久しぶりにあった女子の同級生と立ち話   作:すりーみにっつ

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駅のホームでよもやま話

 

【挿絵表示】

 

 

「はよ来んかい。」

 

母に促されて一万田誠二は駅改札の前にしぶしぶ足を運んだ。

一万田誠二は警視庁に合格して本日、東京に向かう。

それを両親、祖父母、そして親戚はおおいに喜んだ。

 

・・・が、誠二からすれば、それは非常に有難迷惑でもあった。

 

商店を営む両親と地主の祖父母、そして叔父に大叔父。

叔父の友人、近所の誠二の友人の両親等々

誠二の住む地方都市の駅の改札前に10人からの人間がどやどやと集まっている。

誠二の肩身をもっとも狭くしたのは友人の両親が用意してくれた

「祝・警視庁入庁 一万田誠二君」と書かれた幟(のぼり)だ。

 

カチカチカチ

暇そうにしている改札の駅員が改札鋏を手遊びで鳴らしている音がする。

チラチラとこちらをみていた。そりゃあ見るだろう。

 

「えー、一万田誠二君は本日から警視庁、ええ、全国警察で一番偉い、あの警視庁に向かうわけであります。」

と、司会を始めたのは小学校の友人である玉田哲の父ちゃんであった。

もちろん警視庁は全国で一番偉い警察ではない。

 

「一万田君、東京に行っても元気でな。」

そう声をかけてくれたのは父の友人で自衛官の小室さんだ。

小室さんは自衛隊の募集係をやっており、高校三年の時に自衛隊を勧めてくれたのだが、紆余曲折を経て誠二は警視庁に入ることになった。

だが小室さんはちっとも恨むことなく、こうして快く送り出してくれる。

 

「誠二、東京に行ってもアカになるなよ!くれぐれも!」

と、謎の忠告をしてくれるのは大叔父の正平さんだ。

通称「うえのオイさん」

 

誠二の生まれ育った街はなだらかな坂にあり、大叔父正平の家は誠二の実家から坂を上って約百mほどのところにあった。

終戦時には海軍航空隊に二十歳で勤務していたらしい。そして反共の闘士でもある。

 

「誠二、ソ連は絶対に攻めてくるけんの!満州で露助に殺された兄貴夫婦の敵は絶対に取ってくれ。」

と、すでに滅びたソ連を目の敵にしているのは祖父の信介である。

祖父の信介は戦時中は大陸で八路軍と戦い、戦後一年ほど中国に抑留されてから帰国している。

中国に対しては特になにも言わないが、ソ連だけは大嫌いであった。

なお、仮にソ連が復活して攻めてきても戦うのは多分自衛隊で警察ではなかろうと誠二は思った。

 

「セイちゃん、東京の水道水は錆びが混じるとか言うけん、ちゃんと濾して飲むんよ。」

と、多分そんなことはないだろう心配をしてくれるのは母だ。

それに錆び水なんか濾したところで飲みたくはない。

 

「誠二、東京タワー登ったら写真撮って送ってきてくれ。」

と、簡易使い捨てカメラを渡してきたのは父だ。

 

「小室君、ソ連の空挺軍が東京に降りてきたら誠二も自衛隊と一緒に戦うけんの!のう、誠二」

祖父がはっぱをかけてくる。

「戦うけんの!」・・・と、言われても。誠二は口をとんがらせて明後日の方を向く。

 

小室さんが祖父のに穏やかに回答する。

「後藤さん、ソ連はもうないけんですね。あと自衛隊は戦闘機をいっぱいもっちょりますけん、ソ連・・・ロシアが空から攻めてきても東京には近寄れんのですよ。」

「ほうか、そら安心じゃ。誠二、でも油断はゆめゆめならんぞ。」

 

「え~ここいらで、一万田誠二君を万歳三唱して送り出したいと思います。」

 と、収拾のつかない雰囲気をバッサリ切ってくれたのは玉田哲の父ちゃんである。

 

