒカリを横目に、そんなことをボンヤリと思った。
ともかく、ここからが本番だ。アイドルになるのはスタートであって、ゴールなんかでは全然ない。あの日テレビで見たアイドルのような輝きを――。
ヒカリと並んで立つのにふさわしいような存在になるんだから。
私は人知れず、両手を握りしめた。
某〇〇〇プロとはいっさい関係はありません!!!!
次から毎日更新じゃなくてちょっとだけ間が空くかもです。ただ週1とかまではいかないと思います。(2~3日間隔ぐらい)