「首藤・・・さん?」
一万田はゴールデンウィーク最終日に、これっきり会うこともないだろうなと思っていた首藤さんにでくわした。なぜか上機嫌だ。
「アンタなにしよるん。」
「こないだはごめんな。」
「なしアンタが謝るん。平手打(はつった)んは私やろ。」
首藤さんは一万田を平手打(はつった)のを少し気にしているようだった。
で、一万田は何をしているかと言うと昼からまたビールを飲んでいた。
昼下がりの誰もいない公園。子供達が遊びに来たら退散しようと思っていたのだが、誰も来ないので退き時を得られずダラダラとベンチに座っているのだ。
「いや、平手打(はつられ)るくらいは別にいいんや。警察しよったときは先輩とか犯罪者によう殴られよったけん。」
「私は乱暴な先輩とか犯罪者と同列なん。」
「そげんこた言ってねえ。」
悪解釈で意地悪なことを言ってはいるが首藤さんは終始笑顔なので、まあ冗談だろう。
いっぽう一万田も首藤さんの上機嫌にあてられ、ほろ酔いなのもあり気分は上々だ。
「ところで俺はこうして昼からビールを嗜みよるんやけど、首藤さんは何を嗜みよるん?」
「また映画でも嗜もうちおもうて、こうして歩くのを嗜みよる。」
この公園は駅までの近道で通るところだ。ハトの糞が凄いので小学生のときはハトフン公園と呼んでいた。今はそれほどでもないものの、一万田も少しばかりだが鳩に警戒しながらビールを飲んでいた。
「映画好きやな。なん観るん?トンネル脱出んやつ?」
「オッパイポロリのやつ。」
「あげなん観るんか。」
「アンタが観たがっちょったやつやろ。」
一万田はビールをぐいとあおり、飲み干してから「そげんこたねえ。」と返す。
「アンタはビール、私はオッパイポロリ映画。」
「女んシがオッパイポロリとか連呼すんな。」
「なんか、あんた東京におったわりには古ぃやんか。今はジェンダーフリーの世の中なんよ。」
「なんかそら、はしたねえ。」
あいにく一万田は東京に居た間、そういうインテリめいたことを言う人に会ったことがない。
「アンタと私のやりたいことの間を取って戦争映画やな。」
「え?」
「足して二で割ったらちょうど戦争映画やろ。」
「え?」
「どうせやることないんやろ。」
「ここでビール飲みよきてえ。」
「なんか、はしたねえ。アンタいい歳した大の男がこげんとこで昼からビールとか情けねえで!」
突然首藤さんが怒りだした。
「わかったちゃ、わかったちゃ。どうせ暇やし行くわ。」
首藤さんがにんまりする。怒ったり笑ったり忙しいやつだ、と一万田は思う。
「ついでにつきあわん?俺達」
「え?」
「首藤さんは映画に行きたい。俺はビールを飲みたい。」
「え?」
「間を取ってつきあわん?っち。」
一万田は首藤さんの真似をして冗談っぽく言った。
間を置いて首藤さん「アンタ、また平手打(はつら)るんで。」
と、言ったものの、間をおいて
「ええで。」と返す。
天を見上げ、手で目を隠し、あ~あという顔をして
「酔っ払いに告られちもうた。」
一万田は我ながら何を言うのかとも驚いた。
先日職場の先輩に「その首藤さんちゅうの、お前に気があるやろ。百%そうやろ。どう考えてんそうやろ。平手打(はつら)れたんは、お前がつまらんこと言うたけんじゃ。」と10分くらいこんこんとたしなめられたのが大きく影響をしている。
すっかり酔いもさめた一万田、すっくとベンチから立って「行くぞ。」
さめた一万田、顔真っ赤の首藤さん。
顔真っ赤の首藤さんをみて一万田も顔が真っ赤になる。
「ジェンダーフリーとか言うんやったら首藤さんから言うてきてもよかったんやねえ?」
「なんか!いまさら男らしゅうねえな!」
首藤さんは顔を真っ赤にして言った。
怒って真っ赤なのか照れて真っ赤なのかはわからずじまいだった。
「アンタな。」
「なんか。」
映画を見終えた後、公園のベンチに並んで座った。
「野蛮人やけん、教えちゃるけど。」
「文明人じゃ。」
首藤さんが肩に頭を乗せてきた。
「なんか、乗っけんな。」
「文明人はこうするんが決まりなんや。」
一万田はまんざらでもない。
「東京はどげえあったんか。」
「デカくてすげかった。」
「小学生みたいやな。」
「首藤さん・・・首藤こそ福岡はどうやったんか。」
「デカくてすげかった。」
一万田は公園に子供が集まってきたのを見たが、退きどきを逸し、そのままいた。
空には鳩が飛んでいた。