玉田哲の父ちゃんは祝辞を述べ、音頭を取って万歳三唱をしてくれた。

もっとも、そもそもこの仰々しい出征会自体が余計なお世話ではあったのだが、この万歳三唱で終わるのかと思うと誠二はホッとするのだった。

 

カチカチカチ

改札鋏をニヤニヤしながら鳴らす駅員と目が合う。

 

小室さんがそっと近寄ってきて封筒を渡してくれた。

「誠二君、少々やけど祝い金が入っちょん。もらっちょきよ。」

「そんな、悪いですよ。」

「いいんや。知らん土地はなにかっちゃ金がかかるもんなんや。

あとね、警察は就職するとその土地を離れられんけんね。もしこっちに戻って仕事をしたくなったらいつでも自衛隊に来よ。うちんとこの連隊ならいつでん、入れるけんな。」

小室さんはあくまで任務に忠実だった。

 

誠二が小室さんに礼をいいつつ改札をとおると再度万歳の歓呼が背中に聞こえてきた。

 

「ふう・・・ひでえ目にあった。」

そうひとりごちながらホームに上がりベンチを探す。

 

三人掛けのベンチには若い女性が座っていたので誠二は他を探す。他のベンチはずっと向こうだったのでホームの柱に背をあずけたのだが、ベンチの女性が誠二を見るや隣の椅子をべしべしと叩いて「ここ、ここ」と合図をする。

よくよく見るとその女性は・・・

 

「いちまんちゃん、ここあいちょんよ。」

「首藤さん!?なしこげんとこにおるんか。」

「昨日言ったやんか。暇やけん見送るっち。」

 

誠二は昨日の夕方、首藤さんとばったり出会ってそういう話をしたことを思い出した。

昨日会ったときはどてらを着て化粧もしてない顔だったのだが、今日は髪の毛をカジュアルにまとめ、そこそこ化粧もして外行きの格好だ。

 

まさか本当に見送りに来るとは思わなかったのと、出征の祝い会のインパクトが強すぎてすっかり忘れていたのだ。

半ば強引に隣に座らされる。

 

「あのどんちゃん騒ぎ終わったん?」

「お前、見ちょったんか!」

「そら、あげなおもしれえもん、みらんわけねえやん。」

「ああ~~~」

 誠二はもんどりうちたかった。

 

「アンタ、日本で一番偉い警察に入ってソ連軍と戦うんやろ?がんばらんと。」

「ああ~~」

誠二は天を仰いだ。

首藤さんは最高の笑顔でニヤニヤしていた。

 

「ばんざーい」

「やめちくれんか」

 誠二は顔を真っ赤にしてぶんぶん横に振った。

 

「アンタ、小倉で乗り換えて東京に行くんやろ?あたしは小倉乗換で博多に行くけん、小倉まで一緒で。」

「へ?」

「アンタ、指定席?」

「ああ。」

「どうせ空いちょんけん自由席で一緒に乗るで。」

首藤さんは有無を言わせない。

 

「首藤さんは、なし博多行くんやったっけ。大学?」

「あたしは福岡の下宿の下見やけん。」

誠二はやれやれという表情をする。

「なん、不服?」

「うんにゃ、なんも不服やねえよ。」

「あんた警察官になるんやけん、護衛と思えばいいやん。」

まあ、ソ連軍と戦うよりは警察っぽいな。一万田誠二は無理やり自分を納得させた。

 

しばらくして小倉行の特急がホームに来た。ガラガラだ。

「行くで。」

首藤さんは一万田の手を取ってベンチから立ち上がる。

誠二もなんだか慣れてきた。

 

小倉で別れたらそれっきり会わないかもしれないんだよなあ。

なんてことを考えながら誠二は首藤さんのあとを追って電車に乗った。

 

ほどなく特急は二人を乗せて発車した。

三月もそろそろ終わろうとしていた。その日はちょこっとだけ肌寒かった。




一応書いておきますが、平成ひとケタの昔の地方都市と言っても、なんぼなんでも警視庁に行くからと言って出征祝いみたいなことはまずないです。
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