どうも、半人半妖です 作:覚め
「…何してるんだ、平。」
「寝てた」
「何故?」
「眠いから」
「このっ」
寺子屋の昼。昼といえば丁度良い日差し。人間の時は鬱陶しかったけど何故かこの体になってからは好きになった。なんでだろうね。しらね。寺子屋で算術を教え、そのあとはこうやって寝て良いと言われていたはずなのに。今目の前にいる慧音本人から。手に持っていた謎に分厚い紙束で俺を叩きながら注意してきたのだ。許可した本人が。全く酷い話だ。もっと酷い話をすれば慧音先生以外とは触れ合えないところだが。もっと酷い話だろう、驚いたな。
「さ、今日も一杯か?」
「いいや、今日は少し用事。稗田様ね」
「そりゃご大層なことで。じゃあ先に寝てる」
「寝るな。その間家事をしろ」
稗田家と言えばかなりの家だ。外の世界じゃ、そう…貴族とかの立ち位置かな。寺子屋をやっているものの、俺自身の性質上から表に出れないから正しい立ち位置がわからない。稗田家もあまり表立つことがないと聞いたのだが、それならば隠居した貴族なのだろうか。考え事をしながら家事。とは言え俺ができる程度のことは慧音も知っている。そこまで手の込んだものは無理だし別に良いか。適当で。慧音先生に恩はあるけど、正直細々とした怨の方が多いだろうし。色々と。
「…あ、忘れ物だ」
一人で黙々とやると、意外とすぐに物事が終わる。これは誰もが経験したことがあるだろう。家事を終わらせて教室を見て回ると忘れ物を発見。誰もいない寺子屋というのは、それはそれは静かなものだ。外にいるであろう子供達の声、足音、蹴鞠の音だろうか?それくらいが聞こえるだけ。セミの音も少し追加した方がいいかもしれないな。いや、セミの音と同義か、子供たちの声は。今日は忘れ物一つのみ。いつもよりは少ない。が、やはり一人くらいは忘れ物をしてしまうか。置いてあった座席に印をつける。
「すまない、遅くなった」
「そこまでか?」
「そこまでだ。忘れ物か?」
「一つだけ。二部屋目の一番後ろ。飯食ってからにして」
「…それもそうだな」
余談だが、俺は少し慧音に妬いている。勿論健全な意味だ。と思う。俺にはできないことができやがってよう、といった感じの妬き方。醜すぎて泣きたい。健全ではあると思う。慧音が言うにはそう言う体質だから仕方がないと言うのだが、人肌に触れられない俺がどうやって人と話すのか。これがわかったのならば俺の体質の改善ができたと言えるだろう。長生きしてるだけで解決策の一つも思いつかないのが悲しいところだが、長生きした末で狂わなかったのだけは有難い。慧音を有り難がるようで嫌だが。
「美味いか?」
「食い飽きてきたから出て行って良いか?」
「そうか、美味いか」
「そうだよ美味いよ」
慧音に出会うまでに限ればまともな飯の記憶が遠い昔になってしまうので、どんな飯でも美味く感じる。それを慧音は知っている。勿論食う必要があるのかと問われれば、三ヶ月くらい断食をしたことから考えるに、多分ない。必要ない。そこまでだと思う。三ヶ月から先はしたことがないため、まあ必要かもしれないとだけ。慧音の作る飯は大体余り物らしきものだ。半人半妖同士だから飯に気を遣わなくて良いと思っているのだろう。慧音は進んでこの食材を受け取ってくる。これで美味いのが不思議だ。
「さて。この忘れ物は…困ったな。遠いぞ」
「もう日が暮れた。どの道届けるのは明日だろ」
「明日は私個人の用事があるんだ…平」
「絶対にやらん。俺が無理なのは知ってるはずだろ」
「じゃあ妹紅に頼るか。平も受け入れられるよう努力するべきだと思うぞ?」
「それが出来るやつはここで飯を食ってないと思う」
慧音が少し笑い、黙り、どう言うことだと抗議の目を向けてくる。さて、月が見えてきた。満月だ。人里では多くの家で月見をしているだろうか。いや、そんな時期でもない。子供が見つけてはしゃいで眠る程度だろう。俺は月を肴に酒を飲もうとかしない奴なので、さっさと寝ることにしたい。が、慧音のこともある。満月の時に妖怪になるとか言う面倒な体質だ。ちなみに俺も同じ体質だ。慧音は尻尾とツノが生えるんだっけか。俺の場合は何故か背中が変形して、山嵐みたいに棘が生える。ほんと痛い。
「…ぁ、っ」
「平は私より時間が掛かるからな。急がなくても良い。」
「ぃやぁっ、よっ…と。」
「いつ見ても面白いな…本当の山嵐みたいだ」
「四足歩行の強制だぞ。やることやってくれ。この間俺眠れないんだからさ」
「…そうだな」
満月で変身するようになってから幾つ経ったか。知らない。どこに居ようが背中に痛みが走るせいで満月の周期だけ覚えてしまった。本当に嫌な体質だ。俺はこの体質におさらばを言いたい。これとは別の理由で人と触れ合えないのだがな。慧音の歴史纏め作業を見ながら、布団の上で座り込む。寝転んでるつもりだが、多分座っていると言った方が正しい。だって俺は今四足獣なんだから。この姿の時だけは人と触れ合えることは確認済みだが、何せ見た目がな。人に受け入れられるわけもなく。背中の針に毒があるのもあって、完全に人と関われないのだ。毒針は妹紅で確認した。悶え苦しんでいたので多分強力。
「…よしっ。終わった」
「今日は早いな」
「ここ最近は何もなかったようだからな…まあ、何かあれば問題なんだけどな?」
「じゃあ布団よろしく」
「笑うくらいして欲しいよ、私は。」
平が人に触れたらどうなるの?
急激に老い、触れた人間の寿命を増やす。